残業代請求の裁判をしたいものの、流れや期間、費用のイメージができないと悩んでいませんか?
「裁判」と聞くこと、難しそうと感じる方も多いですよね。
残業代請求の裁判(訴訟)は、通常、以下のように進んでいきます。

そして、残業代請求の裁判をするには費用がかかりますので、事前にあなたの請求できる残業代金額の見通しを立てたうえで、費用倒れにならないかを確認しておくことが重要です。
また、会社から残業代を回収する方法は、裁判だけではありません。交渉や労働審判などにより、少ない労力や費用で残業代を回収できることがあります。そのため、裁判は、通常、最終手段として行われます。
このように残業代請求の裁判がどのようなものかを理解することは、あなたが残業代を請求するうえで非常に大切なことなのです。
更に、いざ裁判をすることになった場合でも、訴訟の提起の仕方がわからないと、裁判を始めることはできません。
今回は、残業代請求の裁判の流れ・期間・費用や訴訟提起の仕方について、解説していきます。
誰でもわかりやすいように、図や表を用いながら説明していきますので、是非、最後まで読んでみてください。
具体的には以下の流れで説明していきます。

この記事を読めば、残業代請求の裁判について具体的にイメージできるようになるはずです。



目次
残業代請求の裁判とは
残業代請求の裁判とは、あなたの残業代が十分に支払われていないと感じた場合に、裁判所に残業代の支払いについての判決を求めていくものです。
裁判を受けることは憲法上の権利ですので、残業代請求についても、裁判所に判断してもらうことができます。
例えば、あなたが残業代の支払いを求めたとしても、多くのブラック企業は何かと理由をつけて簡単には応じてくれません。
そのような場合には、裁判所にあなたの主張と会社の主張のいずれが正しいのかを判断してもらうのです。
裁判所の判決をもらうことで、会社の財産を差し押さえるなどの方法で、強制的に残業代を回収することができます。
残業代請求の裁判の流れ・期間
残業代の裁判は、通常以下の流れで進んでいきます。
①訴訟提起
②口頭弁論・弁論準備
③証人尋問
④判決
⑤確定・控訴
訴訟提起から判決までの期間は、おおよそ8か月~1年6か月程度です。ただし、労働審判を経ている場合には、既に双方の主張が整理されていますので、判決までの期間も短くなる傾向にあります。
判決後、控訴することができる期間は判決書の送達の日から2週間です。
訴訟提起
残業代請求の裁判をするには、最初に訴訟提起をする必要があります。
訴訟提起とは、裁判所に訴訟を申し立てることです。
訴訟提起をした後、裁判所が訴状に誤りがないかなどをチェックします。
特に問題がなければ、第1回目の期日が1~2か月後に行われることになります。
補正が必要な場合やほかの裁判所へ移送される場合には、第1回期日まで3か月程度かかることもあります。
口頭弁論・弁論準備
訴訟が始まると、口頭弁論・弁論準備が行われることになります。
口頭弁論とは、公開の法廷で、当事者が準備書面に基づいて主張を述べて、それを裏付ける証拠などを取り調べる期日です。
弁論準備とは、非公開の手続きで、主張や証拠の整理をする手続きです。
口頭弁論と弁論準備で行うこと自体は大きく異なりません。弁論準備は、個室で行われるため、口頭弁論よりも柔軟な話し合いが可能となります。2、3回程度、口頭弁論が行われた後に、弁論準備期日が設定される傾向にあります。
期日ごとの間隔は、通常1か月~2か月程度です。期日の間に、原告と被告のいずれかが交互に準備書面を作成するような流れで進んでいくことが多いです。
証人尋問
主張が十分に行われた場合には、争点を整理して証人尋問を行うことになります。
証人尋問とは、争点について、証人に質問することで証拠とする手続きです。
原告と被告の双方が交互に質問して、最後に裁判所から補充の質問が行われることが通常です。
判決
主張と証拠が出尽くして、証人尋問も行われたら、弁論は終結されます。
弁論が集結して、1か月~3か月後に、判決がなされることになります。
判決とは、あなたが請求している未払い残業代の請求権について、裁判所が判断を下すものです。
判決は、公開の法廷で言い渡されますが、民事裁判では判決を聞くために法廷に行くことは少なく、判決後に電話で裁判所に判決内容を聞き、後日判決書で詳細を確認することが一般的です。
確定・控訴
判決がされた場合には、判決書の送達を受けた日から2週間以内に、控訴することができます。
控訴とは、第1審の判決に不服がある場合にする上級審に審理してもらうための申し立てです。
当事者双方から期間内に控訴がされなかった場合には、判決は確定します。

