未払残業代・給料請求

農業従事者は残業代を請求できる?-確認すべき4つのポイントを解説-

 農業従事者には、労働基準法の一部の規定の適用が除外されています。農業従事者は、長時間の労働をした場合には、使用者に対して、残業代を請求することはできるのでしょうか。
 今回は、農業従事者の残業代請求について解説します。

農業における労働実態

 農林水産省による農業構造動態調査結果を見ると、販売農家の基幹的農業従事者(仕事として自営農業に主として従事した者)数は、平成30年では145万0500人、平成31年では140万4100人となっており、減少傾向にあります。
農林水産省:農業構造動態調査結果
 また、農業経営体のうち、常雇い数は、平成30年では24万0200人、平成31年では23万6100人となっており、これについても減少傾向にあります。
農林水産省:農業構造動態調査結果

労働時間等に関する規定の適用除外

 労働時間、休憩及び休日に関する規定は、以下の事業(但し林業は除きます)に従事する者には適用されません(労働基準法41条1号)。これらの事業は、天候・季節等の自然条件に強く影響されるためです。

別表第1
六「土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業」
七「動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業」

 従って、1日8時間・1週40時間の法定労働時間、毎週少なくとも1休日の法定休日の規定は、農業・畜産業・養蚕業・水産業に従事する者には適用されません。

労働基準法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
「この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」
一「別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者」

残業代請求の可否

ポイント1:法定時間外割増賃金・法定休日割増賃金は請求できない

 農業・畜産業・養蚕業・水産業に従事する者には、前記のとおり、法定労働時間及び法定休日の規定は適用されないので、法定時間外割増賃金、法定休日割増賃金の請求をすることはできません

ポイント2:主たる業種が食料品製造業の場合

 労働基準法の適用に関して、業種は、事業場ごとに主たる業務が何かにより判断されます
 行政通達では、「農林、水産の事業にあつては、一定の加工設備を有する場所における加工は、第1号とすること。」とされています(昭和22年9月13日基発17号)。
 同一事業場で複数の業務が混在するときは、農業生産、加工、販売を行う農業法人の事業場の主たる業種が食料品製造業と判断された場合、農業生産に従事している労働者にも労働時間等の規定が適用されます
 
 これに対して、同一の経営主体ではあるものの事業場が分かれている場合には、農業生産を行う事業場には労働時間等の規定の適用はありませんが、加工、販売を行う事業場には労働時間等の規定が適用されます
 

 

ポイント3:深夜割増賃金は請求できる

 また、農業・畜産業・養蚕業・水産業に従事する者であっても、午後10時~午前5時までの深夜に労働した場合には、深夜割増賃金を請求することはできます
 そのため、使用者は、午後10時から午前5時までの間において労働させた場合、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

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ポイント4:所定時間外手当は請求できる

 所定時間外や所定休日に労働した場合には、所定時間外手当・所定休日手当を請求することができる余地があります
 所定時間外や所定休日についての賃金の支払いの要否及び数額については、意思解釈の問題です。
 行政解釈は、「原則として通常の労働時間の賃金を支払わなければならない。但し、労働協約、就業規則等によって、その1時間に対し別に定められた賃金額がある場合にはその定められた賃金額で差し支えない」としています(昭和23年11月4日基発1592号)。
 もっとも、これはあくまでも「原則」であるため、労働者と使用者意思解釈から、基本給その他の手当において、所定時間外労働や所定休日労働の対価が含まれている場合には、所定時間外手当・所定休日手当を請求することはできません。
 これについて、管理監督者のような場合には、通常は、その地位にふさわしい待遇を受けていますので、特段の事情のない限り、基本給や各種手当に所定時間外労働や所定休日労働の対価は含まれていると考えられます。
 これに対して、農業・畜産業・養蚕業・水産業に従事する者については、その地位にふさわしい待遇が要件とされているわけではありません。そのため、基本給や各種手当に所定時間外労働や所定休日労働の対価は含まれているとは必ずしもいえないでしょう。

 

法定労働時間と所定労働時間-労働時間・休日の考え方-労働者の労働時間や休日は、法律上どのようになっているのでしょうか。また、使用者において、就業規則等により労働時間や休日を定めた場合、どのような意味があるのでしょうか。今回は、労働時間や休日の考え方について解説します。...

裁判例

高知地判令2年2月28日労判ジャーナル98号10頁[池一菜果園事件]

 「被告らは,被告会社が農業法人であること(労基法41条1号)や,P6が管理監督者に当たること(同条2号)などから,労基法32条が適用されないと主張する。同法41条1号によって農業が同法32条の適用除外とされた理由は,業務が自然的条件に大きく影響を受けるため,画一的な労働時間規制に馴染まないところにあり,同法41条2号によって管理監督者が同法32条の適用除外とされた理由は,その業務が本質的に経営者と一体的なものであることにあって,同条が適用されない結果,同条違反による罰則の適用がなく,同条違反の労働契約に対する強行的直律的効力が生じないということになるが,これを超えて,労働者を無制限に働かせることを容認するものでないことは当然であり,労働者に対する安全配慮義務を包括的に免除するものということはできないというべきである。したがって,実労働時間を確定した上で,労働者の心身の疲労の蓄積を斟酌して,安全配慮義務違反の有無を検討することは不可欠である。」
 「そもそも,同法41条1号の該当性については,被告会社がフルーツトマト等を栽培することを主たる業としており,ハウスにある園芸部の事業は農業を行っているというべきであるが,出荷場はハウスとは離れた場所にあり,総務部,経理部,加工部,出荷部と4部署が設けられ,総務的な業務や,ジュースの加工業を営んでいるものであり,農業とは著しく労働の態様を異にしているというべきであり,労働保険関係も区分して成立されている(争いがない)など,独立性が認められるから,出荷部において勤務していたP6には,同条同号の適用がないというべきである。」
 「また,同条2号の該当性については,P6は,被告P4及び被告P5とは異なり,同族会社である被告会社の持分権を有してはおらず,取締役等の役員の地位にはなく,また,被告P4及び被告P5とは異なり,業務日誌の作成やタイムカードの打刻が免除されているわけでもなく,さらに,その待遇も,基本給19万4800円に管理職手当4万円で,年収311万9200円…にとどまっていたものであるから,およそ管理監督者であるとは認められず,同条同号の適用もない。」
 「したがって,この点についての被告らの主張は理由がない。」

