管理職になったら、残業代が支給されなくなってしまったと悩んでいませんか。
せっかく管理職になったのに、残業代が支払われなくなる一方で、残業時間だけが増えていくというのは、辛いですよね。
結論から言うと、管理職でも
事例がほとんどです。
例外的に、一部の残業代を請求することができなくなる「管理監督者」に該当するのは、以下の3つの条件を満たす方だけです。
①経営者との一体性
②労働時間の裁量
③対価の正当性
これらの条件はかなり厳格であり、ほとんどの管理職はこれに該当しないのが実情です。
しかし、多くの企業では、一定の役職に就けば、一律に残業代を不支給するとする慣行があり、労働者の権利が守られていません。
このような状況の中で、あなたが自分の身を守るためには、管理職が残業代を請求できるかことについて正確な知識を身につけておく必要があります。
実際に、私が担当した事件では、管理職であっても、管理監督者に該当しないと認められて、かなり長時間の残業をしていたこともあり、1000万円以上の残業代の回収に成功した事例があります。すべての管理職の方がこのよう金額を回収できるわけではありませんが、管理職の場合には、基礎となる賃金が大きく、かつ、残業時間が長い反面、これまで残業代が全く支払われていない方が多いことから、認められる残業代の金額も高額になりやすい傾向にあるのです。
この記事では、以下の流れにより説明していきます。
この記事を通じて、管理職の皆さんに残業代についての正確な知識を知っていただければ幸いです。
管理職の残業代については、以下の動画でも分かりやすく解説しています。
目次
管理職に残業代が出ないことの違法性
管理職に残業代が出ない場合は、
があります。
法律は、労働者が時間外労働や休日労働をした場合には、残業代を支払わなければならないとしているためです。
労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
「使用者が、…労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
ただし、例外的に、法律は、その労働者が「管理監督者」に該当する場合には、時間外労働や休日労働の残業代を支払う必要はないとしています。
労働基準法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
「…労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」
二「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者…」
しかし、管理職であれば、必ず残業代を支払わなくてもいい「管理監督者」に当たるというわけではありません。
法律上、「管理監督者」と「管理職」は違うものであり、「管理監督者」に該当するのは、かなり限定的なケースです。
むしろ、管理職であっても、「管理監督者」には該当しないという方がほとんどです。
そのため、管理職に残業代を支払わないことは違法の可能性があるのです。
ブラック企業が管理職に残業代を払わない理由
ブラック企業が管理職に残業代を払わない理由には、以下の2つがあります。
・人件費の節約のため
・管理職なら残業代を払う必要がないと誤解しているため
人件費の節約のため
ブラック企業が管理職に残業代を払わない理由の1つ目は、
です。
会社は、管理職に残業代を支払わなければいけないことを知りつつ、これを節約したいため残業代を支払わないことがあります。
管理職なら残業代を払う必要がないと誤解しているため
ブラック企業が管理職に残業代を払わない理由の2つ目は、
です。
先ほども説明したとおり、法律上、「管理監督者」と「管理職」は違うものであり、「管理監督者」に該当するのは、かなり限定的なケースです。
しかし、多くの企業では、係長や課長に昇進した後は「管理監督者」に該当するなどの誤った運用が常態化しており、それが正しいと誤解しているのです。
ブラック企業が“管理監督者”とする方の多くのは“名ばかり管理職”!
ブラック企業が「管理監督者」とする方の多くは、実は、
です。
以下では、
・労働基準法が定める“管理監督者”の意味
・ブラック企業が悪用する“名ばかり管理職”の意味
について解説します。
労働基準法が定める“管理監督者”の意味
管理監督者とは、労働条件その他労務管理について
をいいます。
労働時間や休憩、休日等の枠を超えて働かざるを得ない重要な職務と責任がある方がこれに該当することになります。
役職の肩書がつけられていても、それだけで管理監督者に該当するとはいえません。
ブラック企業が悪用する“名ばかり管理職”の意味
これに対して、ブラック企業が悪用する名ばかり管理職とは、
のことです。
実際には、管理監督者に該当しない方に肩書だけをつけて残業代を支払わないことは、違法であり許されません。
ブラック企業は、名ばかり管理職を悪用して、支払うべき残業代を節約しようとしていることが多いのです。
あなたは“名ばかり管理職”?3つの事項をチェックリストで確認!
