労働災害

安全配慮義務違反と損害賠償請求

 労働者が業務に起因して負傷、疾病、障害、死亡した場合には、安全配慮義務違反を理由として、使用者に対して損害賠償請求をしていくことが考えられます。この場合、使用者に対して、どのような損害を請求していくことができるのでしょうか。
 今回は、安全配慮義務違反と損害賠償請求について解説します。

総論

 安全配慮義務違反によって人身損害が発生した場合における損害の範囲、算定方法については、実務上、交通事故の場合の基準と同様に解するのが相当であるとされています。

安全配慮義務の内容労働者が業務に起因して負傷、疾病、障害、死亡した場合には、安全配慮義務違反を理由として、使用者に対して損害賠償請求をしていくことが考えられます。では、安全配慮義務とは何でしょうか。今回は、安全配慮義務について解説していきます。...

治療費・薬品費

治療費

 治療費は、労働者が業務に起因して生じた負傷、疾病の具体的な内容・程度に照らし、症状が固定するまでに行われた必要かつ相当な治療行為の費用であれば、相当因果関係のある損害として、賠償が認められます。
 必要かつ相当な治療行為とは、医学的見地からみて当該負傷、疾病の治療として必要性及び合理性・相当性の認められる治療行為であり、かつ、その報酬額も社会一般の水準と比較して妥当なものをいいます。
 証拠としては、診断書、診療報酬明細書、治療費の請求書、領収証があります。

薬品費

 薬品費についても、必要かつ相当といえれば、賠償が認められます。
 医師の指示がある場合には、その必要性・相当性について説明をしやすいですが、医師の指示がない場合には必要性・相当性に関して具体的な主張立証が必要となります。

通院交通費

 労働者が通院のために現実に支出した交通費は、原則として、全額損害と認められます
 もっとも、タクシーを用いる場合には、その必要性・相当性が認められることを要し、必要性・相当性が認められない場合には、公共交通機関の運賃・利用料の範囲内で交通費が認められることになります。
 自家用車を利用した場合には、往復のガソリン代、高速道路料金及び駐車場料金等が交通費として認められることになります。ガソリン代については、1kmあたり15円で計算することになります。

休業損害

 休業損害は、以下の計算式により求められます。

基礎収入の日額×症状固定日までの休業日数-休業中に賃金等の一部が支払われた場合における支払分

 通常、基礎収入は、疾病や障害の発生時点以前3か月乃至6か月の賃金額の平均により算定することが多いです。
 もっとも、賃金につき、疾病や障害がなかったとしても、継続的に受給できたとはいえない部分については、基礎収入には含めません。
 特に、長時間労働が原因で精神疾患等を発症した場合に、未払割増賃金を基礎収入に含めるどうかは、損害金額を大きく左右するため深刻な争点となります。
 これについて、裁判例には、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(平成13年12月12日付け基発第1063号)を参考にして、1か月当たりおおむね45時間分の割増賃金を基礎収入に加えると判示したものがあります。
 また、平均残業時間を考慮し、基礎収入算定の際に、基本給に3割を加算すると判示したものもあります。

福岡地判平30.2.14労判ジャーナル78号46頁[ハヤト運輸事件]

 「原告は,本件疾病発症前6か月間に,…時間外労働に従事しており,本来であれば,被告に対し,それに対応する割増賃金の請求をすることができたものである。また,本件疾病発症前の原告の稼働状況に照らすと,原告は将来的にも時間外労働を継続した蓋然性が高いといえる。したがって,損害算定の基礎となる原告の収入の額には,原告が実際に支給されていた賃金の額に加え,一定の時間外労働に対する割増賃金の額をも含めるのが相当である
 「もっとも,長時間労働が本件疾病の発症の一因となったことに鑑みると,原告が就労可能年数にわたって(67歳まで)本件疾病の発症前と同程度の深夜に及ぶ時間外労働を継続することができたとはいい難い。そして,甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば,厚生労働省が示した脳・心臓疾患の業務起因性の判断基準である「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(平成13年12月12日付け基発第1063号)では,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合には業務と発症との関連性が弱いとされていることが認められ,このことに照らすと,原告が67歳まで継続した蓋然性が高いといえる時間外労働の時間数は,1か月当たり45時間(深夜にわたらない範囲。以下同様。)と考えるのが合理的である。したがって,原告の損害の算定に当たっては,1か月あたり45時間分の割増賃金を基礎賃金に含めるのが相当である。」
※福岡地判平30.11.30労判1196号5頁[フルカワ事件]でも全く同様の判断がされており、同控訴審(福岡高判令元.7.18)も原審判断を是認しています。
「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(平成13年12月12日付け基発第1063号)

