会社からされた解雇が条件を満たしていないのではないかとの疑問を抱えていませんか。
突然会社から解雇されてしまった場合や解雇の理由が不十分な場合には、解雇に納得できないことも多いですよね。
日本では、解雇の条件は、とても厳格に制限されているため、容易には認められません。
なぜなら、日本では終身雇用制が前提とされているためです。
具体的には、解雇の条件を満たしているかは、以下の3つ事項を確認すべきです。
・合理性と相当性があること
・解雇の手続きが守られていること
・解雇が禁止される場合に当たらないこと
実際、会社による解雇はその多くが解雇の条件を満たしていません。
私がこれまで労働者の方から相談を受けた案件についても、そのほとんどが解雇の条件を満たしていないと考えられるものでした。
しかし、労働者の方の中には、会社から解雇されてしまうと解雇を争うことをあきらめてしまう方が多くいます。自分に正当な権利があることを知らずに、あきらめてしまうことは、残念なことです。
この記事では、以下の流れで、解雇の条件及び解雇が条件を満たしていない場合の対処法について説明していきます。
この記事を読んでくださった方に、解雇の条件や正当な権利について、知っていただければ幸いです。
解雇された場合に「やるべきこと」と「やってはいけないこと」は、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次
解雇の種類
解雇には以下の3つの種類があります。
・普通解雇
・懲戒解雇
・整理解雇
解雇の種類により条件も異なる場合がありますので、それぞれの解雇がどのようなものであるかについて知っておく必要があります。
それでは順に見ていきましょう。
普通解雇
普通解雇というのは、最も一般的な解雇であり、会社が一方的に雇用契約を解約するものです。
民法上、期間の定めのない雇用契約については、いつでも解約の申し入れをすることができるとされているので、これを根拠として行われます。
典型例は、勤務成績が良くないことを理由とする解雇です。
懲戒解雇
懲戒解雇というのは、労働者が企業の秩序に違反したことに対する制裁として行われる解雇です。
就業規則に規定された懲戒解雇事由に該当する場合に懲戒解雇が行われることになります。
典型例は、無断欠勤や業務命令違反、犯罪行為などを理由とする解雇です、
整理解雇
整理解雇というのは、企業の経営上必要とされる人員削減のために行われる解雇です。
労働者に落ち度がなく、会社の事情に基づいて行われる点に特徴があります。
いわゆるリストラというのは、日本ではこの整理解雇の意味で用いられることが多いです。
整理解雇とは何かについては、以下の記事で詳しく解説しています。
整理解雇とは何かについては以下の動画でも詳しく解説しています。
<試用期間中の本採用拒否と内定取り消し>
試用期間中の本採用拒否と内定取り消しについても、解雇に準じて考えられています。
なぜなら、試用期間や内定についても、通常、既に雇用契約が成立していると考えられているためです。
そのため、試用期間中の本採用拒否と内定取り消しについても、解雇の条件は厳格に判断されます。
解雇の条件についての確認事項3つ
解雇の条件については、以下の3つの事項を確認する必要があります
・合理性・相当性があること
・解雇の手続きが守られていること
・解雇が禁止される場合に当たらないこと
それでは順に見ていきましょう。
合理性・相当性があること
解雇の条件として、合理性と相当性があることが必要とされています。
なぜなら、労働契約法が、解雇権濫用法理及び懲戒権濫用法理として、合理性や相当性を欠く解雇を無効としているためです。
合理性というのは、以下の2つの原則が重要となります。
・将来的予測の原則
解雇の理由について、その労働者に改善の可能性がなく、労働契約を続けていくことが難しい状態になっていることが必要とされます。
例えば、労働者に対して、何も注意をしないで、いきなり解雇にする場合には、合理性が認められない可能性が高いことになります。
・最終手段の原則
解雇の理由について、期待可能な解雇を回避する手段が尽くされていることが必要とされます。
例えば、労働者に対して業務内容を変更するなどの解雇以外の方法を検討しないで解雇する場合には、合理性が認められない可能性が高いことになります。