では、あなたが「名ばかり管理職」なのかを確認していきましょう。
「管理監督者」か「名ばかり管理職」かは、以下の3つの確認事項により判断することになります。
確認事項1:経営者との一体性
確認事項2:労働時間の裁量
確認事項3:対価の正当性
順に説明していきます。
確認事項1:経営者との一体性
経営者との一体性とは、会社の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を持っていることです。
以下の点を考慮し判断します。
・経営への参画状況
・労務管理上の指揮監督権
・実際の職務内容
例えば、以下の方は、名ばかり管理職である可能性がありますので、弁護士に相談してみることがおすすめです。
☑経営会議に参加していない方
☑経営会議に参加しても発言権に乏しい方
☑従業員の採用や配置について決定権がない方
☑職務内容がマネージャー業務ではなく現場作業である方
確認事項2:労働時間の裁量
労働時間の裁量とは、自分の労働時間について裁量を持っていることです。
つまり、始業時間や終業時間、休日がどの程度厳格に取り決められて、管理されていたかを検討することになります。
例えば、以下の方は、名ばかり管理職である可能性がありますので、弁護士に相談してみることがおすすめです。
☑タイムカード等により出退勤の管理がされている方
☑遅刻や欠勤等をした場合に給料が控除される方
☑業務予定や結果の報告が求められている方
☑休日を自由に決められない方
確認事項3:対価の正当性
対価の正当性とは、管理監督者にふさわしい給料等の待遇を得ていることです。
例えば、以下の方は、名ばかり管理職である可能性がありますので、弁護士に相談してみることがおすすめです。
☑その残業時間に比較して支給されている給料が著しく少ない方
☑他の労働者に比べて優遇されているとはいえない方
なお、給料等の待遇が十分であることのみをもって、管理監督者に該当することはないとされています。
管理監督者についての裁判例
管理職であっても、名ばかり管理職にすぎないと判断した裁判例は数多く存在します。
他方で、管理職が実際に管理監督者に該当するとした裁判例も存在します。
以下では、
・日本マクドナルド事件(名ばかり管理職とした例)
・神代学園ミューズ音楽院事件(名ばかり管理職とした例)
・ことぶき事件(管理監督者とした例)
をそれぞれ紹介します。
東京地判平20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件]
ファーストフード店の店長が、管理監督者には該当しないとして、会社に対して、割増賃金の支払いを求めた事件です。
この裁判例は、以下のように判断して、管理監督性を否定して、名ばかり管理職に該当するとしています。
① 経営者との一体性
アルバイトの採用決定、人事考課等の権限を有するものの、社員の採用権限はなく、企業全体としての経営方針に関与するものではなく、その権限は店舗内に限られることなどから、経営者と一体的な立場において労働時間等の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないような重要な職務と権限を付与されているとは認められない。
② 労働時間の裁量
店舗従業員の勤務シフトを決定することから、形式的に労働時間の裁量があるとはいえるものの、各時間帯に必ず置くとされるシフトマネージャーとして勤務する関係上30~60日の連続勤務を余儀なくされるなどの勤務実態からすると、実質的に労働時間に関する裁量があったとはいえない。
③ 対価の正当性
店舗の実績に応じて約580万円~780万円の賃金を得ているものの、下位の職位との差は大きくないし、店長の平均労働時間はファーストアシスタントマネージャーのそれを上回っていることからすれば、管理監督者の待遇として十分であるとはいい難い。
東京高判平17年3月30日労判905号72頁[神代学園ミューズ音楽院事件]
音楽家を養成する専門学校において、教務部長等の地位にあった従業員らが管理監督者に該当しないとして割増賃金の支払いを求めた事件です。
この裁判例は、以下のように判断して、管理監督性を否定して、名ばかり管理職に該当するとしています。
① 経営者との一体性
従業員等の採用に当たり面接するなど人選に関与することはあったものの、その裁量により部の業務を行っていたとか、事業部長の地位にあったものにつき、経営に関する権限を一手に掌握し、多額の出費を自らの判断で行うなどの事実を認めることができず、経営者と一体的な立場において、労働時間等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないといえるほどの重要な職務上の権限を付与されていたということは困難である。
