スラップ訴訟を提起されて、違法なのではないかと悩んでいませんか?
明らかに不当と感じる訴えであっても、法的に違法と評価してもらえるかどうか、気になりますよね。
結論としては、スラップ訴訟は違法となります。
もっとも、裁判を受ける権利との関係で違法な不当訴訟であるとされるためには、かなり厳格な基準があります。
例えば、スラップ訴訟が違法(不当訴訟)とされるのは、以下の2つのケースです。
ケース1:事実的・法律的根拠を欠き、提訴者がそのことを知ることができた
ケース2:攻撃・威嚇手段としての意図があり、不相当に高額
また、日本では、スラップ訴訟規制法は未だ存在しませんので、スラップ訴訟は民法上の不法行為により規制されることになります。
不当訴訟を提訴された者は精神的苦痛を被ることになりますが、スラップ訴訟の慰謝料相場は50万円~100万円と低額です。
スラップ訴訟の被害者となった場合には、このような不当訴訟を許さないためにも、毅然と対処していかなければなりません。
実は、昨今、スラップ訴訟については社会的にも関心が高まっており、私自身が日々多くの労働事件に関わる中でも直面することが多くなっています。
この記事をとおして、是非、多くの方に、スラップ訴訟は違法となり得ることを知っていただければと思います。
今回は、スラップ訴訟は違法であることを説明したうえで、不当訴訟となるケース2つとスラップ訴訟を規制する法律について解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、スラップ訴訟がどのような場合に違法となるのかがよくわかるはずです。
スラップ訴訟については、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次
スラップ訴訟は違法!不当訴訟となる基準(要件)
スラップ訴訟は違法となります。
もっとも、違法な不当訴訟であるとされるためには、かなり厳格な基準があります。
憲法上、裁判を受ける権利が保障されているためです。
具体的には、判例上、訴訟が違法となるのは、「訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるとき」とされています(最高三小判昭和63年1月26日最高裁判所民事判例集42巻1号1頁)。
裁判所の判旨では「スラップ訴訟」という単語は用いられず、上記の基準に照らし、訴えの提起が違法となるかどうかが判断されるのが通常です。
ただし、訴えが認容されるかどうかと、訴えの提起が違法となるかどうかは別の問題です。
裁判所に訴えを棄却してもらうだけであれば、上記のような厳格な基準を満たす必要はなく、請求に理由がないことを説明すれば足りることになります。
スラップ訴訟が違法(不当訴訟)となるケース2つ
スラップ訴訟が違法な不当訴訟となるケースとしては、例えば、以下の2つがあります。
ケース1:事実的、法律的根拠を欠き、提訴者がそれを容易に知り得た場合
ケース2:威嚇等の手段とするものであり、請求額が不相当に高額である場合
ただし、あくまでも例にすぎず、事案ごとに不当性が柔軟に判断されています。
それでは、各ケースについて、順番に説明していきます。
ケース1:事実的、法律的根拠を欠き、提訴者がそれを容易に知り得た場合
スラップ訴訟が違法となるケースの1つ目は、提訴者の主張した権利等が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起した場合です。
ベーシックなアプローチであり、最高三小判昭和63年1月26日最高裁判所民事判例集42巻1号1頁が例示しているものです。
ケース2:威嚇等の手段とするものであり、請求額が不相当に高額である場合
スラップ訴訟が違法となるケースの2つ目は、攻撃ないしは威嚇の手段として訴訟を用いるとの意図を有しており、本訴の請求額が従来のこの種の訴訟における請求額の実情を考慮したとしても不相当に高額である場合です。
東京地判平成13年6月29日判タ1139号184頁[幸福の科学事件]は、このアプローチによって、訴えの提起が違法となるとしています。
スラップ訴訟規制法は未だ存在しない|民法の不法行為により規制される
日本では、スラップ訴訟規制法は、未だ存在しません。
アメリカでは、現在、30州に加えて、ワシントン特別区及びグアムが、反スラップ法を制定しています。
内容は各州により異なりますが、概ね、事前審理前協議の段階で、特別の訴え却下の申立て又は特別の削除申立ての手続きが定められており、開示手続きを一時停止し、弁護士費用及び訴訟費用の回収やその他の制裁を課す内容となっています。
他方で日本では、アメリカのようなディスカバリー制度がなく、かつ、弁護士費用も着手金報酬金形式が多いため、訴訟に時間がかかったことにより、直ちに弁護士費用が嵩むというわけではないと考えられています。
そして、弁護士費用の回収ということであれば、現行法の民法における一般の損害賠償においても、請求が可能です。
そのため、日本においては、反スラップ法を持ち込む必要性はないとの意見があり、実際にも反スラップ規制法は存在していません。
現状、日本においては、スラップ訴訟を提起された場合には、これを提起した者に対して、民法709条に基づく損害賠償請求として、弁護士費用や慰謝料の請求を行うことになります。
なお、日本においても出頭回数等により弁護士費用を調整する事務所は多いですし、期日が増えれば印刷代や郵送費等の実費が嵩みます。
何よりも、高額な損害賠償請求が認容されてしまうのではないかという不安に長期間晒される精神的なストレスは著しいものです。
また、日本の裁判においては弁護士費用については、実際の金額はかけ離れた低廉な金額しか認容されない傾向にあります。
これらの事情からは、私としては、日本においても、スラップ訴訟を迅速に解決し、かつ、被告になった者に補償を与える制度を模索する必要性はあるものと考えています。
不当訴訟で精神的苦痛!スラップ訴訟の慰謝料相場は10万円~100万円程度
スラップ訴訟の慰謝料相場は、10万円~100万円程度となります。
不当に100万円~150万円程度の請求をされた事案では、いずれも慰謝料として10万円が認められています(黒瀬町事件、N国事件)。
