退職したくないのに会社から何度も退職するように勧められて悩んでいませんか?
退職勧奨に応じるかどうかは労働者の自由であるため、労働者の意思を妨げるような退職勧奨は違法になります。
具体的には、違法となるケースとして、例えば以下の4つがあります。
・拒否しても長時間又は繰り返し行われる退職勧奨
・いじめや嫌がらせを伴う退職勧奨
・降格や転勤等の人事上の措置を伴う退職勧奨
・不利益措置が禁止されている事由を理由とする退職勧奨
実際、会社によっては、解雇をして紛争となるリスクを避けるため、労働者が応じたくないと言っても、何度も繰り返し退職届を出すように迫ってきたり、不利益な措置をして圧力をかけてきたりすることがあります。
あなたは会社から退職勧奨がなされた場合でもこれに応じる義務は一切ありませんし、違法な退職勧奨がなされた場合には慰謝料を請求できる可能性があります。ただし、慰謝料を請求するためには、十分に準備をしておくことが重要です。
また、万が一、会社からの違法な退職勧奨に応じてしまった場合でも、退職を争うことができる場合もありますので、すぐに諦める必要はありません。
今回は、退職勧奨が違法になるケースと慰謝料の相場について解説します。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、違法な退職勧奨についてどのように対処すればいいのかがわかるはずです。
目次
退職勧奨は違法になることがある!
退職勧奨というのは、会社が労働者に対して退職するように促す行為です。
退職勧奨は、社会的相当性を逸脱した態様により、半強制的ないし執拗な態様で行われた場合には、違法になります。
なぜなら、退職勧奨というのは、労働者に応じる義務は全くありませんので、労働者の自由な意思を尊重して行わなければならないためです。
つまり、あなたが退職勧奨に応じたくないのに無理やり応じさせようとしたり、応じないことによって不利益を与えたりすることは許されないのです。
退職勧奨の違法性についての考え方について、以下のように判示した裁判例がありますので参考になります。
「退職勧奨は、勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるが、これに応じるか否かは対象とされた労働者の自由な意思に委ねられるべきものである。したがって、使用者は、退職勧奨に際して、当該労働者に対してする説得活動について、そのための手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り、使用者による正当な業務行為としてこれを行い得るものと解するのが相当であり、労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて、当該労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり、又は、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって、その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をすることは許されず、そのようなことがされた退職勧奨行為は、もはや、その限度を超えた違法なものとして不法行為を構成することとなる。」
(参照:東京地判平23年12月28日労経速2133号3頁[日本アイ・ビー・エム事件])
退職勧奨が違法となる4つのケース
それでは、退職勧奨がどのような場合に違法となるのかについて、もう少し具体的に見ていきましょう。
退職勧奨が違法となるケースとして、例えば以下の4つがあります。
・拒否しても長時間又は繰り返し行われる退職勧奨
・いじめや嫌がらせを伴う退職勧奨
・降格や転勤等の人事上の措置を伴う退職勧奨
・不利益措置が禁止されている事由を理由とする退職勧奨
以下では、それぞれのケースについて説明していきます。
なお、これらのケースに該当する場合でも、具体的事案により違法となるかどうかは異なりますのでご注意ください。
拒否しても長時間又は繰り返し行われる退職勧奨
退職勧奨が違法となるケースの1つ目は、
です。
具体的には、労働者が退職に応じないと言っているのに、1時間以上に及ぶ退職勧奨が何度も行われた場合には、違法とされる可能性があります。
特に、うつ病を発症している労働者への退職勧奨については、症状が悪化することもあるため、十分な配慮を要します。