相当性というのは、以下の事項を考慮する必要があります。
・本人の情状
・他労働者の処分との均衡
・使用者側の対応・落ち度
・不当な動機・目的
例えば、労働者が反省している場合や、これまで長期間にわたり真面目に働いてきた場合、嫌がらせ目的で解雇された場合などには、相当性を欠く可能性が高いことになります。
整理解雇や試用期間の本採用拒否、内定取り消しでは、解雇の条件について別の考慮が必要となります。
以下では、これらを簡単に紹介します。
整理解雇
整理解雇については、その有効性判断において以下の4要素が考慮されることになります。
①経営上の必要性
②解雇回避努力
③人選の合理性
④手続の相当性
①経営上の必要性は、債務超過などの高度の経営上の困難から人員削減措置が必要とされることをいいます。
②解雇回避努力は、希望退職の募集等の解雇を回避する努力をしていることをいいます。
③人選の合理性は、客観的かつ合理的な基準が作られていて、それを公正に適用して解雇する人を決めていることをいいます。
④手続の相当性は、労働者や労働組合との間で十分に説明・協議をしていることいいます。
試用期間中の本採用拒否と内定取り消し
試用期間中の本採用拒否と内定取り消しについては、解雇に準じて考えられていますが、通常の解雇と全く同一とまではいえず、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められるとされています。
なぜなら、試用期間や採用内定の場合には、後日、調査や観察に基づく最終決定が行われることが前提とされているためです。
ただし、実際には、多くの裁判例は、具体的な判断の場面では、通常の解雇と同様に、本採用拒否と内定取り消しについても、正当性を厳格に判断しています。
解雇の手続きが守られていること
解雇をするには、必要な手続きがあります。
具体的には以下の手続がとられているかを確認する必要があります。
・解雇予告
・解雇の意思表示
・懲戒解雇特有の手続
それでは、順に見ていきましょう。
解雇予告が必要
会社は、労働基準法上、労働者を解雇する場合には、少なくとも30日前にその予告をしなければならないとされています。
ただし、以下の3つのいずれかの場合には、例外的に解雇の予告は不要とされます。
①解雇予告手当を支払った場合
②やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
③労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合
まず、①解雇予告手当というのは、解雇の予告に代えて、30日分以上の平均賃金を支払うことをいいます。また、30日に満たない平均賃金を支払った場合には、その分予告の期間を短縮することもできます。
次に、②やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合というのは、天災事変のような場合で、解雇予告期間をおくことが会社に酷な場合です。
そして、③労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合というのは、重大な服務規律違反又は背信行為をいいます。例えば、以下の場合です。
・事業場内における刑法犯に該当する場合
・賭博・風紀紊乱等により職場秩序を乱し他の労働者に悪影響を及ぼす場合
・経歴詐称をしていた場合
・他の事業場へ転職した場合
・2週間以上正当な理由なく無断欠勤した場合
・勤怠不良で複数回注意を受けても改めない場合
会社は、懲戒解雇の場合には、これに該当するものとして解雇予告手当を支払わない傾向にあります。しかし、懲戒解雇事由に該当する場合でも、必ずしもこの例外に該当するわけではありません。
<解雇予告が必要なのにこれをしなかった場合の解雇の効力>
解雇予告が必要な場合に、会社がこれを怠った場合には、その日のうちに解雇の効力が生じることはありません。
しかし、判例では、会社がその日のうちの解雇にこだわるわけでないのであれば、予告なしの解雇をした日から解雇の予告に必要な期間を経過した時点で、解雇の効力が生じるとされています。
解雇の意思表示が必要
解雇をするには、会社は労働者に対して解雇をする旨の意思表示をすることが必要となります。
