公務員

地方公務員の残業代請求-残業代を肯定した裁判例や教職員の特例を解説-

 地方公務員には、一般の企業等に勤める労働者と同様に残業代は支給されるのでしょうか。地方公務員の中でも、教職員などについては特例法が適用されます。
 今回は、地方公務員の残業代について解説します。

地方公務員とは

 地方公務員とは、普通地方公共団体、特別地方公共団体または特定地方独立行政法人に勤務し、その事務処理に従事することによって、給与、報酬あるいは手当といった対価を得ている者すべてをいうと解されています。

地方公務員と労働関係法の適用関係地方公務員には、一般の企業等に勤める労働者と同様に労働関係法は適用されるのでしょうか。今回は、地方公務員と労働関係法の適用関係について解説します。...

地方公務員と残業代

 地方公務員には、特別職一般職があります。
 特別職には、地方公務員法が適用されませんので、労働関係法の適用を制限する地方公務員法58条も適用されません。そのため、原則通り、労働基準法が全面的に適用されます。
 一般職の現業職員には、労働関係法の適用を制限する地方公務員法58条は、適用されません。地方公営企業法39条等により、地方公務員法58条の適用が排除されているためです。そのため、労働基準法のほとんどの規定が適用されます。
 一般職の非現業職員には、労働関係法の適用を制限する地方公務員法58条が適用されますが、同条によっても労働基準法37条の適用は排除されていません。
 以上より、地方公務員であっても、労働基準法37条が適用される以上、時間外労働や休日労働、深夜労働を行えば、原則として、割増賃金を請求することができます。
 裁判例は、東京都職員(教育事務所管理課教職員係)が、未払割増賃金請求をした事案において、これを認容しています。

東京高判平22.7.28労判1009号14頁[東京都多摩教育事務所(超過勤務手当事件)

1 地方公務員(一般職)の割増賃金請求権の存否
 「地公法58条3項によれば,被控訴人を含む一般職の地方公務員に関して適用除外をしている規定を除いては労基法が原則として適用されるから,時間外,休日及び深夜の割増賃金について定める労基法37条も,被控訴人に関して適用されるべきところ,同条1項は,使用者が時間外・休日労働の規定により労働時間を延長し,又は休日に労働させた場合においては,その時間又はその日の労働について,通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内で政令(割増賃金令)で定める率(時間外労働の場合は2割5分,休日労働の場合は3割5分)で計算した割増賃金を支払わなければならない旨を,また,同条4項は,使用者が午後10時から午前5時までの間に労働させた場合においては,その時間の労働については,通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない旨を,それぞれ定めている。」
 「そして,本件において,被控訴人は,平成14年度ないし平成17年度において,原判決別表の「原告主張の時間数D」のとおり,正規の勤務時間を超えて,管理課教職員係として,担当分掌上の業務を遂行した」。「被控訴人における正規の勤務時間は,1日8時間,週40時間であるから,被控訴人の正規の勤務時間を超えた勤務は,労基法32条所定の法定労働時間を超える勤務であるということができる。」
 「前記のとおり,被控訴人を含む一般職の地方公務員に対しても労基法37条が適用されるから,被控訴人が労基法32条所定の法定労働時間を超えて勤務した時間が同条にいう労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)に該当する場合には,控訴人は,労基法37条に基づき,被控訴人に対し,労基法上の割増賃金(超過勤務手当と同額である。以下,労基法32条に従い「割増賃金」と記す。)を支払わなければならない。
2 時間外労働の有無
 「本件についてみると,…被控訴人は,現に正規の勤務時間内に完了できない業務を与えられ,そのために正規の勤務時間以外の時間や休日に担当分掌上の業務を行っていたこと,被控訴人の時間外の勤務は,公務の円滑な遂行に必要な行為であり,被控訴人が時間外の勤務を行わなければ,多摩教育事務所における繁忙時の公務が渋滞するなどの支障が生じていたこと,被控訴人に対する超過勤務命令者である多摩教育事務所管理課長は,被控訴人の超過勤務の事実を常日頃から現認し,被控訴人から補助簿の提出を受けるなどして,不定期ではあるけれども業務の報告を受け,超過勤務の実績を知悉した上で,被控訴人の超過勤務を容認していたこと,管理課長及び庶務係給与担当者は,超過勤務の実績に見合うだけの予算措置が講じられていなかったため,超過勤務手当を抑制するため,補助簿記載の各超過勤務について,補助簿記載の超過勤務時間数の一定割合のみを命令簿に転記させ,個別に,被控訴人の超過勤務の緊急性及び必要性を判断していなかったことなどが明らかであり,これらの諸点に照らせば,被控訴人が正規の勤務時間を超えてした勤務は,当該勤務を行うことを使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたものであって,使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができ,かつ,当該勤務に要した時間は社会通念上必要と認められるものであったということができるから,当該勤務に要した時間は,労基法上の労働時間に該当するものというべきである。」

