使用者は、職場において労働者の所持品を検査することができるのでしょうか。また、労働者は、所持品検査を拒んだ場合に、これを理由として解雇されることはあるのでしょうか。
今回は、職場における所持品検査の拒否を理由とする解雇について解説します。
目次
所持品検査の可否
所持品検査が許されるための要件
使用者は、企業内への私物・危険物の持ち込み、金銭の不正取得、会社財産の持ち出しを防止するために、労働者の所持品を検査することがあります。
もっとも、所持品検査は、労働者の名誉やプライバシーを侵害する可能性があり、常に許されるわけではありません。
具体的には、所持品検査が許されるためには、以下の要件が満たされる必要があります。
①所持品検査を必要とする合理的な理由が存在すること
②一般的に妥当な方法と程度で行われること
③制度として職場従業員に対して画一的に実施されるものであること
④就業規則その他明示の根拠に基づいて行われること
①検査を必要とする合理的理由
機密情報の漏洩防止、会社財産の持ち出し防止、金銭の不正取得の防止、私物持ち込みの禁止を目的とした所持品検査については、合理性が認められる傾向にあります。
②妥当な方法と程度
所持品検査の方法と程度については、身体検査を伴うものについては違法とされる傾向にあります。
裁判例には、「被検査者に何らの不審な点もないのにその着衣の上から検査者が手で触わったり、被検査者自身に全てのポケットの中袋を裏返しさせたりするいわゆる確認行為は、…多大の屈辱感、侮辱感を与えかねない」としたものがあります(山口地下関支判昭54.10.8労判330号99頁[サンデン交通事件])。他方、裁判例には、「守衛が従業員に対し鞄その他の所持品を守衛所前のカウンターに乗せてもらい、本人にこれを開けてもらつたうえで中を確認し、場合によつてはポケツトの上から手で触れてみて確かめるという方法」について、「ことさら従業員に屈辱感を与えるものではなく、妥当な方法と程度において行なわれた」とするものもあります(横浜地川支判昭50.3.3.労判223号47頁[帝国通信工業事件])。
個人のロッカーや自家用車の検査は、不正取得の疑いのような特段の事情がなければ、原則として禁止されます(広島地判昭47.4.18労判152号18頁[芸陽バス事件])。
③制度としての画一的実施
制度としての画一的実施については、特定の疑わしい労働者のみ狙い撃ちしている場合や、労働者により検査回数が不均衡である場合には、違法とされる傾向にあります。
④就業規則などの明示の根拠
就業規則などの明示の根拠については、例えば、本工に対する所持品検査が規定されていても、臨時工に対する所持品検査の規定がない場合には、認められません。また、就業規則上、所持品検査を行う権限を与えられている者以外が所持品検査を行う場合についても明示の根拠があるということはできません。このように、就業規則などの明示の根拠の有無については厳格に解されています。
所持品検査と懲戒解雇
懲戒解雇については、「客観的に合理的な理由を欠き」、「社会通念上相当」といえない場合には、懲戒権の濫用として、無効になります。
所持品検査の要件を満たしていない場合には、労働者に所持品検査に応じる義務は認められませんので、所持品検査の拒否を理由とする懲戒解雇は、懲戒権の濫用として無効になります。
また、労働者に所持品検査に応じる義務が認められる場合であっても、所持品検査の拒否を理由とする懲戒解雇が有効とされる場合は、限定されています。所持品検査についての説明が不十分な場合や衝動的に拒否したに過ぎない場合、拒否により企業秩序が害されたといえない場合などには、懲戒権の濫用として無効とされる傾向にあります(西日本鉄道事件は懲戒解雇を有効としていますが、多くの学説は過酷に過ぎるとしています)。