なぜなら、解雇の効果は解雇の意思表示があって初めて生じるためです。
そのため、会社が解雇をしたつもりになっているだけで、解雇をしたとの意思を表示していない場合には、解雇の効力は生じないことになります。
懲戒解雇には特有の手続きが必要
懲戒解雇には、以下の手続があります。
①就業規則への懲戒事由と種別の規定
②場合により組合との協議や委員会による討議
③弁明の機会の付与
まず、①就業規則にどのような場合に懲戒解雇されるのかが規定されている必要があり、このような規定がないと懲戒解雇することはできません。なぜなら、どのような場合に会社から制裁をされるのかが事前に分からないと、労働者の自由が制限されてしまうためです。
次に、②就業規則に懲戒解雇の前に賞罰委員会に付議することが規定されている場合があります。この場合には、事前に賞罰委員会への付議をすることが必要であり、これを欠くと解雇が無効になる場合があります。
そして、③会社は、懲戒解雇の前に労働者に対して弁明の機会を付与することが必要とされており、これを欠くと解雇が無効になる場合があります。
<普通解雇の場合に解雇事由が就業規則に規定してあることは条件か>
普通解雇の場合には、就業規則に解雇事由を記載しておくことは、解雇の条件とはされていません。
なぜなら、民法は、期間の定めのない雇用契約は、いつでも解雇することができるとしているためです(ただし、前記のように合理性・相当性による制限があります)。
仮に、会社が就業規則に普通解雇事由を規定した場合には、会社は、この解雇事由に該当する場合にしか普通解雇できなくなるのか、それともこの解雇事由に該当しない場合でも普通解雇できるのかについて、説が分かれています。
就業規則上の解雇事由に該当する場合にしか普通解雇できなくなるとの説を限定列挙説といいます。
就業規則上の解雇事由に該当しない場合でも普通解雇できるとの説を例示列挙説と言います。
解雇が禁止される場合に当たらないこと
解雇の条件として、法律上、解雇が禁止される場合に当たらないことが必要となります。
法律上、解雇が禁止される場合には、例えば以下のものが挙げられます。
・国籍、信条又は社会的身分による差別的取り扱いの禁止に違反する場合
・公民権行使を理由とする解雇の禁止に違反する場合
・業務上の負傷・疾病の休業期間等の解雇制限に違反する場合
・産前産後休業期間等の解雇制限に違反する場合
・育児・解雇休業法による解雇の禁止に違反する場合
・男女雇用機会均等法による解雇の禁止に違反する場合
・短時間・有期雇用労働法による解雇の禁止に違反する場合
・個別労働紛争解決促進法による解雇の禁止に違反する場合
・公益通報者保護法による解雇の禁止に違反する場合
・労働施策総合推進法による解雇の禁止に違反する場合
・不当労働行為に該当する場合
それでは、順に説明していきます。
国籍、信条又は社会的身分による差別的取り扱いの禁止に違反する場合
国籍、信条又は社会的身分を理由とする解雇は、禁止されています。
なぜなら、国籍、信条又は社会的身分により差別的取り扱いを行うことは、労働基準法上許されないためです。
公民権行使を理由とする解雇の禁止に違反する場合
公民権の行使を理由とする解雇は禁止されています。
なぜなら、会社は、労働者が労働時間中に選挙権や公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合は、労働基準法上、これを拒んではならないとされているためです。
例えば、労働者が衆議院議員その他の議員に就任したことを理由に解雇することは許されません。
業務上の負傷・疾病の休業期間等の解雇制限に違反する場合
業務上の負傷・疾病の休業期間及びその後30日間については、解雇が禁止されています。
例えば、仕事中にケガをしてしまった場合や仕事が原因で病気になってしまった場合です。
産前産後休業期間等の解雇制限に違反する場合
産前産後休業期間及びその後30日間については、解雇が禁止されています。
育児・介護休業法による解雇の禁止に違反する場合
育児・介護休業法による申し出又はそれらの利用を理由とする解雇は禁止されています。
具体的には、以下の申し出又は利用を理由とする解雇は許されません。
・育児休業・介護休業
・子の看護休暇
・所定外労働の制限
・時間外労働の制限
・深夜業の制限
