労働問題を行政機関に相談することが有用な場合があります。行政機関に相談しようとした場合、労働局や労基署がありますが、どのような問題をどの機関に相談するのがよいのでしょうか。今回は、労働局と労基署の違いや、役割を解説します。
労働局
労働局とは
都道府県労働局とは、労働基準主管局の指揮監督を受けて、管内の労働基準監督署を指揮監督し、監督方法の調整に関する事項その他労働基準法の施行に関する事項をつかさどる機関です(労働基準法99条2項参照)。全国に設置されています。
都道府県労働局の所在地は、以下のとおりです。
都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧
労働局による個別労働紛争の処理
⑴ 個別労働紛争解決促進法の制定
従来、労働組合と使用者との間の集団的労働紛争については、労働委員会による救済制度が設けられていました。
しかし、近年では、紛争の多くは、個々の労働者と使用者との間の個別的労働紛争となり、個別的労働紛争解決の必要性が生じました。
そこで、個別労働紛争の解決の促進に関する法律(以下、「個別労働紛争解決促進法」といいます。)が制定され、労働局による相談及び情報提供並びに労働局長による助言及び指導、紛争調整委員会によるあっせんが定められました。
⑵ 相談及び情報提供
労働局長は、情報の提供及び相談を行うこととされ(個別労働紛争促進法3条)、全国47都道府県の県庁所在地にある都道府県労働局及び労働基準監督署において、総合労働相談センターが設置されています。総合労働相談センターでは、企業の人事労務OB、社会保険労務士、組合役員OB等の企業の人事労務管理の実務家等に相談を行うことができます。
⑶ 助言及び指導
都道府県労働局長は、個別労働紛争に関し、当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該個別労働紛争の当事者に対し、必要な助言又は指導をすることができます(個別労働紛争促進法4条1項)。
都道府県労働局長は、助言又は指導をするため必要があると認めるときは、広く産業社会の実情に通じ、かつ、労働問題に関し専門的知識を有する者の意見を聴くものとされています(個別労働紛争促進法4条2項)。
事業主は、労働者が労働局長に援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないとされています(個別労働紛争促進法4条3項)。
実際には、簡易迅速な解決のため、総合労働相談の相談員または労働局の職員が相手方を呼び出して事情聴取の上、書面または口頭で助言または指導をすることによって行われています。助言及び指導は、解雇、退職強要等にも用いられていますが、いじめ、嫌がらせの是正などによく用いられています。
⑷ 労働局によるあっせん
都道府県労働局には、紛争調整委員会が置かれていて(個別労働紛争促進法6条1項)、あっせんを行う機関とされています(個別労働紛争促進法6条2項)。
あっせんは、委員のうちから会長が事件ごとに指名する三人のあっせん委員によって行います(個別労働紛争促進法12条1項)。
あっせん委員は、紛争当事者間をあっせんし、双方の主張の要点を確かめ、実情に即して事件が解決されるように努めなければなりません(個別労働紛争促進法12条2項)。あっせん委員は、紛争当事者から意見を聴取するほか、必要に応じ、参考人から意見を聴取し、又はこれらの者から意見書の提出を求め、事件の解決に必要なあっせん案を作成し、これを紛争当事者に提示することができます(個別労働紛争促進法13条1項)。あっせん案に従い合意が成立した場合には、通常、民法上の和解契約として取り扱われます。
あっせんは、調停案の受諾を求めることに重点が置かれる調停に比べて、当事者の自主性に重点が置かれる点に特色があるとされ、あっせん案も当事者の話合いの方向性を示すためのものです。非公開の手続きであり、出席も強制されません。
当事者があっせんに参加する意思がないことを表明した場合や、あっせん案を受諾しない場合、打ち切りを申し出た場合には、委員はあっせんを打ち切ることができます(個別労働紛争促進法15条)。
あっせんが打ち切られた場合、当該あっせん申請を行った者がその旨の通知を受けてから30日以内にその対象となった請求につき訴えを提起したときは、時効の完成猶予(民法147条1項1号)との関係で、あっせん申請の時に訴えの提起があったものとみなされます(個別労働紛争促進法16条)。
【労働局によるあっせんの実情】
労働局によるあっせんは、2017年度には5021件の申請があり、内訳は解雇・雇止め・退職勧奨が38%、いじめ・嫌がらせが29%、労働条件引き下げが6%です。
通常、申請後1~2か月以内に開かれる2~3時間の1回の期日であっせんの作業が行われ、出席した事件の65%前後が解決しているとされます。もっとも、権利関係に関する心証形成の審理を行うことなく、迅速に金銭的解決を図るための手続きとして利用されており、金銭解決の額は、労働審判や裁判上の和解に比べて格段に低くなる傾向にあります。
労働基準監督署
労働基準監督署とは、都道府県労働局の指揮監督を受けて、労働基準法に基づく臨検、尋問、許可、認定、審査、仲裁その他労働基準法の実施に関する事項をつかさどる機関です(労働基準法99条3項参照)。
労働基準監督署長には、労働基準法上、臨検・書類提出要求・尋問、許可、認定、助言指導、命令、審査・仲裁の権限が与えられています。
労働者は、労働基準法又は労働基準法に基づいて発する命令に違反する事実がある場合には、行政官庁又は労働基準監督官に申告することができます(労働基準法104条1項)。
総合労働相談において、労働基準法違反案件が含まれている場合には、労働基準監督官に取り次がれることになり、違反申告事件として処理されます。
パワハラやセクハラなど労働基準法違反以外の案件については、労働基準監督署よりも労働局に相談することが望ましいでしょう。