最近、アスベスト給付金に関する法律が成立したとのニュースを目にしませんでしたか?
法律が成立したと聞いても、どのような内容なのかがわかりにくいですよね。
アスベスト給付金に関する法律の正式名称は「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」といいます。
アスベスト給付金は、アスベストにさらされる建設業務に従事した労働者等が一定の疾病にかかり、精神的苦痛を受けたことについて、被害者やそのご遺族の方に迅速に賠償を行うものです。
しかし、アスベスト給付金をもらうには、一定の条件があり、また給付金の金額についても疾病ごとに異なります。
また、アスベスト給付金の支給が開始されるのは、「法の公布の日(令和3年6月16日)から1年以内」とされており、現時点ではまだ支給は開始されていません。
現時点で、アスベスト被害についての精神的苦痛の賠償金を請求していくには、国に対して訴訟を提起する必要があります。
今回は、アスベスト給付金の支給条件や金額について解説していきます。
この記事を読めば、あなたがアスベスト給付金をいくらもらえるのかがよくわかるはずです。
なお、工場内業務に従事したことによりアスベスト被害を受けた方やそのご遺族の方は給付金の対象外となります。これらの方は、上記給付金の支給が開始された後も、訴訟を提起して、一定の条件を満たしていることを裏付けた上で、和解手続きを行い、賠償金の支払いを受けることになります。



目次
(建設)アスベスト給付金とは|給付金法が令和3年6月9日に成立
(建設)アスベスト給付金とは、アスベストにさらされる建設業務に従事した労働者等が一定の疾病にかかり、精神的苦痛を受けたことについて、被害者やそのご遺族の方に迅速に賠償を行うものです。
労災では精神的苦痛についての補償はされませんので、このような精神的苦痛についても救済を得られる点で大きな意義を持ちます。
最高裁は、令和3年5月17日、建設アスベスト集団訴訟について、国の責任を認める判決をしました。
建設アスベスト訴訟の最高裁判決については、以下の記事で詳しく解説しています。
この判決を受けて、令和3年6月9日、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立しました。

これにより、建設アスベスト訴訟を提起していない被害者やそのご遺族の方にも給付金が支給されることとなったのです。
ただし、給付金の支給開始は、「法の公布の日(令和3年6月16日)から1年以内」とされていますので、まだ開始されていません。
アスベストに関する給付金としては、「健康被害救済給付金」というものもありますが、これは(建設)アスベスト給付金とは異なるものです。
健康被害救済給付金とは、「石綿工場の周辺住民の方」や「石綿ばく露作業に従事した労働者の家族」、「労災と特別加入制度に加入していない中小事業主・一人親方」などの労災保険による補償給付を受けられない方への医療費や療養手当等の給付を行う制度です。
アスベスト被害による精神的苦痛に対して給付を行うものではありません。

アスベスト給付金をもらえる人
アスベスト給付金の対象となる方は、以下の1~3のいずれにも該当する方です。
1 以下の建設業務のいずれかを以下の期間に行っていたこと。
⑴ 石綿の吹き付け作業に係る建設業務
昭和47年10月1日~昭和50年9月30日
⑵ 一定の屋内作業場で行われた作業に係る建設業務
昭和50年10月1日~平成16年9月30日
2 以下のいずれかの石綿関連疾病にかかったこと
⑴中皮腫
⑵肺がん
⑶著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
⑷石綿肺(じん肺管理区分が管理2~4)
⑸良性石綿胸水
3 労働者や、一人親方・中小事業主(家族従事者等を含む)であること
※被害者本人が亡くなっている場合には、遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹)からの請求が可能です。


アスベスト給付金の金額
アスベスト給付金の金額は、病態区分に応じて、以下のとおりとされています。
ただし、一定の場合には、上記金額より「減額されたり」、「追加支給が認められたり」する場合があります。
減額されるケース
「短期ばく露者」と「喫煙の習慣を有した者」については、支給金額が減額される可能性があります。
短期ばく露者
給付金の対象となる期間のうち、「石綿の吹き付け作業に係る建設業務」、「一定の屋内作業場で行われた作業に係る建設業務」に従事した期間が病態区分に応じて以下の期間を下回るものであった場合には、支給金額から1割が減額されます。

喫煙の習慣を有した者
肺がんにかかった者として給付金の支給を受ける場合には、喫煙の習慣を有していた場合には、支給金額から1割が減額されます。
追加支給が認められるケース
アスベスト給付金の支給を受けた後に症状が悪化した場合には、追加の支給金を請求することができます。
追加の支給金の金額は、症状が悪化した後の病態区分に応じてもらえる給付金の金額から、既に支給を受けている給付金の金額を控除した金額です。
アスベスト給付金等の支給を受ける権利は、譲渡し、担保に供し、又は差し押さえることが禁止されています。
また、租税その他の公課は、アスベスト給付金等を標準として課することはできないとされています。
つまり、アスベスト給付金は、差し押さえ禁止であり、かつ、非課税ということになります。
アスベスト給付金の申請方法
アスベスト給付金を受給する手順は、以下のとおりです。
手順1:厚生労働大臣宛ての給付金の支給請求
手順2:厚生労働大臣による調査
手順3:特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会による請求に係る審査
手順4:厚生労働大臣による給付金に係る認定

