不当解雇・退職扱い

解雇と仮処分-地位保全仮処分と賃金仮払仮処分-

 解雇がなされると労働者は、解雇を争っている間、賃金の支払いを受けることができず、生活に窮することになります。解雇を争う場合には、紛争が長期化することもあり、その間の生活費をどのように工面するかが重要な課題となります。労働者が解雇を争っている期間において、生計を維持する手段としては、例えば使用者から賃金の仮払いを受けることが考えられます。
 今回は、不当解雇を争う場合における地位保全仮処分と賃金仮払仮処分について解説します。

保全訴訟とは

 保全訴訟とは、通常訴訟による権利の実現を保全するために、簡易迅速な審理により、裁判所が一定の仮の措置を行う暫定的かつ付随的な訴訟手続です。
 仮処分には、以下の種類があります。

⑴ 仮差押え
 金銭債権者が将来の強制執行を保全するために、債務者の責任財産を仮に差し押さえる手続きです。
⑵ 係争物に関する仮処分
 物に関する給付請求権についての強制執行を保全するためにその現状維持を命ずる手続です
⑶ 仮の地位を定める仮処分
 争いのある権利に関係について、著しい損害や急迫の危険を避けるために仮定的に一定の法律上の地位の実現を命ずる手続です。

民事保全法20条(仮差押命令の必要性)
1「仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。」
2「仮差押命令は、前項の債権が条件付又は期限付である場合においても、これを発することができる。」
民事保全法23条(仮処分命令の必要性等)
1「係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。」
2「仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。」
3「第20条第2項の規定は、仮処分命令について準用する。」
4「第2項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。」

地位保全仮処分と賃金仮払仮処分

不当解雇を争う場合における仮処分の内容

 解雇された労働者が解雇を争う期間における生活を維持するために仮処分を申し立てる場合には、①従業員たる地位を仮に定める仮処分と、②賃金の仮払いを命ずる仮処分を申し立てることが多いです。
 なお、使用者の資力に不安がある場合に執行を保全する目的である場合には、使用者の財産を仮に差し押さえることもあります。

仮処分が認められるための条件

 仮処分が認められるには、①被保全権利と、②保全の必要性が認められることを要します。
 ①被保全権利については、労働契約に基づく従業員たる地位と賃金債権であり、解雇の有効性等が問題となります。
 ②保全の必要性については、仮の地位を定める仮処分では、「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とする」ことを要します。
 従業員たる地位を仮に定める仮処分については、強制執行による実現が予定されておらず、任意の履行に期待するものです。そのため、原則として、賃金の仮払いを命ずれば十分であるとして、保全の必要性が否定される傾向にあります。もっとも、例外的に、社会保険の資格維持や福利厚生施設の利用など賃金以外の事情を考慮して、保全の必要性が肯定される場合があります。
 これに対して、賃金の仮払いを命ずる仮処分については、労働者は賃金を唯一の生計手段とすることが通常であるため、原則として、保全の必要性が認められる傾向にあります。

賃金の仮払いが認められる金額と期間

 仮払いが認められる金額と期間については、裁判所の運用により差があり、事案により様々な判断がなされているところですが、仮払金額は債権者と家族の生活に必要な限度の額、仮払期間は将来分については本案1審判決言い渡しまで(東京地方裁判所では、原則として1年間)とされる傾向にあります。

担保の要否

 裁判所は、保全命令をするにあたり、債権者に担保を立てさせることができますが(民事保全法14条)、労働事件では、担保を立てることはあまり命じられない傾向にあります。

民事保全法14条(保全命令の担保)
1「保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。」
2「前項の担保を立てる場合において、遅滞なく第4条第1項の供託所に供託することが困難な事由があるときは、裁判所の許可を得て、債権者の住所地又は事務所の所在地その他裁判所が相当と認める地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。」

仮処分の手続き

 仮処分の申立てをするには、申立書を裁判所に提出します(民事保全規則1条)。
 地位保全仮処分や賃金仮払仮処分など仮の地位を定める仮処分は、原則として、口頭弁論又は債権者が立ち会うことができる審尋期日を経なければ命じることができません(民事保全法23条4項)。
 裁判所は、申し立てを認容する場合、その目的を達するため、債務者に対し一定の行為を命じ、若しくは禁止し、若しくは給付を命じ、又は保管人に目的部を保管させる処分その他の必要な処分をすることができます(民事保全法24条)。
 仮処分の申立てを認容した命令に対しては、保全異議の申し立てをすることができます(民事保全法26条)。これは、保全命令を発した裁判所に再審査を求めるものです。保全異議に期間の制限はありません。
 仮処分命令を発した裁判所は、債務者の申し立てにより、債権者に対して、相当と認める一定期間内に、本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面を提出し、既に本案の訴えを提起しているときはその係属を証する書面を提出すべきことを命じなければなりません(民事保全法37条1項、起訴命令)。裁判所は、書面の提出がないときは、債務者の申し立てにより、保全命令を取り消さなければなりません(民事保全法37条3項)。
 仮処分命令が上記異議手続や取消手続により取り消される場合、裁判所は、債務者の申立てにより、原状回復の裁判をすることができます(民事保全法33条、40条1項)。賃金仮払仮処分が取り消された場合には、その間に労働者が現実に就労しているなどの事情がない限り、仮払い賃金も原状回復命令の対象になります(最判昭63.3.15民集42巻3号170頁[宝運輸事件])。

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