不当解雇・退職扱い

注意欠如・多動性障害(ADHD)と解雇

 ケアレスミスが多く、注意をしても改善しないことを理由に解雇される場合があります。もっとも、我が国において、解雇の要件は厳格に解釈されていますので、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当といえなければ、解雇は無効になります。
 特に、労働者がミスをする理由が、注意欠如・多動性障害(ADHD)にある場合には、使用者は、これにつき十分に配慮する必要があります。
 今回は、注意欠如・多動性障害(ADHD)と解雇について、解説します。

就業規則上の規定

 ミスが多いことや注意欠如・多動性障害(ADHD)を理由に解雇される場合があります。就業規則などでは、以下のような規定がおかれている会社が多く見られます。

規定例

第〇条(解雇)
労働者がつぎのいずれかに該当するときは、解雇することがある。
① 精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき。
② 勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。

「ADHD」とは

 ADHD」は、発達年齢に見合わない多動-衝動性、あるいは不注意、またはその両方の症状が、7歳までに現れます。学童期の子供には3~7%存在するとされ、男性は女性より数倍多いとされています。男性の有病率は青年期には低くなりますが、女性の有病率は年齢を重ねても変化しないとの報告があります。
 具体的には、以下の類型に分類できます。

⑴ 多動-衝動性優勢型
⑵ 不注意優勢型
⑶ 混合型

 多動-衝動性の症状は、例えば、じっとしていられずいつも活動する、座っていても手足をもじもじする、順番を待つのが難しいなどです。
 不注意の症状は、例えば、うっかりミスが多い、話しかけられても聞いていないように見える、課題や作業の段取りが下手などです。
 多動症状は、一般的には成長とともに軽くなる場合が多いです。これに対して、不注意や衝動性の症状は半数が青年期まで、さらにその半数は成人期まで続くとされています。
 治療は、幼児期や児童期に診断された場合には、薬物療法と行動変容、生活環境の調整が行われることが多いです。薬物療法としては、脳を刺激する治療薬であるアトモキセチンや塩酸メチルフェニデートという薬がおもに用いられます。これに対して、成人については、現在のところ、日本ではADHDの人が服用できる治療薬はないとされています。
厚生労働省:知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス

ADHDを理由とする解雇

 ADHDであること自体を理由とする解雇は、許されるのでしょうか。

不当な差別的取扱いの禁止

 使用者は、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者との間で不当な差別的取り扱いをすることを禁止されています(障害者雇用促進法35条)。そのため、解雇についても、その対象を障害者とすることや、その条件を障害者に対してのみ不利なものとすることは、障害者であることを理由とする差別に該当するため、許されません(障害者差別禁止指針3-12)。
 ADHDは、発達障害ですので、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている場合は、「障害者」に該当します(障害者雇用促進法2条1号、障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則第1条の4第1号、精神保健福祉法第45条第2項)。従って、ADHDであることを理由として解雇することは、差別的取り扱いの禁止に反し、許されません
 ただし、障害者雇用促進法の差別禁止規定については、私法上の効果を定めた規定はなく強行規定になるものではないとされています。そのため、障害者雇用促進法35条に違反することから直ちに解雇が無効であるとはいえません。もっとも、差別に該当する場合には、個々の事案に応じて、使用者の措置や対応が、民法90条に基づき無効となったり、不法行為として損害賠償の対象になったりする可能性があります

解雇権の濫用

 また、労働者がADHDであること以外に解雇の理由がない場合には、その労働者が「障害者」に該当するかどうかにかかわらず、解雇は、「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」といえないため、解雇権の濫用になると考えられます(労働契約法16条)。
 そのため、使用者が、ADHDであることのみを解雇理由にしている場合には、不当な差別的取り扱いの禁止を検討するまでもなく、解雇は無効といえるでしょう。

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小括

 以上より、労働者がADHDであること自体を理由として解雇することは許されません。

障害者差別禁止指針(平成27年厚生労働省告示第116号)

障害者雇用促進法35条
「事業主は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でないものと不当な差別的取扱いをしてはならない。」
障害者雇用促進法2条(用語の説明)
「この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。」
一「障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第6号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。」
六「精神障害者 障害者のうち、精神障害がある者であつて厚生労働省令で定めるものをいう。」
障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則第1条の4(精神障害者)
「法第2条第6号の厚生労働省令で定める精神障害がある者(以下「精神障害者」という。)は、次に掲げる者であつて、症状が安定し、就労が可能な状態にあるものとする。」
一「精神保健福祉法第45条第2項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者」
二「統合失調症、そううつ病(そう病及びうつ病を含む。)又はてんかんにかかつている者(前号に掲げる者に該当するものを除く。)」
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律45条(精神障害者保健福祉手帳)
1「精神障害者(知的障害社を除く。以下この章及び次章において同じ。)は、厚生労働省令で定める書類を添えて、その居住地(居住地を有しないときは、その現在地)の都道府県知事に精神障害者保健福祉手帳の交付を申請することができる。」
2「都道府県知事は、前項の申請に基づいて審査し、申請者が政令で定める精神障害の状態にあると認めたときは、申請者に精神障害者保健福祉手帳を交付しなければならない。」
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令6条
1「法第45条第2項に規定する政令で定める精神障害の状態は、第3項に規定する障害等級に該当する程度のものとする。」
2「精神障害者保健福祉手帳には、次項に規定する障害等級を記載するものとする。」
3「障害等級は、障害の程度に応じて重度のものから1級、2級及び3級とし、各級の障害の状態は、それぞれ次の表の下欄に定めるとおりとする。」

