労働災害

通勤災害の認定方法

 労働者が通勤途中に負傷した場合に、通勤災害として補償を受けることができるかは、どのように判断されるのでしょうか。
 今回は、通勤災害の認定方法について解説します。

通勤災害とは

 通勤災害とは、「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」をいいます(労働者災害補償保険法(以下、「労災保険法」といいます。)7条1項2号)。
 労災保険法は、業務災害と通勤災害を区別して規定しており、使用者の支配権外の行為ではあるものの、通勤災害の場合にも、業務災害に準じた給付がなされることになっています。

労災保険法7条(保険給付の種類)
1項「この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。」

二「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付」

通勤災害該当性の判断基準

総論

 通勤災害といえるには、「通勤による」負傷、疾病、障害又は死亡である必要があります。
 従って、(ⅰ)「通勤」に該当するか、(ⅱ)通勤「による」といえるかが問題となります。

(ⅰ)「通勤」

⑴ 総論

 通勤」とは、労働者が、①「就業に関し」、②「次に掲げる移動」を、③「合理的な経路及び方法」により行うこと(業務の性質を有するものを除く)をいいます(労災保険法7条2項)。

労災保険法7条(保険給付の種類)
2項「前項第2号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。」

一「住居と就業の場所との間の往復」
二「厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動」
三「第1号に掲げる往復に先行し、又は継続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)」

⑵ ①「就業に関し」

 就業に関し」とは、業務に就くため、または業務を終えたための意味で、移動行為と業務との密接な関連を要求する趣旨です。
 業務終了後、事業場施設内で、囲碁、麻雀、サークル活動、労働組合の会合に出席した後に帰宅するような場合には、社会通念上、就業と帰宅との直接的関連性を失わせると認められるほど長時間となるような場合を除き、就業との関連性が認められます
 直接的関連性を失わせると認められるほど長時間といえるかどうかは、諸事情を考慮して判断するべきものです。もっとも、裁判例には、業務終了後55分間懇親会に参加しその後帰宅した場合に関連性を失わないと判断したものがある一方で、業務終了後5時間30分経過している場合に関連性を失っていると判断したものがあり、参考になります。。

⑶ ②「次に掲げる移動」

ア 列挙されている移動

 労災保険法7条2項は、「次に掲げる移動」として、以下のものを列挙しています。

一「住居と就業の場所との間の往復」(1号)
二「厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動」(2号)
三「第1号に掲げる往復に先行し、又は継続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)」(3号)

(ア)「住居」
 住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところを指します(昭和48年11月22日基発644号、平成18年3月31日基発0331042号)。

●住居に当たる例
例1 家族の住む場所とは別にアパート等を借りている場合
 就業の必要性があって、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くに単身でアパートを借りたり、下宿をしてそこから通勤しているような場合には、そこが住居とされます。
 通常は家族のいる所から出勤するものの、別のアパート等を借りていて、早出や長時間の残業の場合には、当該アパートに泊まり、そこから通勤するような場合には、当該家族の住居とアパートの双方が住居と認められます。
例2 やむを得ず一時的に住居以外の場所に宿泊する場合
 長時間の残業や、早出出勤等の勤務上の事情や、交通ストライキ等交通事情、台風などの自然現象等の不可抗力的な事情により、一時的に通常の住居以外の場所に宿泊するような場合には、やむを得ない事情で就業するために一時的に居住の場所を移していると認められるので、当該場所を住居と認めて差しつかえないとされます。
例3 単身赴任等によりアパートを借りている場合
 転任等のやむを得ない事情のために同居していた配偶者と別居して単身で生活する者や家庭生活の維持という観点から自宅を補人の生活の本拠地とみなし得る合理的な理由のある独身者にとっての家族の住む家屋については、当該家屋と就業の場所との間の往復する行為に反復・継続性が認められるときは住所と認めて差し支えないとされます。
●住居に当たらない例
例 友人宅で麻雀をし、翌朝そこから直接出勤する場合等
 友人宅で麻雀をし、翌朝そこから直接出勤する場合等は、就業の拠点となっているものではないので、住居とは認められません。

(イ)「就業の場所」
 就業の場所」とは、業務を開始し、又は終了する場所をいいます(昭和48年11月22日基発644号、平成18年3月31日基発0331042号)。

例1 得意先や行事の会場
 本来の業務を行う場所のほか、物品を得意先に届けてその届け先から直接帰宅する場合の物品の届け先、全員参加で出勤扱いとなる会社主催の運動会の会場等がこれにあたります。
例2 担当区域内に数か所用務先がある場合
 外勤業に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数か所の用務先を受けもって自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所であり、最後の用務先が、業務終了の場所と認められます。

