使用者が労働者に対して賃金を支払うに当たり、労働組合費相当額を控除した上で、支給する場合があります。
確かに、このよう制度は、労働者が賃金を受領し、これを労働組合に支払うという手間を省くことができるという意味において、労働者にもメリットがあります。しかし、労働者が労働組合を脱退したにもかかわらず、労働組合がこれを使用者に通告しないため、給料からの天引きが継続される事案もあります。
今回は、チェック・オフ制度について解説します。
チェック・オフとは
チェック・オフとは、労働組合と使用者間の協定に基づき使用者が組合員である労働者の賃金から組合費を控除して、それらを一括して組合に引き渡すことをいいます。
労働組合の財政基盤を支えるインフラであり、労働組合に対する使用者の便宜供与として実施されています。
平成23年労働協約等実態調査の概況によると、チェック・オフに関して、「何らかの規定あり」と回答した労働組合が「88.5%」、「労働協約あり」と回答した労働組合が「74.1%」となっています。
(出典:平成23年労働協約等実態調査の概況)
チェック・オフの可否
チェック・オフが許されるかは、「賃金全額払いの原則」と「使用者がチェック・オフを行う権限」が問題となります。
賃金全額払いの原則との関係
賃金全額払いの原則とは、賃金はその全額を支払わなければならないとする原則です(労働基準法24条1項本文)。
そのため、賃金からの控除は、原則として禁止されます。例外的に、「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合」には、賃金の控除も賃金全額払いの原則に反しないとされます(労働基準法24条1項但書)。
従って、チェック・オフについても、使用者と過半数組合又は過半数代表者との間の書面による協定がなければ、実施できないとされています。
使用者がチェック・オフを行う権限
チェック・オフは、以下の三者間の法律関係により成り立っています。
⑴ 労働組合・組合員間での組合費納入に関する合意
⑵ 労働組合・使用者間での組合費取立ての委任
⑶ 組合員・使用者間での組合費弁済の委任
⑴については、組合規約により根拠づけられています。⑵については、チェック・オフ協定により根拠づけられています。
これに対して、⑶の組合費弁済の委任が根拠づけられるためには、個々の組合員からの委任が必要であり、個々の組員がチェック・オフの中止を申し入れた場合には使用者はこれを中止しなければならないとされています。
個々の組合員からの委任がない場合や、個々の組員からチェック・オフ中止の申し入れがあった場合に、チェック・オフを行うことは許されません。
チェック・オフ継続の支配介入の救済方法
組合員が従前加入していた労働組合を脱退し他の労働組合に加入した場合において、組合員がチェック・オフを中止するように申し入れた場合、使用者はこれを中止する必要があります。仮に、使用者が当該組合員からの中止の申し入れに従わず、賃金から組合費相当額を控除し続け、これを脱退前の組合に交付し続けた場合には、当該組合員が新たに加入した労働組合への支配介入に当たります。
労働委員会は、このような支配介入について、救済命令を行うことができます。もっとも、労働委員会が行う救済命令についても、裁量権の限界があるとされています。例えば、労働委員会は、脱退前の組合に交付され続けていた賃金の一部を当該組合員に支払わせるのではなく、当該組合員が新たに加入した労働組合に支払うように命じることは、裁量権の限界を超え許されないとされています(最判平7.2.23民集49巻2号281頁[ネスレ日本(東京・島田)事件])。
チェック・オフと相殺
使用者は、チェック・オフ協定により労働組合に交付すべき組合費を、当該労働組合に対して有している債権と相殺できるのかが問題になります。
これについて、裁判例は、チェック・オフにより交付すべき組合費は、現実に引き渡されることを要するので、チェック・オフ協定には相殺を認めない旨の意思表示も含まれるとして、相殺を認めていません(東京高判昭52.10.27判時873号103頁[ゼネラル石油精製事件])。