使用者は、労働者が就労時間中に携帯端末を使用することを禁止することはできるのでしょうか。
労働者が使用者から携帯端末の使用を控えるように指導された場合に、これに反して、使用を続けると懲戒処分をされる場合があります。このような懲戒処分は有効といえるのでしょうか。
今回は、職務専念義務違反と懲戒について解説します。
職務専念義務とは
職務専念義務とは、労働時間中は職務に専念し他の私的活動を差し控える義務をいいます。
労働者は、労働契約の基本的な義務として、使用者の指揮命令に服しつつ職務を誠実に遂行すべき義務を有しているため、このような職務専念義務を負うものとされています。
このような職務専念義務については、例えば、就業規則において、「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない」などと規定されている場合があります。
もっとも、このような就業規則の規定がなくとも、労働者は労働契約上の義務として職務専念義務を負うことになります。
職務専念義務の程度
包括的専念義務説と具体的専念義務説
職務専念義務が要求する注意義務の程度については、包括的専念義務説と具体的専念義務説があり、基本的には、最高裁は包括的専念義務説に立っています。
【包括専念義務説】
包括専念義務説は、要求される注意力の程度について、職員は勤務時間および職務上の注意力のすべてを職務の遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないとしていています。
【具体的専念義務説】
具体的専念義務説は、要求される注意力の程度について、誠実労働義務の一内容として具体的な労働を誠実に遂行するに必要な限りのものにとどまり、勤務時間中であっても同義務と支障なく両立し、したがって同義務に反しないとされる動作・活動はありうるとします。
携帯端末の使用と職務専念義務違反
労働者が、就労時間中に私物である携帯端末を操作する場合には、包括的専念義務説からは、勤務時間および職務上の注意力のすべてを職務の遂行のために用い職務にのみ従事しているとはいえず、職務専念義務に違反することになると考えられます。
これに対して、具体的専念義務説からは、当該労働者の業務の性質について例えば顧客から見えるような場所で携帯電話を操作していたのかどうかや、行動の態様についてどの程度の時間どのような操作を行っていたのかなどから、使用者の業務に具体的な支障が生じているのかを検討することになります。
職務専念義務違反と懲戒
仮に、労働者が携帯端末を使用する行為が職務専念義務に違反することになったとしても、当然に懲戒処分が許されるわけではありません。
裁判例には、リボンの着用に関する事案ですが、違法性を肯定しながらも、その違法性の程度が低いとして懲戒解雇を無効とするものなどがあります(宮崎地延岡支判平元.11.27労判559号81頁[延岡学園事件])。
懲戒は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当」といえない場合には、濫用として無効になります(労働契約法15条)。相当性の観点からは、使用者は、労働者が就業時間中に私物である携帯電話を操作することについて、注意してもやめないような場合には、譴責(始末書を提出させて将来を戒める)などの処分を行うことが考えられます。懲戒解雇などの過度な懲戒処分を行うことは、通常、許されないでしょう。