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公立学校の教職員と残業代

給特法の適用

 公立学校の教職員についても、一般職として地方公務員法が適用されますが、地方公務員法58条は、労働基準法37条の適用は排除していませんので、割増賃金に関する規定が適用されるのが原則です。
 もっとも、地方公務員法57条は、「その職務と責任の特殊性に基いてこの法律に対する特例を必要とするもの」については、別に法律で特例を定めるものとしています。
 そして、公立の義務教育諸学校等の教育職員については、「その職務と勤務態様の特殊性に基づき、その給与その他の勤務条件について特例」が定められています(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下、「給特法」といいます。)1条)。

地方公務員法57条(特例)
「職員のうち、公立学校(学校教育法…第1条に規定する学校及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律…第2条第7項に規定する幼保連携型認定こども園であって地方公共団体の設置するものをいう。)の教職員(学校教育法第7条(就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律第26条において準用する場合を含む。)に規定する校長及び教員並びに学校教育法第27条第2項(同法第82条において準用する場合を含む。)、第37条第1項(同法第49条及び第82条において準用する場合を含む。)、第60条第1項(同朋大82条において準用する場合を含む。)、第69条第1項、第92条第1項及び第120条第1項並びに就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律第14条第2項に規定する事務職員をいう。)、単純な労務に雇用される者その他その職務と責任の特殊性に基づいてこの法律に対する特例を必要とするものについては、別に法律で定める。ただし、その特例は、第1条の精神に反するものであってはならない。」
給特法1条(趣旨)
「この法律は、公立の義務教育諸学校等の教育職員の職務と勤務態様の特殊性に基づき、その給与その他の勤務条件について特例を定めるものとする。」

<給特法の適用範囲>
 給特法は、①公立の「義務教育諸学校等」の②「教育職員」に適用されます。
①「義務教育諸学校等」とは
 「義務教育諸学校等」とは、学校教育法に規定する公立の以下の学校等をいいます(給特法2条1項)。
・小学校
・中学校
・義務教育学校
・高等学校
・中等教育学校
・特別支援学校
・幼稚園
②「教育職員」とは
 「教育職員」とは、以下の者をいいます(給特法2条2項)。
・義務教育諸学校等の校長(園長を含む)
・副校長(副園長を含む)
・教頭
・主幹教諭
・指導教諭
・教諭
・養護教諭
・栄養教諭
・助教諭
・養護助教諭
・講師(常時勤務の者及び地方公務員法…28条の5第1項に規定する短時間勤務の職を占める者に限る。)
・実習助手
・寄宿舎指導員

時間外勤務手当・休日勤務手当の不支給

 給特法は、「教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」としています(給特法3条2項)。その代わり、「教育職員…には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、…教職調整額」が支給されることになります(給特法3条1項)。
 公立学校の教職員は、特段の事情がある場合には時間外勤務手当・休日勤務手当を支給するべきであるとの主張や、教職調整額が想定していた勤務時間を超えるような場合には給特法の適用を排除するべきであるとの主張をする場合がありますが、裁判例においてはこのような主張は認められない傾向にあります。
 従って、公立学校の教職員が、時間外割増賃金や休日割増賃金の請求をすることは、現状容易ではありません。

