労働一般

定年制-65歳までの雇用確保措置-

 近年、高年齢者の雇用確保の観点等から定年延長に向けた法改正が進んでおります。今回は、65歳までの雇用確保措置を中心に定年制について解説します。

定年制とは

 定年制とは、労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了する制度をいいます。
 労働契約の期間との違いは、定年到達前の退職や解雇が格別制限されない点です。
 定年制には、「定年退職」と「定年解雇」の2種類があります。定年退職とは、定年に達したときに当然に労働契約が終了するものです。定年解雇とは、解雇事由の設定であり、この解雇には労基法の解雇に関する規制が適用されます。

規定例

第〇条(定年等)
「労働者の定年は、満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。」

定年制に関する沿革

 民間企業においては、かつて55歳定年制が主流でした。
 しかし、1970年代半ばから政府の定年延長政策が進められ、高年齢者雇用安定法は、1994年改正によって、60歳定年制を定年に関する強行的な基準としました。
 その後、高年齢者雇用安定法は、2004年改正によって、65歳までの定年延長をも含めて65歳までの雇用確保措置を義務付けました。

65歳までの雇用確保措置

 2004年改正の高齢者雇用安定法は、事業主がその雇用する労働者の定年の定めをする場合には、当該定年は60歳を下回ることができないと規定しています。
 更に、65歳未満の定年の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、以下のいずれかの措置を講じなければならないとしています。

①当該定年の引き上げ
②現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続き雇用する制度(継続雇用制度)の導入
③当該定年の定めの廃止

 上記雇用確保義務に違反した場合、厚生労働大臣は、違反した事業主に対して、助言・指導を行うことができ、これに従わない場合には勧告をすることができます。更に、勧告に従わない事業主については、その旨を公表できます。
 もっとも、60~65歳の雇用継続措置については、公法上の義務であって、私法上の効力はないとされています(大阪高判平21.11.27労判1004号112頁[NTT西日本[大阪]事件]、高松高判平22.3.22労判1007号39頁[NTT西日本[徳島]事件])。そのため、上記措置が講じられていない場合において、継続雇用の請求権や、みなし効は認められません。

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第8条
「事業主がその雇用する労働者の定年…の定めをする場合には、当該定年は、60歳を下回ることができない。ただし、当該事業主が雇用する労働者のうち、高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として厚生労働省令で定める業務に従事している労働者については、この限りでない。」
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第9条1項
「定年(65歳未満の者に限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。」
一 「当該定年の引上げ
二 「継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三 「当該定年の定めの廃止

再雇用拒否の有効性

 継続雇用措置の要請に従い、再雇用の制度を導入している会社において、労働者が欠格事由に該当するなどとして再雇用を拒否することは許されるのでしょうか。
 再雇用制度においては、事業主が、欠格事由該当などの理由で再雇用を拒否し、同該当性が客観的に認められる場合には、再雇用契約の成立が否定されることになります。しかし、欠格事由への該当性が客観的に認められず、かつ再雇用後の賃金・労働条件が特定できる場合には、黙示の合意が成立したものと認められます(東京地判平22.8.26労判1013号15頁[東京大学出版会事件])。

継続雇用後の賃金・処遇が低い場合

 継続雇用後の賃金・処遇が低い場合には、不法行為として、慰謝料の請求が認められる場合があります

【名古屋高判平28.9.28労判1146号22頁[トヨタ自動車ほか事件]】

1 債務不履行又は不法行為

 「被控訴人会社の提示した業務内容について見ると,控訴人に対して提示された業務内容は,シュレッダー機ごみ袋交換及び清掃(シュレッダー作業は除く),再生紙管理,業務用車掃除,清掃(フロアー内窓際棚,ロッカー等)というものであるところ,当該業務の提示を受けた控訴人が「隅っこの掃除やってたり,壁の拭き掃除やってて,見てて嬉しいかね。…これは,追い出し部屋だね。」などと述べているように,事務職としての業務内容ではなく,単純労務職(地方公務員法57条参照)としての業務内容であることが明らかである。」
 「上記の改正高年法の趣旨からすると,被控訴人会社は,控訴人に対し,その60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが,両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には,もはや継続雇用の実質を欠いており,むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから,従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り,そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである。」
 「そして,被控訴人会社が控訴人に提示した業務内容は,上記のとおり,控訴人のそれまでの職種に属するものとは全く異なった単純労務職としてのものであり,地方公務員法がそれに従事した者の労働者関係につき一般行政職に従事する者とは全く異なった取扱いをしていることからも明らかなように,全く別個の職種に属する性質のものであると認められる。」
 「したがって,被控訴人会社の提示は,控訴人がいかなる事務職の業務についてもそれに耐えられないなど通常解雇に相当するような事情が認められない限り,改正高年法の趣旨に反する違法なものといわざるを得ない。」
 「…したがって,控訴人の従前の行状に被控訴人らが指摘するような問題点があることを考慮しても,被控訴人会社の提示した業務内容は,社会通念に照らし労働者にとって到底受入れ難いようなものであり,実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められないのであって,改正高年法の趣旨に明らかに反する違法なものであり,被控訴人会社の上記一連の対応は雇用契約上の債務不履行に当たるとともに不法行為とも評価できる。」
2 損害額
 「不法行為に基づく慰謝料請求については,控訴人が上記賃金等の給付見込額と同額の損害賠償金を得ることができれば,その精神的苦痛も慰謝されるものと認められる。」
 「よって,控訴人の被控訴人会社に対する請求は,不法行為に基づいて127万1500円及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求は棄却すべきである。」

