不当解雇・退職扱い

妊娠を理由とする解雇・降格・退職勧奨

 労働者が妊娠したことを契機に使用者から解雇される場合があります。もっとも、男女雇用機会均等法をはじめとする法律は、妊娠した労働者の保護について規定しています。そのため、使用者は、労働者が妊娠したことを契機として不利益な取り扱いをすることは制限されています。
 今回は、妊娠を理由とする解雇について解説します。

男女雇用機会均等法とは

 男女雇用機会均等法とは、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする法律です。
 JILPT「妊娠等を理由とする不利益取扱い及びセクシュアルハラスメントに関する 実態調査」結果(概要)における「雇用形態別妊娠等を理由とする不利益取扱い等経験率」(個人調査)によると、「雇用形態計」の「企業規模計」は、「21.4%」とされています。1~29人の企業規模では「18.6%」、30~299人の企業規模では「23.2%」、300人~の企業規模では「25.2%」となっており、企業規模が大きくなるにつれて経験率も上昇しています。雇用形態別にみると、正社員では「22.3%」、契約社員等では「13.2%」、パートタイマーでは「6.3%」となっているのに対して、派遣労働者はでは「45.3%」と経験率が高くなっている点に特徴があります。なお、派遣労働者の場合に限定すると、1~29人の企業規模では「78.9%」、30~299人の企業規模では「54.8%」、300人~の企業規模では「45.5%」となっており、企業規模が小さくになるにつれて経験率が高くなっています。
出典:JILPT「妊娠等を理由とする不利益取扱い及びセクシュアルハラスメントに関する 実態調査」結果(概要)6頁

 また、妊娠等を理由とする不利益取り扱い等の態様(個人調査)によると、「雇用形態計」では、「解雇」が「16.6%」、「退職や正社員を非正規社員とするような契約内容変更の強要」が「14.4%」、「降格」が「7.6%」となっています。
出典:JILPT「妊娠等を理由とする不利益取扱い及びセクシュアルハラスメントに関する 実態調査」結果(概要)7頁

男女雇用機会均等法1条(目的)
「この法律は、法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのつとり雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする。」

妊娠を理由とする解雇

妊娠を理由とする解雇の禁止

⑴ 総論

 使用者は、その雇用する女性労働者が妊娠したことその他の妊娠又は出産に関する事由であって均等則第2の2各号で定めるもの(以下「妊娠・出産等」という。)を理由として、解雇その他不利益な取扱いをすることは、禁止されています(男女雇用機会均等法9条3項)。

男女雇用機会均等法9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
3「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」

⑵ 妊娠を理由とする不利益取扱いとは

ア 妊娠・出産等を「理由として」

 妊娠・出産等を「理由として」とは、妊娠・出産等と、解雇その他不利益な取扱いとの間に因果関係があることをいいます。
 男女雇用機会均等法施行規則2条の2は、具体的には以下の事由を定めています。

①妊娠したこと。
②出産したこと。
③法第十二条若しくは第十三条第一項の規定による措置を求め、又はこれらの規定による措置を受けたこと。
④労働基準法第六十四条の二第一号若しくは第六十四条の三第一項の規定により業務に就くことができず、若しくはこれらの規定により業務に従事しなかつたこと又は同法第六十四条の二第一号若しくは女性労働基準規則第二条第二項の規定による申出をし、若しくはこれらの規定により業務に従事しなかつたこと。
⑤労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、若しくは同項の規定による休業をしたこと又は同条第二項の規定により就業できず、若しくは同項の規定による休業をしたこと。
⑥労働基準法第六十五条第三項の規定による請求をし、又は同項の規定により他の軽易な業務に転換したこと。
⑦労働基準法第六十六条第一項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により一週間について同法第三十二条第一項の労働時間若しくは一日について同条第二項の労働時間を超えて労働しなかつたこと、同法第六十六条第二項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により時間外労働をせず若しくは休日に労働しなかつたこと又は同法第六十六条第三項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により深夜業をしなかつたこと。
⑧労働基準法第六十七条第一項の規定による請求をし、又は同条第二項の規定による育児時間を取得したこと。
⑨妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかつたこと又は労働能率が低下したこと。
※⑨「妊娠又は出産に起因する症状」とは、つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回復不全等、妊娠又は出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状をいいます。

