労働一般

テレワークに関する法律問題

 近年、様々な働き方が模索されるようになり、デジタル情報技術の進展などに伴い時間や場所にとらわれない働き方としてテレワークを導入する企業が増加しています。もっとも、テレワークの導入に当たっては、自宅勤務を命じることの可否や労働時間の把握方法、情報通信機器等についての費用分担、労災適用の有無等に関して様々な法律問題が発生します。今回は、テレワークに関する法律問題について解説します。

テレワークとは

 テレワークとは、インターネットなどのICT(情報通信技術)を活用した場所にとらわれない柔軟な働き方で、勤務場所から離れて、自宅などで仕事をすることをいいます。
 テレワークについては、勤務場所により以下の3類型に分類されます。

① 在宅勤務
 オフィスに出勤せず自宅で仕事を行う形態です。
② モバイルワーク
 顧客先、移動中、出張先のホテル、交通機関の車内、喫茶店などで仕事を行う形態です。
③ サテライトオフィス勤務
 自社専用のサテライトオフィスや共同利用型のテレワークセンターで仕事を行う形態です。

 テレワーク導入のメリットとしては、以下の点が挙げられます。

テレワークのメリット

【企業のメリット】
① 従業員の育児や介護による離職を防ぐことができる
② 遠隔地の優秀な人材を雇用することができる
③ 災害時に事業を継続しやすくなる
④ ワークライフバランスを図り企業の社会的責任(CSR)を推進できる
⑤ オフィススペースに必要な経費や通勤手当などが削減できる
【労働者のメリット】
① 育児や介護、病気の治療などをしながら働くことができる
② 通勤時間の削減度により自由に使える時間が増える
③ 通勤が難しい高齢者や障害者の就業機会が拡大する
④ 電話などにじゃまされず、業務に集中できる、また業務効率も向上する

自宅勤務を命じることの可否

テレワーク導入前に採用された労働者との関係

 テレワークの導入は、労働条件である就業場所を変更することになりますので、労働者の合意(労働契約法8条)若しくは就業規則による労働契約の内容の変更(労働契約法9条、10条)が必要となります。
 また、労働契約の変更はできる限り書面により行うことが求められています(労働契約法4条2項)。

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テレワーク導入後に採用された労働者との関係

 テレワーク導入後に、労働者と雇う場合には、労働条件通知書に就業場所としてテレワークを行う場所を明示する必要があります(労働基準法15条1項、同法施行規則5条1項1の3号)。
 具体的には、在宅勤務やサテライトオフィス勤務など、テレワークを行う場所が特定されている場合には、この場所を就業場所として明示します。
 これに対して、モバイルワークの場合のように業務内容や労働者の都合に合わせて働く場所を柔軟に運用する場合には、就業の場所について許可基準を示したうえで、「使用者が許可する場所」といった形で明示することも可能です。

労働基準法15条(労働条件の明示)
1項「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」
労働基準法施行規則5条(労働条件の明示)
1項「使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。…」
1の3号「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」

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労働時間の把握方法

 使用者は、テレワークを導入する場合においても、原則として、その労働者の労働時間につき、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)に基づき、適切に管理しなければなりません。
 具体的には、以下の方法により労働時間を把握することになります。

⑴ 原則的な方法
・使用者が、自ら現認することにより確認すること
・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
⑵ やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合(日報等
①自己申告を行う労働者や、労働時間を管理する者に対しても自己申告制の適正な運用等のガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこと
②自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
③使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと。さらに36協定の延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者等において慣習的行われていないか確認すること

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中抜け時間

 テレワークの在宅勤務型については、労働者が業務から離れる中抜け時間が生じやすい傾向にあります。
 中抜け時間については、使用者が業務の指示をせず、労働者が労働から解放されている場合には、労働時間には該当しません
 使用者は、中抜け時間が生じたことにより、その日について、終業時刻の繰り下げなどの所定労働時間の変更命じるには、これをあらかじめ就業規則に規定しておくことが必要です。

休憩時間

 テレワークを行う労働者に対しても、原則どおり、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、労働時間が8時間を超える場合は60分以上の休憩を与えなければなりません(労働基準法34条1項)。
 休憩は、一定の事業を除き、原則として一斉に与えなければなりません(労働基準法34条2項本文)。そのため、テレワークを行う労働者の休憩時間帯は、所属事業場の休憩時間帯と合わせる必要があります。もっとも、使用者は、労使協定を締結すれば、休憩を一斉に与えないことが可能となります(労働基準法34条2項但書)。

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事業場外みなし労働時間制

 事業場外労働のみなし時間制の要件は、①「労働者が…事業場外で業務に従事した場合」、②その事業場外での「労働時間を算定し難いとき」とされています(労働基準法38条の2)。
 具体的には、テレワークにおいて、事業場外みなし労働時間制を適用するための要件は、以下のとおりとされています(厚生労働省:情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン)。

ⅰ 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
ⅱ 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