・所定外労働時間の短縮等の育児・介護の支援措置の利用
男女雇用機会均等法による解雇の禁止に違反する場合
男女雇用機会均等は、以下の理由による解雇を禁止しています。
・労働者の性別
・女性労働者が婚姻したこと
・女性労働者が妊娠したこと
・女性労働者が出産したこと
・女性労働者が産前産後の休業をしたこと
短時間・有期雇用労働法による解雇の禁止に違反する場合
短時間・有期雇用労働者が通常の労働者との間の待遇の相違の内容・理由等について説明を求めたことを理由とする解雇は禁止されています。
個別労働紛争解決促進法による解雇の禁止に違反する場合
労働者が都道府県労働局長に解決の援助を求めたこと、またはあっせんを申請したことを理由とする解雇は禁止されています。
公益通報者保護法による解雇の禁止に違反する場合
労働者が不正の目的ではなく、権限を有する行政機関等に、公益通報をしたことを理由とする解雇は禁止されています。
労働施策総合推進法による解雇の禁止に違反する場合
会社は、労働者がパワーハラスメントの相談を行ったこと又は会社による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、その労働者を解雇することを禁止されています。
不当労働行為に該当する場合
会社は、労働者が労働組合員であること、正当な組合活動をしたことなどを理由として解雇することを禁止されています。
解雇理由別!あなたの解雇が条件を満たしているか確認
解雇については、解雇理由ごとに相当程度裁判例が蓄積されており、解雇の合理性・相当性を満たしているかの目安となります。
例えば、よくある以下の解雇理由についての裁判例があります。
・勤務成績不良
・経歴詐称
・業務命令違反
・無断欠勤
・兼業禁止違反
・通勤手当の不正受給
・リベートの受領
・ネットの不正利用
・機密文書持ち出し
・パワハラ
・セクハラ
・社内不倫
・痴漢行為
・飲酒運転
・会社の経営不振
順に説明していきますので、自分の該当しそうな解雇理由を確認してみてください。
勤務成績不良
勤務成績不良を理由とする解雇が合理性・相当性を満たしているかは、当該労働者に求められている職務能力の内容を検討したうえで、職務能力の低下について、以下の要素を考慮し判断します。
・当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものか
・会社側が労働者に改善を促して、努力や反省の機会を与えたのに改善されなかったか
・今後の指導による改善の可能性
例えば、数回ミスをした程度で会社にも大きな損害が生じていない場合や会社から業務方法を改善するように指導されたことがないような場合には、解雇は許されない可能性が高いです。
特に、長期にわたり継続して勤務してきた者については、勤務成績不良の程度は、企業から排除しなければならない程度に至っていることが必要とされており、基準が厳格になります。
経歴詐称
経歴詐称を利用とする解雇は、重要な経歴を詐称した場合に限り認められます。
重要な経歴の詐称とは、使用者が真実を知っていれば雇用しなかったか、少なくとも同一の労働条件では雇用しなかったと考えられる経歴です。
具体的には、最終学歴、職歴、犯罪歴などの詐称が問題となり、詐称の内容や当該労働者の職種などに即し判断されます。
業務命令違反
業務命令違反を理由とする解雇は、重大な業務命令違反であって、企業秩序を現実に侵害しているか、あるいは、その現実的な危険性がある場合に限り認められます。
日常の業務に関する命令違反を理由に直ちに解雇を行うことは、通常、相当性を欠きます。
無断欠勤
無断欠勤を理由とする解雇の合理性・相当性は、以下の要素を総合考慮し判断されます。
・欠勤の回数・期間・程度、正当な理由の有無
・業務への支障の有無・程度
・使用者からの注意・指導・教育の状況、使用者側の管理体制
・本人の改善の見込み、反省の度合い
・本人の過去の非行歴、勤務成績
・先例の存否、同種事例に対する処分の均衡
解雇予告手当が不要な場合の例として行政通達が挙げている
が解雇の条件を満たしているかの一つのメルクマールとなります。
兼業禁止違反
兼業禁止違反を理由とする解雇の合理性・相当性が認められるのは、以下のような場合に限定されます。
①労務提供に支障が生じる場合
②企業経営秩序を害する場合