給特法3条(教育職員の教職調整額の支給等)
1項「教育職員(校長、副校長及び教頭を除く。以下この条において同じ。)には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。」
2項「教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。」

学校の校長等の職務上の義務違反を理由とする損害賠償請求

⑴ 超過勤務をさせてはならない義務違反

 教育職員に対しては、原則として、時間外勤務を命じないこととされています。
 教育職員に対して、例外的に時間外勤務を命じることができるのは、①以下に掲げる業務に従事する場合であって、②「臨時又は緊急のやむを得ない必要があるとき」限定されています。これを超勤4項目といいます。

・校外実習その他生徒の実習に関する業務
・修学旅行その他学校の行事に関する業務
・職員会議に関する業務
・非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

 上記規定を踏まえ、教「職員が当該時間外勤務を行うに至った事情,従事した職務内容,勤務の内容,実態等を踏まえて,校長等から時間外に強制的に特定の業務をすることを命じられたと評価できるような場合,すなわち,同職員の自由意思を強く拘束するような状況下でなされ,しかも,給特法7条,11条ないし本件条例37条において時間外勤務を原則として禁止し,それを命じうる場合を限定した趣旨…を没却するような場合には違法となる」とされています(京都地判平20.4.23労判961号13頁[京都市(教員・勤務管理義務違反)事件・第1審])。

給特法6条(教育職員の正規の勤務時間を超える勤務等)
1項「教育職員(管理職手当を受ける者を除く。以下この条において同じ。)を正規の勤務時間(一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律…第5条から第8条まで、第11条及び第12条の規定に相当する条例の規定による勤務時間をいう。第3項において同じ。)を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする。」
2項「前項の政令を定める場合においては、教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について十分な配慮がされなければならない。」
3項「第1項の規定は、次に掲げる日において教職員を正規の勤務時間中に勤務させる場合について準用する。」
一「一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律第14条に規定する祝日法による休日及び年末年始の休日に相当する日」
二「一般職の職員の給与に関する法律…第17条の規定に相当する条例の規定により休日勤務手当が一般の職員に対して支給される日(前号に掲げる日を除く。)」
公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令
「内閣は、国立大学法人法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律…の施行に伴い、及び効率の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法…第6条第1項(同条第3項において準用する場合を含む。)の規定に基づき、この政令を制定する。」
「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下「法」という。)第6条第1項(同条第3項において準用する場合を含む。)の政令で定める基準は、次のとおりとする。」
一「教育職員(法第6条第1項に規定する教育職員をいう。次号において同じ。)については、正規の勤務時間(同項に規定する正規の勤務時間をいう。以下同じ。)の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務(正規の勤務時間を超えて勤務することをいい、同条第3項各号に掲げる日において正規の勤務時間中に勤務することを含む。次号において同じ。)を命じないものとすること。」
二「教育職員に対し時間外勤務を命じうる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限るものとすること。」
イ「校外実習その他生徒の実習に関する業務」
ロ「修学旅行その他学校の行事に関する業務」
ハ「職員会議(設置者の定めるところにより学校の置かれるものをいう。)に関する業務」
二「非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務」

⑵ 安全配慮義務違反

 一般的に、使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うとされています。
 そして、「この理は,地方公共団体とその設置する学校に勤務する地方公務員との間においても別異に解すべき理由はない」とされています(最判平23.7.12判タ1357号70頁[京都市(教員・勤務管理義務違反)事件・上告審])。
 公立学校の教職員が平均して午後8時ころ退校しており、吹奏楽部の指導のため土・日に出勤していた事案について、第1審(京都地判平20.4.23労判961号13頁[京都市(教員・勤務管理義務違反)事件]及び同控訴審(大阪高判平成21.10.1労判993号25頁)は安全配慮義務違反を認めましたが、同上告審(最判平23.7.12判タ1357号70頁)は安全配慮義務違反を否定しています。