残業代請求の裁判をする方法|訴訟提起のやり方
残業代請求の裁判をするには、先ほど説明したように、訴訟提起をする必要があります。
ただ、そうは言っても、どのように訴訟提起をすればいいのか分からないという方も多いですよね。
以下では、
・どのように訴状を書けばいいのかという記載方法の問題
・どこに訴訟を提起すればいいのかという管轄の問題
・どのように訴状を提出すればいいのかという提出方法の問題
について説明していきます。
訴状の記載方法[書式・ひな形付き]
訴状を記載するには、以下の事項を必ず記載しなければならないとされています。
①当事者及び法定代理人
②請求の趣旨及び原因
残業代請求の訴状については、以下のような形式のものが一般的です。
※訴状のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
管轄
未払い残業代の請求は、通常、会社の所在地を管轄する地方裁判所に提起します。
ただし、請求金額が140万円以下の場合には、地方裁判ではなく簡易裁判所に提起することになります。
裁判所の管轄については、以下のページで確認できます。
提出方法
残業代請求の訴訟を提起するには、訴状に収入印紙を貼り、予納郵便切手と添付資料とともに裁判所に提出します。
収入印紙と予納郵便切手の金額については、わからない場合には、事前に裁判所に電話で確認しておくといいでしょう。
添付資料は、未払い残業代請求の場合には、通常、以下の通りです。
①訴状副本 1通
②甲号証(写し) 各2通
③証拠説明書 2通
④資格証明書 1通
資格証明書は、会社の法人名や本店所在地及び代表者名がわかるものを提出します。法務局で、会社の履歴事項全部証明書を取得して提出するケースが多いです。
残業代請求の裁判の費用
残業代請求の裁判をするには、費用がかかります。
残業代請求の裁判をするのに必要な費用がどのくらいかを知らないと費用倒れになってしまうケースもあるので注意が必要です。
具体的には、残業代請求の裁判をするには、以下のような費用がかかります。
・印紙代
・予納郵券代
・書面の印刷代・郵送費
・裁判所への交通費
・弁護士費用

それでは、それぞれの費用について確認していきましょう。
印紙代
残業代請求の裁判をするには、裁判所に収入印紙を納める必要があります。
裁判所に納める収入印紙の金額は、あなたが請求する残業代の金額により異なります。
請求する金額が大きくなれば、それに従い納める印紙代の金額も高くなります。
あなたの請求金額が1000万円までの場合の印紙代の金額をまとめると以下の通りとなります。
未払い残業代の金額は人により異なりますので相場を出すのは難しいですが、1000万円までの請求であれば印紙代の金額は1000円~5万円程度となります。
予納郵券代
残業代請求の裁判をするには、裁判所に郵便切手を予納する必要があります。
横浜地方裁判所では、通常訴訟の場合6000円とされています。
具体的には、以下のとおりとされています。
合計6000円
内訳
500円 8枚
100円 10枚
84円 5枚
50円 4枚
20円 10枚
10円 10枚
5円 10枚
2円 10枚
1円 10枚
備考 当事者1名増すごとに1089円2組(計2178円)追加
※詳しくは以下のサイトを参考にしてください。
裁判所:郵便料の納付について
書面の印刷代・郵送費
残業代請求の裁判をするには、書面の印刷代や郵送費がかかります。
裁判をすると、あなたが主張をする際や証拠を提出する際に、裁判所や被告に書面を送付する必要があるためです。
印刷費や郵送費については、あなたがどの程度の主張をするか、どの程度の証拠を提出するかにより異なってきます。
例えば、大量の証拠を提出するような場合には、印刷第や郵送費についても高くなります。
裁判所への交通費
残業代請求の裁判をするには、裁判所への交通費がかかります。
遠方の裁判所の場合には、交通費が高くなります。
ただし、電話会議やWEB会議の期日であれば、裁判所まで行く必要はないので交通費はかかりません。
弁護士費用
残業代請求の裁判を弁護士に依頼する場合には、弁護士費用がかかります。
弁護士費用には、主に「着手金」と「報酬金」の2種類があります。
着手金とは、事件を依頼する際に、弁護士が事件に着手する費用として必要なもので、残業代の回収が失敗に終わっても戻ってこない費用です。
着手金の相場は、0円~30万円程度です。
報酬金とは、事件が終了した際に、その成功の程度に応じて発生する費用です。通常、回収できた金額の割合に応じて金額が決まります。
報酬金の相場は、獲得した金額の16%~30%程度です。
ただし、現在は、完全成功報酬制を採用して、着手金を0円としている事務所も増えてきていますので、着手金を支払うことが難しい場合には探してみるといいでしょう。