製薬会社向けの広告を担当する労働者が入社後2年でうつ病を発症し休職となり、半年後復職したものの再び体調が悪化して業務ができない状況となり、会社から解雇もありうると言われて体調が更に悪化していました。
このような状況下で会社が、5回にわたり退職勧奨の面談を行ったところ、この労働者の方は医師からうつ病により3か月の休養加療を要するとの診断を受け、翌日より再度休職となりました。
これを受けて、会社は、当該労働者に対して、3か月後に休職期間満了により退職との通知を行いました。
裁判例は、この事案について、会社が解雇の可能性を示唆しているところ、本人がこれに応じない旨述べても繰り返し退職勧奨していること、労働者が業務量を調整してもらえれば働けると述べても応じなかったこと、第2回の面談は約1時間、第3回面談は約2時間と長時間に及んでいることを考慮し、違法性を認めました。
(参照:京都地判平26年2月27日労判1092号6頁[エム・シー・アンド・ピー事件])
いじめや嫌がらせを伴う退職勧奨
退職勧奨が違法となるケースの2つ目は、
です。
具体的には、暴力や暴言が繰り返される場合や、仕事が割り振られなかったり、無意味な仕事割り振られたりすることによりする場合には、違法とされる可能性があります。
複数の上役から暴力を伴ういじめが頻繁に繰り返され、無意味な仕事の割り当てによる嫌がらせや孤立させる行為がなされた事案について、社会的相当性を超えて違法とされています。
(参照:東京高判平成8年3月27日労判706号69頁[エール・フランス事件])
降格や転勤等の人事上の措置を伴う退職勧奨
退職勧奨が違法となるケースの3つ目は、
です。
具体的には、会社が退職させたい労働者に対して、雑用を命じたり、遠方に配置転換したりする場合には、違法とされる可能性があります。
また、退職勧奨後に、退職勧奨に応じるかどうかを検討する期間として、1か月程度の自宅待機を命じられることがあります。自宅待機を命じること自体が直ちに違法になるとはいえませんが、孤立させる目的で過度に長期間の待機が命じられるような場合には違法とされる可能性もあるでしょう。
社長が気に入らない課長に対して営業成績が悪いことを理由に退職勧奨を繰り返した後、倉庫係へ降格・配転した(給料は半分程度)事案について、当該降格・配転は退職誘導という不当な動機で通常受忍し難い不利益を与えるもので権利濫用であり、違法とされています。
(参照:大阪高判平成25年4月25日労判1076号19頁[新和産業事件])
執拗な退職勧奨、嫌がらせの転籍、定年1年前に片道2時間半の通勤を要する勤務先への5年間の出向などを行った事案について、違法とされています。
(参照:神戸地姫路支判平成24年10月29日労判1066号28頁[兵庫県商工会連合会事件])
不利益措置が禁止されている事由を理由とする退職勧奨
退職勧奨が違法となる(なりやすい)ケースの4つ目は、
です。
具体的には、不利益措置が禁止されている事由としては、公益通報(公益通報者保護法5条)、パワハラに関する相談をしたこと(労働施策総合推進法30条の2第2項)、妊娠・出産(男女雇用機会均等法9条3項)等があります。
退職勧奨が不利益措置に該当すると直ちに言うことはできませんので、これが常に違法となるとまではいえません。
しかし、行政通達(平成18年厚生労働省告示第614号)では、妊娠出産を理由とした不利益取り扱いの例として退職の「強要」が挙げられています。
そのため、不利益措置が禁止されている事由を理由とする場合には、相当性について厳しく判断される可能性が高いといえます。
会社が妊娠中の労働者が退職扱いに同意したものと認識して退職扱いをした事案について、裁判例は、退職扱いに労働者が同意していたとしても、妊娠中の不利益取り扱いを禁止する男女雇用機会均等法9条3項が広く解釈されていることに鑑みると、労働者が自由な意思に基づいて退職合意したと認めるに足りる合理的な理由が客観的に認められない場合には、会社には少なくとも過失があり、不法行為が成立するとされています。
(参照:東京地立川支判平成29年1月31日労判1156号11頁[TRUST事件])
退職勧奨が違法とならなかったケース
これに対して、退職勧奨が違法とならなかったケースもあります。
具体的には、以下のような事情は、退職勧奨が違法ではないという方向に評価されます。
①退職を促す合理的な理由がある場合
②特定人を狙い撃ちにしたのではなく希望退職者募集の制度の中で行われた場合
③退職強要にならないように研修を受けた者により行われた場合