東京高判平25.11.27労判1091号42頁横河電機(SE・うつ病罹患)事件】

 「控訴人が過重な心理的負荷の掛かる業務に従事せず,鬱病を発症しなければ得られたであろう収入額は,想定される基本給に,想定される残業代として,平成17年1月から8月まで(同年9月以降については,時間外労働時間の記録が正確でなかったり,控訴人にとって過度の負荷となる時間外労働が行われたことから,これを考慮しない。)の平均残業時間を考慮し,3割を加算して,さらに想定される賞与(1か月当たりで計算する。)を加えた額から,上記期間中に控訴人が実際に受領した給与,賞与(1か月当たりで計算する。)及び傷病手当金の額を控除して,算出するのが相当である。」
 「…想定される基本給は,平成18年1月から3月まで月額28万円,同年4月から5月まで月額28万6000円,同年6月から平成19年3月まで月額29万円,同年4月から10月まで月額29万1050円であり,想定される賞与は,平成18年7月支給の90万8600円,同年12月支給の86万5940円,平成19年7月支給の93万0549円,同年12月支給の70万0646円であること,控訴人が実際に受領した給与は,平成18年1月から10月までに220万7737円(基本給に残業代を加え,欠勤等による減額分を控除した額),賞与は,平成18年7月支給の90万8600円,同年12月支給の30万0300円,平成19年7月支給の49万2553円,同年12月支給の30万1403円,傷病手当金は,平成18年6月24日から同年10月31日を支給期間とする56万2511円,同年11月1日から平成19年10月31日を支給期間とする合計310万2500円であることが認められる。」
 「そうすると,被控訴人会社の安全配慮義務違反と相当因果関係のある逸失利益は,以下の〔1〕及び〔2〕の合計256万9731円となる。」
 「〔1〕平成18年1月から10月まで 142万1718円
(280,000×3+286,000×2+290,000×5)×1.3+(908,600+865,940×5/6)-2,207,737-(908,600+300,300×5/6)-562,511=1,421,718」
「〔2〕平成18年11月から平成19年10月まで 114万8013円
{(290,000×5+291,050×7)×1.3+(865,940×1/6+930,549+700,646×5/6)-(300,300×1/6+492,553+301,403×5/6)-3,102,500}×0.5=1,148,013」

入院雑費

 労働者は、入院した場合、雑貨費や通信費、文化費などの支出を余儀なくされますが、これらの費用については、一般的に「1日1500円」として計算されます。

付添費

入院付添費

 医師の指示または受傷の程度、被害者の年齢等により必要があれば職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき6500円が被害者本人の損害として認められます。ただし、症状の程度により、また、被害者が幼児、児童である場合には、1割~3割の範囲で増額を考慮することがあります。

通院付添費

 症状又は幼児等が必要と認められる場合には1日につき3300円が被害者本人の損害として認められます。ただし、事情に応じて増額を考慮することがあります。

慰謝料

入通院慰謝料

 原則として、東京三弁護士会交通事故処理委員会編『民事交通事故訴訟損害額算定基準』(以下、「赤い本」といいます。)の別表Ⅰによることになります。
 もっとも、他覚症状のないむち打ち症及びこれに準ずる場合には、別表Ⅱによることになります。場合によっては、通院期間につき、その期間を限度として、実日数の3倍程度を目安とすることがあります。

後遺症慰謝料

 基本的には、赤い本の後遺障害慰謝料の基準に準拠することになります。具体的には、以下のとおりです。

死亡した場合の慰謝料

 基本的には、赤い本の後遺障害慰謝料の基準に準拠することになります。具体的には、以下のとおりです。下記金額は、加害者が賠償すべき慰謝料の総額であり、相続人に相続された亡くなった被害者本人の慰謝料のみならず、近親者固有の慰謝料も含まれています。

逸失利益

死亡事案

 死亡事案では、被害者が死亡しなければその後の就労可能な期間において得ることができたと認められる収入が減少することになり、逸失利益の問題が生じます。一般的には、逸失利益は、以下のように算定します。

基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能期間の年数に対応する中間利息の控除に関するライプニッツ係数

生活費控除率

 実務上は、次のような分類に従い、収入の30%ないし50%を生活費控除率としています。

【一家の支柱(その収入を主として世帯の生計を維持していた者)】
被扶養者1人 40%
被扶養者2人以上 30%
【一家の支柱以外の場合】
女性 30%
男性 50%

ライプニッツ係数

 ライプニッツ係数は、以下のリンクとおりです。
就労可能年数とライプニッツ係数

後遺障害事案

 後遺障害事案では、被害者の身体に後遺障害が残り、労働能力が減少するために、将来発生するものと認められる収入が減少することになり、逸失利益の問題が生じます。一般的には、逸失利益は、以下のように算定します。

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間の年数に対応する中間利息に関するライプニッツ係数

労働能力喪失率

 労働能力喪失率は、労働省労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)別表労働能力喪失率表を参考とし、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼働状況等総合的に考慮して評価することになります。
 労働能力喪失率は、以下のとおりとされています。

労働能力喪失期間

 労働能力喪失期間は、原則として、症状の固定した時から就労可能な終時とされる67歳までとなります。ただし、むち打ち症の場合には、14級9号に該当するものであれば5年、12級13号に相当するものであれば10年とされることが多いです。

弁護士費用

 訴訟実務上、認容額(元本)の1割程度を目安にして、弁護士費用が損害として認められます。

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。主な取扱分野は、人事労務、離婚・男女問題、相続、企業法務、紛争解決(訴訟等)、知的財産、刑事問題等。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。
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