不当解雇・退職扱い

業務命令違反を理由とする解雇-業務命令違反の判断方法-

 会社から業務命令違反を理由に解雇された場合、どうすればいいのでしょうか。どのような場合に業務命令違反が解雇事由になるのでしょうか。
 今回は、業務命令違反を理由とする解雇について解説します。

就業規則上の規定

 日常的な業務上の指示・命令違反を理由に懲戒解雇される場合があります。就業規則などでは、以下のような規定がおかれている会社が多いです。

規定例

第〇条(懲戒解雇)労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第〇条に定める普通解雇、前条に定める減給、出勤停止とすることがある。
正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。
②…

業務命令の有効性

業務命令権の有無

 日常業務の労務指揮は、労働契約の本質です。そのため、就業規則に日常業務の労務指揮権が規定されていないとしても、当然に労働契約の内容に含まれています。従って、使用者は、就業規則に規定がない場合でも、労働者に対して、日常業務の労務指揮をする権限を有します
 日常業務の労務指揮とは、例えば、業務内容や仕事の順番、時間の配分などについての指揮命令がこれに当たります。

権利濫用

 もっとも、業務命令が権利濫用に該当する場合には、当該業務命令は無効となります。
 業務上の指示・命令が不合理、不当なものであるかについては、業務の内容、必要性の程度、それによって労働者が蒙る不利益の程度などとともに、その業務命令が発せられた目的、経緯なども総合的に考慮して判断されます。
 日常業務の労務指揮は、業務上の必要性があれば、原則として、正当なものといえます。しかし、嫌がらせ目的などの不当な目的がある場合や、労働者に著しい不利益が生じる場合には、例外的に権利濫用とされることがあります

<危険就労の拒否>
 労働者は、以下のいずれか場合には、労働契約上、危険労働に関する労働義務を免れます。
⑴ 一つ目は、生命・身体に対する重大な危険の存在ゆえに、労働義務の本来的限界として就労義務を負わない場合です。この場合には、労安衛法などの強行法規違反の有無は問いません(最三小判昭43.12.24民集22巻13号3050頁[日本電信電話公社事件(千代田丸事件)])。
⑵ 二つ目は、使用者が労安衛法上の安全衛生措置を講じていないために当該作業に生命・身体に対する重大な危険が生じている場合です。この場合には、当該作業命令は、労安衛法違反ゆえに、労働者を拘束しません。

鹿児島地判昭63.6.27労民集39巻2・3号216頁[国鉄鹿児島自動車営業所事件・第一審]

 日本国有鉄道の職員が運輸管理業務の一つである補助運行管理者としての点呼執行業務を国労バッジ着用のまま行おうとしました。所長は、職員に対してバッジ取り外しを命じましたが職員はこれに従いませんでした。そこで、所長は、この職員に対して、点呼執行業務から外し、営業所構内に降り積もった火山灰除去するようにとの命令を発しました。職員は、火山灰除去業務の命令が違法であるとして、所長等に対して不法行為に基づき慰謝料を請求しました。
 「使用者が労働者に対し労働契約に基づき命じる業務命令の内容は、労働契約上明記された本来的業務ばかりでなく、労働者の労務の提供が円滑かつ効率的に行われるために必要な付随的業務」が含まれるが、「使用者はこれを無制限に労働者に命じうるものではなく、労働者の人格、権利を不当に侵害することのない合理的と認められる範囲のものでなければならない…。そして、その合理性の判断については、業務の内容、必要性の程度、それによって労働者が蒙る不利益の程度などとともに、その業務命令が発せられた目的、経緯なども総合的に考慮して決せられる必要があると述べ」、降灰除去命令は業務命令権行使の濫用であるとしました。
※上告審である最判平5.6.11労判632号10頁[国鉄鹿児島自動車営業所事件・上告審]は、「降灰除去作業は、鹿児島営業所の職場環境を整備して、労務の円滑化、効率化を図るために必要な作業であり、また、その作業内容、作業方法等からしても、社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるものともいえ」ないとし、この職員を「本来の業務から外すこととし、職場規律維持の上で支障が少ないものと考えられる屋外作業である降灰除去作業に従事させることとしたものであり、職務管理上やむを得ない措置ということができ」るとして、不法行為にはあたらないとしています。

懲戒権の濫用

 懲戒解雇が有効であるとされるためには、①「客観的に合理的な理由」があり、②「社会通念上相当」なものである必要があります(労働契約法15条)。
 業務命令違反の場合には、その不服従の程度を考慮することが重要となります。不服従の程度については、当該行為が、その性質および態様その他の事情に照らして重大な業務命令違反であって、使用者の企業秩序を現実に侵害する事態が発生しているか、あるいは、その現実的な危険性を有していることが必要とされています。加えて、指示・命令違反の事実は抽象的なものではなく、具体的なものである必要があり、有効とされた事案の多くは、指示・命令は口頭のみならず書面でもなされているとされています。
 また、日常業務に関する命令違反を理由に直ちに懲戒解雇という重大な処分をすることは、通常、相当性を欠きます。まずは、口頭又は書面による注意指導や、軽い懲戒処分を行い、それでも改善しないような場合に普通解雇を検討することになります。

