不当解雇・退職扱い

暴行・傷害・脅迫行為を理由とする懲戒処分

 労働者は、暴行・傷害・脅迫行為を行ったことを理由として懲戒処分されることはあるのでしょうか。また、懲戒処分が許されるとした場合に、懲戒解雇などの重い処分は許されるのでしょうか。
 今回は、暴行・傷害・脅迫行為を理由とする懲戒処分について解説します。

暴行・傷害・脅迫とは

 暴行とは、人の身体に対する不法な有形力の行使をいいます(刑法208条)。例えば、殴る・蹴るなどの行為のみならず、他人の着衣を掴み引っ張る行為なども暴行にあたります。
 傷害とは、人の身体の生理的機能を害する行為をいいます(刑法204条)。暴行による場合のみならず、暴行によらず病毒を他人に感染させる行為も含まれます。
 脅迫とは、一般に人を畏怖させるに足りる害悪の告知をいいます(刑法222条)。相手方が実際に畏怖したことは必要ありません。
 就業規則では、以下のような懲戒規定がおかれている会社が多く見られます。

規定例

第〇条(懲戒の事由)
1 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停
止とする。
素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
②…
2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第〇条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。
会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事
実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。

③…

刑法204条(傷害)
「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」
刑法208条(暴行)
「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」
刑法222条(脅迫)
1「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」
2「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。」

企業内における暴行・傷害・脅迫を理由とする懲戒処分

総論

 懲戒処分は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、その権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法15条)。
 では、企業内における暴行・傷害・脅迫行為については、どのような懲戒処分が相当なのでしょうか。
 これについて、使用者が解雇の予告なく労働者を解雇できる「労働者の責に帰すべき事由」(労働基準法20条1項但書)として認定すべき事例として、行政通達は(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)は、以下の例を挙げています。

「原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合、また一般的に見て『極めて軽微』な事案であつても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的に又は断続的に盗取、横領、傷害等の刑法犯又はこれに類する行為を行つた場合」

また、国家公務員に関するものですが、人事院が作成した「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職-68)」が参考になります。これによると他の職員に対する暴行・暴言については、以下のように規定されています。

⑸ 職場内秩序を乱す行為
ア 他の職員に対する暴行により職場の秩序を乱した職員は、停職又は減給とする。
イ 他の職員に対する暴言により職場の秩序を乱した職員は、減給又は戒告とする。

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企業内における暴行・傷害を理由とする懲戒処分

 暴行・傷害についての懲戒処分は、以下の要素を考慮し判断します。

① 傷害の有無
② 加害者と被害者の関係
③ 行為態様の悪質性

 暴行・傷害行為に対する懲戒処分の相当性を検討するに当たっては、まず傷害罪に至る程度のものかどうかが重要となります。暴行罪にとどまる範囲であれば、加害者と被害者の関係や行為態様を考慮し、企業秩序の侵害が著しいといえる場合でなければ、懲戒解雇は相当性を欠き無効となるでしょう。
 具体的には、加害者と被害者の関係について、対等な同僚同士のけんかであれば、その態様が特に悪質といえる場合でなければ、懲戒解雇は許されないでしょう
 上司から部下に対しての行為であれば、その職位を利用して部下を暴力で支配していたような場合には、懲戒解雇が有効とされる余地があります
 部下が正当な上司の業務命令に対して暴行をした場合には、企業の組織体制を否定するものであり、懲戒解雇が有効とされる余地があります

福岡地判昭32.7.20労民集8巻4号439頁[三井化学三池染料事件]

