インターネットの私的利用を理由に解雇することは許されるのでしょうか。どのような場合にインターネットの私的利用が解雇事由になるのでしょうか。今回は、インターネットの私的利用を理由とする解雇について解説します。
就業規則上の規定
インターネットの私的利用を理由に懲戒解雇される場合があります。就業規則などでは、以下のような規定がおかれている会社が多いです。
第〇条(懲戒解雇)
労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第〇条に定める普通解雇、前条に定める減給、出勤停止とすることがある。
①数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。
②許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。
③正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。
④…
<参考:人事院が作成した「懲戒処分の指針について」>
国家公務員に関するものですが、人事院が作成した「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職-68)」が参考になります。これによると職場のコンピュータの不適正利用については、以下のように規定されています。
「職場のコンピュータをその職務に関連しない不適正な目的で使用し、公務の運営に支障を生じさせた職員は、減給又は戒告とする。」
裁判例の状況
インターネットの私的利用が解雇理由、懲戒事由として主張されることは増加していますが、これを正面から取り上げている裁判例は多くありません。以下の裁判例が参考になります。
【福岡高判平17.9.14判タ1223号188頁[K工業技術専門学校事件]】
専門学校の教師が7つの出会い系サイト等に登録し、その掲示板にSMの相手を募集する書き込み2件を含む複数の書き込みを行うとともに、交際相手や出会い系サイトを通じて知り合った者らと約5年間で約810件のメール送信と約800件のメール受信を行い、その約半数程度が昼休みを除く勤務時間内であったという事案において、勤務先学校からの発信であると推知し得る態様でSMの相手を募集する書き込みをしたことが同校の品位、体面および名誉信用を傷つけるものであること、教育者たる立場にあったこと等を考慮し、懲戒解雇を有効としました。
【東京地八王子支判平15.9.19労判859号87頁[リンクシードシステム事件]】
電子部品等販売会社の営業社員が約半年間にわたり勤務時間中に証券会社等のホームページに頻々とアクセスし3カ月間に27回の発注を行い、使用者から注意された後もアクセスした日が2日間あったという事案において、懲戒解雇を無効としました。
【神戸地判令元.11.27労判ジャーナル96号80頁[ノーリツ事件]】
従業員が、勤務時間中に、証券会社サイト等を業務とは関連性がない資産運用等の私的な目的で、約5か月半のうち合計86日で、1日当たり15分から17分程度、閲覧したことを理由に懲戒処分として降格(役割給6720円、役職手当5000円の減額)された事案において、
上記裁判例は、私的閲覧行為による職務専念からの逸脱の程度は小さくなく、降格処分前の従業員の役割給が30万6720円、役職手当が1万円であることからすると降格により当該労働者の受ける不利益も大きいとまではいえないものの、
①当該労働者の等級がS1(係長相当)であったことからすると会社に与える影響もそれほど大きいわけではなく、職場秩序を乱すものとまではいうことができず、②これによりサーバーセキュリティ上の危険が生じたわけでもなく、③会社から従業員に対して個別の注意や指導等はされておらず、④降格処分ではなく減給処分もなしえたことを理由に、
上記懲戒処分としての降格は、社会通念上の相当性を欠き無効としました。
検討の方法
インターネットの私的利用の問題を検討する上では、職務専念義務違反及び企業秩序遵守義務違反のそれぞれの観点から検討することが有益です。
職務専念義務違反の視点
労働者は、使用者の指揮命令に服しつつ職務を誠実に遂行すべき義務を負い、労働時間中は職務に専念し他の私的活動を差し控える義務を負っています。インターネットを業務時間内に私的に利用した場合には、この職務専念義務違反が問題になります。
職務専念義務違反の観点からは、その閲覧の対象、時間、頻度、インターネットの私的利用を禁止する規程の有無やその周知の状況、上司や同僚のインターネットの私的利用の有無、被解雇者・被処分者に対する事前の注意・指導や処分歴の有無等に照らし、社会通念上相当な範囲にとどまる限り、職務専念義務に反しないか、反するとしても重いとはいえないとされています。
また、職場における私語や喫煙コーナーでの喫煙など他の私的行為についても社会通念上相当な範囲において黙認されていることが多いため、インターネットの私的利用についても、これとの均衡に配慮する必要があると考えられています。
企業秩序遵守義務違反
使用者は、企業の存立・運営に不可欠な企業秩序を定立し維持する権限を有し、労働者は、使用者に対し企業秩序遵守義務を負っています。インターネットを業務時間内に私的利用した場合には、使用者の設備であるパソコン端末や通信回線を所定の目的以外の用途で使用し、使用者に通信料金や電気料金の負担等を生じさせるものであることから、企業秩序遵守義務違反が問題になります。
企業秩序遵守義務違反の観点からは、その閲覧の対象、時間、頻度等に照らし、使用者の経済的負担の程度や企業秩序にどのような悪影響を及ぼしたのかなどが検討の対象になるとされています
なお、ウィルス感染や情報漏えいのリスクにつきどのように考慮していくかということは今後の課題とされています。