② 労働時間の裁量
タイムカードにより出退勤が管理されるなど、労働時間等の規制になじまないような立場にあったとか、その勤務態様について自由にその裁量を働かすことができたとは考えにくい。
③ 対価の正当性
両名はいずれも基本給約30万円、役職手当10万円の支給を受けていたが、かかる基本給と役職手当の支給だけで厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないといえるほどの優遇措置が講じられていたとはいえない。
東京高判平20年11月11日労判1000号10頁[ことぶき事件]
美容室等を経営する会社において、総店長として勤務していた方が、管理監督者に該当しないとして残業代の支払いを求めた事案です。
この裁判例は、以下のように判断して、管理監督者性を肯定しています。
① 経営者との一体性
総店長として会社の代表取締役に次ぐナンバー2の地位にあり、会社の経営する理美容店5店舗と各店長を統括するという重要な立場にある。
代表取締役から各店舗の改善策や従業員の配置等につき意見を聞かれていた。
毎月営業時間外に開かれる店長会議に代表取締役とともに出席していた。
② 労働時間の裁量
通常は、店舗の営業時間に合わせて,平日は午前10時,土曜日と日曜日は午前9時に出勤し、午後7時半に退社していたことから、出退社時間について店舗の営業時間に拘束されていたようにも受け取れるが、このことは、店舗においてその店長や他の従業員と同様に顧客に対する理美容業務をも担当していたことからくる合理的な制約である。
③ 対価の正当性
待遇面において、店長手当として他の店長の3倍に当たる月額3万円の支給を受けており、基本給についても1割減額され月額39万0600円になったとはいえ、減額前には他の店長の約1.5倍程度の給与の支給を受けていた。
名ばかり管理職として残業代が支払われていないときの対応
名ばかり管理職として残業代が支払われていないときには、以下の4つの対応があります。
・証拠を集める
・未払い残業代の支払ってほしいと伝える
・労働基準監督署へ告発する
・転職する
①から④の順で対応してみることがおすすめです。
それでは説明していきます。
証拠を集める
名ばかり管理職としての残業代が支払われていないときの対応の1つ目は、
です。
自分が「名ばかり管理職に当たることの証拠」と「残業時間の証拠」を集めましょう。
名ばかり管理職に当たることの証拠
名ばかり管理職に当たることの証拠としては、例えば以下のものがあります。
①始業時間や終業時間、休日を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→始業時間や終業時間、休日を指示されていれば、労働時間の裁量があったとはいえないため重要な証拠となります。
②営業ノルマなどを課せられている書面、メール、LINE、チャット
→営業ノルマなどを課されている場合には、実際の職務内容が経営者とは異なることになるため重要な証拠となります。
③経営会議に出席している場合にはその発言内容や会議内容の議事録又は議事録がない場合はメモ
→経営会議でどの程度発言力があるかは、経営に関与しているかどうかを示す重要な証拠となります。
④新人の採用や従業員の人事がどのように決まっているかが分かる書面、メール、LINE、チャット
→採用や人事に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性がないことを示す重要な証拠となります。
⑤店舗の経営方針、業務内容等を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→経営方針や業務内容の決定に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性を示す重要な証拠となります。
その他、会社から業務内容や経営方針、就業日時の口頭の指示があった場合については、これの録音も有用です。
ただし、突然、指示されることが多いかと思いますので、その場合には、自分で指示の内容をメモに記録しておくといいでしょう。メモは、手書きでも、ワードで作成しても構いませんが、作成日時を記録しておきましょう。より信用性を高めるためには、公証役場に行き、「確定日付」を押してもらう方法があります。確定日付を押してもらうことにより、その文書がその日付に存在していたことを裏付けることができます。
残業時間の証拠
