労働組合は、使用者との団体交渉により有利な労働条件を獲得することを目的とする団体です。そして、労働組合と使用者が対等な立場で交渉を行うためには、労働組合の組織力が重要となります。そのため、労働組合としては、多くの労働者に加入してもらうために、使用者との間でユニオン・ショップ協定を締結している場合があります。
このユニオン・ショップ協定により、労働組合を脱退した労働者が解雇されるなどの法的問題が生じることがあります。
今回は、ユニオン・ショップ協定に基づく解雇について解説します。
目次
ユニオン・ショップ協定とは
ユニオン・ショップとは、雇入後一定期間内に組合に加入しない労働者又は脱退・除名により組合員資格を喪失した労働者を使用者が解雇することを義務付けた協定です。一般的に、組合の組織強化と統制強化の手段として用いられています。
平成23年労働協約等実態調査の概況によると、ユニオン・ショップに関して、「何らかの規定あり」と回答した労働組合が「64.3%」、「労働協約あり」と回答した労働組合が「61.2%」となっています。
(出典:平成23年労働協約等実態調査の概況)
ユニオン・ショップ協定の効力
では、ユニオン・ショップ協定は有効なのでしょうか。組合に入らない自由、組合選択の自由、雇用の安定との関係で問題となります。
判例は、ユニオン・ショップ協定につき、間接的に労働組合の組織の拡大強化をはかろうとする制度であり、このような制度としての正当な機能を果たすものと認められる場合に限り、有効としています(最判昭50.4.25民集29巻4号456頁[日本食塩製造事件])。
もっとも、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法90条の規定により、無効としています(最判平元.12.14民集43巻12号2051頁[三井倉庫港運事件])。
ユニオン・ショップ協定に基づく解雇
判例では、ユニオン・ショップ協定に基づく解雇は、ユニオン・シヨツプ協定によって使用者に解雇義務が発生している場合に限り、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当なものとして、解雇は有効とされています(最判昭50.4.25民集29巻4号456頁[日本食塩製造事件])。
そして、使用者が、ユニオン・シヨツプ協定に基づき解雇義務を負うのは、当該労働者が正当な理由がないのに労働組合に加入しないために組合員たる資格を取得せず又は労働組合から有効に脱退し若しくは除名されて組合員たる資格を喪失した場合に限定されています。
例えば、除名が無効な場合には、有効に除名されたとはいえませんので、使用者は解雇義務を負いません。
なお、ユニオン・ショップ協定が無効な場合にも、使用者が解雇義務を負うとはいえません。
従って、以下の場合には、ユニオン・ショップ協定に基づく解雇は、無効となる可能性があります。
☑ユニオン・ショップ協定を締結している組合以外の労働組合に加入している場合又は新たな労働組合を結成している場合
☑労働組合に加入しないことにつき正当な理由がある場合
☑労働組合からの脱退若しくは除名が無効な場合
最判昭50.4.25民集29巻4号456頁[日本食塩製造事件]
「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。ところで、ユニオン・シヨツプ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失つた場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化をはかろうとする制度であり、このような制度としての正当な機能を果たすものと認められるかぎりにおいてのみその効力を承認することができるものであるから、ユニオン・シヨツプ協定に基づき使用者が労働組合に対し解雇義務を負うのは、当該労働者が正当な理由がないのに労働組合に加入しないために組合員たる資格を取得せず又は労働組合から有効に脱退し若しくは除名されて組合員たる資格を喪失した場合に限定され、除名が無効な場合には、使用者は解雇義務を負わないものと解すべきである。そして、労働組合から除名された労働者に対しユニオン・シヨツプ協定に基づく労働組合に対する義務の履行として使用者が行う解雇は、ユニオン・シヨツプ協定によつて使用者に解雇義務が発生している場合にかぎり、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当なものとして是認することができるのであり、右除名が無効な場合には、前記のように使用者に解雇義務が生じないから、かかる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会的に相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏づける特段の事由がないかぎり、解雇権の濫用として無効であるといわなければならない。」
最判平元.12.14民集43巻12号2051頁[三井倉庫港運事件]
「ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものであるが,他方、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合(以下「締結組合」という。)の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきである。したがって、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法九〇条の規定により、これを無効と解すべきである(憲法二八条参照)。そうすると、使用者が、ユニオン・ショップ協定に基づき、このような労働者に対してした解雇は、同協定に基づく解雇義務が生じていないのにされたものであるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効であるといわざるを得ない(最高裁昭和四三年(オ)第四九九号同五〇年四月二五日第二小法廷判決・民集二九巻四号四五六頁参照)。」