 妊娠・出産等の事由を契機として、不利益取扱いが行われた場合は、原則として妊娠・出産等を理由として不利益取扱いがなされたものと解されます。
 契機として」については、基本的に当該事由が発生している期間と時間的に近接して当該不利益取扱いが行われたか否かをもって判断します。例えば、育児時間を請求・取得した労働者に対する不利益取扱いの判断に際し、定期的に人事考課・昇級等が行われている場合においては、請求後から育児時間の取得満了後の直近の人事考課・昇級等の機会までの間に、昇進・昇格の人事考課において不利益な評価が行われた場合は、「契機として」行われたと判断します。
 ただし、妊娠・出産等を「契機として」行われた場合でも、以下の場合には、「妊娠・出産等を理由として」行われた場合には該当しません

イ①円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障があるため 当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合において、②その業務上の必要性の内容や程度が、法第九条第三項の趣旨に実質的に反しないものと認められるほどに、当該不利益取扱いにより受ける影響の内容や程度を上回ると認められる特段の事情が存在すると認められるとき 又は
ロ①契機とした事由又は当該取扱いにより受ける有利な影響が存在し、かつ、当該労働者が当該取扱いに同意している場合において、②当該事由及び当該取扱いにより受ける有利な影響の内容や程度が当該取扱いにより 受ける不利な影響の内容や程度を上回り、当該取扱いについて事業主から労働者に対して適切に説明がなされる等、一般的な労働者であれば当該取扱いについて同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき

イ 「不利益な取扱い」

 禁止される「解雇その他不利益な取扱い」とは、例えば、以下に掲げるものです。

イ 解雇すること
ロ 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
ハ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること
ニ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと
ホ 降格させること
ヘ 就業環境を害すること
ト 不利益な自宅待機を命ずること
チ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと
リ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
ヌ 不利益な配置の変更を行うこと
ル 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと

 なお、男女雇用機会均等法9条3項の適用に当たっては、派遣先は、派遣労働者を雇用する事業主とみなされます(派遣法47条の2)。

⑶ 妊娠を理由とする解雇の無効

 妊娠中の女性労働者および出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、事業主が妊娠若しくは出産に関連した事由を理由とする解雇でないことを証明しない限り、無効とされます(男女雇用機会均等法9条4項)。
 なお、例外的な事案ですが、キリスト教系の短期大学の専任講師が婚外子を出産した事案において、解雇を有効とした裁判例があります(大阪地判昭56.2.13労判362号46頁[大阪女学院事件])。

男女雇用機会均等法第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
4「妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。」

⑷ 妊娠を理由とする解雇と不法行為

 事業主において、外形上、妊娠等以外の解雇事由を主張しているものの、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことを認識しており、あるいは、これを当然に認識すべき場合において、妊娠等と近接して解雇が行われたときは、均等法9条3項及び育休法10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができます。そのため、このような解雇は,これらの各規定に反しており,少なくともその趣旨に反した違法なものと解されています。
 もっとも、解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝されるものと解されています。そのため、慰謝料の請求が認められるのは、経済的損失が補填されてもなお慰藉されない特段の精神的苦痛が生じている場合に限られています。
 慰謝料が認められる場合、その相場は、

50万円~100万円程度

とされています。

東京地判平29.7.3労判1178号70頁[シュプリンガー・ジャパン事件]