③企業の対外的信用・体面を侵害する場合
①労務提供に支障が生じるかは、以下の要素を考慮し判断します。
・兼業を行っているのが平日か休日か
・兼業の頻度
・時間数、時間帯
・本業の業種
・兼業の性質
②企業経営秩序を害するかは、以下の要素を考慮し判断します。
・兼業先の業種が同一か
・兼業を禁止する会社における役職地位
・本業における役職地位
・兼業先における経営への関与の程度
・兼業先における就労の経緯
通勤手当の不正受給
通勤手当の不正受給を理由とする解雇が合理性・相当性を満たすかは、以下の要素を考慮し判断します。
・悪質性
・不正に受給した通勤手当の金額
・不正受給の期間
例えば、
の不正受給の事案において解雇を有効とした裁判例があります。
これに対して、
の不正受給の事案において解雇を無効として裁判例があります。
リベートの受領
リベートの受領を理由とする解雇が合理性・相当性を満たすかは、以下の要素を考慮し判断します。
・使用者の業務の性質
・非違行為の態様
・非違行為時における労働者の役職
・受領した金額
・非違行為発覚後の労働者の対応
・従前の勤務態度
・使用者に生じた損害の程度
・使用者の対外的な信用が毀損された程度
・他の従業員への悪影響の有無
裁判例は、横領・背任や金銭的な不正行為については、概ね解雇の合理性・相当性を満たしているとする傾向にあります。
インターネットの不正利用
会社においてインターネットを不正に利用したことを理由とする解雇の合理性・相当性は、職務専念義務と企業秩序遵守義務について、以下の要素を考慮し判断します。
・その閲覧の対象、時間、頻度
・インターネットの私的利用を禁止する規程の有無やその周知の状況
・上司や同僚のインターネットの私的利用の有無
・被解雇者・被処分者に対する事前の注意・指導や処分歴の有無
・使用者の経済的負担の程度
・企業秩序への悪影響の程度
機密文書持ち出し
機密文書の持ち出しを理由とする解雇の合理性・相当性は、以下の要素を考慮し判断します。
・情報持ち出しの動機が背信的なものかどうか
・持ち出した情報の内容
・情報の管理体制
・情報持ち出しの回数
・情報持ち出し後の第三者への漏洩や会社の損害の程度
・従来の情報持ち出しに対する処分との均衡
・情報を持ち出した社員の過去の処分歴
・情報を持ち出した社員の反省の程度
・使用者の事業内容
裁判例は、機密文書の持ち出し等が背信的意図に基づくものである場合には、解雇を有効とする傾向にあります。
パワハラ
パワハラを理由とする解雇の合理性・相当性は、以下の要素を考慮し判断します。
・業務の必要性
・加害行為の悪質性
・被害の内容や程度
・加害者本人の反省の有無
・加害者に対する従前の注意指導の有無
セクハラ
セクハラを理由とする解雇の合理性・相当性は、以下の要素を考慮し判断します。
・加害者の職位
・加害行為の悪質性
・被害の内容や程度
・加害者本人の反省の有無
・加害者に対する従前の注意指導の有無
裁判例は、犯罪に該当するような特に悪質な類型では、その他の考慮要素について詳細に検討せずに、解雇を有効とする傾向にあります。
これに対して、犯罪に至らない程度の身体的接触を伴う性的要求や交際要求の場合には、安易に解雇は認められない傾向にあります。
社内不倫
社内不倫を理由とする解雇は、原則として、合理性・相当性が認められません。
ただし、企業秩序との関連性や行為態様の悪質さを考慮して、会社の社会的信用や評価を著しく低下させる場合には、合理性・相当性が認められることがあります。
痴漢行為
痴漢行為を理由とする解雇は、職業上、特に痴漢行為が企業に与える影響が大きい会社において、過去に度重なる痴漢行為を行っているような場合には、合理性・相当性が認められることがあります。
飲酒運転
飲酒運転を理由とする解雇については、業務として運転を行っている方かどうかにより合理性・相当性の判断が異なることが多いです。
業務として運転をしているものについては、事故を起こした場合でなくても、飲酒運転を理由とする解雇は、合理性・相当性が認められる傾向にあります。
業務として運転をしていないものについては、事故を起こしていない場合に、飲酒運転のみを理由に解雇することは、合理性・相当性が認められない傾向にあります。
雇用契約書に解雇条件が記載されていても解雇は無効なことがある!