 係長の足を引張つたり、歩行中に後から押して行つたことはなるほど有形力の行使には相違ないが、右は…係長が問答の相手になろうとせず巡視を続けるのについいら立ちの余り手を出したものと認むべく、『暴行』というにはその程度も軽少なものであるし、又作業停止を要求して迫つたことについては事の行きがかり上多少粗暴の言辞のあつたことは認められるが、『こんなにわからぬのなら向うに連れて行こう』とか、『つるし上げにするぞ』などという言辞が申請人から発せられたことは確認し難いし、その他特に…係長に対しこれを畏怖せしめる如き言辞や態度があつたことは認められない。他方懲戒解雇は労働者にとつて極刑ともいうべき最終処分であるから、懲戒解雇事由としての『暴行脅迫』の内容としては自ら相当程度のものが予定せられているものと解すべきであり、以上の観点から見るならば右申請人の行為の程度を以て右懲戒事由にいう『暴行、脅迫を加えた』ものに当るとするのは相当でないと考えられる。よつて右申請人の行為は前記第八十六条第十三号後段の懲戒事由には該当しないものというべきである。」

東京地判平11.3.26労判767号74頁[新星自動車事件]】(同僚間)

 「本件解雇は懲戒権の行使としてされたわけであるから、本件殴り合いが本件就業規則一三二条八号に該当する場合であっても、企業の存立ないし事業運営の維持確保を目的とする懲戒の本旨に照らし、本件殴り合いが企業の存立ないし事業運営の維持確保に及ぼす影響や企業秩序に生じた混乱の有無、程度のいかんによっては本件解雇が懲戒権の濫用とされる余地がないではないと解される。」
 「本件においては、平成九年五月三一日朝に起きた本件殴り合いとは、Bが車内において原告を一回殴ったことによって始まったものであるとはいえ、その後車内においては原告が専らBに対し暴行を加えていたのであって、車外に出た後はBが原告に対しヘルメットを使って何回も暴行を加えていたというものであり、要するに、Bと原告のけんかであることは明らかであること…、それにもかかわらず、原告はBとの殴り合いはけんかではなく、Bによる一方的な暴行とそれに対する正当防衛であると執拗に主張し、それを前提にBと和解するに当たってはBが休業損害と治療費を支払うことに固執し、Bがそれを受入れなければ、あくまでも刑事事件として処理するよう求め、本件殴り合いがけんかであることを指摘した上で和解するよう求める…説得を聞き入れようとしなかったため、野方警察署はBと原告との殴り合いを刑事事件として立件せざるを得なくなったこと…、被告も野方警察署からの示唆を受けてBと原告が和解をすればしばらく二人に内勤をさせた後に乗務させようと考えていた…が、本件殴り合いが刑事事件として立件される以上、Bと原告を本件就業規則に則って厳正に処理しなければならなくなったこと…、本件殴り合いは被告の車庫内に停車中のタクシーの車内及び車外において行われた乗務員同士のけんかであり…、本件殴り合いの結果、原告は本件殴り合いが行われた翌日である平成九年六月一日から本件解雇の意思表示がされた同月七日までは…同月四日か同月五日を除いては被告に出社せず、Bは同月一日以降毎朝出勤していたが、被告は本件殴り合いの決着がついていなかったので、Bを乗務させなかった…のであって、被告の乗務員の中では売上げが非常多いBと原告…が乗務しなかったり被告の判断で乗務させなかったりしたことは、Bや原告のみならず被告にとっても大きな損失であったと考えられること、原告は本件殴り合いの直後に警察と救急車を呼んでいるが、本件殴り合いの直後は午前七時すぎころであって…、そのような時間帯にパトカー救急車が被告方に到着したというのであるから、被告の近隣に住む者の耳目をひいたものと考えられること、以上の事実が認められる。」
 「これらの事実によれば、本件殴り合いが企業の存立ないし事業運営の維持確保に及ぼした影響や企業秩序に生じた混乱は決して小さなものとは考えられないのであって、本件殴り合いが本件就業規則一三二条八号に該当することを理由にした本件解雇が懲戒権の濫用であると認めることはできない。」
※傷害の程度について、「原告は目白病院において顔面打撲、右上腕打撲、頸椎捻挫の傷害により全治まで約二週間の治療を要すると診断され、Bは春山外科病院において頭部、顔面、躯幹、両四肢打撲、頚腰挫傷、右手第一指打撲の傷害により約二週間の外来治療を要すると診断された」との事情があります。

