地方公務員の方は、勤務条件等について悩みを抱えている場合には、どの機関に相談すればよいのでしょうか。一般の企業等に勤める労働者の方と同様に労働基準監督署に相談することはできるのでしょうか。
今回は、地方公務員の勤務条件等に関する相談先について解説します。
目次
地方公務員とは
地方公務員とは、普通地方公共団体、特別地方公共団体または特定地方独立行政法人に勤務し、その事務処理に従事することによって、給与、報酬あるいは手当といった対価を得ている者すべてをいうものと解されています。
地方公務員の方の勤務条件等に関する相談先としては、労働基準監督署若しくは人事委員会があります。地方公務員法は、地方公務員の属性により、労働基準監督機関を区分しています。
労働基準監督署に相談できる方
総論
以下の方の労働基準監督機関は、労働基準監督署とされています。
①特別職
②労働基準法別表第1第1号~第10号及び第13号~第15号に該当する職員
③地方公営企業職員、単純労務職員、特定独立行政法人職員
①特別職
特別職には、地方公務員法は適用されません。そのため、これらの者には、原則通り、労働基準法102条が適用され、労働基準監督機関は、労働基準監督署とされます。
特別職は、以下のとおりです(地方公務員法3条3項)
⑴「就任について公選又は地方公共団体の議会の選挙、議決若しくは同意によることを必要とする職」(1号)
⑵「地方公営企業の管理者及び企業団の企業長の職」(1号の2)
⑶「法令又は条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程により設けられた委員及び委員会(審議会その他これに準ずるものを含む。)の構成員の職で臨時又は非常勤のもの」(2号)
⑷「都道府県労働委員会の委員の職で常勤のもの」(2号の2)
⑸「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらのものに準ずる者の職(専門的な知識経験又は識見を有する者が就く職であつて、当該知識経験又は識見に基づき、助言、調査、診断その他総務省令で定める事務を行うものに限る)」(3号)
⑹「投票管理者、開票管理者、選挙長、選挙分会長、審査分会長、国民投票分会長、投票立会人、開票立会人、選挙立会人、審査分会立会人、国民投票分会立会人その他総務省令で定める者の職」(3号の2)
⑺「地方公共団体の長、議会の議長その他地方公共団体の機関の長の秘書の職で条例で指定するもの」(4号)
⑻「非常勤の消防団員及び水防団員の職」(5号)
⑼「特定地方独立行政法人の役員」(6号)
地方公務員法4条(この法律の適用を受ける地方公務員)
1項「この法律の規定は、一般職に属するすべての地方公務員(以下「職員」という。)に適用する。」
2項「この法律の規定は、法律に特別の定がある場合を除く外、特別職に属する地方公務員には適用しない。」
②労働基準法別表第1第1号~10号及び第13号~第15号に該当する職員
労働基準法別表第1は、以下のとおりです。
労働基準法別表第一(第三十三条、第四十条、第四十一条、第五十六条、第六十一条関係)
一 物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装飾、仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊若しくは解体又は材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発生、変更もしくは伝導の事業及び水道の事業を含む。)
二 鉱業、石切り業その他土石又は鉱物採取の事業
三 土木、見直その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
四 道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
五 ドック、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱いの事業
六 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
七 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業
八 物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
九 金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業
十 映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業
十一 郵便、信書便又は電気通信の事業
十二 教育、研究又は調査の事業
十三 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
十四 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業
十五 焼却、清掃又はと畜場の事業
地方公務員法58条(他の法律の適用除外)
3項「労働基準法…第102条…の規定…は、職員に関して適用しない。ただし、労働基準法第102条の規定、…は、地方公共団体の行う労働基準法別表第1第1号から第10号まで及び第13号から第15号までに掲げる事業に従事する職員に…関しては適用する。」
労働基準法102条
「労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。」
③地方公営企業職員、単純労務職員、特定独立行政法人職員
地方公営企業等の職員には、地方公務員法58条は適用されません。そのため、これらの者には、原則通り、労働基準法102条が適用され、労働基準監督機関は、労働基準監督署とされます。
地方公営企業法39条(他の法律の適用除外等)
1項「企業職員については、地方公務員法…第58条(同条第3項中労働基準法…第14条第2項及び第3項に係る部分並びに同法第75条から第88条まで及び船員法…第89条から第96条までにかかる部分(地方公務員災害補償法…第2条第1項に規定する者に適用される場合に限る。)を除く。)…の規定は、適用しない。」
地方公営企業等の労働関係に関する法律附則
5「地方公務員法第57条に規定する単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員であつて、第3条第4号の職員以外のものに係る労働関係その他身分取扱いについては、その労働関係その他身分取扱いに関し特別の法律が制定施行されるまでの間は、…地方公益業法…第39条の規定を準用する。」
地方独立行政法人法53条(職員に係る他の法律の適用除外等)
1項「次に掲げる法律の規定は、特定地方独立行政法人の職員…には適用しない。」
一「地方公務員法…第58条(同条第3項中労働基準法…第14条第2項及び第3項に係る部分並びに同法第75条から第88条まで及び船員法…第89条から第96条までに係る部分(地方公務員災害補償法…第2条第1項に規定する者に適用される場合に限る。)を除く。)…の規定」
人事委員会に相談できる方
①一般職で、②労働基準法別表第1第1号~第10号及び第13号~第15号に該当せず、③地方公営企業職員、単純労務職員、特定独立行政法人職員でない方の相談先は、人事委員会又は人事委員会の委員(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の長)(以下、「人事委員会等」といいます。)となります。
地方公務員法58条(他の法律の適用除外)
5項「労働基準法、労働安全衛生法、船員法及び船員災害防止活動の促進に関する法律の規定並びにこれらの規定基づく命令の規定中第3項の規定により職員に関して適用されるものを適用する場合における職員の勤務条件に関する労働基準監督機関の職権は、地方公共団体の行う労働基準別表第1第1号から第10号まで及び第13号から第15号までに掲げる事業に従事する職員の場合を除き、人事委員会又はその委任を受けた人事委員会の委員(人事院会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の長)が行うものとする。」
人事院委員会等に相談する場合の問題点
人事委員会等に相談する場合の問題点としては、以下の2点が挙げられます。
①地方公共団体内で、割増賃金を支払わないなどの労基法違反が常態化している場合には、労基準監督行政が事実上行われないことがある
②人事院会を置かない地方公共団体の場合、相談先は地方公共団体の長とされていますが、職員に対して使用者の地位にある長が、同時に監督機関の立場を兼ねることになり、監督権限の適正な行使を期待できないことがある
このような場合には、裁判所を用いての問題解決も視野に入れて検討する必要があるでしょう。