⑶ 小括

 公立学校の教職員が長時間の時間外勤務をしているような場合には、未払い割増賃金の請求と併せて、超過勤務をさせてはならない義務違反や安全配慮義務違反を理由に、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償請求を行う場合があります。
 裁判例において、これらの請求は、教職員が自主的に時間外労働をしていたとしたり、校長等が教職員のストレスや健康状態の変化を認識予見できなかったとしたりして、損害賠償請求が否定される傾向にあります
 そのため、教職員としては、時間外労働が強制されていた事実等があるのであればこれを裏付ける証拠(業務内容に関するメモや、指示を受けたメール等)を残しておくことが重要となります。また、長時間労働に関してストレス等を感じている場合には、これを校長等に明確に認識してもらうために診断書等を提出したり、相談などした場合はその記録を残したりすることが重要となります。

裁判例

 上記のように公立学校の教職員は、その特殊性から割増賃金の請求が制限されています。
 もっとも、公立学校の教職員の過酷な勤務環境等から、割増賃金の支払いを求める訴訟や損害賠償を求める訴訟が提起され始めています。

京都地判平20.4.23労判961号13頁[京都市(教員・勤務管理義務違反)事件・第1審]

1 未払割増賃金請求
⑴ 給特法
 「原告らは,給特法ないし本件条例が時間外勤務として例外的に許容する限定4項目に該当しない,あるいは該当しても緊急やむを得ない必要のある場合でない職務を時間外に行うことが命じられた場合には,労働時間法制の本則に立ち返って労働基準法37条が適用され,労働基準法の割増賃金支払請求権が発生する旨,仮に同場合に労働基準法37条並びに本件条例15条及び18条の適用を認めず,時間外の割増賃金請求権が発生しないとしても,同場合には時間外労働が存在するため,ワークアンドペイの原則(公平の原則)に基づいて,時間外労働に対応する賃金請求権が発生する旨主張する。」
 「しかし,…原告らが勤務していた学校の校長が原告らに対して特定の業務について時間外の職務を命じたと認められないことからすると,原告らの同主張は採用できない。また,…給特法ないし本件条例の趣旨(給特法は包括的に職務を再評価し,給与水準が,前記のような特殊な職務を遂行する立場にある者にとってふさわしい水準に達しているかどうかという観点から,時間外手当を支給するという方法によってではなく,一律に調整給を加算することによって対処している。)からしても原告らの同主張は採用できない。」
⑵ 特段の事情と勤務手当請求権の存否
 「ところで,原告らは,上記主張の前提として原告らの期間外の勤務時間について実際に時間的計測をすることができた旨主張して,前記のような特段の事情がある場合は,労働基準法37条,本件条例15条及び18条に基づき時間外勤務手当請求権が発生すると解すべきである旨主張する。」
 「しかし,原告らが原告ら自身の尺度で労働時間と考えた時間を計測できたとしても,前記に説示したとおりの教育職員の職務の特殊性を考慮すると,原告ら自身の尺度から労働時間と考えた時間帯における労働の全てを使用者である被告の拘束下における労働とまで評価してよいか,疑問を差し挟む余地がある。特に,原告らが時間外労働と主張する持ち帰り仕事は,原告らそれぞれの自宅でなされるものであって,使用者である被告の指揮監督の下にあるとまでいうことができないうえ,同職務の遂行の程度は勤務時間中に比して密度は高くはなく,仮に同時間を自己申告させたとしてもそのまま使用者の指揮監督下にある労働時間として扱うことはできないし,上記3(2)アで記載したような事情がある。以上のようなことを踏まえると,原告らの時間外勤務の労働実態について,原告らが主張する原告ら各自の時間外勤務について的確な時間的計測をなし得るとはいえず,その他,的確な時間外勤務時間を認めることはできない。」
 「そうすると,原告らの労働基準法37条に基づいて時間外勤務手当の請求ができるとの上記主張は採用できない。」
 「また,原告らはワークアンドペイの原則により時間外勤務手当相当額が支払われるべき旨主張する。しかし,その原則自体,どのような労働について,どの程度の賃金が支払われるべきかということを具体的に明らかにした原則ではなく,給付請求権の具体的な内容を導くことができるような裁判規範として援用できるような内容を備えているとまではいえないから,同主張は採用できない。」
第2 義務違反を理由とする損害賠償請求
1 超過勤務をさせてはならない義務違反
 「給特法及び本件条例の立法趣旨,立法経緯を踏まえると,教育職員が上記教育の趣旨を踏まえて自主的,自発的,創造的に正規の勤務時間を超えて勤務した場合にはたとえその勤務時間が長時間に及んだとしても時間外勤務手当は支給されないものと解するのが相当である。」