東京地判平24.11.30労判1069号36頁[日本通信事件]

 社内ネットワークシステムのアクセス管理者権限を不正に有している従業員に対して管理者権限の抹消を命じたところ、従業員がこれを拒否したため懲戒解雇をした事案について、
 「使用者が懲戒解雇という極めて重大な制裁罰を科しうる実質的な根拠は,企業秩序を侵害する重大な危険性を有している点にあるものと考えられる。そうだとすると懲戒解雇権は,単に労働者が雇用契約上の義務に違反したというだけでは足りず,当該非違行為が企業秩序を現実に侵害する事態が発生しているか,あるいは少なくとも,そうした事態が発生する具体的かつ現実的な危険性が認められる場合に限り発動することができるものと解され,この理は,本件就業規則59条所定の懲戒解雇事由の判断にも妥当する。」
 「このように解すると当該労働者の非違行為が,本件就業規則59条13号所定の懲戒解雇事由に該当するためには,形式的に『正当な理由なく異動,転勤,その他の業務命令を拒否したとき』に該当することだけでは足りず(以下『形式的該当性』という。),より実質的に,当該行為が,その性質及び態様その他の事情に照らし,重大な業務命令違反であって,反訴原告会社の企業秩序を現実に侵害する事態が発生しているか,あるいは,その現実的な危険性を有していることが必要である(以下『実質的該当性』という。)と解され,この場合に限り,当該非違行為は,本件就業規則59条13号所定の懲戒解雇事由に該当し,上記有効要件〔2〕を満たすものと解するのが相当である。」

大阪地判平13.7.13労経速178号13頁[ミセラン事件]

「被告は、就業規則第四〇条6項に該当する懲戒解雇事由として、」T「ストアとの関係の調査及び取引修復に関する業務命令に虚偽の報告をし、これに従わなかった旨主張するところ、前述のとおり、原告が、被告の再三に及ぶ」T「ストアとの関係の調査及び取引修復に関する業務命令に従わなかったことは、これを認めることができる。」
 「以上によれば、原告に対する懲戒解雇事由としては、就業規則第四〇条6項に該当する懲戒解雇事由が肯定できるが、その違反によって被告に生じた損害は、それほど大きいものであるとはいえない。業務命令が取引先との関係修復を命じるものであるから、原告がこれに従ったとしても、関係修復ができたかどうかは明らかでないし、被告代表者の供述から窺われるように、取引中断前の取引量もさほど大きなものでなかったことからすれば、その業務命令違反だけをもって懲戒解雇をするのは、苛酷に過ぎるというべきである。業務命令違反の背景に、日常からの職務怠慢があることは前記認定事実から認められるが、この点は、二回の降格によって評価済みのところである。そうであれば、原告に対する懲戒解雇は、その相当性を欠くもので解雇権の濫用となるというべきである。」

東京地判平20.2.29労判960号35頁[熊坂ノ庄すっぽん堂商事事件]

 販売員として勤務していた従業員が指示された研修・出張命令を歯科治療に支障がある等の理由で拒否し、会社から歯科治療が終了したら連絡するようにとの指示を受け、それまでは欠勤として扱うため欠勤届を提出するように指示した後、再度発令された研修・出張命令に服さなかったことを理由に懲戒解雇された事案について、
 会社は労働者が申請した労働局のあっせんに出席しなかったこと、1回目の研修・出張命令に対して労働者が「ごく一部の期間については同命令に服すことが可能となったので、至急連絡をもらいたい」旨の連絡をしているのに会社がこれに応答していないこと、2回目の研修・出張命令等の発出に際して、もしこれに違反したら懲戒解雇するなどと、いきなりこれを命じていることから、唐突な印象を免れず、同命令等の必要性について十分な説明がされているとは言い難く、弁明の機会を当たる余地のない形式で懲戒解雇に至っているなどとして懲戒解雇を無効としました。

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メンタルヘルス不調を原因とする場合

 日常的な業務上の指示・命令違反の原因がメンタルヘルス不調にある場合には、労働者からの申告や診断書の提出がなくても、メンタルヘルス不調を原因とするものと看守し得る場合には、原則として、業務軽減・休職の枠組みの中で対応すべきものと考えられています。そのため、これらの措置を行うことなく解雇した場合には、解雇は無効となることがあります。

最二小判平24.4.27裁判集民240号237頁[日本ヒューレット・パッカード事件]

 被害妄想等の精神的不調を来している労働者が、実際には存在しない職場での嫌がらせ等を使用者に訴え、これが解決しない限り出勤しないとして約40日間にわたり欠勤を続けたことを理由に諭旨解雇された事案において、
 「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、…精神科医による健康診断を実施するなどした上で…その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであ」る等ととして、解雇を無効としました。

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