パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの被害者になった場合には、どのような対応をするのが適切なのでしょうか。今回は、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントへの対処法を解説していきます。

証拠収集
ハラスメントへの対処において、まず重要となるのは証拠です。証拠がない場合、加害者が行為を否定すれば、使用者も対応がとりづらく、軽率に提訴などをした場合には、名誉棄損などを理由に逆に損害賠償請求をされるリスクがあります。
ハラスメントにおいて想定される証拠としては、以下のものがあります。
①録音
→ハラスメント事案で証拠になることが多いのが録音です。相手方の暴言や性的な発言を録音することにより強い証拠となります。
②写真
→被害を受けた際の状況などを写真にとることが考えられます。例えば、暴力を受けた際の傷などを証明することができます。
③診断書
→暴力を受けた場合や、暴言・性的な言動等で精神的な不調が生じた場合には、病院に行き診断書を作成してもらうことが考えられます。
④日記
→ハラスメントは継続的に行われることが多く、その日々の記録を詳細に付けておくがことが重要となります。
⑤メールやLINE、電話の履歴
→加害者からのメールやLINEに暴言や性的な言動が含まれている場合には、これが客観的な証拠となります。また、電話によりこのような言動等があった場合には、電話の履歴により少なくとも電話があったことは証明できることになります。
→被害者が知り合いにメールやLINE、電話により被害を相談する場合もあります。そのような、メールやLINE、電話の履歴等も証拠になります。
また、提訴後は、事業主が内部で保管している文書を提出するように文書提出命令を申し立てる方法があります。
※証拠には強弱があり、様々な事情等も含めて事実が認定されますので、上記①乃至⑤の証拠があっても必ずしもハラスメント行為を立証できるわけではないことに留意が必要です。
上司や窓口への相談
パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを受けた場合には、それを会社内の上司や相談窓口などに相談することが重要となります。
使用者は、労務遂行に関連して被用者の人格的尊厳を侵しその労務提供に重大な支障を来す事由が発生することを防ぎ、又はこれに適切に対処して、職場が被用者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務があります(福岡地判平4.4.16労判607号6頁[福岡セクシュアル・ハラスメント事件])。
そのため、このような相談を受けたら、使用者は適切な対応をするために動いてくれるのが通常です。仮に、使用者が何らの対応も行わないような場合には、使用者責任等を追及していくことが考えられます。
請求・交渉
ハラスメントの行為者や会社に対し、ハラスメント行為をやめることや就業環境を整備すること、悪質な場合には慰謝料等の損害賠償を求めて交渉することが考えられます。
通常は、損害賠償を請求する場合には、内容証明郵便により、ハラスメント行為を特定し、慰謝料の支払い等の一定の行為を求めることになります。
ハラスメント事案について、立証が難しい場合も多く、訴訟に至った場合に認められる慰謝料金額と労力や費用を考慮すると、交渉による解決が適切な場合も多く存在します。
交渉において合意が成立した場合には、合意書を作成することになります。合意書には、慰謝料等の金銭の支払義務と支払方法、謝罪文言、正当な理由がある場合を除き接触や口外を禁止する条項、清算条項等を入れることになります。
訴訟提起
訴訟提起をするときには、加害者に対して不法行為に基づく慰謝料や治療費などの損害賠償請求(民法709条)を、使用者に対して安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)又は使用者責任(民法715条)を追及していくことが通常です。
労働審判
労働審判は、3回の期日で終了し迅速な解決を期待できる手続きですが、あくまでも個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争を解決する手続きです。そのため、ハラスメントを行った上司、同僚などの加害者は、直接の相手方にならず、加害者に対して損害賠償を請求する場合には労働審判を利用せず、訴訟を利用するべきことになります。



労働者災害補償保険
ハラスメントにより精神疾患等で休業することになった場合や自殺に至ってしまった場合、事業主や行為者に対して、訴訟などにより損害賠償を請求しても、これらの者に資力がなければ損害は填補されません。
また、労災保険が認定された場合には、調査資料等の開示を請求できますので、これを訴訟の証拠にすることもできます。
加害者や会社の資力が乏しい場合や休業等の業務起因性につき調査資料を証拠とする場合には、業務災害に遭ったとして労災保険の申請をすることが考えられます。


刑事責任の追及
ハラスメント行為の態様や程度によっては、被害届の提出や刑事告訴による刑事責任の追及を検討することになります。
被害届は被害事実の申告であるのに対して、刑事告訴は被疑事実の申告のみならず行為者に対する処罰を求める意思表示です。
捜査の中では、被害内容を詳細に聞かれることになるため、苦痛を感じることもあるかもしれません。また、加害者が起訴事実を否認する場合には、被害者は公開の法廷での証人尋問を強いられる場合があり、反対尋問等により苦痛を感じる場合もあります。なお、被害者保護制度として、裁判所の判断により、証人への付添いや証人の遮へい、ビデオリンク方式による証人尋問を行うという制度が設けられています。
労働局への相談
都道府県労働局及び労働基準監督署において、総合労働相談センターが設置されています。総合労働相談センターでは、企業の人事労務OB、社会保険労務士、組合役員OB等の企業の人事労務管理の実務家等に相談を行うことができます。
この相談を受けて労働局の職員が使用者を呼び出して事情聴取を行い口頭で助言・指導をする場合があります。
費用をかけることなく迅速に解決したい場合には、このような手段も検討することになります。