イ 逸脱・中断

 労働者が上記一乃至三の通勤経路を逸脱し、又は上記一乃至三に掲げられた移動を中断した場合には、当該逸脱又は中断中の間及びその後の移動は、通勤とされません(労災保険法7条3項)。
 逸脱」とは、通勤の途中において、就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれることをいいます(昭和48年11月22日基発644号、平成18年3月31日基発0331042号)。
 中断」とは、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいいます(昭和48年11月22日基発644号、平成18年3月31日基発0331042号)。
 労働者が通勤の途中で行うようなささいな行為を行う場合には、逸脱・中断として取り扱う必要はないとされます。

●逸脱・中断に該当する具体例
例1 通勤の途中で麻雀を行う場合
例2 映画館に入る場合
例3 バー、キャバレー等で飲酒する場合
例4 デートのため、長時間にわたってベンチで話し込んだり、経路からはずれる場合
●逸脱・中断該当しない例
例1 労働者が通勤の途中において、経路の近くにある公衆便所を使用する場合
例2 帰途に経路の近くにある公園で短時間休息する場合
例3 経路上の店でタバコ、雑誌等を購入する場合
例4 駅構内でジュースの立ち飲みをする場合
例5 経路上の店で渇をいやすため極く短時間、お茶、ビール等を飲む場合
例6 経路上で商売している大道の手相見、人相見に立ち寄って極く短時間手相や人相を見てもらう場合

労災保険法7条(保険給付の種類)
3項「労働者が前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第1項第2号の通勤としない。…」

ウ 逸脱・中断の特例

 逸脱又は中断が、ⓐ「日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるもの」をⓑ「やむを得ない事由により行うため」のⓒ「最小限度のものである場合」は、逸脱又は中断の間を除き、通勤に該当します。
 ⓐ「厚生労働省令で定める行為」は以下のとおりとされています(労災保険法施行規則8条)。

一 「日用品の購入その他これに準ずる行為」(1号)
二 「職業訓練、学校教育法第一条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為」(2号)
三 「選挙権の行使その他これに準ずる行為」(3号)
四 「病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為」(4号)
五 「要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)」(5号)

 「日用品の購入その他これに準ずる行為」に該当するのは、例えば、帰途で惣菜等を購入する場合、独身労働者が食堂に食事に立ち寄る場合、ク リーニング店に立ち寄る場合等です(昭和48年11月22日基発644号、平成18年3月31日基発0331042号)。
 ⓑ「やむを得ない事由により行うため」とは、日常生活の必要から通勤の途中で行う必要のあることをいいます(昭和48年11月22日基発644号、平成18年3月31日基発0331042号)。
 ⓒ「最小限度のもの」とは、当該逸脱又は中断の原因となった行為の目的達成のために必要とする最小限度の時間、距離等をいいます(昭和48年11月22日基発644号、平成18年3月31日基発0331042号)。

⑷ 「合理的な通勤経路及び方法」

 合理的な経路及び方法」とは、当該移動の場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等をいいます(昭和48年11月22日基発644号、平成18年3月31日基発0331042号)。

ア 「経路」

●合理的な経路となる例
例1 会社に届け出ている経路
 乗車定期券に表示され、あるいは、会社に届け出ているような、鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等は、合理的な経路となります。
例2 タクシー等を利用する場合
 タクシー等を利用する場合に、通常利用することが考えられる経路が二、三あるような場合には、その経路は、いずれも合理的な経路となります。
例3 交通事情により迂回する場合
 経路の道路工事、デモ行進当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が貸し切りの車庫を経由して通る経路等通勤のためにやむを得ずとることとなる経路は、合理的な経路となります。
例4 子供を託児所等に預けるためにとる経路
 他に子供を監護する者がいない共稼ぎ労働者が託児所、親せき等にあずけるためにとる経路などは、そのような立場にある労働者であれば、当然、就業のために取らざるを得ない経路であるので、合理的な経路となります。
●合理的な経路とならない例
例1 著しく遠回りとなる場合
 特段合理的な理由もなく著しく遠回りとなるような経路をとる場合には、合理的な経路とはいえません。
例2 手段に合わない経路を用いている場合
 経路は手段とあわせて合理的なものであることを要し、鉄道道路、鉄橋、トンネル等を歩行している場合は、合理的な経路とはいえません。