名古屋地判平3.7.22労判608号59頁[日通名古屋製鉄作業事件](同僚間) 

「原告は、被告会社ではいまだかつて同僚間の喧嘩を理由に本件のような不利益を伴う処分がされたことはない、原告と」S氏「の間で示談が成立している、などの点を挙げて本件懲戒処分は重きに過ぎ懲戒権の濫用である旨主張する。」
 「しかしながら、先に認定したとおり、原告は」S氏「のした作業指示に逆らって粗暴な行動に出たものであるところ、」S氏「の作業指示には多少批判の余地はあるにしても、特に不合理又は恣意的なものであったとはいえないから、右紛争を同僚間の単純な喧嘩とみるのは相当でなく、したがって、被告が、右両名の間に示談が成立しているとしても使用者として企業秩序維持の観点からこれを放置し得ないと考え、本件懲戒処分を行ったことにも相当の理由があるといわざるを得ず、また、右紛争の原告以外の関係者…に対する処分との対比においても必ずしも本件処分が均衡を失しているとはいえないこと等の事情に照らすと、本件処分をもって異例な処分あるいは過重な処分ということはできない。」
 「原告はまた、被告は、確立した労使慣行に反して、懲戒処分を行うに当たり本人に弁明の機会を与えず、組合の意向も確かめなかったと主張するが、先に認定したとおり、本件懲戒処分に先立って組合側委員も参加した懲戒委員会が開かれており、原告は懲戒委員会の席上においてではないが被告から事情聴取を受けているのであるから、弁明の機会は十分に与えられていたと認められる。」
 「その他、本件懲戒処分は、降格処分を含むとはいえ、情状酌量されて懲戒処分としては最も軽い譴責に留まっていることに照らしても、これを懲戒権の濫用とみることはできず、他にこれを懲戒権の濫用とみるべき事情を認めるに足りる資料はない。」

名古屋地決平6.9.2労判668号26頁[日光陸運事件]】(同僚間)

1 暴力事件の発生
 「債権者は、平成六年二月七日午後一二時三〇分ころ、債務者構内において洗車中の」T氏「を認め、同人の傍らに行って、『あっちこっちで色々言ってくれとるらしいなー』と難詰したことから、」T氏「が『俺に喧嘩を売るのか』などと反発し、互いに大声で罵るなどしているうち、」T氏「が洗車用のゴム手袋で債権者の顔面を払った。そのため興奮した債権者が」T氏「の顔面を手拳で殴り、両者は喧嘩となった。その間」T氏「が付近にあった鉄製アングル材の小片を取り上げて、『これで殴ってみろ』などといって債権者の大腿部付近を叩くようにしたこともあった。喧嘩に気付いた債務者従業員の」I氏、Y氏「が喧嘩を止めに入った。右喧嘩により、」Y氏「は加療七日間を要する顔面打撲の傷害を、債権者は右大腿部打撲の傷害(但し、要加療期間不明)をそれぞれ受けた。」T氏「は、右傷害の治療を受けるため従事していた仕事を打ち切り、その日は休養を取ることになった。」
2 本件暴力事件の態様
 「債権者は、本件暴力事件において、…執拗な暴力、挑発を受けたが、防御的態度に終始していた旨主張し、債権者の陳述書の供述記載及び本人の供述中にはこれに沿う部分があるけれども、…採用し難い。却って、これら疎明によれば、本件暴力事件の発端は債権者の言動にあったこと、互いに大声で罵り合うことはあったにしても、前認定の暴行のほかに有形力の行使としていずれの側からも、さほど顕著あるいは執拗な暴行があった事実は認められないこと、また、」T氏「の鉄製アングル材の小片による暴行も、挑発的な意味合いの濃いものであって、強力な打撃を加えようとしたものでなかったこと、」T氏「の受けた傷害の程度は前記のとおりであるが、債権者の受けた傷害の程度も、本件暴力事件の二、三時間後に債権者も加わって行われた組合から債務者に対する団交の申入れの際にも、何ら話題となっていないことなどからすると、さほど重大なものではなかったことが一応認められる。」
3 懲戒権の濫用
 「本件解雇についてみるに、本件暴力事件における債権者の行為が債務者の懲戒解雇事由に該当することは前叙のとおりであるけれども、前認定のとおり、本件暴力事件の態様も執拗悪質とまではいえないものであり、結果も比較的軽微にとどまったこと、債権者が本件暴力事件に及んだことについては、前回解雇和解成立以後の職場の雰囲気が債権者の不満感を欝積させるようなものであり、これが本件暴力事件発生の一つの契機となったことが窺えること、債権者の長年にわたる勤務態度は概ね良好で、処分歴もないこと、一方、前回解雇以降、とりわけ前回解雇が当裁判所の和解により解決し、債権者が職場に復帰して以降の債務者の債権者に対する応接態度は、必ずしも和解の趣旨を十分に生かしたものといえないものであったこと、そして懲戒解雇処分の重大性等を総合勘案すると、本件(懲戒)解雇は債権者の非違行為に比して過酷な処分といわざるを得ず、権利の濫用として無効というべきである。」