残業代請求の裁判の判例
残業代請求の裁判の重要な判例として以下の2つの事件を紹介します。
判例1:東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件]
判例2:最判平成6年6月13日労判653号12頁[高知県観光事件]
判例1は、管理監督者性についての重要な判例です。
判例2は、固定残業代についての重要な判例です。
それぞれについて説明していきます。
判例1:東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件]
ファーストフード店の店長が残業代の請求をしたところ、会社側が管理監督者に該当することを理由に残業代の支払いを拒んだ事案です。
労働基準法では、管理職であっても、常に残業代を支払わなくていいとされているわけではありません。
会社は、管理職であっても、管理監督者に該当しない、名ばかり管理職には残業代を支払う必要があります。
そして、管理監督者に該当するには、以下の要素を満たしている必要があるとされています。
①経営者との一体性
②労働時間の裁量
③対価の正当性
この判例は、①②③について、以下のように判断して、当該店長が管理監督者に該当しないとして、残業代請求を認容しました。
①社員の採用権限はなく、企業全体としての経営方針に関与するものではなく、その権限は店舗内に限られる。
②各時間帯に必ず置くとされるシフトマネージャーとして勤務する関係上30日~60日の連続勤務を余儀なくされるなどの勤務実態からすると、実質的に労働時間に関する裁量があったとはいえない。
③下位の職位との差は大きくないし、店長の平均労働時間はファーストアシスタントマネージャーのそれを上回っている。
管理職の残業代請求については、以下の記事で詳しく解説しています。

管理監督者とは何かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
判例2:最判平成6年6月13日労判653号12頁[高知県観光事件]
タクシー乗務員が残業代を請求したところ、会社が支給している歩合給に残業代が含まれていることを理由に残業代の支払いを拒んだ事案です。
基本給や手当の一部に残業代を含めて支給する場合には、純粋な基本給や手当の部分と残業代の部分を区別できる必要があります。
つまり、いくらの残業代が含まれているのかが明らかでない場合には、残業代の支払いがされているとは認められません。
この判例は、支払われていた歩合給の金額が、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の残業代に当たる部分とを判別することができないことを理由に、この歩合給の支給によって残業代が支払われたとすることは困難であるとして、残業代の請求を認容しました。
固定残業代については、以下の記事で詳しく解説しています。

残業代請求の裁判の前にすること
あなたが会社に対して残業代を請求する場合には、いきなり裁判をするのではなく、裁判の前にいくつかの手順を踏むことをおすすめします。
なぜなら、裁判は、多くの労力や時間、費用がかかるため、他の手段で解決が難しい場合の最終手段として利用するべきだからです。
具体的には、裁判をする前に以下の手順を試してみることをお勧めします。
手順1:通知書の送付
手順2:残業代の計算
手順3:交渉
手順4:労働審判

手順1:通知書の送付
残業代請求の裁判の前にすることの1つ目は、通知書の送付です。
残業代請求の裁判をするには、その前に準備や交渉をする必要があります。
会社に対して、通知書等により残業代の支払いを催告することで6か月間時効の完成が猶予されます。
また、通知書を送付することで、残業代の計算をするのに必要な資料の開示なども求めていくのが通常です。
具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
手順2:残業代の計算
残業代請求の裁判の前にすることの2つ目は、残業代の計算です。
残業代については、以下の方法により計算します。

残業代早見表を作成しましたので、確認してみてください。

また、以下のリンクから簡単に残業代チェッカーを利用することができます。

残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく説明しています。

手順3:交渉
残業代請求の裁判の前にすることの3つ目は、交渉です。
残業代の計算ができましたら、その計算結果に基づき、会社に支払いを求めます。
これに対して、会社からの回答があると、争点が明確になりますので、双方の折り合いがつく解決が可能かどうか協議することになります。
交渉の方法については、電話や面談、書面など様々です。会社の対応を見ながらどの手段が適切かを判断することになります。
手順4:労働審判
残業代請求の裁判をする前にすることの4つ目は、労働審判です。
交渉がうまくまとまらない場合には、裁判所を利用した手続きを検討してみましょう。
ただし、いきなり裁判をするのではなく、労働審判などの方法がとられることもよくあります。
労働審判とは、全3回までの期日で和解を目指す手続きで、和解が難しい場合には裁判所が判断を下します。迅速かつ柔軟な解決が可能で、解決率も高い制度です。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。