残業時間に関する証拠には、例えば以下のものがあります。
①があると心強いですが、これがない場合には、②や③の証拠がないかを検討します。
①②③いずれもない場合には、やむを得ないため、④の証拠により、残業時間を立証していくことになります。
残業代を支払ってほしいと伝える
名ばかり管理職として残業代が支払われていないときの対応の2つ目は、
です。
会社や上司に対して、残業代を支払ってもらえないことに不満を持っていることを伝えましょう。
まずは、口頭で伝えてみるのがいいでしょう。もしも、口頭で言っても、会社が残業代を支払わないような場合には、書面により残業代を請求することも考えられます。
書面で残業代を請求する場合には、事前に弁護士に相談しておくべきです。
上司や社長に残業代を支払ってほしいと伝えることに抵抗がある場合には、以下の
・労働基準監督署に告発する方法
・転職した後に残業代を請求する方法
を検討しましょう。
詳しい残業代の請求の仕方については、後ほど説明いたします。
労働基準監督署に告発する
名ばかり管理職として残業代が支払われていないときの対応の3つ目は、
です。
労働基準監督署は、会社に労働基準法違反の事実がある場合には、調査や指導を行ってくれることがあります。
例えば、労働基準監督署に行き、
と伝えましょう。
以下の記事で、残業代が支払われていない場合の告発方法について詳しく説明していますので読んでみてください。
転職する
名ばかり管理職として残業代が支払われていないときの対応の4つ目は、
ことです。
名ばかり管理職への残業代不払いが常態化していて改善が難しい場合には、その様な会社で働き続けることが労働者にとっていいとはいえません。
その様な環境自体を変えることが根本的な解決になります。
会社を退職した場合でも、過去2年分(2020年4月以降が支払日のものは3年)の残業代については請求することができます。
管理職の未払い残業代を請求する手順とポイント
それでは、管理職の方が未払いの残業代を請求する手順とポイントを解説します。
少し難しそうに見えるかもしれませんが、弁護士に依頼した場合には、これらの手続きについては弁護士に任せてしまうことができます。
残業代の請求手順は、以下のとおりです。
STEP1:通知の送付
STEP2:残業代の計算
STEP3:交渉
STEP4:労働審判
STEP5:訴訟
残業代請求の方法・手順については、以下の動画でも詳しく解説しています。
STEP1:通知の送付
残業代を請求するためには、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。
理由は以下の2つです。
・残業代の時効を一時的に止めるため
・労働条件や労働時間に関する資料の開示を請求するため
具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
STEP2:残業代の計算
会社から資料が開示されたら、それをもとに残業代を計算することになります。
残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく説明しています。
STEP3:交渉
残業代の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。
交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。
残業代の計算方法や金額を会社に伝えると、会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。
STEP4:労働審判
話し合いでの解決が難しい場合には、労働審判などの裁判所を用いた手続きを検討することになります。
労働審判というのは、全3回の期日で調停を目指すものであり、調停が成立しない場合には裁判所が一時的な判断を下すものです。
労働審判を経ずに訴訟を申し立てることもできます。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
STEP5:訴訟
交渉や労働審判での解決が難しい場合には、最終的に、訴訟を申し立てることになります。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
管理職の残業問題でよくある7つのQ&A
管理職の残業問題については、よく以下の7つの質問を受けます。
・役職手当を支払われている管理職でも残業代を請求できる?
・タイムカードを打刻している管理職は管理監督者に当たる?
・部下がいない管理職でも管理監督者に当たる?