雇用契約書に解雇条件が記載されていて、これに該当する場合でも、解雇が無効となることがあります。
理由は、以下の3つです。
・就業規則よりも不利益な労働条件は無効になる
・雇用契約書の解雇条件が制限的に解釈される可能性がある
・雇用契約書の解雇条件に該当しても解雇権の濫用になることがある
それでは順に見ていきましょう。
就業規則よりも不利益な労働条件は無効になる
雇用契約書により就業規則よりも不利益な労働条件を合意をすることはできません。
なぜなら、就業規則は、労働条件の最低基準とされているためです。
就業規則よりも不利益な労働条件は無効とされて、就業規則の規定に従うことになります。
そのため、特定の労働者にのみ、他の従業員よりも不利益な解雇事由が課されている場合には、これに基づく解雇は無効となるでしょう。
ただし、解雇事由に該当するかの判断において、労働者の個別の事情が考慮されることはあります。
例えば、能力不足を判断する際には、個別の労働者ごとの採用経緯等が考慮されます。そのため、雇用契約書上の記載は、どの程度の能力があることを期待して採用したかの参考にされることはあるでしょう。
雇用契約書の解雇条件が制限的に解釈される可能性がある
雇用契約書に規定されている解雇事由の文言が、実際の形式的な意味よりも狭く解釈される場合があります。
例えば、雇用契約書に「経歴詐称」が解雇事由として規定されている場合においても、「経歴詐称」というのは、「重大な経歴詐称」を意味すると制限して解釈される可能性があります。
そのため、形式的には雇用契約書の文言に該当する場合でも解雇は無効とされることがあります。
雇用契約書の解雇条件に該当しても解雇権の濫用になることがある
雇用契約書の解雇条件に該当する場合でも、解雇権の濫用に該当することがあります。
なぜなら、雇用契約書の解雇条件に該当する場合でも、解雇の合理性や相当性が否定される可能性があるためです。
そのため、雇用契約書の解雇条件に該当しても、解雇は無効となることがあります。
アルバイトやパートでも解雇の条件は厳格
アルバイトやパートでも解雇の条件は厳格です。
なぜなら、アルバイトやパート従業員であっても正社員と同様会社と雇用契約を締結しているためです。
そのため、アルバイトやパート従業員でも、合理性や相当性がない場合に解雇すれば濫用として無効となりますし、解雇予告や解雇が禁止される場合に該当しないことも必要となります。
解雇の条件を満たしているかは解雇理由証明書で確認する
解雇が条件を満たしていないのではないかと感じた場合には、解雇理由証明書を会社に請求することにより、なぜ解雇されたのかを確認するべきです。
解雇理由証明書というのは、会社が労働者を解雇した理由が具体的に記載されている書面です。
(出典:東京労働局 解雇理由証明書)
労働者は、労働基準法上、会社に対して、解雇理由証明書を請求する権利があります。
例えば、労働者は、以下のような通知を会社に送付することにより解雇理由証明書を請求します。
ダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
解雇が条件を満たしていない場合の労働者の権利
解雇の条件を満たされておらず、これが無効となる場合には、労働者に以下の権利が認められる可能性があります。
・解雇後の賃金請求権
・慰謝料請求権
順に説明していきます。
解雇後の労働者としての地位
解雇が条件を満たさずに無効である場合には、会社に対して、現在も労働者であることを確認することができます。
これにより、解雇された後の会社との法律関係が明確になります。
解雇後の賃金請求権
解雇が条件を満たさずに無効である場合には、会社に対して、解雇後の賃金を請求することができます。
なぜなら、解雇後に仕事をすることができなかったのは、会社が無効な解雇を行ったためであり、会社に原因があるためです。
ただし、労働者が解雇後に働く意思や能力がなくなってしまった場合には、解雇後の賃金は請求できません。
