定年の時期が近づいてきて、今後のライフプランについて、しっかり考えたいと悩んでいませんか?
定年退職してのんびりしたいという気持ちがある方も多いでしょうが、その反面、老後の生活を維持していけるか不安ですよね。
日本の法律では、2021年現在、60歳未満の定年制は禁止されているため、多くの会社が定年の年齢を60歳としています。
そして、日本の法律では、65歳までの雇用確保の措置を採ることが義務とされているため、多くの会社は労働者が希望した場合には、定年後も再雇用する制度を設けています。
そのため、60歳の定年を迎える方は、60歳で定年退職するか、再雇用を希望するかという選択をすることになります。
選択をするに当たっては、以下の3つの視点が重要となります。
視点1:必要な貯金額の比較
視点2:厚生年金の比較
視点3:失業保険の比較
ただし、稀に「60歳定年後の再雇用制度を設けていない会社」や「60歳定年後の再雇用を拒否する会社」があります。
このようなケースでは、定年を迎える労働者の方のライフプランに大きな悪影響が出てしまうことになります。
最近、私自身このような「定年後の再雇用」の相談を受けるケースが増えてきていますので、どのように対処していけばいいのかについて、多くの方に知ってもらえればと思います。
今回は、60歳未満定年の違法性や65歳までの再雇用等の義務及びこの義務を怠っている会社への対処法を簡単に説明していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、60歳を迎えた後のライフプランを考える手助けになるはずです。
目次
60歳未満の定年制は法律上違法
60歳未満の定年制は、原則として、違法とされています。
平成6年(1994年)に高年齢者等の雇用の安定等に関する法律が改正されたためです。
そして、60歳未満の定年制の禁止は、強行法規であり、これに反する定年制度は民事上も無効になると考えられています。
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第8条(定年を定める場合の年齢)
「事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。…」
例えば、定年の年齢を55歳とすることは、原則として違法であり、このような定年制度は無効となります。
ただし、例外的に、高齢者が従事することが困難であると認められる業務に従事している労働者については、60歳未満の定年制も適法とされています。
具体的には、60歳未満の定年制が適法とされているのは、「鉱物の試掘、採掘及びこれに附属する選鉱、製錬その他の事業における坑内作業の業務」です。
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第8条(定年を定める場合の年齢)
「…ただし、当該事業主が雇用する労働者のうち、高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として厚生労働省令で定める業務に従事している労働者については、この限りでない。」
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則4条の2(法第八条の業務)
「法第八条の厚生労働省令で定める業務は、鉱業法(昭和二十五年法律第二百八十九号)第四条に規定する事業における坑内作業の業務とする。」
鉱業法4条(鉱業)
「この法律において『鉱業』とは、鉱物の試掘、採掘及びこれに附属する選鉱、製錬その他の事業をいう。」
高齢者の雇用確保に関する制度については、以下のような制定経緯があります。
これらの経緯からは、定年自体の年齢についても、いつか65歳に引き上げられる日が来るかもしれません。
しかし、令和2年時点において、定年を65歳と定めている企業は18.4%しかないとされています(出典:厚生労働省 令和2年「高年齢者の雇用状況」集計結果を公表します)。
そのため、65歳未満定年制自体が違法になるには、もう少し期間を要するものと考えられます。
稀に、令和7年4月から定年が65歳になるとの説明を目にすることがありますが、これは「令和7年4月からは65歳未満の定年制が違法になる」との意味ではなく、「令和7年4月からは希望者全員を65歳まで継続雇用しなければならない」との意味になります。
65歳までの再雇用等の雇用確保の義務
65歳未満の定年制を設けている会社は、65歳までの安定した雇用を確保するため、以下のいずれかの措置を講じることが義務付けられています。
措置1:当該定年の引き上げ
措置2:継続雇用制度の導入
措置3:当該定年の定めの廃止
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条(高年齢者雇用確保措置)