精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について(平成7年9月12日、健医発第1、133号)[参照]
⑦ 発達障害(心理的発達の障害、小児(児童)期及び青年期に生じる行動及び情緒の障害)
 発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が、通常低年齢において発言するものである。ICD-10ではF80からF89、F90からF98に当たる。「精神疾患(機能障害)の状態」欄の状態像及び症状については以下のとおりである。
(a) 知識・記憶・学習・注意の障害
<学習の困難、遂行機能障害、注意障害>
 知的障害や認知症、意識障害及びその他の記憶障害、過去の学習の機会欠如を原因としない学習(読みや書き、算数に関すること)に関する著しい困難さ、遂行機能(計画を立てる、見通しを持つ、実行する、計画を変更する柔軟性を持つこと)に関する著しい困難さ、注意保持(注意の時間的な持続、注意を安定的に対象に向ける)に関する著しい困難さを持つ場合が該当する。
(b) 広汎性発達障害関連症状
<相互的な社会関係の質的障害>
 社会的場面で発達水準にふさわしい他社とのかかわり方ができず孤立しがちである、本人は意図していないが周囲に気まずい思いをさせてしまうことが多い、特に同年代の仲間関係が持てない等の特性が顕著に見られる場合が該当する。
<コミュニケーションのパターンにおける質的障害>
 一方通行の会話が目立つ、冗談や皮肉の理解ができない、身振りや視線等によるコミュニケーションが苦手等の特性が顕著に見られる場合が該当する。
<限定した情同的で反復的な関心と活動>
 決まったおもちゃや道具等以外を使うように促しても拒否する、他者と共有しない個人収集に没頭する等の限定的な関心や、おもちゃを一列に並べる、映像の同じ場面だけを繰り返し見る等の反復的な活動が顕著に見られる場合が該当する。
(c) その他の精神神経症状
 周囲からはわからないが、本人の感じている知覚過敏や知覚平板化、手先の不器用があるために、著しく生活範囲が狭められている場合も該当する。また、軽度の瞬目、咳払い等の一般的なチックではなく、より重症な多発性チックを伴う場合(トゥレット症候群)も該当する。

業務上のミスを理由とする解雇

 では、使用者が、労働者の業務上のミスを理由として、「勤務成績…が著しく不良」として、解雇する場合はどうでしょうか。

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「客観的に合理的な理由」の審査

 成績不良を理由とする解雇が客観的に合理的かにつき、裁判例は、「労働契約上、当該労働者に求められている職務能力の内容を検討した上で、当該職務能力の低下が、当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか否か、使用者側が当該労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か、今後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を総合考慮して決すべき」としています(東京高判平25.4.24労判1074号75頁[ブルームバーグ・エル・ピー事件])。
 そのため、労働者に求められている職務能力の内容を検討した上で、業務上のミスの内容や程度、回数に加えて、十分に改善の機会が与えられていたかどうかを分析する必要があります
 特に、当該労働者が「障害者」である場合については、使用者は、「労働者の障害の特性に配慮した…必要な措置」を講じなければなりません(障碍者の雇用の促進に関する法律36条の3)。そのため、業務改善の機会を与える際にも、ADHDの特性につき十分配慮した、当該労働者が問題点を認識し得るように指摘を行う必要があります

 裁判例は、アスペルガー症候群の事例ですが、以下のように判示しています(京都地判平成28.3.29労判1146号65頁[O公立大学法人事件])
 「一連の原告の行為や態度については、…アスペルガー症候群の特徴としてのこだわり、組織という文脈での状況理解の困難さなどに由来するものとみるべきである。そうすると、仮にそれらの行為や態度が客観的には当然に問題のあるものであったとしても、原告としては、的確な指摘を受けない限り、容易にその問題意識が理解できない可能性が高かったといえる」とし、学長らがアスペルガー症候群につき認識し、基礎的な知識も有していたものと考えられることから、「原告の非難可能性や改善可能性を検討するに当たっては、原告の行為や態度に対して、被告がD学長及びE学部長を通じていかなる対応を採り、上記のような特徴を有する原告に問題意識を認識し得る機会が与えられていたかという点も十分に斟酌しなければならない」としました。
 また、「一般的には問題があると認識し得る行為であっても、原告においては、アスペルガー症候群に由来して当然にその問題意識を理解できているものではないという特殊な前提が存在するのであって、被告から、原告に対して、当該行為が大学教員として問題である、あるいは少なくとも被告は問題があると考えているという指導ないし指摘が全くなされておらず、原告に改善の機会が与えられていない以上、原告には問題行動とみる余地のある行動を改善する可能性がなかったものと即断することはできない」としました。

障害者の雇用の促進等に関する法律36条の3
「事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となつている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。但し、事業主に対して加重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。」

「社会通念上相当」性の審査

 また、成績不良を理由とする解雇が社会通念上相当かは、解雇に先立つ別の職務の提供、合意解約交渉、他の労働者との均衡性などが考慮されることになります。
 そのため、使用者は、労働者のミスが目立つ場合であっても、解雇をする前に、業務内容を変更したり、職種を変更したりすることにより、解雇を回避することが必要となります
 特に、労働者がADHDとの診断を受けたとしても、その症状につき治療・療養により回復する可能性がある場合には、私傷病休職制度が設けられている使用者においては、これを利用する必要があります。私傷病休職制度は、解雇猶予を目的とした制度であれば、このような制度が設けられているにもかかわらず、これを利用せずに労働者を解雇することは解雇権の濫用となる可能性が高いです。
 また、労働者が未だADHDの診断を受けていないとしても、これが疑われるような場合には、使用者は、医師による健康診断を実施するなどしたうえで、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を進めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採る必要があるとされる場合も考えられます。
裁判例には、「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、…精神科医による健康診断を実施するなどした上で…その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであ」る等ととして、解雇を無効としましたものがあります(最二小判平24.4.27裁判集民240号237頁[日本ヒューレット・パッカード事件])。

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