大阪地判平8.9.30労判712号59頁[日本周遊観光バス事件](同僚間)

1 I氏との喧嘩について
 「平成二年一二月二一日午前八時ころ、原告が被告の営業所運行管理課窓口で同課の」T氏「と話をしていた際、」I氏「が、原告の頭ごしに、道路公団通行証を運行管理課の窓口に返還したことから、原告と」I氏「とが口論となり、更にもみ合いとなって、原告が」I氏「の左肩を押して転倒させ、」I氏「に加療五日の傷害を負わせたこと、なお、その際、被告は、今後の乗務に支障が生じないようにするため,両名に話し合いの機会を設けさせたところ、両名の間で一応の解決を見たことから、この件について両名を処分することなく、社長を通じて両名に注意を与えるにとどまったことを認めることができる。」
 「右事実によれば、原告は、」I氏「と口論し、もみ合いとなって暴行を加え、」I氏「に傷害を負わせたのであるから、原告の右行為は、就業規則一〇九条一四号にいう『会社の風紀を害し又は秩序を乱したとき』に該当するというべきである。」
2 O氏との喧嘩について
 「原告は、平成四年一月二三日午前六時すぎころ、被告営業所運行管理課窓口で、バスの修理依頼をしていたが、」O氏「が出庫前の点呼をとるため、原告をその場から離れさせるつもりで『点呼や。』と言ったところ、原告は、これを無視するような態度を示し、」O氏「の顔を見つめていた。そのため、原告と」O氏「とは口論になり、いったんその場は収まったものの、点呼終了後、再び口論になり、その際、」O氏「が原告の襟をつかむ暴行を加え、原告に加療五日間を要する頸椎捻挫の傷害を負わせた。被告は、今後の乗務に支障が生じないよう、原告と」O氏「とを和解させ、両名を処分することもなかった。」
 「右事実によれば、原告は、」O氏「の暴行により傷害を負うなど被害が大きかったが、職場において、」O氏「との間において、口論をなしたのであって、右口論をなすについては、原告にも非難されるべき事情があるというべきであるから、原告の右行為は、就業規則一〇九条一四号にいう『会社の風紀を害し又は秩序を乱したとき』に該当するというべきである。」
3 解雇権の濫用
 「まず、原告と」I氏「との喧嘩は、」I氏「にも責任があり、原告のみを非難することはできないし、また、」O氏「との喧嘩についても、」O氏「の責任を否定することもできない。しかも、これらの事件に対する被告の対応も、今後の円滑な乗務を確保するため、事件を穏便に解決しようと、関係者に対する処分はしていない。したがって、原告の右行為が就業規則一〇九条に該当するとしても、原告のみを非難すべきではないということができる。」
 「以上によれば、原告の右各行為につき、これを総合考慮しても、被告が諭旨解雇をもって処分したのは、重きに失し、相当性を欠くということができるので、本件解雇は、解雇権の濫用として無効であるというべきである。」