 「しかし,教育職員の当該時間外勤務が自主的,自発的,創造的になされたものではなく,同職員が当該時間外勤務を行うに至った事情,従事した職務内容,勤務の内容,実態等を踏まえて,校長等から時間外に強制的に特定の業務をすることを命じられたと評価できるような場合,すなわち,同職員の自由意思を強く拘束するような状況下でなされ,しかも,給特法7条,11条ないし本件条例37条において時間外勤務を原則として禁止し,それを命じうる場合を限定した趣旨(同限定して命じる場合でも教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について充分な配慮がなされなければならないとしている。〔給特法7条1項後文〕)を没却するような場合には違法となるが,それ以外の当該時間外勤務は同職員の自主的,自発的,創造的な職務遂行として違法になることはないと解される。」
 「…原告らの時間外勤務は原告らが各勤務した学校の校長等から時間外に強制的に特定の業務をすることを命じられたと評価できるような場合,すなわち,同職員の自由意思を強く拘束するような状況下でなされ,しかも,給特法7条,11条ないし本件条例37条において時間外勤務を原則として禁止し,それを命じうる場合を限定した趣旨(同限定して命じる場合でも教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について充分な配慮がなされなければならないとしている。〔給特法7条1項後文〕)を没却するような場合とまではいえない。そうすると,原告らの各自の時間外勤務について各原告らに対応する校長らの行為に違法な行為があったとまでいうことはできない。」
 「したがって,原告らの違法に超過勤務をさせてはならないとの義務違反の主張は採用できない。」
2 安全配慮義務違反
⑴ 安全配慮義務違反の有無
 「特定の法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務の1つとして,地方公共団体は公務員に対し,公務員が地方公共団体もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって,公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)を負うと解するのが相当である…。」
 「O校長は,原告Iが平均して午後8時ころ退校していたこと,また,吹奏楽部の指導のため土・日に出勤したりしていたこと,被告教育委員会の指定を受けた研究発表の冊子のまとめ作業等その仕事量が多かったことを認識していたところ,原告Iの時間外勤務が極めて長時間に及んでいたことを認識,予見できたことが窺われるが,それに対してそれを改善するための措置等は特に講じていない点において適切さを欠いた部分があるというべきである。」
 「原告Iは,上記のとおり平日は平均して午後8時ころまで勤務する他,吹奏楽部の指導のため休日にも出勤したりしていてその時間外勤務の時間は少ないとはいえない時間であり,包括的に評価しても,配慮を欠くと評価せざるを得ないような常態化した時間外勤務が存在したことが推認でき,O校長は,同一の職場で日々業務を遂行していた以上,そうした状況を認識,予見できたといえるから,事務の分配等を適正にする等して原告Iの勤務が加重にならないように管理する義務があったにもかかわらず,同措置をとったとは認められないから同義務違反があるというべきである。」
⑵ 損害額
 「原告らは,被告らの安全配慮義務違反によって原告らが被る損害について労働基準法37条で認められる時間外手当相当分である旨主張する。」
 「しかし,原告らに対する安全配慮義務によって保護されるべき保護法益は…原告らの健康ないしその保全である。そうすると,原告らの上記主張は採用できない。しかし,…教育職員の職務が児童生徒との直接の人格的接触を通じて児童生徒の人格の発展と完成を図る人間の心身の発達という基本的価値に関わるという特殊性を有するほか,児童生徒の保護者からの多様な期待に適切に応えるべき立場にも置かれていることを考慮すると,過度な時間外の勤務がなされた場合には肉体的のみならず精神的負荷が強いと推認できるところ,…教育職員には時間外勤務手当は支給されないこともあってその勤務時間管理が行われにくい状況にある上に,原告Iが上記健康の保持に問題となる程度の少なくない時間外勤務をしていたことを踏まえると,それによって法的保護に値する程度の強度のストレスによる精神的苦痛を被ったことが推認される。」
 「原告Iが被った同精神的苦痛を金銭的に評価すると50万円が相当である。」

