不当解雇・退職扱い

同僚への政治・宗教・販売活動と懲戒

 使用者は、労働者が同僚へ政治・宗教・販売活動を行ったことを理由として、懲戒処分をすることはできるのでしょうか。また、懲戒処分が許されるとした場合に、懲戒解雇などの重い処分をすることは許されるのでしょうか。
 今回は、同僚への政治・宗教・販売活動を理由とする懲戒処分について解説します。

政治・宗教・販売活動と懲戒処分の可否

純然たる私的行為としての政治・宗教・販売活動

 政治・宗教・販売活動については、純然たる私的行為として行われる限りにおいては、使用者もこれを制限することはできません。そのため、労働者が政治・宗教・販売活動を純然たる私的行為として行っていることを理由として、懲戒処分をすることは許されません。ただし、販売活動などについては、兼業が禁止されている場合には、労務への支障の程度によってはこれに違反する可能性があると考えられます。

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従業員としての政治・宗教・販売活動

 これに対して、使用者は、企業秩序の維持の観点から、以下の態様による政治・宗教・販売活動については禁止することができます。

⑴ 就業時間中又は事業場内における政治・宗教・販売活動
⑵ 従業員としての地位を利用して他の従業員又は取引先に対して行われる政治・宗教・販売活動

 使用者は、上記行為を禁止する服務規律を規定している場合には、当該服務規律に違反して、上記行為が行われた場合には、当該労働者を懲戒処分とする余地があると考えられます。

懲戒処分の程度

 懲戒処分は、「客観的に合理的な理由なく、社会通念上相当であると認められない場合」には、無効になります(労働契約法15条)
 服務規律に違反して、就業時間中等に政治・宗教・販売活動が行われた場合であっても、通常は、直ちに懲戒解雇などの重い処分をすることは、相当性を欠き許されません。
 そのため、このような場合であっても、最初は、譴責・減給などの軽い懲戒処分にとどめるべきです。

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裁判例

 職場内における政治活動について、判例は、就業規則上で職場内の政治活動を制限することは許されるとしたうえで、これに違反した場合になされた懲戒処分としての戒告について、懲戒権者としての裁量の範囲を逸脱しているものでないとしています(最判昭和52.12.13民集31巻7号974頁[目黒電報電話局事件])。

【最判昭52.12.13民集31巻7号974頁[目黒電報電話局事件]】
1 職場内の誠実活動禁止の有効性
 「公社職員については、法律自体に職員の政治的行為を禁止する規定は設けられず、専ら公社就業規則において、『職員は、局所内において、選挙運動その他の政治活動をしてはならない。』(制定当初は五条八項に定められていたが、数次の改正により本件当時は五条七項に規定されていた。)と定められているにとどまり、国公法と異なつて、局所内における政治活動だけが禁止され、しかも刑罰の裏づけを伴つていない。」
 「そうして、公社は、公衆電気通信事業という、一般公衆が直接利用関係に立ち国民生活に直接重大な影響をもつ社会性及び公益性の極めて強い事業を経営する企業体であるから、公社とその職員との労働関係が一般私企業と若干異なる規制を受けることは否定することができないが、公社はその設立目的に照らしても企業性を強く要請されており、公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係とその本質を異にするものではなく、私法上のものであると解される。」
 「更に、一般に就業規則は使用者が企業経営の必要上従業員の労働条件を明らかにし職場の規律を確立することを目的として制定するものであつて、公社就業規則も同様の目的で公社が制定したものであるが、特に公社就業規則五条はその体裁、文言から局所内の秩序風紀の維持を目的とした規定であると解しうるところからみると、公社就業規則五条七項が局所内における政治活動を禁止した趣旨は、一般職国家公務員に関する国公法一〇二条、人事院規則一四-七における政治的行為の制限の趣旨と異なり、一般私企業において就業規則により事業所(職場)内における政治活動を禁止しているのと同様、企業秩序の維持を主眼としたものであると解するのが、相当である。すなわち、一般私企業においては、元来、職場は業務遂行のための場であつて政治活動その他従業員の私的活動のための場所ではないから、従業員は職場内において当然には政治活動をする権利を有するというわけのものでないばかりでなく、職場内における従業員の政治活動は、従業員相互間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれがあり、また、それが使用者の管理する企業施設を利用して行われるものである以上その管理を妨げるおそれがあり、しかも、それを就業時間中に行う従業員がある場合にはその労務提供業務に違反するにとどまらず他の従業員の業務遂行をも妨げるおそれがあり、また、就業時間外であつても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのあることがあるなど、企業秩序の維持に支障をきたすおそれが強いものといわなければならない。」
 「したがつて、一般私企業の使用者が、企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許されるべきであり、特に、合理的かつ能率的な経営を要請される公社においては、同様の見地から、就業規則において右のような規定を設けることは当然許されることであつて、公社就業規則五条七項の規定も、本質的には、右のような趣旨のもとに定められていると解され、右規定にいう『政治活動』の意義も、一般私企業における就業規則が禁止の対象としている政治活動、すなわち、社会通念上政治的と認められる活動をいうものと解するのが、相当である。」
2 懲戒処分の相当性
 被上告人の本件プレート着用行為およびその取りはずし命令に服しなかつた行為がいずれも就業規則所定の懲戒事由に該当し、しかも被上告人は本件プレートの取りはずしを数回にわたつて命令されながら遂にこれに従わないばかりか、これに抗議すると称して許可なく本件ビラを配布したのであるから、これらすべての非違行為に対する懲戒処分が最も軽い戒告処分に過ぎないこともあわせ考えると、本件処分が懲戒権者に与えられた裁量の範囲を逸脱しているものでないことは明白である。 」

ABOUT ME
弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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