大阪地判平19.8.30労判957号65頁[豊中市不動産事業協同組合事件]】(上司→部下)

1 暴行等の態様
 「原告は,被告の事務局長として,他の職員に対し,その人格を尊重し,誠意をもって指導すべき立場にあったにもかかわらず,勤務時間中に事務所内で,事務職員Bに対し,手で肩を1回突くという暴行を加え,侮辱的な内容を大声で怒鳴り続けた上,Bに向かって走り込み,その身体に蹴り掛かるという暴行を加え,これらの暴行によってBに加療7日間を要する右大腿部及び右肩打撲の傷害を与えた。」
 「本件事件におけるBの言動は,原告から話に割り込まないように大声で怒鳴られたことから,気分が悪いから帰るなどと言い,原告から肩を1回突かれ,大声で怒鳴り続けられた後に『本音を吐いたわね。』などと言ったというものであり,原告の言動に照らし,特に非難すべき点があるとは認められない。」
 「Bは,それまでにも原告から大声で怒鳴りつけられ,罵られたことが何回かあり,本件事件での原告の言動によって,著しい精神的苦痛を被り,原告に対して恐怖心を持った。」
 「原告は,被告の事務職員として雇用された後,他の事務職員に対し,大声で怒鳴りつけたり,罵倒したりして,他の事務職員との和を乱すことが度々あり,事務局長に就任した際も,乙山理事長から,このような行為がないように諭されていた。」
 「原告は,本件事件の直後,乙山理事長らに対し,Bに対する暴行等を認める趣旨の話をしていたが,その後,これを否定するようになった。また,本件解雇までの間に,Bに対して本件事件に関して謝罪の意を示していない。」
2 懲戒権の濫用
 「本件事件における原告の言動は,就業規則における懲戒事由である『素行不良,及び性的な言動など風紀秩序を乱したとき』(38条3号),『金銭の横領等その他刑法に触れるような行為をしたとき』(38条7号)に該当するものである。」
 「そして,前記…のとおり,本件事件における原告の言動,Bの被害状況,原告の当時の職責,本件事件までの原告の同僚に対する言動,本件事件後の被告に対する言動等に照らすと,原告が,被告の事務職員として3年以上精勤して,職務熱心で,事務処理能力が高いと評価されていたこと,本件事件までに懲戒処分を受けていないことなどを考慮しても,原告に対して諭旨退職の懲戒処分をしたことが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当性を欠くものとは認められない。」

東京地判平4.9.18労判617号44頁[エス・バイ・エル事件]】(部下→上司)

1 暴行の態様等
 原告は総務部の女性に執拗に交際を申し込み、女性を困惑させていたところ、上司からこれを辞めるように注意されるなどした。
 「激昂した原告は…次長の机を手でたたくなどしていたが、突然『なめるのか。』と言いつつ、…次長のネクタイの結び目付近を片手でつかみ、…次長の体が椅子から浮き上がるほど、上方向に力いっぱい引っ張った。そして、同室にいた…部長ら三名がようやく原告を…次長から引き離したが、なお大声を出して…次長につかみかかろうとした。」
2 懲戒権の濫用
 原告の本件暴行は決して偶発的、一過性のものではなく、原告の独善的かつ極端に激しやすい性格に根ざしたものであるといわなければならない。そして、右各事実によれば、原告は本件の前にも何回かその協調性のなさや独善的性格について注意を受けていたにもかかわらず、悪いのは自分ではなく…支店長ら上司であるなどとして全く反省せず、かえって、同支店長らに対する憎悪を募らせていたことが認められるのであるから、被告が原告の性格が改善不能であると考えるのはもっともであり、また、原告の本件暴行が原告のこのような性格に根ざしている以上、今後とも同様の事態が発生することは十分予想されるのであるから、懲戒処分のうち、解雇という手段を選択したことはやむを得ないというべきであって、被告が前記のとおりの調査等をしたうえ本件処分に及んだことをも考慮すると、本件処分が懲戒権の濫用に該当するということはできない。」