イ 「方法」

●合理的な方法となる例
例 通常認められる交通方法
 鉄道、バス等の公共交通機関を利用し、自動車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法は、当該労働者が平常用いているか否かかにかかわらず一般に合理的な方法と認められます。
●合理的な方法とならない例
例1 免許を一度も取得したことがないものが運転する場合
 免許を一度も取得したことのないようなものが自動車を運転する場合は、合理的な方法とはいえません。
例2 泥酔した者が運転する場合
 自動車、自転車盗を泥酔して運転する場合には、合理的な方法とはいえません。ただし、飲酒運転の場合、単なる免許証不携帯、免許更新忘れによる無免許運転の場合等は。必ずしも合理性を欠くものと取り扱う必要はないとされます。

⑸ 「業務の性質を有する」

 上記の①乃至③を満たす場合であっても、「業務の性質を有する」ものは、通勤災害から除外されます。具体例は、以下のとおりです(昭和48年11月22日基発644号、平成18年3月31日基発0331042号)。

例1 事業主の提供する専用交通機関を利用してする通勤
例2 突発的事故等により緊急用務のため、休日又は休暇中に呼出しを受け予定外に緊急出勤する場合

(ⅱ)通勤「による」(相当因果関係)

 通勤「による」とは、通勤と相当因果関係のあること、つまり、通勤に通常伴う危険が具体化したことをいいます(昭和48年11月22日基発644号、平成18年3月31日基発0331042号)。

●相当因果関係が認められる例
例1 自動車にひかれた場合
例2 電車が急停車したため転倒して受傷した場合
例3 駅の階段から転落した場合
例4 歩行中にビルの建設現場から落下してきた物体により負傷した場合
例5 転倒したタンクローリーから流れ出す有害物質により急性中毒にかかった場合
●相当因果関係が認められない例
例1 自殺の場合
例2 その他被災者の故意によって生じた災害
例3 通勤の途中で怨恨をもってけんかをしかけて負傷した場合

通勤方法を制限した規則等への違反

通勤方法の制限の有効性

 使用者が労働者の通勤方法を制限することは許されるのでしょうか。
 確かに、通勤は、使用者の支配下とはいえず、指揮監督下にない以上は、通勤方法を制限することも許されないともいえそうです。
 しかし、通勤は、労務の提供をするための過程であり労働と無関係ということはできません。また、通勤については、通勤災害の対象とされており、使用者の指揮命令下にある業務災害の場合に準じて考えられています。
 実質的にも、通勤中のトラブル等もありうるため、使用者が労働者の通勤方法を統一的に管理する必要性がないとはいえません。例えば、労働者に通勤方法等を届出させた上で、事前の届出なくしてそれ以外の方法による通勤を制限することなどは、実際によくみられる例でしょう。
 そのため、私見としては、通勤方法の制限をすることに合理性が認められる限りにおいて、就業規則等において、このような規定をおくことも許されるものと考えます。
 もっとも、例えば、使用者が、特に必要性がないのに、通勤方法をタクシーに限定したり、グリーン車に乗車することを禁止したり、著しく遠回りな経路を指定したりすることは、合理性を欠き許されないでしょう。

労災適用

 では、使用者との関係において制限されている通勤方法を用いて、負傷等した場合には、通勤災害に該当するのでしょうか。
 就業規則等による通勤方法の制限はあくまでも使用者との関係における問題です。そのため、就業規則等により通勤方法が制限されている場合においても、労災保険法の「通勤」の範囲が狭くなるとはいえません。従って、私見としては、制限されている通勤方法を用いて負傷等した場合においても、そのことから直ちに、通勤災害に該当しないとはいえないと考えます。
 もっとも、通勤災害に該当するためには、「合理的な通勤経路及び方法」である必要があります。そのため、例えば、使用者が、その通勤方法を高度の危険性ゆえに制限しているような場合には、使用者による制限如何に関わらず、その制限されている通勤方法は「合理的な…方法」とはいえず、通勤災害には該当しないことになるでしょう。

懲戒

 労働者が通勤方法の制限に反し、禁止されている通勤方法を用いた場合や、通勤方法経路の変更の届出を怠っていた場合は、懲戒処分の対象となることはあるのでしょうか。
 これについては、一概には言えず、通勤方法の制限の理由やその通勤方法の危険性の程度、禁止された通勤方法を用いた経緯、使用者に生じた損害の程度、使用者による指導内容や労働者の反省の程度等を総合考慮して判断することになります。

懲戒の種類 -戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇-使用者は、労働者に対して、懲戒処分を行うことがあります。この懲戒処分には、様々な種類がありますが、それぞれどのような意味を持つのでしょうか。戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇などの懲戒の種類について、それぞれの意味を説明します。...

給付の種類

 通勤災害の給付の種類は、以下のとおりです(労災保険法21条)。

①療養給付
②休業給付
③障害給付
④遺族給付
⑤葬祭給付
⑥傷病年金
⑦介護給付

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弁護士 籾山善臣
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