また、解雇後に労働者が他の会社で働き賃金を得ている場合には、解雇後の賃金のうち、平均賃金の6割を超える部分については、請求できなくなってしまう可能性があります。
バックペイ(解雇後の賃金)については、以下の動画でも詳しく解説しています。
慰謝料請求権
解雇が条件を満たさずに無効であり、かつ、特に悪質性が高い場合には、労働者は、会社に対して、慰謝料を請求することができます。
慰謝料が認められる場合には、50万円~100万円程度の範囲内で認定されることが多い傾向にあります。
不当解雇の慰謝料については、以下の動画でも詳しく解説しています。
解雇が条件を満たしていない場合の対処法
解雇が条件を満たしておらず、これを争う場合には概ね以下の流れで争うことになります。
・交渉をする
・労働審判・訴訟を申し立てる
それでは順に説明していきます。
解雇の撤回を求める
まずは、会社に対して、解雇の撤回と解雇後の業務指示を求めます。
解雇の撤回と解雇後の業務指示を求めることで、労働者が解雇に同意していないことや働く意思を失っていないことを明確にすることができます。
また、解雇後の賃金も併せて請求する意思がある旨を伝えるといいでしょう。
特に悪質性が高い場合には、慰謝料の請求も行うことになります。
交渉を行う
次に、会社との間で交渉を行うことになります。
通常は、会社は、解雇が条件を満たしていないとは認めずに、解雇は有効であるとの反論をしてきます。そのため、労働者は、会社に対して、解雇が条件を満たしていないことを説得的に説明する必要があります。
会社と労働者との間において話し合いが可能な程度に認識を共有できた場合には、具体的な解決方法について協議することになります。
具体的な解決については、労働者が会社に復職するという解決もありますし、労働者が退職することを前提とした解決もあります。
いずれにせよ、会社が労働者に対して、解雇後の賃金や慰謝料に代わるものとして、解決金を支払うかどうかやその金額についても話し合う必要があります。
労働審判・訴訟を申し立てる
交渉により解決することが難しい場合には、労働審判や訴訟の申し立てを検討することになります。
労働審判と訴訟はいずれも裁判所をとおした手続きです。
労働審判は、3回以内の期日で、迅速に話し合いによる解決を目指すものであり、話し合いの解決が難しい場合には、裁判所が一時的な判断を下します。労働者と会社いずれかから異議が出された場合には、訴訟に移行することになります。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、特に期日の回数に制限はなく、1か月~1か月半に1期日程度のペースで進んでいくことになります。交互に書面を提出し、期日に証拠の取調べなどを行います。1年を超える期間がかかることもあります。
解雇された際に会社都合として失業保険を受給する条件
解雇により離職した者は、「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」を除き、会社都合退職として、待機期間なしで早期に失業保険を受給することができます。また、給付日数について有利に取り扱ってもらえる可能性があります(ハローワークインタネットサービス:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲概要参照)。
「自己の責めに帰すべき重大な理由」による解雇の認定基準は以下のとおりとされています(令和2年10月現在、厚生労働省職業安定局雇用保険課業務取扱要領)。
②故意又は重過失により事業所の設備又は器具を破壊したことによって解雇された場合
③故意又は重過失によって事業所の信用を失墜せしめ、又は損害を与えたことによって解雇された場合
④労働協約又は労働基準法(船員については、船員法)に基づく就業規則に違反したことによって解雇された場合