・管理監督者に当たる役職はどこから?
・管理監督者は深夜に働いた場合も残業代を請求できない?
・管理監督者は休日に働いた場合も残業代を請求できない?
・契約書に残業代を支給しないと書いてある場合にも残業代を請求できる?
これらの悩みを一つずつ解消していきましょう。
役職手当を支払われている管理職でも残業代を請求できる?
管理職は、役職手当を支払われている場合であっても、管理監督者に該当しなければ、残業代を請求することが可能です。
稀に、会社から、管理監督者に該当しないとしても、役職手当は残業代の代わりに支給していたものなので固定残業代に当たるとの反論がされることがあります。
しかし、このような会社の反論は認められない傾向にあります。
裁判例も、役職手当が①就業規則上、基準内賃金の一部として規定されており、②役職ごとにその支給される金額が異なる事案において、残業代には当たらないとしています。
(参照:大阪地判令元.12.20労判ジャーナル96号64頁[はなまる事件])
タイムカードを打刻している管理職は管理監督者に当たる?
労働時間を管理する目的でタイムカードの打刻を命じられている管理職は、管理監督者に該当しない可能性が高いです。
会社に始業時間や終業時間を管理されている場合には、労働時間の裁量があるとはいえないためです。
ただし、働き方改革により、2019年4月より、会社は管理職を含めて労働者の労働時間を把握することが義務となりました。
労働安全衛生法第66条の8の3
「事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。」
そして、厚生労働省は、この労働時間を把握する方法の一つとして、タイムカードの記録を挙げています。
そのため、会社からタイムカードの打刻を命じられている場合であっても、それが健康管理目的であるときは、管理監督者に該当する方向の事情とはなりません。
タイムカードの打刻が「健康管理目的」か「労働時間の管理目的」かが争われた事案について、以下の理由により、「健康管理目的」ではなく「労働時間の管理目的」であるとした裁判例があります。
①労働者の残業時間が長時間にわたるにもかかわらず何ら是正のための措置が行われていないこと
②執行役員以上の者に対してはタイムカードへの打刻を求められていないこと
(参照:東京地判平27.6.24労判ジャーナル44号35頁[学生情報センター事件])
部下がいない管理職でも管理監督者に当たる?
部下がいない管理職でも、管理監督者に該当する可能性があります。
ただし、新人採用に関与していない場合や従業員の昇給や配置などの人事に関与していない場合には、管理監督者に該当しない可能性が高いです。
管理監督者に当たる役職はどこから?
どの役職から管理監督者に該当するかについては、明確な決まりはありません。
例えば、会社によっては、「係長」や「課長」になったら、管理監督者として扱うなどの基準を設けていることがあります。
しかし、管理監督者に該当するかは、経営者との一体性や労働時間の裁量、対価の正当性から判断されるものであり、役職により決まるものではありません。
そのため、どのような役所に就いているかということのみにとらわれずに、これらの事情を考慮して判断する必要があります。
管理監督者は深夜に働いた場合の残業代を請求できない?
管理監督者に該当する場合であっても、深夜に働いた場合には、その分の残業代を請求することができます。
管理監督者には、労働時間や休日に関する規定は適用されませんが、深夜残業に関する規定は適用されるためです。
ただし、管理監督者の給料に残業代が既に含まれている場合には、その額の限度で、残業代を受けることができないとされています。
(参照:最二小判平21.12.18集民232号825頁[ことぶき事件])
管理監督者は休日に働いた場合の残業代を請求できない?
管理監督者は、休日に働いた場合も、残業代を請求できないとされています。
管理監督者には、休日に関する規定は適用されないためです。
契約書に残業代を支給しないと書いてある場合にも残業代を請求できる?
