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同一労働同一賃金の原則-正社員との不合理な待遇差がある場合-

 現在、わが国では非正規雇用労働者の増加に伴い、正規労働者との間の格差が問題となっています。そのような中で、正規労働者と非正規労働者との待遇差を是正する考え方として同一労働同一賃金というものがあります。近時、同一労働同一賃金のもとに格差を是正する規定も整備されてきました。今回は、同一労働同一賃金の原則について解説します。

同一労働同一賃金の原則とは

 同一労働同一賃金の原則とは、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
厚生労働省:同一労働同一賃金特集ページ
 そして、同一労働同一賃金のスローガン下で推進され、2018年働き方改革関連法によって実現した規定が、均衡・均等待遇規定です。

従前の均衡・均等待遇規定と判例

均衡待遇規定

 従前(2012年改正)の労働契約法は、有期雇用労働者の労働契約の内容である労働条件が、①期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働条件と相違する場合においては、②当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容および当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容および配置の変更の範囲その他の事情を考慮して不合理と認められるものであってはならないと規定していました。
 ①「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいいます(最二小判平30.6.1民集72巻2号88頁[ハマキョウレックス事件])。
 ②「不合理」の立証責任については、不合理であるとの評価を基礎づける事実は違反を主張する者が、不合理であるとの評価を妨げる事実については違反を争う者が主張立証するべきとされています(最二小判平30.6.1民集72巻2号88頁[ハマキョウレックス事件])。また、「その他の事情」として、有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることが考慮されます(最二小判平30.6.1民集72巻2号202頁[長澤運輸事件])。定年退職者の再雇用者は長期雇用が予定されていないこと、定年退職まで無期契約労働者として賃金の支給を受けてきたこと、一定の要件を満たせば老齢厚生年金を受給も予定されていることが理由です。
 均等待遇規定に反する労働条件は無効となります。無効となった部分の労働条件部分については、関係の就業規則の合理的解釈によって補充される場合もありますが、有期契約労働者と無期契約労働者間で就業規則が別個に作成されている場合には、そのような解釈はできません。ただし、同規定の違反は不法行為となり、賃金差額の損害賠償請求が可能です(最二小判平30.6.1民集72巻2号88頁[ハマキョウレックス事件])。

労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度…、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条(短時間労働者の待遇の原則)
「事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業所に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度…、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」

【最二小判平30.6.1民集72巻2号88頁[ハマキョウレックス事件]】
 全国規模の運送会社における正社員と契約社員間の賃金制度の相違が、均等待遇規定(労働契約法20条)に反するとして、差額の賃金請求等(予備的に不法行為に基づく損害賠償請求)がされた事案です。
 正社員は、転勤・出向ありで、年齢給+職能給、諸手当、一時金、退職金を支給されていました。これに対して、契約社員は、就業場所の変更がなく、6カ月の有期契約で、時給1150円に加えて、通勤手当を支給されていました。
 同判例は、通勤手当の差異(正社員5万円限度、契約社員3000円限度)、無事故手当、作業手当、休職手当、皆勤手当(1万円)の不支給を不合理としました。これに対して、住宅手当は、正社員が転居を伴う移転が予定されているので、それがない契約社員に比し住宅に要する費用が多額となりうることを理由に、正社員のみの支給を不合理でないと判断しました。

【最二小判平30.6.1民集72巻2号202頁[長澤運輸事件]】
 運送会社において、定年後再雇用されて正社員と同じ運転業務に従事し配転義務にも服する嘱託社員と正社員間の賃金の相違が、均等待遇規定(労働契約法20条)に違反するとして、差額の賃金請求等(予備的に不法行為に基づく損害賠償請求)がされた事案です。
 正社員の給与は、基本給(在籍給と年齢給)、能率給、職務給、精勤手当、無事故手当、住宅手当、家族手当、役付手当、超勤手当、通勤手当、賞与、退職金により構成されていました。これに対して、嘱託社員の給与は、基本賃金、歩合給、無事故手当、調整給、通勤手当、時間外手当から構成されています。同社は組合との協議で、定年退職者の再雇用に関して、基本賃金10万円、歩合給一律10%、無事故手当1万円等とする労使協定を締結しています。
 判例は、定年後の再雇用であるという事情を考慮した上で、以下の判断をしました。
 正社員は基本給(在籍給と年齢給)、能率給および職務給が支給されるのに対して、嘱託再雇用者は基本賃金および歩合給が支給される点につき、それらの合計額の差が2%~12%にとどまること、嘱託再雇用者は一定の要件を満たせば老齢厚生年金が支給されること、その支給までの間は2万円の調整給が支給されることとなったことから、不合理とはいえないとしています。
 正社員のみに住宅手当及び家族手当を支給することについては、正社員に幅広い世代がおり住宅費および家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由があるため不合理ではないとしました。
 役付手当正社員中の役付者に支給されるもので、嘱託者へ支給しないことも不合理ではないとしています。
 正社員のみに賞与を支給することも、嘱託者は老齢厚生年金の支給ないし調整給の支給を受けることが予定されること、嘱託者の賃金は定年退職前の79%なることが想定されていることから不合理ではないとしました。
 もっとも、精勤手当の不支給および同手当の時間外手当の基礎への不算入は、運転手に対する精勤手当の奨励という手当の趣旨に照らし、不合理な相違にあたるとしています。

均等待遇規定

 改正前は、均等待遇の規定は、短時間労働者のみに定められており、有期労働者には規定されていませんでした

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律9条(通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止)
「事業主は、職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者…であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの…については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。」

改正後の均衡・均等待遇規定

 2018年働き方改革関連法により、均衡待遇の規定は短時間労働者及び有期雇用労働者いずれも「短時間・有期雇用労働者法8条」に統合されることになり、均等待遇の規定は有期雇用労働者についても「短時間・有期雇用労働者法9条」により適用されることとなりました
 均衡待遇の原則(8条)につき、①労働契約法20条と比べて「期間の定めがあることにより」との文言が削除されています。②「当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において」と規定しており、均等待遇違反の成否は待遇のそれぞれについて判断することを明確にしています。③業務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情「のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるもの」との文言を追加し、待遇の性質・目的照らしてこれらの要素を適切に考慮することを求めています。
 均衡待遇(8条)と均等待遇(9条)の関係については、均等待遇規定(9条)は、均衡待遇規定(8条)よりも狭く、均衡待遇規定(8条)の中に含まれているとされています。すなわち、均等待遇の原則(9条)は、①職務の内容及び②雇用の全期間における職務内容・配置の変更範囲が同一であって、それら労働者間の異なる取扱いを正当化するその他の事情が認められない特別の場合を取り出して、両者の待遇の差別的取扱いを禁止したものとされています。均衡待遇の原則(8条)は、①②のいずれかないし双方が同一でないために均等待遇規定(9条)が適用されない場合につき、それら事情と③「その他の事情」とを総合勘案して、両者の待遇間の不合理な相違を禁止するものとされています。

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条(不合理な待遇の禁止)
「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律9条(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
「事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者…であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの…については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。」

パートタイム労働者の法律関係パートタイム労働者がその有する能力を有効に発揮するためには、適正な労働条件を確保することが重要となります。今回は、パートタイム労働者の法律関係について、一般の労働者との相違点等を踏まえつつ解説します。...
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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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