不当労働行為という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
労働者には、憲法上、団結権等の権利が保障されています。もっとも、使用者が、労働者の団結を阻害しようとすると、労働者と使用者における対等な立場における交渉が困難となります。
そこで、労働組合法は、労働者の団結権等の実効性を確保するために、使用者が労働者の団結権等を阻害するような一定の行為を不当労働行為として禁止しました。
今回は、不当労働行為の種類や救済方法について解説していきます。
目次
不当労働行為制度とは
不当労働行為制度は、労働者の団結権等が阻害されるのを防ぐために、労働組合や労働者に対する使用者の一定の行為を禁止する制度です。
不当労働行為とは、労働組合法上、禁止行為として掲げられている行為をいいます。
全国の労働委員会(全労委)が初審事件として取扱った件数を見ると、新規申立件数は、平成27年は「347件」でしたが、令和元年は「245件」となっており、減少傾向にあります。
(出典:中央労働委員会 不当労働行為事件処理状況)
不当労働行為の種類
総論
不当労働行為の基本的類型としては、①不利益取扱い、②団体交渉拒否、③支配介入の3類型があります。
そして、①不利益取扱いに付属する特別の類型として黄犬契約が、②支配介入に付属する特別の類型として経費援助が、①②③に付加的な特別の類型として報復的不利益取扱いがあります。
労働組合法7条(不当労働行為)
「使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。」
一「労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。」
二「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」
三「労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる複利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。」
四「労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第27条の12第1項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法…による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。」
不利益取扱い
不利益取扱いとは、①「労働者が労働組合の組合員であること」、「労働組合に加入し」、「若しくはこれを結成しようとしたこと」、「若しくは労働組合の正当な行為をしたこと」、②「の故をもって」、③「その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること」です(労働組合法7条1号本文前段)。
「故をもって」とは、不当労働行為の意思を指します。不当労働行為の意思とは、反組合的な意図ないし動機です。
「不利益な取扱い」とは、例えば以下のものです。
⑴ 地位の得喪に関する不利益取り扱い
例1 解雇
例2 更新拒否
例3 本採用拒否(試用期間満了解雇)
例4 休職
⑵ 人事上の不利益取り扱い
例1 (不利益な)配転
例2 (不利益な)出向
例3 (不利益な)転籍
例4 (不利益な)出張
⑶ 経済的待遇上の不利益取り扱い
例1 賃金減額
例2 査定における差別
採用拒否については、労働契約が成立した後の問題ではないため、「不利益な取扱い」にならないのが原則です。しかし、従前の雇用契約関係における不利益取扱いといえる場合には、「不利益な取扱い」に該当する可能性があります(最判平15.12.22民集57巻11号2335頁[JR北海道・日本貨物鉄道[国労]事件])。
<黄犬契約>
黄犬契約による不当労働行為とは、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは脱退することを雇用条件とすること」をいいます(労働組合法7条1号本文後段)。
ただし、「労働組合が特定の向上事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない」とされています(労働組合法7条1号但書)。
団体交渉拒否
団体交渉拒否とは、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」をいいます(労働組合法7条2号)。
「正当な理由がなくて拒む」には、正当な理由のない団体交渉の拒否のみならず、誠実な交渉を行わないことも含まれます。
誠実な交渉を行わないとは、不誠実な交渉態度の継続や行詰まり前の交渉の打ち切りなどをいいます。
支配介入
支配介入とは、①「労働者が労働組合を結成し」、「若しくは運営することを」、②「支配し」、「若しくはこれに介入すること」をいいます(労働組合法7条3号前段)。
