労働一般

平均賃金の計算方法

 解雇予告手当や休業手当については、平均賃金をもとに計算されます。では、この平均賃金とはどのように計算するのでしょうか。今回は、平均賃金の計算方法について解説します。

平均賃金とは

 常用労働者の場合には、平均賃金とは、算定事由発生日以前の3カ月間における賃金の総額をその期間の総日数で除して算出した金額をいいます。
 平均賃金は、以下の手当等の金額の算定にあたり用いられています。

⑴ 解雇予告手当(労働基準法20条)
⑵ 休業手当(労働基準法26条)
⑶ 年次有給休暇の日に支払われる賃金(労働基準法39条9項)
⑷ 労働災害の場合の補償(労働基準法76条乃至82条)
⑸ 減給の制裁の制限額(労働基準法91条)

労働基準法20条(解雇予告手当)
1項「使用者は、労働者を解雇しようとする場合において、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。…」
労働基準法26条(休業手当)
「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」
労働基準法39条(年次有給休暇)
9項「使用者は、第1項から第3項までの規定による有給休暇の期間又は第4項の規定による有給休暇の時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その期間又はその時間について、それぞれ健康保険法…第41条第1項に規定する標準報酬月額の30分の1に相当する金額(その金額に、5円未満の端数があるときは、これを切り捨て、5円以上10円未満の端数があるときは、これを10円に切り上げるものとする。)又は当該金額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した金額を支払う旨を定めたときは、これによらなければならない。」
労働基準法76条(休業補償)
1項「労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならない。」
労働基準法77条(障害補償)
1項「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治った場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、平均賃金に別表第2に定める日数を乗じて得た金額の障害補償行わなければならない。」
労働基準法79条(遺族補償)
「労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、遺族に対して、平均賃金の1000日分の遺族補償を行わなければならない。」
労働基準法80条(葬祭料)
「労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、葬祭を行う者に対して、平均賃金の60日分の葬祭料を支払わなければならない。」
労働基準法81条(打切補償)
「第75条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1200日分の打切補償を行い、その後は法律の規定による補償を行わなくてもよい。」
労働基準法82条(分割補償)
「使用者は、支払能力のあることを証明し、補償を受けるべき者の同意を得た場合においては、第77条又は第79条の規定による補償に替え、平均賃金に別表第三に定める日数を乗じて得た金額を、6年にわたり毎年補償することができる。」
労働基準法91条(制裁規定の制限)
「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。」

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算定の流れ

 平均賃金については、以下の流れにより算定します。

手順1:起算日の特定
手順2:支払われた賃金の総額の算定
手順3:期間の総日数で除する
手順4:最低金額を下回らないかの確認

手順1:起算日の特定

 起算日は、「算定すべき事由の発生した日」とされています(労働基準法12条1項本文)。
 もっとも、「賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する」とされています(労働基準法12条2項)。

労働基準法12条
1項「この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。…」
2項「前項の期間は、賃金締切日である場合においては、直前の賃金締切日から起算する。」

手順2:支払われた賃金の総額の算定

算定の基礎となる賃金

⑴ 一定の休業期間中の賃金の控除

 算定基礎となる「支払われた賃金の総額」からは、以下の期間中の賃金は控除します(労働基準法12条3項)。

①業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間(1号)
②産前産後の女性が第65条の規定によって休業した期間(2号)
③使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間(3号)
④ 育児休業・介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第2条第1号に規定する育児休業又は同条第2号に規定する介護休業をした期間(4号)

労働基準法12条
3項「前2項に規定する期間中に、次の各号のいずれかに該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前2項の期間及び賃金の総額から控除する。」

一「業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間」
二「産前産後の女性が第65条の規定によつて休業した期間」
三「使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間」
四「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律…第2条第1号に規定する育児休業又は同条第2号に規定する介護休業(同時法第61条第3項(同条第6項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第39条第8項において同じ。)をした期間」

⑵ 算入しない一定の手当等

 算定基礎となる「支払われた賃金の総額」には、以下の賃金は算入しません(労働基準法12条4項)。

・「臨時に支払われた賃金」
・「三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」
・「通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの」

 臨時に支払われた賃金」とは、臨時的、突発的事由に基づいて支払われたもの及び結婚手当等支給条件はあらかじめ確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、且つ非常に稀に発生するものをいいます。名称のいかんに関わらず、右に該当しないものは、臨時に支払われた賃金とはみなしません。(昭22・9・13発基17号)
 年次有給休暇の日数及びこれに対し支払われる賃金は、平均賃金の計算においては算入しなければならないとされています(昭22・11・5基発231号)。
 通勤手当は、平均賃金の算定においては算入しなければならないとされています(昭22・12・26基発573号)。使用者において6カ月ごとに定期券を購入し、これを労働者に支給している場合であっても、これは各月分の賃金の前払いとして認められるから平均賃金算定の基礎に加えなければならないとされています(昭25・1・18基収130号、昭33・2・13基発90号)。

<歩合給・家族手当・皆勤手当・割増賃金並びに未払賃金部分>
 上記の「臨時に支払われた賃金」、「3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金」等以外については、平均賃金の基礎に算入していよいのでしょうか。
 これについて、「賃金の総額には、労基法11条所定の賃金(基本給の他,歩合給,家族手当,通勤手当,皆勤手当,割増賃金等)が含まれる」とされています(労働事件審理ノート[第3版]山口・三代川・難波編108頁)。
 また、解雇予告手当の算定につき、「その賃金の一部に未払がある場合、解雇の日までに債権として確定している賃金は、これを基礎として平均賃金を算出する。」とされています(労働事件審理ノート[第3版]山口・三代川・難波編108頁)。

労働基準法12条
4項「第1項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。」

雇入後三箇月に満たない場合

 雇入後3箇月に満たないものについては、算定期間は雇入後の期間とされます。

労働基準法12条
6項「雇入後3箇月に満たない者については、第1項の期間は、雇入後の期間とする。」

手順3:期間の総日数で除する

 上記により算定した「支払われた賃金の総額」をその期間の総日数で除することになります。
 以下の期間の日数は、期間の総日数からは控除されます(労働基準法12条3項)。

①業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間(1号)
②産前産後の女性が第65条の規定によって休業した期間(2号)
③使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間(3号)
④育児休業・介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第2条第1号に規定する育児休業又は同条第2号に規定する介護休業をした期間(4号)

手順4:最低金額を下回らないかの確認

 期間中に自己都合の休業(欠勤)が多く賃金総額が異常に少なかったような場合のために、最低保証額が定められています。具体的には、平均賃金は、以下の金額を下ってはならないとされています。

⑴ 賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合
→賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60
⑵ 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合
→その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と⑴の金額の合算額

労働基準法12条
1項「…ただし、その金額は、次の各号の一によって計算した金額を下つてはならない。」
一「賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60」
二「賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額」

ABOUT ME
弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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