1「定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。」
一「当該定年の引上げ」
二「継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入」
三「当該定年の定めの廃止」
そして、多くの企業(76.4%)が選択しているのは措置2の継続雇用制度となります(出典:厚生労働省 令和2年「高年齢者の雇用状況」集計結果を公表します)。継続雇用には、大きく分けて、「勤務延長型」と「再雇用型」がありますが、再雇用型が採用されていることが多いと感じます。
そして、会社は、原則として、60歳以降も引き続き雇用を希望する労働者全員を継続雇用しなければなりません。
ただし、例外的に、解雇事由や退職事由(年齢以外)に該当する労働者については、継続雇用を拒否することが許されています。
このように日本における多くの会社では、定年自体は60歳とされていますが、その後も希望すれば65歳までは継続的に雇用してもらうことができる制度になっています。
「60歳未満の定年制」や「65歳までの再雇用等の義務違反」への対処法
しかし、会社によっては、未だに「60歳未満の定年制」を設けているケースや「65歳までの再雇用等の義務違反」をするケースがあります。
このようなケースでは、何も行動しないでいると、会社側の思うつぼになってしまうだけであり、あなたの権利を認めてもらうことは出来ません。
以下では、あなたの会社で「60歳未満の定年制」がとられている場合や「65歳までの再雇用等の義務違反」がある場合にどのように対処していけばいいのかを説明していきます。
60歳未満の定年制への対処法
あなたの会社で60歳未満の定年制がとられている場合には、定年後も引き続きあなたが労働者であることを主張して、その年齢に達した後の賃金も支払うように請求していくことになります。
60歳未満の定年制は無効となりますので、定年後にあなたが業務をできない原因は会社側にあることになります。
そのため、会社は、あなたが業務を行っていない場合でも、その期間の賃金を支払う必要があります。
ただし、賃金請求をする前提としてあなたに就労の意思があることが必要となりますので、早めに働く意思があることを示して業務指示を求めることが大切です。
65歳までの再雇用等の義務違反への対処法
あなたの会社が65歳までの再雇用等の義務に違反している場合には、ケースごとに対処法が異なってきます。
再雇用拒否が違法となるケースとしては以下の3つがあります。
ケース1:再雇用制度が存在しないケース
ケース2:再雇用制度の内容が不当なケース
ケース3:再雇用制度の基準を満たしているケース
ケース1及びケース2の場合には慰謝料の請求、ケース3の場合には定年後も引き続き労働者であることを主張して賃金の請求をしていくことになります。
65歳までの再雇用等の義務違反における判例の慰謝料ないしは賃金の認容金額については高額になる傾向にあり、和解の場合に解決金が賃金の1年分となることもあります。
65歳までの再雇用等の義務違反については、以下の記事で詳しく解説しています。
どっちを選ぶべき?「60歳で定年退職」と「65歳までの継続雇用」
最後に、60歳を迎えるに当たって、「60歳で定年退職」と「65歳までの継続雇用」のどちらを選択するべきでしょうか。
以下の3つの視点から、それぞれを比較していきましょう。
視点1:必要な貯金額の比較
視点2:厚生年金の比較
視点3:失業保険の比較
それでは各視点について順番に比較していきます。
視点1:必要な貯金額の比較
「65歳までの継続雇用」に比べて、「60歳で定年退職」した場合の方が、必要な貯金額は多くなります。コロナ禍の影響の少ない2019年度の資料で説明していきます。
(出典:家計調査年報(家計収支編)2019年(令和元年) 家計の概要)
まず、高齢夫婦無職世帯の家計収支は、1か月あたり3万3269円の赤字となっています。
例えば、65歳までの継続雇用の後に20年間の生活することを想定すると、
の貯金が必要となります。
これに対して、60歳で退職をした場合に、例えば、年金の受給年齢に達するまでの1か月27万0929円の赤字となる期間が5年、年金の受給年齢に達した後の1か月3万3269円の赤字となる期間が20年と想定すると、
=2424万0300円
の貯金が必要となります。
なお、60歳から前倒して年金を受給した場合には、年金の受給金額は30%減少します(1か月あたり0.5%減少×60か月)ので、1か月あたりの赤字額は9万8343円となります。そのため、60歳から25年間生活することを想定すると、
の貯金が必要となります。
(出典:家計調査年報(家計収支編)2019年(令和元年) 家計の概要)