【福岡高判平29.9.7労判1167号49頁[九州惣菜事件]】
1 不法行為
 高年「法9条1項に基づく高年齢者雇用確保措置を講じる義務は,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件の雇用を義務付けるといった私法上の効力を有するものではないものの,その趣旨・内容に鑑みれば,労働契約法制に係る公序の一内容を為しているというべきであるから,同法(同措置)の趣旨に反する事業主の行為,例えば,再雇用について,極めて不合理であって,労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し,到底受入れ難いような労働条件を提示する行為は,継続雇用制度の導入の趣旨に違反した違法性を有するものであり,事業主の負う高年齢者雇用確保措置を講じる義務の反射的効果として当該高年齢者が有する,上記措置の合理的運用により65歳までの安定的雇用を享受できるという法的保護に値する利益を侵害する不法行為となり得ると解するべきである。」
 「その判断基準を検討するに,継続雇用制度(高年法9条1項2号)は,高年齢者の65歳までの「安定した」雇用を確保するための措置の一つであり,「当該定年の引上げ」(同1号)及び「当該定年の定めの廃止」(同3号)と単純に並置されており,導入にあたっての条件の相違や優先順位は存しないところ,後二者は,65歳未満における定年の問題そのものを解消する措置であり,当然に労働条件の変更を予定ないし含意するものではないこと…からすれば,継続雇用制度についても,これらに準じる程度に,当該定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度,確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当であり,このように解することが上記趣旨…に合致する。また,有期労働契約者の保護を目的とする労働契約法20条の趣旨に照らしても,再雇用を機に有期労働契約に転換した場合に,有期労働契約に転換したことも事実上影響して再雇用後の労働条件と定年退職前の労働条件との間に不合理な相違が生じることは許されないものと解される…。したがって,例外的に,定年退職前のものとの継続性・連続性に欠ける(あるいはそれが乏しい)労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるためには,同提示を正当化する合理的な理由が存することが必要であると解する。」
 「賃金についてみると,…月収ベースで比較すると,…定年前の賃金の約25パーセントに過ぎない。この点で,本件提案の労働条件は,定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえない。したがって,本件提案が継続雇用制度の趣旨に沿うものであるといえるためには,そのような大幅な賃金の減少を正当化する合理的な理由が必要である。」
 「…被控訴人が,本件提案をしてそれに終始したことは,継続雇用制度の導入の趣旨に反し,裁量権を逸脱又は濫用したものであり,違法性があるものといわざるを得ない。よって,控訴人の主張するその余の違法事由…を検討するまでもなく,控訴人に対する不法行為が成立すると認められる。」
2 損害
⑴ 逸失利益
 「控訴人は,被控訴人の上記不法行為がなければ,退職前賃金の少なくとも8割の賃金を得られた旨主張するが,本件に顕れた諸般の事情を総合しても,本件提案がなければ,控訴人と被控訴人が,退職前賃金の8割以上の額を再雇用の賃金とすることに合意した高度の蓋然性があると認めることはできず…,合意されたであろう賃金の額を認定することは困難である。」
 「したがって,被控訴人の上記不法行為と相当因果関係のある逸失利益を認めることはできない。」
⑵ 慰謝料
 「〔1〕月収ベースで約75パーセントの賃金を削減する本件提案の内容が定年退職前の労働条件との継続性・連続性を著しく欠くものであること,〔2〕他方で,前記認定のとおり,店舗数減少を踏まえて被控訴人が本件提案をしたことにはそれなりの理由があったといえることに加え,〔3〕控訴人が,遺族厚生年金(月額7万7475円)を受給しており,本件提案により再雇用された場合には高年齢雇用継続基本給付金(1万4610円程度)も受給できる見込みであったこと,控訴人には扶養すべき親族はいなかったことからすれば,本件提案の内容は,控訴人につき特別支給の老齢厚生年金の定額部分の支給が開始していない年齢であったことを考慮してもなお,直ちに控訴人の生活に破綻を来すようなものではなかったといえること,〔4〕その他(控訴人の勤続年数等)の諸事情を総合考慮すれば,慰謝料額は100万円とするのが相当である…。」

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