千葉地判平27.2.27労判1118号43頁[農業組合法人乙山農場ほか事件]

 「原告Bは,養鶏業に従事していたものであり,労働基準法41条1号・別表第1第7号に該当し,労働基準法上の労働時間及び休日に関する規定が適用されない。」
 「被告らは,これにより被告会社の就業規則も適用されない旨主張する。しかし,同条の適用除外の定めが強行法規である労働基準法の規制を除外する規定であること,労働基準法92条の文言も就業規則と他の規範との抵触を念頭に置くものと解されることからして,前記適用除外の定めが同条の対象とする「法令」に該当するとは解されない。ただし,労働基準法の適用が除外されることにより就業規則上の規定も同時に除外されることが当該労働契約の前提となっている場合(例えば,昇格により管理監督者となった場合で就業規則の適用対象ともならないことが黙示に合意されていたと解される場合など)には,当該労働契約の合意を根拠として就業規則の適用が排除される場合もあると解される。」
 「そこで検討するに,被告会社の従業員は,その大部分が養鶏業や農業の現業に従事していたと認められる(原告A本人によれば,経理事務の担当は原告Aのほかパートタイム従業員数名しかいなかったと認められる。)ところ,当該大部分の従業員を除外するような就業規則が作成・届出されることも考えがたく,また,各従業員の出退勤がタイムカードで管理されていたことに照らすと,労働時間等を雇用者側で管理しないことを前提とする労務管理の状況にもなかったといえる。そうすると,原告Bの従事していた職務の性質から,当然に被告会社の就業規則の適用が否定されるとはいえず,また,職務が労働基準法の適用除外対象にあったことで,就業規則上の労働時間及び休日に関する規定が適用されないことが個別の雇用契約の黙示の前提となっていたとも解されない。」
 「したがって,上記の被告らの主張は採用できない。」

労基法41条1号の妥当性

 では、労働時間、休憩及び休日に関する規定は、一定の事業に従事する者には適用しないとの労働基準法41条1号は、現在においても、妥当なのでしょうか。

適用を除外する必要性

 労働基準法41条1号の適用が除外される理由は、業務が自然的条件に大きく左右されるため、労働時間を人為的・画一的に規制することが難しいためとされています。
 もっとも、林業については、作業の機械化、労働時間・休日等に関する労使の意識の変化、労務管理体制の整備等により労働時間管理の体制が整いつつあることを理由に、平成5年の労働基準法改正により適用除外から外れています。
 農業についても、技術力が向上していることは同様であり、自然的条件の影響を受ける程度は低下しています。

労働者の保護

 上記労働基準法上の労働時間規制は、労働者の健康を保護する観点からも重要なものです。
 同じく、労働時間規制の適用が除外されている管理監督者では、労働時間の裁量が保障されていることが要件となっています。そのため、労働者の健康についても、一定程度保護されています。
 これに対して、農業・畜産業・養蚕業・水産業に従事する者については、労働時間の規制の適用を除外しても、悪天候や農閑期などに適宜休養が保障されているため、保護に欠けることがないという説明がなされています。
 しかし、行政通達は、一般には、週休制の趣旨にかんがみて就業規則において休日をできるだけ特定させるよう指導することを求めています(昭和23年5月5日基発682号、昭和63年3月14日基発150号)。悪天候の日に休息を行うという不規則な勤務態様は、労働者の健康へ悪影響を及ぼすでしょう。
 更に、平成13年12月122日基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」では、脳心臓疾患の発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働をした場合には、業務と発症との関連性が強いとしています。また、平成23年12月26日基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」では、対象疾病の発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような時間外労働をしていた場合には、心理的負荷の総合評価を「強」としています。これらのことから、農閑期に業務が少なくても、農繁期に長時間の労働を行えば、健康への悪影響があります。
 従って、農業・畜産業・養蚕業・水産業に従事する者の保護が十分ということはできないでしょう。

小括

 以上より、現在においては、労働基準法41条1号の妥当性については、疑問を差し挟む余地があります。
 もっとも、現行法では、このような規定がある以上は、農業・畜産業・養蚕業・水産業に従事する前に、十分に労働条件を確認することが大切です。労働時間や休日、残業代について、雇用契約書や労働条件通知書でどのようになっているかを確認してください。

参考リンク

農林水産省:農業構造動態調査結果

農林水産省・厚生労働省:農業者・農業法人労務管理のポイント 平成31年4月改定

ご存知ですか?~労働基準法の適用について~

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。主な取扱分野は、人事労務、離婚・男女問題、相続、企業法務、紛争解決(訴訟等)、知的財産、刑事問題等。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。
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