次に、高齢単身無職世帯の家計収支は、1か月あたり2万7090円の赤字となっています。
例えば、65歳までの継続雇用の後に20年間の生活することを想定すると、
の貯金が必要となります。
これに対して、60歳で退職をした場合に、例えば、年金の受給年齢に達するまでの1か月15万1800円の赤字となる期間が5年、年金の受給年齢に達した後の1か月2万7090円の赤字となる期間が20年と想定すると、
=1560万9600円
の貯金が必要となります。
なお、60歳から前倒して年金を受給した場合には、年金の受給金額は30%減少します(1か月あたり0.5%減少×60か月)ので、1か月あたりの赤字額は6万1757円となります。そのため、60歳から25年間生活することを想定すると、
の貯金が必要となります。
このように「60歳で定年退職」と「65歳までの継続雇用」とでは、必要な貯金額の間に、夫婦の場合には1625万5740円、単身者の場合には910万8000円の差異があることになります。
視点2:厚生年金の比較
「60歳で定年退職」した場合に比べて、「65歳までの継続雇用」の場合の方が、1年間当たりに受給できる厚生年金の金額が大きくなります。
具体的な、金額の差異は以下のとおりです。
平均標準報酬額が20万円~50万円の方を想定すると、「60歳で定年退職」するよりも、「65歳までの継続雇用」を選んだ方が、1年間当たりに受給することができる金額が16万6908円~27万0750円程度増加することになります。
年金を65歳から20年間受給することを想定すると、その差は333万8160円~541万5000円程度となります。
視点3:失業保険の比較
「65歳までの継続雇用」に比べて、「60歳で定年退職」した場合の方が、失業保険の所定給付日数は長くなります。
60歳で定年退職する場合には、受給できる失業保険は「基本手当」となり、所定給付日数は、被保険者期間が10年未満の場合には90日、10年以上20年未満の場合には120日、20年以上の場合には150日となります。
65歳までの継続雇用の場合には、受給できる失業保険は「高年齢求職者給付金」となり、所定給付日数は、50日となります。
このように受給できる失業保険の所定給付日数に40日~100日の差異があることになります。
まとめ
これらの比較から分かるとおり、60歳で定年退職した場合には、今後の生活を維持するために大きな経済的負担がかかることになります。
上記の試算を踏まえて、貯金が十分でない場合には、会社に対して、65歳までの継続雇用を希望していくことを検討しましょう。
定年後も働きたい場合にはリバティ・ベル法律事務所へ相談
定年後も働きたいのに会社から拒否されているという方は、是非、リバティ・ベル法律事務所にご相談ください。
65歳まで働けない場合の慰謝料や賃金請求については、法的な事項ですので弁護士のサポートを受けるのが安心です。
ただし、65歳までの雇用確保については、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」や「再雇用拒否の判例の傾向」を熟知している必要があり、専門性の高い分野になります。
そのため、定年後の再雇用拒否に注力している弁護士を探すことがおすすめです!
リバティ・ベル法律事務所では、解雇問題に注力していることに加えて、更に定年後の再雇用拒否の問題についても圧倒的な知識とノウハウを有しております。
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まとめ
以上のとおり、今回は、60歳未満定年の違法性や65歳までの再雇用等の義務及びこの義務を怠っている会社への対処法を簡単に説明しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・60歳未満の定年制は、原則として、違法とされています。
・65歳未満の定年制を設けている会社は、65歳までの安定した雇用を確保するため、以下のいずれかの措置を講じることが義務付けられています。
措置1:当該定年の引き上げ
措置2:継続雇用制度の導入
措置3:当該定年の定めの廃止
・会社が「60歳未満の定年制」を設けているケースや「65歳までの再雇用等の義務違反」をしているケースでは、慰謝料請求や地位確認、賃金請求をしていくことにより対処しましょう。
・「60歳で定年退職」と「65歳までの継続雇用」について、3つ視点から比較すると以下のとおりです。
この記事が65歳まで働き続けたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
保険や年金の知識を整理したサイトとして「ほけん知恵袋」というサイトが参考になりおすすめです。是非、見てみてください。