⑴ ⅰについて

 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと」とは、情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務のない状態であることを指します。なお、この使用者の指示には黙示の指示を含みます。
 「使用者の指示に即応する義務がない状態」とは、ⓐ使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて随時具体的な指示を行うことが可能であり、かつ、ⓑ使用者からの具体的な指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態又は手待ち状態で待機している状態にはないことを指します。
 例えば、サテライトオフィス勤務等で、常時回線が接続されており、その間労働者が自由に情報通信機器から離れたり通信可能な状態を切断したりすることが認められず、また使用者の指示に対し労働者の即応する義務が課されている場合には、「使用者の指示により常時通信可能な状態にお」かれている状態に当たります。

⑵ ⅱについて

 具体的な指示」には、例えば、当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これら基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれません

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時間外・休日労働

 テレワークについても、法定労働時間を超える場合や法定休日労働を行わせる場合には、36協定の締結・届出と割増賃金の支払いが必要となります。
 問題となるのは、使用者の具体的な指示なく、法定労働時間を超えて若しくは法定休日に労働が行われた場合に、これが労働時間に該当するかです。これについて、以下の場合には、労働時間に該当しないとされています(厚生労働省:情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン)。

① 就業規則等により時間該当に業務を行う場合には事前に申告し使用者の許可を得なければならず、かつ、時間外等に業務を行った実績について事後に使用者に報告しなければならないとされている事業場において、時間外等の労働について労働者からの事前申告がなかった場合又は事前に申告されたが許可を与えなかった場合であって
② 労働者から事後報告がなかった場合について
③ 時間外等に労働することについて、使用者から強制されたり、義務づけられたりした事実がなく
④ 当該労働者の当日の業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合等、時間外等に労働せざるを得ないような使用者からの黙示の指揮命令があったと解し得る事情がなく
⑤時間外等に当該労働者からメールが送信されていたり時間外等に労働しなければ生み出し得ないような成果物が提出されたりしている等、時間外等に労働を行ったことが客観的に推測できるような事実がなく、使用者が時間外等の労働を知り得なかったこと

 ただし、上記の事業場における事前許可性及び事後報告制については、以下の点をいずれも満たしていなければならないとされています。

ⅰ 労働者からの事前の申告に上限時間を設けられていたり労働者が実績どおりに申告しないよう使用者から働きかけや圧力があったりする等、当該事業場における事前許可性が実態を反映していないと解し得る事情がないこと
ⅱ 時間外等に業務を行った実績について、当該労働者から事後の報告に上限時間が設けられていたり、労働者が実績どおりに報告しないように使用者から働き掛けや圧力があったりする等、当該事業場における事後報告制が実態を反映していないと解し得る事情がないこと

 テレワークにおける時間外・休日労働の就業規則については、以下の例が参考になります(厚生労働省:テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン)。

就業規則例

就業規則第●条(時間外及び休日労働等)
1「業務の都合により、第●条の所定労働時間を超え、又は、第●条の所定休日に労働させることがある。」
2 …
3 …
4 …
5「テレワーク勤務者の時間外、休日及び深夜における労働については、別に定めるテレワーク勤務規程による。」

テレワーク勤務規程例1

【所属長の許可制とする場合】
テレワーク勤務規程第●条(時間外及び休日労働等)
1「在宅勤務者が時間外労働、休日労働及び深夜労働をする場合は所定の手続きを経て所属長の許可を受けなければならない。」
2「時間外及び休日労働について必要な事項は就業規則●条の定めるところによる。」
3「時間外、休日及び深夜の労働については、給与規程に基づき、時間外勤務手当、休日勤務手当及び深夜勤務手当を支給する。」

テレワーク勤務規程例2

【原則認めない場合】
テレワーク勤務規程第●条(時間外及び休日労働等)
1「在宅勤務者については、原則として時間外労働、休日労働及び深夜労働をさせることはない。」
2 …
3 …

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業績評価・人事管理等

 テレワークを選択した労働者は、職場に出勤しないことになるため、業績評価等について懸念を抱くことのないように、評価制度、賃金制度を構築することが望ましいとされます。
 また、業績評価や人事管理に関して、通常の労働者と異なる取り扱いを行う場合には、あらかじめテレワークを選択しようとする労働者に対して当該取扱いの内容を説明することが望ましいとされます。

通信費・情報通信機器等の費用負担

テレワーク導入前に採用された労働者との関係

 「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項」を就業規則に規定する必要があります(労働基準法89条5号)。
 そのため、テレワークに関する費用を労働者に負担させることにする場合には、就業規則の変更が必要となります。

労働基準法89条(作成及び届出の有無)
「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。」
5号「労働者に食費、作業用品その他の負担を指せる定めるをする場合においては、これに関する事項」

テレワーク導入後に採用された労働者との関係

 テレワーク導入後に、労働者と雇う場合において、テレワークに関する費用を労働者に負担させる場合には、これを労働条件として明示する必要があります(労働基準法15条1項、同法施行規則5条1項6号)。
 また、当然、就業規則にもこれを明示することが必要となります(労働基準法89条5号)。

労働基準法施行規則5条(労働条件の明示)
1項「使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。…」
6号「労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項」

労災の適用

 テレワークを行う労働者については、事業場における勤務と同様、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じたテレワークにおける災害は、業務上の災害として労災保険の対象となります。ただし、私的行為等業務以外が原因であるものについては、業務上の災害とは認められません。

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テレワークに関する参考リンク

厚生労働省:情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン

厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署:「自宅でのテレワーク」という働き方

厚生労働省:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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