⑤事業所の機密を漏らしたことによって解雇された場合
⑥事業所の名をかたり、利益を得又は得ようとしたことによって解雇された場合
⑦他人の名を詐称し、又は虚偽の陳述をして就職をしたために解雇された場合
※④の場合にも、労働協約又は就業規則違反の程度が軽微な場合には、本基準に該当しないものであり、本基準に該当するのは、労働者に労働協約又は就業規則に違反する次の⑴~⑷の行為があったため解雇した場合であって、事業主が解雇予告除外認定を受け、解雇予告及び解雇予告手当の支払い義務を免れるときであるとされています。
⑴ 極めて軽微なものを除き、事業所内において窃盗、横領、傷害等刑事犯に該当する行為があった場合
⑵ 賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす行為があった場合
⑶ 長期間正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
⑷ 出勤不良又は出欠常ならず、数回の注意を受けたが改めない場合
会社都合退職については、以下の動画でも詳しく解説しています。
解雇の条件を満たしていないのでは?と思ったら弁護士の初回無料相談を利用すべき!
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解雇が条件を満たしているかを確認してもらえる
弁護士に相談することにより、解雇が条件を満たしているかを確認してもらうことができます。
解雇が条件を満たしているかについては、法的な事項ですので、弁護士に相談することをお勧めします。
解雇理由を明らかにした上で、裁判例の傾向などに照らして判断することも必要となります。
解雇理由が不明である場合には、会社に対して、解雇理由証明書を請求することになります。弁護士に依頼すれば代わりに解雇理由証明書を請求してもらうことができますし、自分で解雇理由証明書を請求する際にも弁護士に相談すれば請求方法についてアドバイスしてもらうことができます。
解雇が条件を満たしていない場合には適切に対処してもらえる
解雇が条件を満たしていない場合には、弁護士に依頼すれば、適切に対処してもらうことができます。
会社との交渉や労働審判・訴訟などは、自分自身で行うにはハードルが少し高いでしょう。
会社には、通常、顧問弁護士がいます。顧問弁護士がつけば会社に有利な法的主張がなされることになりますので、労働者側もこれに説得的に反論する必要が生じます。
また、慣れない手続きを行うことは時間的にも労力的にも過大な負担となります。解雇されて精神的にも余裕がない状況では、弁護士に手続きを任せてしまうことができるのは大きなメリットです。
初回無料相談を利用すれば費用をかけずに見通しやリスクを教えてもらえる
弁護士の初回無料相談を利用すれば、費用をかけずに、見通しやリスクを教えてもらうことができます。
自分で手続きを行うにせよ、弁護士に依頼するにせよ、見通しやリスクについては確認しておくべきです。
初回無料相談を利用するデメリットは特にありません。
そこで、弁護士に依頼した場合の費用等も説明してもらえるはずですので、相談してみて、弁護士に依頼するかを確認すればいいのです。
まとめ
以上のように、今回は、解雇の条件と対処法について解説しました。
簡単に要点をおさらいしてみましょう。
解雇の条件を満たしているかについては、以下の3つの事項を確認する必要があります。
・合理性・相当性があること
・解雇の手続きが守られていること
・解雇が禁止される場合に当たらないこと
解雇が条件を満たしておらず、これを争う場合には概ね以下の流れで争うことになります。
・解雇の撤回を求める
・交渉をする
・労働審判・訴訟を申し立てる
この記事で解雇の条件や正当な権利について知っていただくことができれば幸いです
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