労働一般

【保存版】使用者による労働者の名誉毀損 -懲戒事実を公表された場合・再就職先へ悪評を流された場合-

 近年、使用者により労働者の名誉が毀損されたという相談が増加しています。例えば、懲戒された場合にその内容が社内に張りがされ多くの人に見られてしまった場合や、懲戒解雇された場合に悪評を同種の企業に流されてしまった場合などには、労働者の社会的評価は低下することになります。このような使用者の行為は違法ではないのでしょうか。また、これにより受けた精神的苦痛について慰謝料の請求をすることはできないのでしょうか。
 今回は、使用者による労働者の名誉毀損について解説します。

名誉毀損と不法行為

損害賠償請求が認められるための要件

 労働者が使用者に対して、名誉毀損を理由とする不法行為(民法709条)に基づき損害賠償を請求するには、以下の要件を満たす必要があります。

①使用者が公然と事実を摘示ないし意見論評を表明したこと
②①により労働者の名誉が毀損されたこと
③使用者の故意又は過失
④損害の発生及び額
⑤③と④の因果関係

⑴ ①公然と事実を摘示ないし意見論評を表明したこと

 「公然と事実を摘示ないし意見論評を表明した」といえるには、必ずしも不特定多数人に対して事実の摘示ないし意見論評がなされることは必要とされず、特定少数人に対して事実の摘示ないし意見論評がなされた場合であっても、不特定多数人に伝播する可能性があれば足ります(東京地判平21.3.18判時2040号57頁)。

⑵ ②労働者の名誉が毀損されたこと

 「名誉」とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価をいいます(最判平9.5.27民集51巻5号2024頁)。
 ある表現が他人の社会的評価を低下させるかは、一般の読者・聞き手の普通の注意と読み方(聞き方)を基準に判断すべきとされています(東京地判平21.3.18判時2040号57頁)。

真実性・相当性の抗弁

 事実の摘示による名誉毀損については、以下の要件を満たす場合には、不法行為とはならないとされています。これを真実性・相当性の抗弁といいます。

①事実の摘示が公共の利害に関する事実に係ること
②その目的が専ら公益を図ることにあること
③摘示された事実が真実であること
③´摘示された事実が真実であると信ずるについて相当の理由があること

公正な論評の法理

 また、特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明については、以下の要件を満たす場合には、不法行為とはならないとされています。これを公正な論評の法理といいます。

①意見ないし論評の表明が公共の利害に関する事実に係ること
②その目的が専ら公益を図ることにあること
③意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であること
③´意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であると信ずるにつき相当な理由があること
④意見ないし論評としての域を逸脱していないこと

 ④意見ないし論評としての域を逸脱しているかは、表現自体の相当性のほか、当該意見ないし論評の必要性の有無を総合して判断されます。そして、上記必要性の有無については、相手方による過去の言動等、当該意見ないし論評が表明されるに至った経緯を考慮して判断されます(東京地判平21.1.28判時2036号48頁)。

懲戒事実の公表

名誉権侵害

⑴ 懲戒処分が無効な場合

 懲戒事実を社員や取引先に対して公表することについては、当該懲戒処分をすることができない場合や当該懲戒処分が無効な場合には、違法なものとして、労働者の名誉を毀損する不法行為が成立するのが原則です(東京地判平14.9.3労判839号32頁[エスエイピー・ジャパン事件]、大阪地判平11.3.31労判767号60頁[アサヒコーポレーション事件])。
 ただし、既に労働者が退職済みで懲戒処分をすることができない場合でも、従業員に重大な秩序違反行為があり,そのことが社内に広く知られており,当該従業員を懲戒しなければ企業秩序がどうしても保持できない場合には、当該従業員を懲戒するなどしても直ちに違法とまではいえないとされています(東京地判平14.9.3労判839号32頁[エスエイピー・ジャパン事件])。

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⑵ 懲戒処分が有効な場合

 これに対して、当該懲戒処分が有効であったとしても、直ちにこれを公表することが許されるとはいえません。懲戒処分がなされた事実は、通常、当該労働者の社会的評価を低下させるものです。
 社内における公表が正当業務行為もしくは期待可能性の欠如として違法性が阻却されるには、当該公表行為が、その具体的状況のもと、社会的にみて相当と認められる場合、すなわち、公表する側にとって必要やむを得ない事情があり、必要最小限の表現を用い、かつ被処分者の名誉、信用を可能な限り尊重した公表方法を用いて事実をありのままに公表する必要があります(東京地判昭52.12.19判タ362号259頁[泉屋東京店事件])。
 また、公表が真実性・相当性の抗弁により違法性が阻却されるには、①事実の摘示が公共の利害に関する事実に係ること、②その目的が専ら公益を図ることにあること、③摘示された事実が真実であること(③´摘示された事実が真実であると信ずるについて相当の理由があること)という要件を満たす必要があります(岡山地判平23.1.19判例集未登載)。

