労働一般

修学費(留学費・技能修得費)の返還制度

 労働者が留学などを行う際に、使用者からその費用を援助してもらう場合があります。もっとも、労働者が修学後もその企業に勤務し続けるとは限りません。労働者が修学後に企業を退職する場合には、援助をしてもらった費用は、返還する必要があるのでしょうか。今回は、修学費の返還制度について解説します。

留学費・修学費の返還制度

 修学費の返還制度とは、使用者が費用を支出して労働者に海外留学や技能修得をさせる場合、修学後ただちに辞められないように、就学の費用を使用者が被用者に貸与する形式をとり、修学後一定期間勤続の場合はその返還を免除する契約などを指します。。
 このような契約については、賠償予定の禁止(労働基準法16条)に反し無効とならないか問題になります。

労働基準法16条(賠償予定の禁止)
「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」

返還制度の有効性

 上記返還制度は、本来本人が費用を負担すべき自主的な修学(技能修得)について使用者が修学費用を貸与し、ただ修学後一定期間勤務すればその返還債務を免除するという実質のものであれば、賠償予定の禁止に違反しません(東京地判平9.5.26労判717号14頁[長谷工コーポレーション事件]、東京地判平14.4.16労判827号40頁[東亜交通事件])。
 これに対して、使用者が自社における教育訓練や能力開発の一環として業務命令で修学や研修をさせ、修学(研修)後の労働者を自企業に確保するために一定期間の勤務を約束させるという実質のものであれば賠償予定の禁止に違反します(東京地判平10.3.17労判734号15頁[富士重工業事件]、東京地判平10.9.25労判746号7頁[新日本証券事件])。

裁判例

留学費用に関する裁判例

【東京地判平9.5.26労判717号14頁[長谷工コーポレーション事件]】
 留学生への応募は社員の自由意思によるもので業務命令に基づくものではなく留学先大学院や学部の選択も本人の自由意思に任せられており留学経験や留学先大学院での学位取得は、留学社員担当業務に直接役立つというわけではない一方、…留学社員にとっては…勤務を継続するか否かにかかわらず、有益な経験、資格となる。従って、本件留学制度による留学を業務と見ることはできず、その留学費用を」使用者が負担するか労働者が負担するか「については、労働契約とは別に、当事者間の契約によって定めることができる。」
 労働者は使用者に対し、「労働契約とは別に留学費用返還債務を負っており、ただ、一定期間…勤務すれば右債務を免除されるが特別な理由なく早期退職する場合には留学費用を返還しなければならないという特約が付いているにすぎないから、留学費用返還債務は労働契約の不履行によって生じるものではなく、労基法16条が禁止する違約金の定め、損害賠償額の予定には該当せず、同条に違反しない。」

看護師見習いの修学費用に関する裁判例

【大阪地判平14.11.1労判840号32頁[和幸会事件]】
 病院が看護学校に通う看護師見習に修学費用を貸与し、修学後当該病院に一定期間勤務すればその返還を免除する約定につき、違反・無効としました。

医師の専門研修期間中の補填給与・アパート費用に関する裁判例

【高松高判平15.3.14労判849号90頁[徳島健康生活協同組合事件]】
 医師国家試験に合格した者と医師としての稼働契約を結んだうえ、その者の他病院での専門研修期間中の補填給与・アパート費用などを支給し、研修終了後勤務しない場合はそれらを返還すべき旨の約定も、禁止された賠償予定に該当するとされました。

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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