1 妊娠等と近接して行われた解雇と均等法及び育休法違反について
 「均等法9条3項及び育休法10条は,労働者が妊娠・出産し,又は育児休業をしたことを理由として,事業主が解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁じている。一方で,事業主は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認められる場合には,労働者を有効に解雇し得る(労働契約法16条参照)。」
 「上記のとおり,妊娠・出産や育児休業の取得(以下「妊娠等」という。)を直接の理由とする解雇は法律上明示的に禁じられているから,労働者の妊娠等と近接して解雇が行われた場合でも,事業主は,少なくとも外形的には,妊娠等とは異なる解雇理由の存在を主張するのが通常であると考えられる。そして,解雇が有効であるか否かは,当該労働契約に関係する様々な事情を勘案した上で行われる規範的な判断であって,一義的な判定が容易でない場合も少なくないから,結論において,事業主の主張する解雇理由が不十分であって,当該解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められなかった場合であっても,妊娠等と近接して行われたという一事をもって,当該解雇が妊娠等を理由として行われたものとみなしたり,そのように推認したりして,均等法及び育休法違反に当たるものとするのは相当とはいえない。」
 「他方,事業主が解雇をするに際し,形式上,妊娠等以外の理由を示しさえすれば,均等法及び育休法の保護が及ばないとしたのでは,当該規定の実質的な意義は大きく削がれることになる。もちろん,均等法及び育休法違反とされずとも,労働契約法16条違反と判断されれば解雇の効力は否定され,結果として労働者の救済は図られ得るにせよ,均等法及び育休法の各規定をもってしても,妊娠等を実質的な,あるいは,隠れた理由とする解雇に対して何らの歯止めにもならないとすれば,労働者はそうした解雇を争わざるを得ないことなどにより大きな負担を強いられることは避けられないからである。」
 「このようにみてくると,事業主において,外形上,妊娠等以外の解雇事由を主張しているが,それが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないことを認識しており,あるいは,これを当然に認識すべき場合において,妊娠等と近接して解雇が行われたときは,均等法9条3項及び育休法10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができるから,このような解雇は,これらの各規定に反しており,少なくともその趣旨に反した違法なものと解するのが相当である。」
 「本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠いており,社会通念上相当であるとは認められず無効である。また,既に判断した解雇に至る経緯(第1回休業前の弁護士等の助言内容のほか,紛争調整委員会が発した調停案受諾勧告書の内容…も考慮されるべきである。)からすれば,被告(の担当者)は,本件解雇は妊娠等に近接して行われており(被告が復職の申出に応じず,退職の合意が不成立となった挙句,解雇したという経緯からすれば,育休終了後8か月が経過していても時間的に近接しているとの評価を妨げない。),かつ,客観的に合理的な理由を欠いており,社会通念上相当であるとは認められないことを,少なくとも当然に認識するべきであったとみることができるから,前記(1)で判断したところによれば,均等法9条3項及び育休法10条に違反し,少なくともその趣旨に反したものであって,この意味からも本件解雇は無効というべきである。」
2 損害
 「解雇が違法・無効な場合であっても,一般的には,地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され,その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより,解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され,これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないものと解される。」
 「もっとも,本件においては,原告が第2回休業後の復職について協議を申入れたところ,本来であれば,育休法や就業規則の定め…に従い,被告において,復職が円滑に行われるよう必要な措置を講じ,原則として,元の部署・職務に復帰させる責務を負っており,原告もそうした対応を合理的に期待すべき状況にありながら,原告は,特段の予告もないまま,およそ受け入れ難いような部署・職務を提示しつつ退職勧奨を受けており,被告は,原告がこれに応じないことを受け,紛争調整委員会の勧告にも応じないまま,均等法及び育休法の規定にも反する解雇を敢行したという経過をたどっている。こうした経過に鑑みると,原告がその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが見て取れ,賃金支払等によって精神的苦痛がおおむね慰謝されたものとみるのは相当でない。」
 「そして,本件に表れた一切の事情を考慮すれば,被告のした違法な本件解雇により,原告に生じた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は50万円と認めるのが相当であり,これと相当因果関係にあると認められる弁護士費用5万円とを併せて,被告は損害賠償義務を負うものというべきである。」

東京地判平30.7.5経速2362号3頁[フーズシステム事件]