プライバシー侵害

 懲戒を受けた労働者の氏名を公表することについては、名誉権侵害のみならず、プライバシー侵害も問題となり得ます。
 使用者は、雇用する従業員の氏名、住所、部署及び役職等の情報を必然的に収集・保有することとなります。そして、これらの情報がみだりに他人に公表(特定人に対する開示・伝達を含む)されると個人の人格的な権利ないし利益を損なう可能性があります。そのため、労働者は、使用者によってプライバシーに係る情報を公表されないことについて法的な利益を有しています(名古屋地判平29.3.24労判1163号26頁[引越社事件])。
 そして、労働者の処分歴は、個人情報に該当するとされていることについても十分に留意される必要があります(労働省:労働者の個人情報補保護に関する行動指針)。但し、個人情報保護法違反が直ちにプライバシー侵害として不法行為を構成するわけではないとの考え方が優勢です。
 プライバシー侵害が違法な不法行為となるかは、同情報を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し,前者が後者に優越する場合に限って違法となります。懲戒処分について、他の従業員への教育的効果や再発防止を目的として公表する場合には、通常、個人名を明らかにする必要はなく、事案内容と処分結果等の開示があれば十分でしょう。

再就職先への悪評の流布

 使用者が再就職先へ悪評を流布する行為については、これにより労働者の社会的評価が低下する場合には、違法なものとして、労働者の名誉を毀損する不法行為が成立するのが原則です。
 裁判例は、使用者が、懲戒解雇した労働者の再就職先に対して、当該労働者が欠席をしたり、授業のやり方が悪い先生で困っている旨や当該労働者に対して裁判を提起する予定である旨を話したことが原因で、当該労働者の正式採用が延期された事案において、使用者の発言は労働者の名誉,社会的評価を低下させる違法なものであり,不法行為を構成するものといわざるを得ないとしています(名古屋地判平成16.5.14判タ1211号95頁)。

労働者の行為が刑事犯罪に該当するとの意見・論評

 裁判例には、文書を無断で提出したとの事実を前提として、偽計業務妨害罪、私文書偽造罪・同行使罪になるとの意見論評した行為等が、仕事に対する誠実さ、公平さ又は違法行為といった原告らの社会的信用に関わるもので社会的評価を低下させるものと評価することができるとしたものがあります(東京地判平成21.3.18判時2040号57頁)。

訴訟上で名誉毀損行為が行われる場合

伝播可能性

 訴訟上で相手方からなされた主張立証行為については、これが伝播する可能性があるか問題となります。
 これについては、主張書面が裁判所に提出され、陳述された場合(擬制陳述を含む)には、伝播可能性が肯定される傾向にあります

違法性阻却

 訴訟上の主張立証活動については、「相手方及びその訴訟代理人等の名誉等を損なうようなものがあったとしても、それが直ちに名誉毀損として不法行為を構成するものではなく、訴訟行為と関連し、訴訟行為遂行のために必要であり、主張方法も不当とは認められない場合には、違法性が阻却されると解するのが相当である」とされています(東京高判平16.2.25判時1856号99頁)

<訴訟提起自体が不法行為となる場合>
 訴訟提起自体と個々の主張立証活動の不法行為性については、訴訟法上の性質が異なる行為であるため区別して論じられることが多いです。
 判例は、「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係…が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である」としています(最判昭63.1.26民集42巻1号1頁)。

名誉毀損による慰謝料の相場

 名誉毀損による慰謝料の平均額は、

100万円程度

となっています。
 もっとも、著名人やマスメディアなどにより広く流布された等の事情がない場合には、100万円未満とする裁判例が多数です。
 名誉毀損による慰謝料額算定の考慮要素は以下のとおりです。

1 加害者側の事情
⑴ 加害行為の動機・目的
⑵ 名誉毀損の内容
⑶ 真実性、相当性の程度
⑷ 事実の流布の範囲・情報伝播力
⑸ 流布による利益
⑹ 流布後の態度(反論文の掲載許可、訂正記事・謝罪広告の掲載等)
2 被害者側の事情
⑴ 被害者の社会的地位(年齢、職業、経歴)
⑵ 社会的評価が低下した程度
⑶ 被害者が被った営業活動上・社会生活上の不利益
⑷ 被害者側の過失

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。主な取扱分野は、人事労務、離婚・男女問題、相続、企業法務、紛争解決(訴訟等)、知的財産、刑事問題等。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。
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