未払残業代・給料請求

医師の宿直-残業代と宿直手当-

 医師は、宿直した場合に残業代や宿直手当を請求することはできるのでしょうか。
 法律上、宿直についてはどのように定められているのでしょうか。
 今回は、残業代と宿直手当について解説します。

宿直の実態

 医療分野の勤務環境改善マネジメントシステムに基づく医療機関の取組に対する支援の充実を図るための調査・研究委員会による「医療分野の勤務環境改善マネジメントシステムに基づく医療機関の取組に対する支援の充実を図るための調査・研究 事業報告書」(平成28年3月)(以下、「平成27年度厚生労働省委託事業 病院アンケート調査結果」といいます。)を見ると、平成27年6月に宿直を行った医師の宿直回数の平均は、「3.2回」とされています。
(出典:平成27年度厚生労働省委託事業 病院アンケート調査結果)

 そして、平成27年6月の宿直1回あたりの拘束時間の平均は「15.2時間」、宿直1回あたりの実労働時間数の平均は「5.3時間」となっています。
(出典:平成27年度厚生労働省委託事業 病院アンケート調査結果)

宿直させる義務

 医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければなりません(医療法16条)。
 もっとも、労働基準法上、1日の労働時間は8時間までとされており、これを超える場合には時間外割増賃金の支払いが必要とされています(労働基準法32条2項、37条1項)。
 そのため、使用者は、医師を宿直させるに際して、このような規制にかかわらず使用することにつき労働基準監督署の許可を受けることになります(労働基準法41条3号、労働基準法施行規則23条)。
 行政通達によると宿直に関する許可基準は、以下のとおりとされています(昭和22年9月13日発基17号、昭和63年3月14日基発150号)。

 規則第23条に基づく断続的な宿直又は日直勤務のもとに、労働基準法上の労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないこととしたものであるから、その許可は、労働者保護の観点から、厳格な判断のもとに行われるべきものである。宿直又は日直の許可にあたつての基準は概ね次のとおりである。
一 勤務態様

イ 常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであり、定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限つて許可するものであること。
ロ 原則として、通常の労働の継続は許可しないこと。したがつて始業又は終業時刻に密着した時間帯に、顧客からの電話の収受又は盗難・火災防止を行うものについては、許可しないものであること。

二 宿日直手当
 宿直又は日直の勤務に対して相当の手当が支給されることを要し、具体的には、次の基準によること。

イ 宿直勤務一回についての宿直手当(深夜割増賃金を含む。)又は日直勤務一回についての日直手当の最低額は、当該事業場において宿直又は日直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われている賃金(法第37条の割増賃金の基礎となる賃金に限る。)の一人一日平均額の三分の一を下らないものであること。ただし、同一企業に属する数個の事業場について、一律の基準により宿直又は日直の手当額を定める必要がある場合には、当該事業場の属する企業の全事業場において宿直又は日直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者についての一人一日平均額によることができるものであること。
ロ 宿直又は日直勤務の時間が通常の宿直又は日直の時間に比して著しく短いものその他所轄労働基準監督署長が右イの基準によることが著しく困難又は不適当と認めたものについては、その基準にかかわらず許可することができること。

三 宿日直の回数
 許可の対象となる宿直又は日直の勤務回数については、宿直勤務については週一回、日直勤務については月一回を限度とすること。ただし、当該事業場に勤務する18歳以上の者で法律上宿直又は日直を行いうるすべてのものに宿直又は日直をさせてもなお不足でありかつ勤務の労働密度が薄い場合には、宿直又は日直業務の実態に応じて週一回を超える宿直、月一回を超える日直についても許可して差し支えないこと。
四 その他
 宿直勤務については、相当の睡眠設備の設置を条件とするものであること。

医療法16条
「医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない。ただし、当該病院の医師が当該病院に隣接した場所に待機する場合その他当該病院の入院患者の病状が急変した場合においても当該病院の医師が速やかに診療を行う体制が確保されている場合として厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。」
労働基準法32条(労働時間)
2「使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」
労働基準法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
「この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」
三「監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」
労働基準法施行規則23条
「使用者は、宿直又は日直の勤務で断続的な業務について、様式第十号によつて、所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は、これに従事する労働者を、法第三十二条の規定にかかわらず、使用することができる。」

宿直手当の金額

 宿直手当の金額は、前記許可基準のとおり、当該事業場において宿直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われている賃金(法第37条の割増賃金の基礎となる賃金に限る。)の一人一日平均額の三分の一を下らないものであることが必要となります。

宿直と時間外割増賃金

 行政通達によると、以下の場合には、時間外労働として取り扱う必要があります。このような取り扱いがなされていない場合には、宿直に関して許可がされません(昭和24年3月22日基発352号、平成11年3月31日基発168号)。
 従って、以下に該当する場合には、その時間については、宿直手当のみならず、時間外労働割増賃金を請求することができます

通常の勤務態様が継続している場合

 通常の勤務時間終了後もなお、通常の勤務態様が継続している間は、勤務から解放されたとはいえません。
 そのため、使用者は、その時間については、時間外労働として割増賃金を支払う必要があります。

突発的な事故等により昼間と同態様の労働に従事する場合

 宿直中に、突発的な事故による応急患者の診療又は入院、患者の死亡、出産等があり昼間と同態様の労働に従事する場合には、その時間については、勤務から解放されたとはいえません。
 そのため、使用者は、その時間については、時間外労働として割増賃金を支払う必要があります。

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日
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