裁判例は、①業績の評価が下から15%の人を対象にして、②特別支援プログラムを組み、応募予定者を1300名として行われた希望退職者募集の中で、③退職強要に亘らないよう研修を受けた上司による面談で退職勧奨がなされた事案では、違法な退職強要ではないと判断しています。
(東京地判平成23年12月28日労経速2133号3頁[日本アイ・ビー・エム事件]
違法な退職勧奨と慰謝料
退職勧奨が違法とされる場合には、労働者は、会社に対して、慰謝料を請求することがあります。
慰謝料というのは、あなたが退職勧奨により被った精神的苦痛を填補するためのものです。
以下では、違法な退職勧奨と慰謝料について、次の順序で説明していきます。
・退職勧奨が違法だと慰謝料を請求できる場合がある
・違法な退職勧奨の慰謝料相場は20万円~100万円程度
・違法な退職勧奨の慰謝料を増額する方法
退職勧奨が違法だと慰謝料を請求できる場合がある
退職勧奨が違法な場合には、あなたは、会社に対して慰謝料を請求できる可能性があります。
なぜなら、退職勧奨の手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱して、自由な退職意思の形成を妨げる場合には、民法上の不法行為となり得るためです。
そして、民法上の不法行為となる場合には、不法行為をした者は、損害賠償責任を負います。
民法709条(不法行為による損害賠償)
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
そのため、退職勧奨が違法な場合には、あなたは会社に対して、損害賠償を請求できる可能性があるのです。
違法な退職勧奨の慰謝料相場は20万円~100万円程度
違法な退職勧奨の慰謝料金額の相場は、
です。
もっとも、名誉棄損的行為や大きな不利益取り扱いを受けているような場合には、慰謝料金額は上記より高額となる場合があります。
慰謝料算定にあたっては、以下の要素を考慮することになります。
①退職勧奨の回数
②期間
③言動
④勧奨者の数
⑤被勧奨者の態度
⑥不利益的取扱いの有無・内容
実際に退職勧奨について慰謝料を認めた裁判例をまとめると以下のとおりです。
違法な退職勧奨の慰謝料を増額する方法
違法な退職勧奨の慰謝料を増額するには、証拠を集めておくことが重要です。
慰謝料を増額するためには、退職勧奨の態様が特に悪質で大きな精神的苦痛を被っていることを証明する必要があるためです。
具体的には、以下の証拠を集めましょう。
⑴ 退職するつもりがないことを伝えた書面・メール・チャット
⑵ 面談の録音・メモ・日記
⑶ 退職を促す書面・メール・チャット
⑷ 嫌がらせ又はいじめの記録
⑸ 降格や配置転換を命じる書面
⑹ 適応障害やうつ病を発症した場合には診断書
特に、退職勧奨の面談の際のやり取りについては、会社がどのような発言をして、これに対してあなたどのように回答しているのか、どのくらいの時間勧奨がなされているのか、会社側の面談参加者が何人いるのかなど、多くの重要な事実が含まれます。
退職勧奨の面談については、できれば録音をしておくべきでしょう。
退職勧奨の録音については、以下の動画でも詳しく解説しています。
違法な退職勧奨に応じたくない場合の対処法
違法な退職勧奨に応じたくない場合の対処法としては、会社に対して退職勧奨に応じたくないと明確に伝えることです。
退職勧奨に応じたくないと明確に伝えずに転職活動の状況などを会社に話すと、黙示の退職の合意が成立していたなどとして、勝手に退職手続き進める会社もあります。
口頭で退職勧奨に応じたくないと言った後も、繰り返し退職勧奨をされる場合には、書面やメール、チャットなどにより、会社に対して、「退職勧奨に応じる意思は一切ないこと、今後は退職勧奨をしないでほしいこと」を伝えましょう。
書面やメール、チャットであれば後日、証拠として提出することも可能です。
退職勧奨された場合のNG行動と正しい対処法は、以下の動画でも詳しく解説しています。
もしも、あなたが退職勧奨に応じる場合には、「退職した後の生活資金」や「未払い賃金の有無」、「退職金の有無」、「未消化の有給休暇の有無」等に注意しましょう。
まだ転職先が決まっていないような場合には、会社を退職してしまうと、その後の生活資金に困ることになります。そのため、①退職勧奨に応じる場合は「特別退職金」又は「解決金」などとして3か月~6か月分程度の賃金相当額を支払ってもらうことを条件とすること、②会社都合退職とすることを条件として早期に失業保険受給できるようにすることを検討するべきです。