「支配」「介入」とは、例えば、以下のような行為をいいます。
⑴ 労働組合の結成に対する支配介入
例1 組合結成のあからさまな非難
例2 従業員への脱退・不加入の勧告
⑵ 労働組合の運営に対する支配介入
例1 正当な組合活動に対する妨害行為
例2 組合幹部懐柔のための買収・供応
例3 別の労働組合の結成援助・優遇
<経費援助>
経費援助による不当労働行為とは、「労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること」をいいます(労働組合法7条3号後段)。
ただし、ⓐ「労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく」、かつ、ⓑ厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる複利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除く」とされています(労働組合法7条3号但書)。
報復的不利益取扱い
報復的不利益取扱いとは、労働者が労働委員会に対し不当労働行為の申立てをしたこと、再審査の申立てをしたこと、または労働委員会における不当労働行為の審査手続(調査・審問・和解)もしくは労働争議の調整手続において証拠を提示しもしく発言をしたことを理由として不利益な取り扱いをすることをいいます(労働組合法7条4号)。
不当労働行為の救済方法
労働委員会による救済
不当労働行為の行政救済手続として、労働委員会に不当労働行為がなされた旨の申し立てをする方法があります(労働組合法27条1項)。
申立てをすることができるのは、①不利益取扱いの場合には、不利益取扱いを受けた労働者とその労働者が所属する労働組合、②団体交渉拒否の場合には、団体交渉を正当な理由なく拒否された労働組合、③支配介入の場合には、支配介入がなされた労働組合とその労働組合に所属する組合員です。
申し立てをすることができるのは、不当労働行為の日から1年です。
労働委員会は、事実の認定に基づいて、申立人の請求に係る救済の全部若しくは一部を認容し、又は申立てを棄却する命令を発しなければなりません(労働組合法27条の12)。
救済命令の内容については、労働委員会に裁量がありますが、「不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るという救済命令制度の本来の趣旨、目的に由来する限界を逸脱することが許されない」とされています(最判平7.2.23民集49巻2号281頁[ネスレ日本(東京・島田)事件])。
労働組合法27条(不当労働行為事件の審査の開始)
1「労働委員会は、使用者が第7条の規定に違反した旨の申立てを受けたときは、遅滞なく調査を行い、必要があると認めたときは、当該申立てが理由があるかどうかについて審問を行わなければならない。この場合において、審問の手続においては、審問の手続においては、当該使用者及び申立人に対し、証拠を提出し、証人に反対尋問をする充分な機会を与えられなければならない。」
2「労働委員会は、前項の申立てが、行為の日(継続する行為にあつてはその終了した日)から1年を経過した事件に係るものであるときは、これを受けることができない。」
労働組合法27条の12(救済命令等)
1「労働委員会は、事件が命令を発するのに熟したときは、事実の認定をし、この認定に基づいて、申立人の請求に係る救済の全部若しくは一部を認容し、又は申立てを棄却する命令(以下「救済命令等」という。)を発しなければならない。」
2「調査又は審問を行う手続に参与する使用者委員及び労働者委員は、労働委員会が救済命令等を発しようとする場合は、意見を述べることができる。」
3「第1項の事実の認定及び救済命令等は、書面によるものとし、その写しを使用者及び申立人に交付しなければならない。」
4「救済命令等は、交付の日から効力を生ずる。」
私法上の救済
⑴ 法律行為の無効
労働組合の組合員に対して行われた不利益取扱いは、不当労働行為として、強行規定(労働組合法7条1号)に違反するので無効になります。
そのため、当該労働者は、裁判所に対して、不利益取扱いの効力が無効であることを前提とした、権利関係上の地位を確認することができます。
⑵ 損害賠償
使用者が不当労働行為を行った場合には、違法な行為として、不法行為(民法709条)となり得ます。
そのため、不利益取扱いや支配介入がなされた場合には、これにより生じた財産的・精神的損害の賠償を請求することが考えられます。また、団体交渉の拒否がなされた場合にも、労働組合としての団体交渉権を否定されたことに基づく社会的評価、信用の毀損による無形の財産的損害の賠償を請求することが考えられます。
⑶ 団体交渉を求めうる地位の確認ないし仮処分
労働組合は、団体交渉が拒否された場合には、使用者又は使用者団体に対して、団体交渉を求めうる地位の確認請求若しくはその地位を仮に定める仮処分申請をすることができます。