大阪地堺支決平3.7.31労判595号59頁[南海電気鉄道事件]

1 暴行の態様等
 「助役は…盆の上にラーメンを載せ、詰所に戻るべく食堂を出たところ、申請人が近づいてきたので、申請人に対し『なによう』(『何やねん』という意味)と声をかけた。申請人は…助役に対し、…『みんなが飯を食わんと頑張っているのに、ワガ飯食えていいなあ』と言ったところ、…助役が『お前に指示されんならんことはない』『殴るやったら殴ってみろ』と言った。申請人は…助役の言葉を聞き、興奮して…助役の開襟シャツの襟首を両手でつかみ二回振り回し(このため開襟シャツ第一ボタンがちぎれた)、その姿勢のまま右膝で…助役の左大腿部を蹴った。なお、申請人が…助役の襟首をつかんで振り回したはずみで、…助役が持っていたお盆から漬物が入っていた小さな容器を除いて、中華そばやご飯などがすべて路上に落ちた。」
 「助役は、申請人の暴行に対し『何をするんや』と抗議をし、騒ぎを聞いて食堂の従業員…らが出てきたので、同女らに『証人になってや』と言った。さらに…助役は、腹立ち紛れに、申請人に対し『食事代弁償せいや』と突っかかった。申請人はこの言葉を耳にして、一万円札を…助役の開襟シャツのポケットに入れようとしたが、…助役は受け取らなかった。その直後ころ、入換係員詰所の者が…助役に対し電話がかかっている旨告げたので、…助役はその場を離れ、詰所に向かった。」
 「助役は、同日午後一二時半ころまで千代田車庫で仕事をしたのち、堺東支区に戻り、会社側から本件につき事情聴取を受け午後五時半ころ退社した。翌一〇日午前高石市羽衣にある南海研修所で英会話教室に行き、午後、堺市大浜北町所在の会社指定病院の阪堺病院に行って、医師の診察を受け、『七月一〇日より一週間の通院加療を要する左大腿部打撲』との診断書の交付を受けた。同日夜、申請人が…分会長に付き添われて…助役の自宅に謝罪のため訪れたが、助役は会わなかった。…助役は以後、医師による治療を受けていない。」
2 懲戒権の濫用
 「申請人の行為は、安易にこれを容認できないものであることはいうまでもないけれども、暴行の態様としては比較的軽い部類に属するものであり、かつ傷害の結果も日常生活に影響を及ぼさない軽微なものと認められるうえ、右行為に至る事情にしても、ありていにいえば、当日申請人は早朝から生じた列車の遅れを取戻すべく回復運転等神経を使う業務に従事しつつ、普段と違って朝食のとれないまま次の乗務を控えて心せかれる思いをしていた折から、たまたま早めに食事を確保せんとしていた…助役を見て立腹し、さらに…助役の挑発的な言葉に興奮して、思わず手と足が出てしまったというのが真相に近いものと思われるのであって、偶発的な色彩が濃く、しかも短時間で収拾された結果職場内にもさしたる混乱をもたらさなかったものと認められ、そうだとすれば、申請人がこれまで必ずしも申し分のない運転士とはいえず、上司から言葉遣いや服装等でたびたび注意指導を受けていたこと…等申請人につき不利な事情(被申請人は、申請人が審尋等で暴行を否認するなど反省の態度が見られないというが、申請人が当初暴行を認めたのはその程度では懲戒解雇になるとは思わなかったためで、乱暴した事実を深刻に受け止めなかった点は問題ではあるが、これが申請人の予想に反し懲戒解雇という厳しい処分に直面した以上は、これを不当処分として自己の権利を守るべく最大限に抗争せんとするのはやむをえないものがあるのであって、右抗争態度をことさら申請人に不利な事情として重視するのは相当でない。)を考慮しても、申請人に対し、賞罰規程第一五条(5)にいう『会社内において、傷害、暴行等の行為があった』という理由で懲戒解雇に及ぶことは、その処分に至る事実の評価が過酷に過ぎ、その情状の判定、処分の量定等の判断を誤ったものというべきであり、結局、その処分が客観的妥当性を欠くが故に、賞罰規程適用の誤りとして、懲戒解雇は無効と解するのが相当である。」