最判平23.7.12判タ1357号70頁[京都市(教員・勤務管理義務違反)事件・上告審]

 「原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断し,国家賠償法1条1項に基づく被上告人らの上告人に対する請求をいずれも55万円(慰謝料50万円,弁護士費用5万円)及び遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものとした。」
1 超過勤務をさせてはならない義務違反
 「前記事実関係によれば,本件期間中,被上告人らはいずれも勤務時間外に職務に関連する事務等に従事していたが,勤務校における上司である各校長は,被上告人らに対して時間外勤務を命じたことはない上,被上告人らの授業の内容や進め方,学級の運営等を含めて個別の事柄について具体的な指示をしたこともなかったというのである。そうすると,勤務校の各校長が被上告人らに対して明示的に時間外勤務を命じてはいないことは明らかであるし,また,黙示的に時間外勤務を命じたと認めることもできず,他にこれを認めるに足りる事情もうかがわれない。」
 「したがって,勤務校の各校長は,本件期間中,教育職員に原則として時間外勤務をさせないものとしている給特法及び給与条例に違反して被上告人らに時間外勤務をさせたということはできないから,上記各校長の行為が,国家賠償法1条1項の適用上,給特法及び給与条例との関係で違法の評価を受けるものではない。」
2 安全配慮義務違反
 「使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり,使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は,使用者の上記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべきものである(最高裁平成10年(オ)第217号,第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。この理は,地方公共団体とその設置する学校に勤務する地方公務員との間においても別異に解すべき理由はないから,以下,この見地に立って検討する。」
 「前記事実関係によれば,被上告人らは,本件期間中,いずれも勤務時間外にその職務に関連する事務等に従事していたというのであるが,…これは時間外勤務命令に基づくものではなく,被上告人らは強制によらずに各自が職務の性質や状況に応じて自主的に上記事務等に従事していたものというべきであるし,その中には自宅を含め勤務校以外の場所で行っていたものも少なくない。他方,原審は,被上告人らは上記事務等により強度のストレスによる精神的苦痛を被ったことが推認されるというけれども,本件期間中又はその後において,外部から認識し得る具体的な健康被害又はその徴候が被上告人らに生じていたとの事実は認定されておらず,記録上もうかがうことができない。したがって,仮に原審のいう強度のストレスが健康状態の悪化につながり得るものであったとしても,勤務校の各校長が被上告人らについてそのようなストレスによる健康状態の変化を認識し又は予見することは困難な状況にあったというほかない。これらの事情に鑑みると,本件期間中,被上告人らの勤務校の上司である各校長において,被上告人らの職務の負担を軽減させるための特段の措置を採らなかったとしても,被上告人らの心身の健康を損なうことがないよう注意すべき上記の義務に違反した過失があるということはできない。」
 「以上によれば,本件期間中,被上告人らの勤務校における上司である各校長の職務上の行為に,被上告人らとの関係において国家賠償法上の違法及び過失があるとは認められず,上告人は,被上告人らに対し,同法1条1項に基づく賠償責任を負わないというべきである。」

大阪地判平25.1.30労判ジャーナル14号18頁[大阪府・大阪府教育委員会事件]