それでは順番に説明していきます。
手順1:厚生労働大臣宛ての給付金の支給請求
アスベスト給付金を受給する手順の1つ目は、給付金の支給を請求することです。
法の規定により厚生労働大臣宛てに請求をすることになりますが、具体的な方法については現時点では明らかにされておらず、今後厚生労働省ホームページ等でお知らせされます。
もしも、現時点で、アスベスト被害についての精神的苦痛の賠償金を請求していきたい場合には、国に対して訴訟を提起する必要があります。
手順2:厚生労働大臣による調査
アスベスト給付金を受給する手順の2つ目は、厚生労働大臣による調査です。
具体的には、厚生労働大臣は、必要に応じて、請求をした者やその他の関係人に対して、報告をさせ、文書その他の物件を提出させ、出頭を命じ、又は厚生労働大臣の指定する医師の診断を受けさせることができるとされています。
手順3:特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会による請求に係る審査
アスベスト給付金を受給する手順の3つ目は、特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会による請求に係る審査です。
特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会とは、厚生労働省に置かれる機関であり、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理するとされています。
特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会により、「特定石綿ばく露建設業務に従事した期間」「石綿関連疾病の種類」「特定石綿ばく露建設業務に従事したことと石綿関連疾病にかかったこととの関係」「喫煙の習慣の有無」について審査が行われます。
手順4:厚生労働大臣による給付金に係る認定
アスベスト給付金を受給する手順の4つ目は、厚生労働大臣による給付金に係る認定です。
厚生労働大臣は、特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会より審査結果の通知を受けて、その審査の結果に基づき、給付金に係る認定を行います。


アスベスト給付金の請求期限
アスベスト給付金の請求は、石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断日又は石綿肺に係るじん肺管理区分の決定日(石綿関連疾病により死亡したときは、死亡日)から起算して、20年を経過すると行うことができません。
これらの日が特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律の施行前であっても同様です。

アスベスト給付金と賠償金・労災の関係
アスベスト給付金と賠償金・労災の関係について、説明していきます。
アスベスト給付金と賠償金の関係
アスベスト給付金と賠償金(慰謝料)については、いずれも精神的苦痛についての填補を目的とするものですので両方を請求することはできません。
アスベスト給付金の支給を受けた場合には、その限度において、国に対して、同一の事由を理由として賠償金の請求をすることができなくなります。
これに対して、訴訟を提起して国からアスベストの被害の賠償金の支払い等により損害の填補を受けた場合にも、その限度において、国に対して、同一の事由を理由として給付金の請求をすることができなくなります。
なお、建材メーカー等の第三者から、アスベスト被害の賠償金の支払い等により損害の填補を受けた場合には、当該損害の填補の額と支払われるべき給付金等の額のうち損害の填補に相当する額として厚生労働省令で定める額の合計額が、支払われるべき給付金等の額の2倍に相当する額を超える場合においては、国に対して、その超える価額の限度において、給付金の請求をすることができなくなります。
アスベスト給付金と労災の関係
アスベスト被害について、既に労災により補償を受けている場合であっても、給付金の支給を受けることができます。
労災には精神的苦痛に対する補償は含まれていないためです。
なお、アスベスト給付金の支給を受けようとしている方で労災の補償を受けていない方は、両者の条件はほぼ一致しているため労災の申請もしておいた方がいいでしょう。
アスベスト被害と労災については、以下の記事で詳しく解説しています。



まとめ
以上のとおり、今回は、アスベスト給付金の支給条件や金額について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・(建設)アスベスト給付金とは、アスベストにさらされる建設業務に従事した労働者等が一定の疾病にかかり、精神的苦痛を受けたことについて、被害者やそのご遺族の方に迅速に賠償を行うものです。
・アスベスト給付金の対象となる方は、以下の1~3のいずれにも該当する方です。
1 以下の建設業務のいずれかを以下の期間に行っていたこと。
⑴ 石綿の吹き付け作業に係る建設業務
昭和47年10月1日~昭和50年9月30日
⑵ 一定の屋内作業場で行われた作業に係る建設業務
昭和50年10月1日~平成16年9月30日
2 以下のいずれかの石綿関連疾病にかかったこと
⑴中皮腫
⑵肺がん
⑶著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
⑷石綿肺(じん肺管理区分が管理2~4)
⑸良性石綿胸水
3 労働者や、一人親方・中小事業主(家族従事者等を含む)であること
※被害者本人が亡くなっている場合には、遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹)からの請求が可能です。
・アスベスト給付金の金額は、病態区分に応じて、以下のとおりとされています。
・アスベスト給付金を受給する手順は、以下のとおりです。
手順1:厚生労働大臣宛ての給付金の支給請求
手順2:厚生労働大臣による調査
手順3:特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会による請求に係る審査
手順4:厚生労働大臣による給付金に係る認定
・アスベスト給付金の請求は、石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断日又は石綿肺に係るじん肺管理区分の決定日(石綿関連疾病により死亡したときは、死亡日)から起算して、20年を経過すると行うことができません。
この記事が建設アスベスト被害を受けた方やそのご遺族の方の助けになれば幸いです。