「未払い賃金」や「退職金」がある場合には、退職勧奨に応じる場合に未払いの金額や支払い時期を明確に確認しておきましょう。退職届や合意書に、他に何も債権を持っていないことを確認する条項が含まれているが多いためです。
「有給休暇」については、退職後に消化することはできません。会社によっては、退職時点で有給休暇が残っている場合にはその日数に相当する手当を支給するとの制度があることもあります。しかし、このような制度がない場合には、例えば有給休暇を消化してから退職することを検討するといいでしょう。
会社が執拗に退職勧奨をする理由
会社が労働者に対して執拗に退職勧奨をする理由は、解雇をした場合にこれを争われることを回避するためです。
会社が労働者を解雇するには、とても厳格な条件が定められており、簡単には認められません。
実際に行われている解雇の多くは、条件を満たしていないものです。
解雇が条件を満たしていない場合には、会社は、労働者から解雇後の賃金や慰謝料などの請求をされることになり、大きなリスクとなります。
そのため、会社は、リスクの高い解雇を行う前に、自ら退職するように促すのです。
ただし、会社は、退職を促す際には、あなたのためにも退職した方がいいなどと述べることが多いです。
このような会社の発言を直ぐに真に受ける必要はありませんので、退職勧奨に応じた方がいいか悩んだ場合には、弁護士に相談してみましょう。
解雇の条件については、以下の記事で詳しく解説しています。
違法な退職勧奨に応じてしまった場合はどうなる?
違法な退職勧奨に応じてしまった場合でも、後から、退職を取り消すことができる場合があります。
具体的には、以下のような場合です。
①強迫による場合
②勘違いによる場合
③本意でなかった場合
例えば、①強迫による場合というのは、長時間一室に押しとどめられていた場合や暴言・暴力がされた場合などです。
次に、②勘違いによる場合というのは、解雇事由が存在しないのに、会社があなたに対して解雇事由があるかのように騙したような場合です。
最後に、③本意でなかった場合というのは、反省の意思を強調するために本当は退職するつもりはないのに退職すると言ってしまったような場合です。
退職勧奨に応じてしまった場合の取り消しについては、以下の記事で詳しく解説しています。
退職勧奨をされた場合には弁護士に相談しよう!
退職勧奨をされた場合には、弁護士に相談するようにしましょう。
退職勧奨が行われる場合には、会社はあなたがこれに応じなかった場合に「解雇」を行うことまで予定していることが多いです。
そのため、退職勧奨に対してどのような方針をとるかについては、あなたに解雇されるだけの理由があるのかということも重要となります。
そして、解雇されてから慌てるのではなく、退職勧奨の時点から弁護士に相談するようにしておけば、証拠も充実しますし、いざ解雇された場合にも適切な対応をすることができます。
また、あなたが会社から執拗に退職勧奨をされている場合には、弁護士に依頼して、「退職勧奨を止めるように会社に通知を送ってもらうこと」や「退職勧奨の交渉をあなたに代わり行ってもらうこと」も可能です。
初回無料相談を利用すれば費用をかけずに相談をすることができますので、これを利用するデメリットは特にありません。
そのため、退職勧奨をされた場合には弁護士に相談してみることがおすすめなのです。
まとめ
以上のとおり、今回は、退職勧奨が違法になるケースと慰謝料の相場について解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・退職勧奨は、社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な態様で行われた場合には、違法になります。
・退職勧奨が違法となるケースとしては、例えば、①拒否しても長時間又は繰り返し行われる退職勧奨、②いじめや嫌がらせを伴う退職勧奨、③降格や転勤等の人事上の措置を伴う退職勧奨、④不利益措置が禁止されている事由を理由とする退職勧奨があります。
・違法な退職勧奨の慰謝料金額の相場は、20万円~100万円程度です。違法な退職勧奨の慰謝料を増額するには、証拠を集めておくことが重要です。
・違法な退職勧奨に応じたくない場合の対処法としては、退職勧奨に応じたくないと明確に伝えることです。
この記事が違法な退職勧奨に悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。