残業代請求の裁判でよくある悩み3つ
残業代請求の裁判をする際には、経験したことがないと色々悩みが生じるはずです。
例えば、残業代請求の裁判でよくある悩みとしては、以下の3つがあります。
悩み1:タイムカードがない
悩み2:退職後でも請求はできるか
悩み3:会社の人と顔を合わせなければいけないか
これらの悩みについて1つずつ解消していきましょう。
悩み1:タイムカードがない
残業代請求の裁判でよくある悩みの1つ目は、タイムカードがないとの悩みです。
結論から言うと、タイムカードがなくても残業代を請求できる場合があります。
その場合には、タイムカード以外の証拠により労働時間を立証していくことになります。
残業時間の証拠には、例えば以下のものがあります。

タイムカードがない場合には、例えば、業務メールの送信記録や日報等の営業記録、残業時間のメモなどを集めるようにしましょう。
残業代請求の証拠については、以下の記事で詳しく解説しています。

悩み2:退職後でも請求はできるか
残業代請求の裁判でよくある悩みの2つ目は、退職後でも請求はできるかとの悩みです。
結論から言うと、退職後であっても残業代を請求することができます。
退職したとしても、あなたがこれまで残業をした事実がなくなるわけではないためです。
ただし、残業代の請求には時効があることに注意が必要です。残業代は、その支払日から2年(2020年4月1日以降が支払日のものは3年)を経過した部分から順次消滅していきます。
そのため、残業代を請求する場合には、早めに行動を起こしたほうがいいでしょう。
退職後の残業代請求については、以下の記事で詳しく解説しています。

悩み3:会社の人と顔を合わせなければいけないか
残業代請求の裁判でよくある悩みの3つ目は、会社の人と顔を合わせなければいけないかとの悩みです。
結論から言うと、「あなた」か「会社」のいずかが弁護士に依頼している場合には、直接会社の人と顔を合わせることはほとんどありません。
訴訟については、通常、弁護士のみが出頭し、本人は出頭しないことが多いためです。
ただし、証人尋問の際には、本人も出頭する必要がありますので、顔を合わせることになる可能性があります。
なお、訴訟ではなく、労働審判については、弁護士に依頼している場合でも、通常、「あなた」と「会社関係者」も同席のうえで行われますので、顔を合わせることになります。
残業代請求の裁判は弁護士に依頼しよう!
残業代請求の裁判は、弁護士に依頼することがおすすめです。
裁判を有利に進めるためには、残業代請求についての法律や裁判例、訴訟手続を十分に理解していることが重要となるためです。
裁判では、「弁論主義」という大原則がありますので、当事者の主張していない事実については、判決の基礎としてもらうことができません。
つまり、あなたが自分に有利な事実があるのにそれを見落としていると、不利な判決となってしまうことがあるのです。
また、訴訟手続には様々なルールがありますので、一つ一つの手続きを調べながら行うと膨大な労力が必要となります。
しかし、あなたが残業代の請求を弁護士に依頼した場合には、残業代の計算や裁判所に提出する書面の作成などの煩雑な手続きを丸投げしてしまうことができます。
更に、残業代請求に注力している弁護士に依頼すれば、豊富な経験に基づいて、あなたに有利な裁判例や法律を駆使して手続きを進めてもらうこともできます。
そのため、残業代請求の裁判については、法律の専門家である弁護士に任せてしまうことがおすすめなのです。

まとめ
以上の通り、今回は、残業代請求の裁判の流れ・期間・費用や訴訟提起の仕方について、解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下の通りです。
・残業代請求の裁判とは、あなたの残業代が十分に支払われていないと感じた場合に、裁判所に残業代の支払いについての判決を求めていくものです。
・残業代の裁判は、通常以下の流れで進んでいきます。

・残業代請求の裁判をするには、以下のような費用がかかります。

この記事が残業代請求の裁判について知りたいと考えている方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。