企業内における脅迫を理由とする懲戒処分

 脅迫行為についての懲戒処分は、以下の要素を考慮し判断します。

① 脅迫の態様
② 脅迫の内容
③ 脅迫の動機
④ 脅迫行為を行った者の地位

 単純な脅迫行為の場合には、懲戒解雇は相当性を欠くとされる傾向にあります。もっとも、度重なる脅迫行為により職場秩序を維持することができないほど著しく職場秩序が害されている場合には、例外的に懲戒解雇も有効とされる余地があります。

大阪地決平5.9.27労判643号37頁[医療法人南労会(第1)事件]

1 脅迫行為等
 「債権者は、平成四年七月一一日午前九時三〇分ころから数度に亘り、診療所三階で勤務する…事務長に対し、『組合の勤務案では、…医事科の担当になっているからおりてこい。おりてこないなら、患者向けにそのことを掲示する。』旨電話をかけ、午前一〇時三〇分ころ、一階受付のカウンターに『(本日の)会計業務は担当の…事務長が業務拒否を行なっているためにとどこおっています。誠に御迷惑おかけして申し分けありませんが、支払は次回にして頂く場合もありますので悪しからず御了承下さい。』と記載した紙を貼り出した。そして、…午前一一時ころ一階受付に来たため、債権者は右掲示を受付カウンターから剥して受付内の掲示板に張り直した。」
2 懲戒権の濫用
 「以上検討したところによれば、…誹謗中傷が出勤停止事由に…該当すると解されるが、これらを併せても懲戒解雇事由に該当するということはできない。」
 「したがって、本件解雇はその解雇事由を欠き、無効である。」

東京地判平15.9.22労判870号83頁[グレイワールドワイド事件]

1 脅迫行為等
 「原告が就業時間中に被告の取引先や競合会社の従業員を含む友人らに送信した私用メールの中には,被告が行った人事についての不満や,『アホバカCEO』,『気違いに刃物(権力)』など上司に対する批判が含まれていることが認められる。」
 「私用メールの送受信行為自体が直ちに職務専念義務違反にはならないとしても,その中で上記のような被告に対する対外的信用を害しかねない批判を繰り返す行為は,労働者としての使用者に対する誠実義務の観点からして不適切といわざるを得ず,就業規則35条1項5号に該当する。」
2 上司を批判する行為等が解雇事由になる場合
 「労働者が上司を批判することについては,これが一切許されないというわけではなく,その動機,内容,態様等において社会通念上著しく不相当と評価される場合にのみ解雇事由となり得るものと解される。」
3 解雇権濫用
 「本件解雇が解雇権の濫用にあたるか否かを検討するに,…原告が,本件解雇時まで約22年間にわたり被告のもとで勤務し,その間,特段の非違行為もなく,むしろ良好な勤務実績を挙げて被告に貢献してきたことを併せ考慮すると,本件解雇が客観的合理性及び社会的相当性を備えているとは評価し難い。」
 「したがって,本件解雇は解雇権の濫用にあたり無効である。」