第1 未払割増賃金請求
1 給特法
 「給特法及び政令並びにこれらを踏まえた給与条例は,教育には教員の自発性,創造性に基づく勤務に期待する面が大きいこと等から,一般の行政職員と同様の時間的管理を行うことが必ずしも適当ではないことに鑑み,時間外勤務を命ずる場合を臨時・緊急のやむを得ない必要があるときに限定した上で,教育職員の勤務を勤務時間の内外を問わず包括的に評価し,超過勤務手当等に代わり俸給相当の性格を有する教職調整額を支給することとした上で,時間外勤務手当や休日勤務手当は支給せず,労働基準法37条の規定も適用しないこととしている」。
 「したがって,教育職員には,時間外勤務手当の支給を定める給与条例21条の適用は排除されており(同26条の3),教育職員である原告らが,時間外勤務を行ったからといって,給与条例21条に基づく同手当の支払を請求することはできず,原告の主張は理由がない。」
2 給特法の適用排除の可否
⑴ 勤務時間上限を超えるとの主張
 「なお,原告は,勤務時間規則2条に定める勤務時間の上限である16時間を超えた場合には,時間外勤務手当等に関する規定の適用を排除した給特法や給与条例は適用されないことを根拠にしているが,大阪府の人事委員会規則の定め如何により給特法等の適用が排除されることがないことは明らかであるから,原告の主張は失当である。」
⑵ 教職調整額支給の前提となる包括的評価を超えるものかどうか
 「この点,教員に対しては,教職調整額を支給する代わりに,修学旅行など限定した業務(いわゆる超勤4項目)につき臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに時間外勤務を命ずることができ,それ以外の場合には時間外勤務を命ずることを禁じている。この趣旨に照らせば,修学旅行引率業務について業務命令による時間外勤務が行われたとしても,その勤務は教職調整額支給の前提となる包括的評価に含まれていると解すべきであって,当該勤務について時間外勤務手当等が発生すると解する余地はない。」
 「…結局のところ,本件修学旅行及び本件引率業務の実態は,一般的に想定される修学旅行及びその引率業務の範囲内というべきであり,引率業務の負担の程度が,学校の特性,行程の内容,突発的事象等の要素に左右されることは否定し難いものの,本件引率業務における精神的肉体的負担として原告らが縷々主張ないし供述するところは,多かれ少なかれ修学旅行の引率業務に不可避的なものというべきであり,一般的な公立高校の修学旅行やその引率業務と比較して,本件修学旅行や本件引率業務がとりたてて過重であったとは言い難く,上述した通常の学校での勤務との異同を考慮すれば,未だ給特法が基礎とするところの教職調整額支給の対象として包括的評価した教員の自主的・創造的職務の範疇から逸脱しているとは言い難い。」
 「そして,本件引率業務については,先に述べたその職務の内容に加え,被告においても上述した職務の負担を考慮して教員特殊業務手当を支給していることをも併せ考慮すれば,同業務について給特法等を適用することが原告らにとって著しく過酷であるともいえない。」
第2 安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求
 「使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり,使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は,使用者の上記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべきである。この理は,地方公共団体とその設置する学校に勤務する地方公務員との間においても別異に解すべき理由はない(最高裁平成23年7月12日判決・裁判集民事237号179頁参照)。そして,給特法及びそれを受けた政令は,正規の勤務時間の割振りを適正に行うべきことをまず定めた上で,修学旅行であっても,臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限り教員に時間外勤務を命ずることができると定めているところ,本件においては,…原告らが本件修学旅行において勤務時間として割り振られた時間を超えて引率業務に従事した蓋然性は否定できない。」
 「しかし…本件における割振り及び割振り変更に関して,被告に原告らの心身の健康を損なうことがないよう注意すべき上記の義務に違反した過失があるということはできないし,原告らに慰謝料の支払を要するような精神的苦痛が発生したと認めることもできないから,原告らの請求はいずれも理由がない。」

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。主な取扱分野は、人事労務、離婚・男女問題、相続、企業法務、紛争解決(訴訟等)、知的財産、刑事問題等。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。
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