他方で、不当に500万円~6000万円程度の請求をされた事案では、いずれも慰謝料として100万円が認められています(幸福の科学事件、武富士事件、DHC事件)。
そのため、500万円を超えるような不当訴訟となると、慰謝料金額は不当請求の金額に比例しなくなっていることが分かります。
これは、高額な不当訴訟が認容される可能性が低いことについては、提訴された者自身も認識可能であるとして、多額の損害賠償債務を負担するリスクからくる精神的な負担を過大に評価することは困難としているためと考えられます。
例えば、DHC事件は、「応訴の負担等があったものと認められる反面、以上述べたところに照らせば、敗訴の可能性(多額の損害賠償債務の負担)の観点から、原告の精神的な損害を過大に評価することは困難である」と判示されています。
また、慰謝料とは別に、「スラップ訴訟への応訴」と「慰謝料請求等の提訴」に係る弁護士費用も認められる傾向にあります。
ただし、応訴分を含めても認容される弁護士費用は、認容される慰謝料金額の1~2割程度(1万~20万円)にとどまる傾向にあります。
なお、唯一、N国事件は、実際に弁護士に対して支払うことになる金額をベースに丁寧に損害金額を認定しており、68万5600円の弁護士費用が認容されています(控訴審では更に控訴審に対応するために弁護士に支払うこととなった着手金と実費15万円、報酬金8万円の合計23万円も追加で認容されています)。
スラップ訴訟に係る事例については、以下の記事で詳しく解説しています。
違法なスラップ訴訟を提起された場合の対処手順
違法なスラップ訴訟を提起された場合には、適切に対処していく必要があります。
請求が不当なものであることを裁判所に知ってもらうことが出来なければ、正しい判決をしてもらうことはできません。
具体的には、違法なスラップ訴訟を提起されたら以下の手順で対処していくべきです。
手順1:弁護士に相談する
手順2:答弁書を提出する
手順3:スラップ訴訟が根拠を欠くことを説明する
手順4:反訴の提起を検討する
それでは順番に説明します。
手順1:弁護士に相談する
スラップ訴訟を提起された場合の対処手順の1つ目は、弁護士に相談することです。
訴訟の手続きは専門的であり、主張反論を行うに際しても法的な知識が必要となります。
とくに、提起されている訴訟が本当にスラップ訴訟と言われるような不当なものであるかどうかについても、正しい法律知識がないと区別は困難です。
また、訴訟手続きにおいては、矛盾なく一貫した主張を行うことが大切であり、方針を決めたうえで対応をしていく必要があります。
一度行った主張や提出した証拠を撤回することは容易なことではないのです。
そのため、まず一番最初に届いた訴状等を一式もって弁護士に相談に行くようにしましょう。
手順2:答弁書を提出する
スラップ訴訟を提起された場合の対処手順の2つ目は、答弁書を提出することです。
訴訟を提起された場合には、不当な請求だからといって、何も反論せずに無視していると請求が認められてしまうことになります。
そのため、不当な請求をされている場合には、答弁書を提出して、「原告の請求を棄却する」との判決を求めことになります。
手順3:スラップ訴訟が根拠を欠くことを説明する
スラップ訴訟を提起された場合の対処手順の3つ目は、スラップ訴訟が根拠を欠くことを説明することです。
スラップ訴訟が事実的法律的根拠を欠くものであるかどうかについては、原告と被告との間で争いとなるのが通常です。
そのため、原告の主張が事実と異なるようであれば、被告側の認識を主張したうえで、これを裏付ける証拠等を提出していきます。
手順4:反訴の提起を検討する
スラップ訴訟を提起された場合の対処手順の4つ目は、反訴の提起を検討することです。
提起された訴訟につき、容易に請求が認められないことが分かるものであったり、威嚇等の目的で提起されたりしているような場合には、反訴を提起することを検討します。
具体的には、慰謝料や弁護士費用等を請求するかどうかを考えることになります。
スラップ訴訟への対応はリバティ・ベル法律事務所にお任せ
スラップ訴訟への対応は、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
スラップ訴訟への対応は専門性が高く、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。
請求に事実上又は法律上の根拠があるか否か分析したうえで、適切に反論を講じていく必要があり、請求が拡大されることを防ぐために防御を図っていく必要もあります。
リバティ・ベル法律事務所では、スラップ訴訟への対応に注力しており、日々、知識やノウハウを蓄積して、最高の弁護を目指しております。
スラップ訴訟への対応については、相談者の負担を軽減するため、初回相談無料としておりますので、お気軽にご相談ください。
まとめ
以上のとおり、今回は、スラップ訴訟は違法であることを説明したうえで、不当訴訟となるケース2つとスラップ訴訟を規制する法律について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・スラップ訴訟は違法となります。
・訴訟の提起が違法となるのは、「訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるとき」です。
・スラップ訴訟が違法な不当訴訟となるケースとしては、例えば、以下の2つがあります。
ケース1:事実的、法律的根拠を欠き、提訴者がそれを容易に知り得た場合
ケース2:威嚇等の手段とするものであり、請求額が不相当に高額である場合
・日本では、スラップ訴訟規制法は、未だ存在しません。
・スラップ訴訟の慰謝料相場は、10万円~100万円程度となります。
・違法なスラップ訴訟を提起されたら以下の手順で対処していくべきです。
手順1:弁護士に相談する
手順2:答弁書を提出する
手順3:スラップ訴訟が根拠を欠くことを説明する
手順4:反訴の提起を検討する
この記事がスラップ訴訟を提起されて違法ではないか悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。