1 不法行為該当性
⑴ 降格
 「原告が平成25年2月に第1子の妊娠に伴って事務統括から降格されたとは認められないから,被告会社が,平成25年2月に,原告に対して後任の事務統括を推薦させた上で後任の事務統括を任命し,産休に入るまでの間,原告に後任者の仕事の援助をさせたことは,妊娠に伴う不利益取扱いには当たらず,上記行為は原告に対する不法行為を構成しない。」
⑵ 雇用形態の変更
 「被告Cが,原告に対し,第1子出産後の平成26年4月に復職する際,時短勤務を希望したことについて,実際には嘱託社員のままで時短勤務が可能であったものであり,育児休業法23条に従い,嘱託勤務のままで所定労働時間の短縮措置をとるべきであったにもかかわらず,パート契約でなければ時短勤務はできない旨の説明をした上で,原告の真に自由な意思に基づかないで,嘱託社員からパート社員へ雇用形態を変更する旨のパートタイム契約を締結させ,事務統括から事実上降格したことは,同法23条の2の禁止する不利益取扱いに当たり、不利益の内容や違法性の程度等に照らし,原告に対する不法行為を構成する。」
⑶ 産休・育休拒否及び退職発表
 「次に,被告Cが,原告の第2子妊娠に際し,D課長を通じて,原告の産休,育休取得を認めない旨を伝えたことに加え,原告は引き続き被告会社において就労を希望しており,その希望に反することを知りながら,平成27年3月30日,多くの従業員が出席し,原告も議事録係として出席した定例会において,原告が同年5月20日をもって退職する旨発表したことは,被告Cにおいて,第1子出産後の復職の際にパートタイム契約に変更しなければ時短措置を講じることができないとの態度をとり,更に第2子についての産休,育休取得を認めない態度を示していたこと等の事情を総合すると,原告に対して退職を強要する意図をもってしたものであると認められるから,産前産後の就業禁止を定める労基法65条に違反するとともに,妊娠出産に関する事由による不利益取扱いの禁止を定める男女雇用機会均等法9条3項にも違反する違法な行為であり,不利益の内容や違法性の程度等に照らし,原告に対する不法行為を構成する。」
⑷ 業務を担当させなかったこと
 「平成28年4月の復職後に原告に業務を担当させなかったことは,被告会社における他の従業員の業務の担当状況の詳細を認めるに足りる証拠がないことにも照らし,被告らにおいて,悪意をもって嫌がらせをするために,故意に原告に業務を担当させなかったとまでは認められない。また,被告らにおいて,周囲の従業員に対して原告を孤立させるような言動や態度をとらせたことを認めるに足りる証拠はない。さらに,被告会社が原告に対し,トイレ掃除や昼休み時間中のミーティングへの参加をしなくてよい旨指示したことは,前記認定のとおり,原告から法令順守をするよう申入れをされていたことに照らせば,被告会社において,原告に対して慎重な取扱いをしたものとみる余地があり,本件全証拠によっても,原告に対する嫌がらせをする意図で上記指示をしたとまでは認められず,原告に対する不法行為は成立しない。」
⑸ 不法行為
 「前判示のとおり,被告会社が,原告に対し,平成28年8月をもって行った解雇は無効であるところ,被告会社において原告を解雇した理由として挙げる事実が,的確な裏付け証拠があるとは認められない原告が他の従業員を退職させたという事実や,被告会社に顕著な実害が生じたとみることはできない他の従業員のパソコンの使用という事実であること,被告Cは,原告が第2子の出産に当たり,法律上当然の権利である産休,育休取得を認めないという明白な違法行為について,雇用均等室からの指摘もあって,原告に対して謝罪したものの,その後に解雇に及んだという前記認定に係る事実経過に鑑みれば,被告らは,第2子妊娠に伴う正当な権利主張をした原告について,法律上正当とは認められない形式的な理由により被告会社から排除しようとしたものと認められる。」
⑹ 小括
 「したがって,上記解雇は,男女雇用機会均等法9条3項の禁止する不利益取扱いに当たり,不利益の内容や違法性の程度等に照らし,原告に対する違法な行為として不法行為が成立する。」
 「以上のとおり,被告Cは,前記イ,ウ及びオの原告に対する不利益取扱い及び不当解雇により生じた損害について,民法709条及び715条(原告は,被告の従業員である被告C及びD課長の行為を不法行為として摘示した上で被告会社に対する損害賠償請求をしているのであるから,民法715条に基づく損害賠償請求もしているものと解される。)に基づき,連帯して賠償する責任を負う。」
2 損害額
 「原告は,平成26年4月,第1子出産後の復職の際,前記パート契約を締結したことにより事務統括ではなくなったところ,同契約は育児休業法23条の2により無効であることは前判示のとおりであるから,同時点以降の事務統括手当月額1万円は,逸失利益として,前記不法行為による損害と認められる。平成26年4月から平成28年8月までの,原告が産休又は育休を取得していた期間を除く事務統括手当の合計額(月の途中で産休を取得又は復職した場合は,半額の5000円とする。)は,17万円{=1万円×16か月分(平成26年5月から平成27年4月,平成28年5月から同年8月)+5000円×2か月分(平成26年4月,平成28年4月)}である。」
 「他方,賞与については,具体的な賞与請求権が発生しているとはいえないことは前判示のとおりである上,被告会社の賃金規程において,賞与算定期間中の出勤日数が一定割合に満たない従業員はその支給対象から除外されることがある旨定められていることをも併せ考慮すると,平成28年の解雇までの期間についても,原告主張の賞与支給相当額を損害と認めることはできない。」
 「前記認定に係る諸事実,殊に,原告は,本来は法律上当然に取得できる第2子に関する産休,育休について,被告Cから,これを認めないという明白に違法な意向を示された上,平成27年3月には,その意思に反して社内会議の場で原告が退職する旨を発表されたことにより,事実上退職を強要されたこと,被告Cは,原告の雇用均等室に対する連絡により,結果的に自己名義で原告に対する平成27年5月29日付けの謝罪文…を提出したところ,被告会社の取締役である被告Cが同謝罪文の提出によっていわば一社員に正式に謝罪を強いられた形となり,第2子出産後に復職した平成28年4月のわずか4か月後の同年8月には,証拠上裏付けのない事実や解雇の理由とはなり得ない軽微な事実により原告を解雇したことなどの経緯を総合考慮すると,原告には,解雇期間中の賃金等の経済的損害を超えた精神的苦痛が生じたものと認められ,被告Cにおいて,産休,育休の取得という法律上当然の権利を一時的とはいえ認めないという明白に違法な態度を執り,結果的に原告の解雇にまで至っていることなどの前記諸事実を含む本件に顕れた一切の事情を考慮すると,原告の精神的苦痛を軽視することはできず,慰謝料額は50万円をもって相当と認める。」

