公務員

地方公務員に対する不利益処分と審査請求

 地方公務員の方は、不利益処分に不服がある場合、まずはどのような対応をすることができるのでしょうか。
 今回は、地方公務員に対する不利益処分と審査請求について解説します。

地方公務員とは

 地方公務員とは、普通地方公共団体、特別地方公共団体または特定地方独立行政法人に勤務し、その事務処理に従事することによって、給与、報酬あるいは手当といった対価を得ている者すべてをいうものと解されています。

地方公務員と労働関係法の適用関係地方公務員には、一般の企業等に勤める労働者と同様に労働関係法は適用されるのでしょうか。今回は、地方公務員と労働関係法の適用関係について解説します。...

審査請求とは

 不利益処分に関する審査請求とは、任命権者によって懲戒処分その他の不利益処分を受けた職員による不服申立手続きです。
 不利益処分を争う場合には、取消訴訟を提起することが考えられますが、取消訴訟の前に審査請求を行う必要があります(地方公務員法51条の2)。これを審査請求前置主義といいます。その目的は、行政処分に対する裁判所の審査前に、その当否を行政庁に再度判断させ、反省の機会を与えるとともに、自主的な解決を期待する点にあります。

地方公務員法51条2の(審査請求と訴訟との関係)
「第49条第1項に規定する処分であって人事委員会又は公平委員会に対して審査請求をすることができるものの取消しの訴えは、審査請求に対する人事委員会又は公平委員会の裁決を経た後でなければ、提起することができない。」

審査請求をできる場合

総論

 審査請求をすることができるのは、「懲戒その他その意に反すると認められる不利益な処分」が行われた場合です(地方公務員法49条の2、49条1項)。
 「不利益な処分」には、懲戒と分限は当然に含まれます。問題となるのは、懲戒と分限以外の職員に不利益をもたらす行為です。
 以下では、転任、昇給延伸、依願退職に対する退職発令について、「不利益な処分」に該当するのかを見ていきます。

転任

 転任とは、職員をその職員が現に任命されている職以外の職に任命することであって、昇任及び降任に該当しないものをいいます(地方公務員法15条の2第1項第4号)。
 転任については、身分や俸給が異動しあるいは勤務場所や内容に不利益が生ずるような場合には、「不利益な処分」に該当するとされる傾向にあります。

最判昭61.10.23判時1219号127頁[吹田二中教師転任事件上告審判決]

 「本件転任処分は、吹田二中教諭として勤務していた被上告人らを同一市内の他の中学校教諭に補する旨配置換えを命じたものにすぎず、被上告人らの身分、俸給等に異動を生ぜしめるものでないことはもとより、客観的また実際的見地からみても、被上告人らの勤務場所、勤務内容等においてなんらの不利益を伴うものでないことは、原判決の判示するとおりであると認められる。したがって、他に特段の事情の認められない本件においては、被上告人らについて本件転任処分の取消しを求める法律上の利益を肯認することはできないものといわなければならない(原判決のいう名誉の侵害は、事実上の不利益であって、本件転任処分の直接の法的効果ということはできない。)。」

千葉地判平14.12.10裁判所ウェブサイト

 「地方公務員法は,転任処分それじたいをもって当然には職員に不利益を課する処分とみていないことが明らかである。したがって,原告が本件処分の取消しを求め得るには,本件処分によって原告に具体的な不利益が生じたことを要するというべきである(最高裁昭和55年(行ツ)第78号昭和61年10月23日第一小法廷判決・裁判集民事149号59頁参照)。」
 「そこで検討すると,…本件処分の前後において,〔1〕原告が技術吏員(病院診療部栄養科主任・管理栄養士業務,本俸・技術医療職給料表(二)3級19号〔37万3600円〕)から事務吏員(病院総務課主査,本俸・一般職給料表4級18号〔37万5200円〕)となり,当初の本俸は漸増することがあるものの,その後,適用される給料表が異なることなどから,相当額の減収のある時期もあること,〔2〕原告が従来の職務上支給を期待し得た相当額の手当類の支給について,以後は期待できなくなることが認められ,…本件処分が行政組織上の上下関係の異動ではないと窺える本件においても,本件処分は転任に伴って通常生ずることがあるべき不利益を越える程度の不利益を生じたものとみることができる。これによると,本訴請求のうち本件処分の取消しを求める部分については,訴えの利益があるというべきである。」

東京地判平8.9.19判タ941号164頁[東京都教育委員会(転任処分)事件]