大阪地判平8.7.31労判708号81頁[日本電信電話(大阪淡路支店)事件]

 従業員が同僚や上司に対して、度重なる恐喝、脅迫、強要、嫌がらせ電話等を行った事案について、
 同裁判例は、「原告には、被告就業規則所定の各懲戒事由に該当する事実があり、かつ、その行為の内容及び態様並びにその回数も、尋常ならざるものがあるので、被告において、原告に対し、懲戒処分として、極刑ともいうべき懲戒解雇を選択する余地も十分にあったというべきところ、被告は、原告に対し、論旨解雇をなすに止め、原告に対し、退職金の八割を支給すること(この点は、被告会社の認めるところである)としたのであって、本件解雇をもって、過酷と言うべき事情はなく、処分の公平・適正のいずれの観点からみても、これを違法無効と言うことはできない。また、以上によれば、本件解雇が解雇権の濫用であると言うこともできない」と判示しました。

大阪高判平11.6.29労判773号50頁[大和交通事件]

1 脅迫行為等
 「被控訴人は、…労組委員長として、三次にわたる違法な本件スト(ピケ)や違法なタクシーパレードを企画、指導、実行した責任を免れない…。…労組員による奈良駅タクシー乗り場での営業妨害についても、被控訴人は幹部責任を免れない…。」
 「被控訴人は、」N氏「に対し、前示のとおり、『元盗人、わしは元暴力団や、なめたらただでおかんぞ』と暴言をはいて、」N氏「のネクタイを掴み引っ張るなどして、暴行、脅迫に及んでいる…。」
2 懲戒権濫用
 被控訴人の前示各行為は、当該行為の性質、態様、情状、控訴人の事業の種類、規模、経営方針、被控訴人の会社における地位、職種等、諸般の事情から総合的に判断して、右行為により控訴人の企業秩序、社会的評価に及ぼす影響が相当重大なものであると認められる。」
 「それ故、控訴人(会社)が、被控訴人に対し懲戒処分をするに際して、諸般の事情を総合して懲戒解雇処分を選択し、出勤停止としなかったからといって、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量を濫用したものとは認められない(なお、最判昭和五二・一二・二〇民集三一巻七号一一〇一頁参照)」
 「以上のとおりであるから、被控訴人に有利な前示(一)(5)の事実を考慮しても、被控訴人の前示違法な争議行為に関連してなされた前示各行為を懲戒解雇事由とする本件懲戒解雇が、懲戒解雇処分としての相当性を欠くものとは認められないし、懲戒解雇権の濫用により無効であるともいえない。」

企業外における暴行・傷害・脅迫を理由とする懲戒処分

 私生活上の非行については、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類、態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、当該行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合には、懲戒処分の対象となることがあります(最判昭49.3.15民集28巻2号265頁[日本鋼管事件])。
 これについて、使用者が解雇の予告なく労働者を解雇できる「労働者の責に帰すべき事由」(労働基準法20条1項但書)として認定すべき事例として、行政通達は(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)は、以下の例を挙げています。

「事業場外で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為であつても、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失ついするもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合」

 また、国家公務員に関するものですが、人事院が作成した「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職-68)」が参考になります。これによると公務外における横領行為については、以下のように規定されています。

3 公務外非行関係
⑶傷害
人の身体を傷害した職員は、停職又は減給とする。
⑷暴行・けんか
暴行を加え、又はけんかをした職員が人を傷害するに至らなかったときは、減給又は戒告とする。

 以上より、業務外における暴行・脅迫行為については、使用者の名誉や使用者との信頼関係に影響を与えるものであったとしても、原則として、減給又は戒告の懲戒処分にとどめるべきです。
 また、傷害に至った場合でも、懲戒解雇が許されるのは、使用者の名誉を侵害する程度や使用者との信頼関係を破壊する程度が著しい場合など、例外的な場合に限られるというべきでしょう。

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