契約書に残業代を支給しないと書いてある場合でも、管理監督者に該当しない方は、残業代を請求することができます。
なぜなら、労働基準法は、管理監督者に該当しない労働者に対しては、残業代を支払わなければならないとしており、これに反する契約は無効となるためです。
管理職の残業代請求は“残業代請求に強い弁護士“に依頼するべき
管理職の残業代は、残業代請求に強い弁護士に依頼すべきです。
その理由は、以下の4つです。
・交渉や裁判手続を代わりにやってもらえる!
・名ばかり管理職であることを説得的に説明できる!
・あなたが集めるべき証拠を集めてもらえる!
・代わりに残業代を計算してもらえる!
交渉や裁判手続を代わりにやってもらえる!
残業代請求に強い弁護士に依頼すれば、会社との
をしてもらうことができます。
残業代を請求する場合の文面や交渉の方法などについては、事案ごとに異なります。
弁護士に依頼すれば、これまでの経験から、あなたの事案に応じて、適切に残業代を請求してもらうことができます。
煩雑な手続きや専門性の高い手続きを、代わりに任せてしまうことができます。
つまり、あなたは会社と一切交渉しなくていいのです。
そのため、残業代を請求する場合には、残業代請求に強い弁護士に依頼することがおすすめです。
名ばかり管理職であることを説得的に説明できる!
残業代請求に強い弁護士に依頼することで、会社や裁判所に対して、
してもらうことができます。
「管理監督者」か「名ばかり管理職」かは、法的な判断を伴う事項です。
あなたが「名ばかり管理職」であることを説得的に説明するためには、類似した裁判例に照らして、あなたの置かれた状況を適切に評価する必要があります。
そのため、名ばかり管理職の方が残業代を請求しようと考えている場合には、残業代請求に強い弁護士に頼むことが重要です。
あなたが集めるべき証拠を集めてもらえる!
残業代請求に強い弁護士に依頼することで、
ことができます。
特に、名ばかり管理職の方の事案では、経営者と一体でないことを立証する証拠は、定型的でないことも多く、事案ごとに集めた方がいい証拠もあります。
また、名ばかり管理職の場合ですと、タイムカードを打刻していないケースもありますので、そのような場合、残業時間を立証するための証拠についても別に集める必要があります。
そのため、名ばかり管理職の方が残業代を請求する場合には、残業代請求に強い弁護士に集めるべき証拠を相談しながら進めていくことがおすすめです。
代わりに残業代を計算してもらえる!
残業代請求に強い弁護士に依頼することで、
してもらうことができます。
残業代の計算については、基礎賃金や割増率、残業時間の計算など、自分で計算しようとすると労働者に有利な事項を見落としてしまいがちな点がたくさんあります。
残業代事件に注力している弁護士であれば、ミスしやすいポイントを熟知していますので、正確な残業代を計算することができます。
また、残業代請求については、2年分を請求しようとすると700日以上の残業時間を計算したうえで、その他の労働条件についても正確に把握する必要があり、慣れていないと大きな負担となります。
そのため、残業代を請求する場合には、残業代請求に強い弁護士に代わりに計算してもらうことがおすすめです。
まとめ
以上のとおり、今回は、管理職の残業代について解説しました。
この記事の要点をまとめると以下のとおりです。
・管理職が管理監督者に該当しない場合には残業代を支給しないことは違法になる
・名ばかり管理職にあたるかは、①経営者との一体性、②労働時間の裁量、③対価の正当性を確認して判断する。
例えば、以下の方は、名ばかり管理職である可能性があります。
①経営者との一体性
☑経営会議に参加していない方
☑経営会議に参加しても発言権に乏しい方
☑従業員の採用や配置について決定権がない方
☑職務内容がマネージャー業務ではなく現場作業である方
②労働時間の裁量
☑タイムカード等により出退勤の管理がされている方
☑遅刻や欠勤等をした場合に給料が控除される方
☑業務予定や結果の報告が求められている方
☑休日を自由に決められない方
③対価の正当性
☑その残業時間に比較して支給されている給料が著しく少ない方
☑他の労働者に比べて優遇されているとはいえない方
この記事が残業に悩んでいる管理職の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。