 「被告は、本件転任処分が、単に勤務校の変更を命じたに止まり、その転任によって原告の公立学校教員たる身分や給与に影響を与えるものではなく、勤務場所、勤務内容等において何らの不利益を伴うものではないから、そもそも公務員としての権利、利益を害することのある公権力の行使にはあたらないと主張する」。
 しかし、「本件転任処分は、単に勤務校の変更のみではなく、原告の担当を日本語学級担当から小学校全科の担当に変更するものであり、日本語学級を担当するためには、小学校全科に必要とされるものとは異なる専門性、熟練性が備わっていることが求められており、被告も現に日本語学級を担当している教員を異動させる場合にはその特殊性を考慮し、一般の教員の異動の場合とは異なり、校長の具申、地教委の内申に基づいて被告が個々に判断するものと定められているうえ、日本語学級担当として異動させる場合には、小学校全科とは区別して異動調査書に記載する扱いをしているものであり、原告が昭和四九年(採用時)から昭和六三年(本件転任処分当時)まで日本語学級の担当教員として勤務し、本件転任処分により長年にわたって習得してきた日本語学級担当に関する専門知識、経験、教育の技法等を今後活用できなくなるものであるということができる。」
 「このような事情を総合して考えると、本件転任処分は、客観的、実際的見地からみて、その勤務内容に不利益を伴うものであることが明らかであり、地方公務員法四九条一項に規定する『不利益な処分』に該当するというべきである。」

昇給延伸

 定期昇給が、財政難等を理由に延伸されたり、懲戒に付されたこと等を理由に延伸されたりする場合があります。このような昇給延伸は、「不利益な処分」にあたるのでしょうか。
 これにつき、最高裁は、「不利益な処分」には該当しないとしています(最判昭55.7.10判時987号30頁)。定期昇給の規定は、職員に対して昇給に関する処分についての実体上又は手続上の権利を与えたものとは解されないためです。
 ただし、昇給延伸を定めた条例に対する抗告訴訟を適法として裁判例があります(盛岡地判昭31.10.15行集7巻10号2443頁)。

最判昭55.7.10判時987号30頁

 「本件において、高知市職員給与条例における所論のいわゆる定期昇給に関する規定は、所定の要件をみたした職員に対して昇給に関する処分についての実体上又は手続上の権利を与えたものとは解されず、所論のいわゆる昇給延伸は、上告人らを含む特定の職種の者全員につきいわゆる定期昇給を特定年度に限り実施しないとの一般方針に従い上告人らに対する昇給発令が行われなかったというにすぎないのであって、これによって上告人らの権利を害する特段の処分があったものということはできないから、上告人らの本件訴は無効確認の対象を欠き不適法であるとした原審の判断は、正当である。」

盛岡地判昭31.10.15行集7巻10号2443頁

 「条例の制定のような立法行為であつても、それが具体的な処分的意味を持つ場合がある。すなわち条例そのものの施行によつて当然に直接特定の者の具体的権利義務に法律上の効果を生じ、これに基いて更に行政処分の行われることを要しないような特別の場合においては、何ら通常の行政処分と異なるところがないから、条例に対し直接に行政訴訟を提起し得るものと解すべきである。若しそうでないとすればこの場合には条例が違法であり、権利の侵害があるにもかかわらず、全く行政訴訟を提起する途が存しないこととなり、その不当であることはいうまでもない。」
 「本件において、…本件各臨時特例条例はその各第八条において『給与等条例(第二十号の場合。第十九号の場合は給与条例)施行後において新たに教育職員となつた者についてはこの条例は適用しない。』と定め、その適用対象者を給与等条例及び給与条例施行以前の原告らを含む教職員のみに限定していることは明らかであり、また、本件各特例条例第七条は『給与等条例第二条第二項に規定する教育職員については、それぞれの教育職員について左の各号の一に該当する場合には同号に規定する期間を経過した場合でなければ、昇給させることができない。但し給与等条例第十二条第三項に該当するものを除く。一、この条例施行後初めて昇給させる場合には,給与等条例第十二条第一項各号に規定する期間に六月を加えた期間。二、前号の規定の適用を受けた次に昇給させる場合には、給与等条例第十二条第一項各号に規定する期間。三、前号の規定の適用を受けた次に昇給させる場合には給与等条例第十二条第一項各号に規定する期間に六月を加えた期間。前項各号に規定する期間内に昇格させた場合においては、昇格したことによりそれぞれ同号に規定する期間を経過して昇給したものとする。』…と規定し、これによれば、原告ら特定の者は右各条例の施行により当然に六ケ月づつ二回に亘り昇給を延伸されるという直接具体的な効果を生じ、更に任命権者の各所轄教育委員会の昇給停止という特別の処分を要しないものといわなければならない。」
 「だとすれば本件各臨時特例条例第七条は条例の形式をとつていても、実質は行政処分と異るところがないのであり、その施行により権利若しくは法律上の利益を侵害されたと主張する場合これに対し行政訴訟を提起し得べきものといわなければならない。」

依願退職に対する退職発令

 職員が依願退職をした場合であっても、依願退職をしたのが本意でないことがあります。この場合、依願退職に対して行われる退職発令は、「不利益な処分」に該当するのでしょうか。
 これにつき、退職発令は、実質的に分限処分に該当するとして、「不利益な処分」に該当するの見解があります

審査請求できる方

 審査請求をすることができる職員は、一般職のうち、①一般行政職員、②教育公務員、③警察消防職員とされています。
 以下の者は、審査請求をすることができません。

⑴ 特別職(地方公務員法4条)
⑵ 地方公営企業職員(地方公営企業法39条1項)
⑶ 単純労務職員(地方益事業等の労働関係に関する法律附則5項)
⑷ 特定地方独立行政法人の職員(地方独立行政法人法53条1項)
⑸ 条件附採用期間中の職員(地方公務員法29条の2第1項)
⑹ 臨時的任用職員(地方公務員法29条の2第1項)

