以前された解雇について不当性を争いたいと悩んでいませんか?
解雇されたばかりの頃は冷静に物事を判断できず気がついたら時間が経ってしまっていたということもありますよね。
結論から言うと、解雇の無効を主張して、現在も従業員であることを確認することについて特に時効の定めはありません。
ただし、無効を確認するだけでなく、賃金や慰謝料、退職金、解雇予告手当の請求をする場合には、これらには時効があります。
また、解雇の無効を確認することに時効はないと言っても、時間が経つとこれを争うことは徐々に難しくなっていきますので、早めに行動することが大切です。
解雇に少しでも疑問を感じたら、その時点ですぐに弁護士に相談するべきでしょう。
今回は、不当解雇の無効確認についての時効や不当解雇の際の各請求権の時効、解雇から長期間経過した後にこれを争うデメリット等を解説します。
具体的には以下の流れで説明します。
この記事を読めば不当解雇をいつまでに争うべきなのかがわかるはずです。
目次
不当解雇自体に時効はない
不当解雇の無効を主張して、現在も従業員であることを確認すること自体については、時効はありません。
無効を前提として現在の地位を確認するものにすぎず、債権的な請求をするわけではないため、特に条文上時効は定められていないのです。
つまり、解雇されてから「1年後」「5年後」であっても、不当解雇の無効を主張して、現在従業員であることを確認すること自体は、時効にかからないのです。
ただし、これから説明していくように、以下の2点には注意が必要です。
①解雇の無効を前提に会社に対して金銭的な請求をしていく場合には、別途消滅時効がある
②不当解雇は、時効にかからないとしても、長期間が経過すると、争うことが難しくなる
不当解雇に関連する各請求権の時効
不当解雇をされた場合には、あなたが現在も従業員であることを確認するだけではなく、会社に対して金銭的な請求もしていきます。
具体的には、以下の4つの請求をすることがあります。
①解雇後の賃金請求
②慰謝料請求
③退職金請求
④解雇予告手当の請求
①については解雇された会社で働く意思があること、③④については解雇の有効性は争わないことが前提の請求です。
それでは、これらの時効を順番に説明していきます。
①解雇後の賃金請求の時効は2年
解雇後の賃金請求の時効は2年です
給料日から2年が経過した部分から順次消滅していきます。
例えば、あなたが2020年1月末に解雇されたとします。そうすると、2020年2月分以降の賃金は支払われなくなります。
末日締め、翌15日払いの場合には、2020年2月分の賃金の支払い日は、2020年3月15日となります。
そのため、2022年3月15日以降は、2020年2月分の賃金は時効により消滅してしまうのです。
他方で、2020年3月分以降の賃金は、2022年3月15日が過ぎてもまだ時効により消滅していないことになります。
このように解雇後の賃金は時効を止めておかないと、請求できる期間は最長でも2年分となってしまうのです。
ただし、労働基準法が改正されたことにより、2020年4月以降が給料日の賃金については、時効が3年とされています。
労働基準法115条(時効)
「この法律の規定による賃金…は2年間…行わない場合においては、時効によって消滅する。」
解雇後の賃金については、以下の記事で詳しく解説しています。
バックペイ(解雇後の賃金)については、以下の動画でも詳しく解説しています。
②慰謝料請求の時効は3年
慰謝料請求の時効は3年です。
慰謝料請求の時効の起算点は、「損害及び加害者を知った時」(民法724条)とされています。
ただし、不当解雇による労働者の権利侵害は継続しているのが通常であるためどの時点から3年を数えるかについては一律に断言できません。
そのため、不当解雇の慰謝料は、解雇日から3年が経過するまでに請求することをおすすめしますが、解雇日から3年が経過した場合であっても請求できる可能性があります。
民法724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。」
一「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。」
二「不法行為の時から二十年間行使しないとき。」
不当解雇の慰謝料については以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇の慰謝料については、以下の動画でも詳しく解説しています。
③退職金請求の時効は5年
退職金請求の時効は5年です。
退職金は、これを請求できる時から5年が経つと時効により消滅してしまいます。
そのため、解雇日から5年以内に請求するように注意しましょう。
ただし、不当解雇の無効を主張する場合には、退職金の請求をすると矛盾してしまうので注意が必要です。
労働基準法115条(時効)
「…この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。」
④解雇予告手当の請求の時効は2年
解雇予告手当の請求の時効は2年です。
解雇予告の申渡日から起算して2年が経過することにより消滅します。
ただし、不当解雇の無効を主張する場合には、解雇予告手当の請求をすると矛盾してしまうので注意が必要です。
労働基準法115条(時効)
「この法律の規定による…災害補償その他の請求権は2年間…行わない場合においては、時効によって消滅する。」
時効期間が近づいている場合にこれを止めるには、以下の手順を試してみることがおすすめです。
まず、会社に対して、賃金や慰謝料等の時効を止めたい請求に係る金銭の支払いを行うように催告をします。
催告をする際には、内容証明郵便に配達証明書を付けて行うと良いでしょう。これにより相手方に催告したことを証拠として残せるためです。
催告をするとその時から6か月間時効の完成が猶予されます(民法150条1項)。