地方公務員法4条(この法律の適用を受ける地方公務員)
1項「この法律の規定は、一般職に属するすべての地方公務員(以下「職員」という。)に適用する。」
2項「この法律の規定は、法律に特別の定がある場合を除く外、特別職に属する地方公務員には適用しない。」
地方公営企業法39条(他の法律の適用除外等)
1項「企業職員については、地方公務員法…第49条…の規定は、適用しない。」
地方公営企業等の労働関係に関する法律附則
5「地方公務員法第57条に規定する単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員であつて、第3条第4号の職員以外のものに係る労働関係その他身分取扱いについては、その労働関係その他身分取扱いに関し特別の法律が制定施行されるまでの間は、…地方公益業法…第39条の規定を準用する。」
地方独立行政法人法53条(職員に係る他の法律の適用除外等)
1項「次に掲げる法律の規定は、特定地方独立行政法人の職員…には適用しない。」
一「地方公務員法…第49条…の規定」
地方公務員法29条の2(適用除外)
1項「次に掲げる職員及びこれに対する処分については、第27条第2項、第28条第1項から第3項まで、第49条第1項及び第2項並びに行政不服審査法…の規定を適用しない。」
一「条件附採用期間中の職員」
二「臨時的に任用された職員」
2項「前項各号に掲げる職員の分限については、条例で必要な事項を定めることができる。」

審査請求の方法

審査請求先

 審査請求については、人事委員会又は公平委員会に対してのみすることができます(地方公務員法49条の2第1項)。
 東京都人事委員会の措置要求書の書式は、以下ページからダウンロードできます。
東京都人事委員会 不利益処分についての審査請求

地方公務員法49条の2(審査請求)
1項「前条第1項に規定する処分を受けた職員は、人事委員会又は公平委員会に対してのみ審査請求をすることができる。」

審査請求の期間

 審査請求は、処分のあったことを知った日の翌日から起算して3月以内にしなければなりません。
 また、処分のあったことを知らなくても、処分のあった日の翌日から起算して1年を経過した場合は、審査請求をすることができません。

地方公務員法49条の3(審査請求期間)
「前条第1項に規定する審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3月以内にしなければならず、処分があった日の翌日から起算して1年を経過したときは、することができない。」

不利益処分に関する説明書の交付

 審査請求書には、処分に対する不服の理由を記載する必要があります。不服の理由を記載するには、当該不利益処分がされた事由を知らなければなりません。
 そこで、任命権者は、不利益処分を行う場合には、処分の事由を記載した説明書を交付することが義務付けられています。また、この説明書には、人事委員会又は公平委員会に対して審査請求をすることができる旨及び審査請求をすることができる期間についても記載しなければならないとされています。

地方公務員法49条(不利益処分に関する説明書の交付)
1項「任命権者は、職員に対し、懲戒その他その意に反すると認める不利益な処分を行う場合においては、その際、その職員に対し処分の事由を記載した説明書を交付しなければならない。」
2項「職員は、その意に反して不利益な処分を受けたと思うときは、任命権者に対し処分の事由を記載した説明書の交付を請求することができる。」
3項「前項の規定による請求を受けた任命権者は、その日から15日以内に、同項の説明書を交付しなければならない。」
4項「第1項又は第2項の説明書には、当該処分につき、人事委員会又は公平委員会に対して審査請求をすることができる旨及び審査請求をすることができる期間を記載しなければならない。」

審査請求の結果執るべき措置

 審査請求が受理された場合、人事委員会又は公平委員会は、直ちにその事案を審査しなければなりません。この場合において、処分を受けた職員から請求があったときは、口頭審理を行わなければなりません。審査請求人から口頭審理の請求が行われるのが一般的であり、書面審理が行われるケースは少ないとされています。
 人事委員会又は公平委員会は、審査の結果に基いて、その処分が違法不当であると判断した場合には、これを取り消しまたは修正し、さらに必要があれば是正措置を指示することになります。

地方公務員法50条(審査及び審査の結果執るべき措置)
1項「第49条の2第1項に規定する審査請求を受理したときは、人事委員会又は公平委員会は、直ちにその事案を審査しなければならない。この場合において、処分を受けた職員から請求があったときは、口頭審理を行わなければならない。口頭審理は、その職員から請求があったときは、公開して行わなければならない。」
2項「人事委員会又は公平委員会は、必要があると認めるときは、当該審査請求に対する裁決を除き、審査に関する事務の一部を委員又は事務局長に委任することができる。」
3項「人事委員会又は公平委員会は、第1項に規定する審査の結果に基いて、その処分を承認し、修正し、又は取り消し、及び必要がある場合においては、任命権者にその職員の受けるべきであった給与その他の給付を回復するため必要で且つ適切な措置をさせる等その職員がその処分によって受けた不当な取扱を是正するための指示をしなければならない。」

ABOUT ME
弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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