そのため、この間に交渉を行い、交渉が成立しない場合には、例えば、調停や労働審判の申し立て、訴訟の提起などを行うことになります。
長期間経過後に争う場合のデメリット
長期間経過後に不当解雇を争う場合には、時効にかかっていないとしても、デメリットがあります。
デメリットとしては、例えば以下の3つが挙げられます。
デメリット1:信義則違反を主張されることがある
デメリット2:就労の意思を否定されることがある
デメリット3:証拠を集めにくくなる
それでは順に説明していきます。
デメリット1:信義則違反を主張されることがある
長期間経過後に不当解雇を争う場合には、信義則違反と主張される可能性があります。
ある行動により相手方に期待が生じた場合には、その後、これと矛盾する行動により相手方の期待を害することは、信義則(民法1条2項)に反して、許されないとされています。
長期間に渡り解雇を争う姿勢を示さなかったり、この間に解雇が有効であることを前提とした行動をしていたりすると、後から解雇の無効を主張できない可能性があるのです。
裁判例には、①解雇予告手当を受領したこと、②労働者が失業保険の受給をしていること、③仮処分の取り下げから本訴提起まで約1年8か月が経過していることを考慮し、解雇が無効であるとの主張は、これまでの行動と相反するものであり、信義則に反し許されないとしたものがあります(大阪地判平4.9.30労判620号70頁[新大阪警備保障事件])。
デメリット2:就労の意思を否定されることがある
長期間経過後に解雇を争う場合には、就労の意思を否定されることがあります。
解雇が不当である場合に、解雇後の賃金を請求するには、あなたが就労の意思を有していることが必要となります。
あなたに働く意思がなければ、解雇が不当であっても、解雇後に業務ができなかった原因が会社にあるとはいえないからです。
長期間に渡り解雇を争う意思を示さず、業務を指示するように求めるなどしていない場合には、就労の意思がなかったとして、解雇が不当と認められても、解雇後の賃金請求は認められない可能性があります。
デメリット3:証拠を集めにくくなる
長期間経過後に解雇を争う場合には、証拠を集めにくくなります。
不当解雇を争う場合には、解雇理由に関連して事実関係についても多くの争いが生じます。
そして、事実関係について争いが生じた場合には、証拠をもとに正しい事実が判断されることになるのです。
例えば、あなたが業務上のミスをしたと指摘されている場合には、あなたが本当にそのようなミスをしたのか、あなたが改善のための努力をしたのかについての証拠が重要となります。
具体的には、会社から交付された指導書や指導についてのメール、あなたが会社に提出した始末書、あなたが改善のために作成したメモなどを探す必要があります。
しかし、時間が経つにつれてこれらの証拠を探すのは難しくなってしまうのです。
長期間経過後の懲戒処分の可否
会社が長期間経過した後に懲戒処分を行う場合もあります。
例えば、数年前に行った業務命令違反を理由に懲戒処分が行われるような場合です。
懲戒処分を行うことについては、時効はありませんので、懲戒権が消滅することはありません。
しかし、長期間経過後の懲戒処分は、権利濫用として無効となる場合があります。
具体的には、長期間経過後の懲戒処分が権利濫用となるかは、以下の4つの要素を考慮して判断します。
①長期の経過に至った必然性
②その間の当事者の姿勢
③長期の経過による企業秩序の形成
④長期の経過による事実関係の把握の困難
懲戒解雇が事件から7年以上経過した後になされたという事案において、
裁判例は、警察の捜査結果を待って処分を検討していたとの会社の主張について、①事件の内容は職場で就業時間中に管理職に行われた暴行事件であり、目撃者も存在するので捜査の結果を待つ必要はないこと、②捜査の結果不起訴処分とされていることから懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常であることを指摘した上で、懲戒処分を濫用としています(大阪地判平4.9.30労判620号70頁[新大阪警備保障事件])。
不当解雇は早めに弁護士に相談すべき
不当解雇は早めに弁護士に相談することがおすすめです。
先ほど説明したように、不当解雇については、長期間経過後にこれを争おうとすると多くのデメリットがあります。
あなたが不当解雇に疑問を感じた場合には、早めに弁護士に相談することで、これらのデメリットを回避・軽減するための対策を講じることができます。
更に、弁護士に依頼すれば、本来あなたがやるべき会社とのやり取りを丸投げしてしまうこともできます
初回無料相談を利用すれば費用をかけずに相談することができますので、これを利用するデメリットは特にありません。
そのため、不当解雇は早めに弁護士に相談することがおすすめなのです。
まとめ
以上のとおり、今回は、不当解雇の無効確認についての時効や不当解雇の際の各請求権の時効、解雇から長期間経過した後にこれを争うデメリット等を解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・不当解雇の無効を主張して、現在も従業員であることを確認すること自体については、時効はありません。
・不当解雇に関連する請求の時効は、①解雇後の賃金請求は2年(2020年4月1日以降に発生するものは3年)、②慰謝料請求は3年、③退職金請求は5年、④解雇予告手当の請求は2年です。
・長期間経過後に不当解雇を争う場合には、①信義則違反を主張されることがある、②就労の意思を否定されることがある、③証拠を集めにくくなるというデメリットがあります。
この記事が不当解雇をいつまで争えるか悩んでいる方の助けになれば幸いです。
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