東京地判平27.3.13労判1128号84頁[出水商事事件]

(1)不法行為該当性
 「被告が平成24年6月に産休中の原告を退職扱いにし本件退職通知を送付した行為…は,労働基準法19条1項及び育児・介護休業法10条に反する行為であると評価し得る。」
 「そして,被告が原告の出産予定日を認識していた…にもかかわらず当該出産予定日の直近の同月18日にDを通じて原告に対し退職扱いにする旨を告げていること,原告が被告に対して退職扱いにするよう依頼した事実はなく,他に産休・育休中の原告を退職扱いにすべき事情が当時存したものとは認められないこと,Dから退職扱いの連絡を受けた原告が直ちに被告に対しその取消しを求めたにもかかわらず,その後,被告代表者は原告を退職扱いにするよう再度指示し,さらに原告に対して本件退職通知及び退職金の送付まで行っていることなどの事情を総合すれば,少なくとも本件退職通知を送付した行為については,産休中の原告の意に反することを認識した上で行ったものと認め得るし,仮にそのような認識がなかったとしても,産休中の原告に対して退職扱いにする旨の連絡をし,原告から取消しを求められても直ちにこれを取り消さず,むしろ本件退職通知を原告に送付するという被告の一連の行為には重大な過失があるというべきであるから,これら被告の一連の行為は,労働基準法19条1項及び育児・介護休業法10条に反する違法な行為として不法行為に該当すると認めるのが相当である。」
 「なお,被告は,原告の求めに応じて退職扱いを取消したことをもって被告の上記行為が清算された旨の主張をするが,当該取消しにより違法な状態の継続が阻止されたとは評価し得るものの,当該行為自体の違法性がすべて阻却されるものとは評価し得ないから,被告の上記主張は採用できない。」
(2)損害
 「被告が原告を退職扱いにし本件退職通知を送付した行為は,不法行為に該当すると認められるところ,原告が被告から退職扱いの告知を受けたのが出産の翌日であったこと,当該退職扱いは,復職を希望して産休・育休を取得した原告にとって全く予想外の出来事であったこと,原告が退職扱いの取消しを被告に求めていたにもかかわらず,被告は本件退職通知を退職金とともに原告に送付していること,他方で,本件退職通知を送付した数日後に被告が原告の退職扱いを取り消していることなどの事情を総合考慮すれば,被告の上記不法行為により原告が受けた精神的苦痛は,15万円をもって慰謝するのが相当である。」
 「よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,15万円及びこれに対する労働審判の申立日である平成25年8月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。」

不当解雇の慰謝料相場はいくら?増額のために最低限しておくこと3つ不当解雇の慰謝料相場は、50万円~100万円程度といわれています。少しでも慰謝料を増額するためには、①弁護士に相談する、②証拠を収集する、③労働審判・訴訟を活用するといったことが重要となります。今回は、不当解雇の慰謝料の相場とこれを増額する方法を解説します。...

産前産後休業期間中の解雇制限

 仮に、妊娠を理由としていない場合であっても、産前産後休業期間中については、原則として、解雇が禁止されています(労働基準法19条1項本文)。
 ただし、「使用者が、…天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない」とされています(労働基準法19条1項但書)。「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」については、以下の行政通達(昭和63年3月14日基発150号)が参考になります。

「法第19条及び法第20条に規定する『天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった』として、認定申請がなされた場合には、申請事由が『天災事変その他やむを得ない事由』と解されるだけでは充分でなく、そのために『事業の継続が不可能』になることが必要であり、また、逆に『事業の継続が不可能』になつてもそれが『やむを得ない事由』に起因するものでない場合には、認定すべき限りでないこと。」
(一)「『やむを得ない事由』とは、天災事変に準ずる程度に不可抗力に基づきかつ突発的な事由の意であり、事業の経営者として、社会通念上採るべき必要な措置を以てしても通常如何ともなし難いような状況にある場合をいう。」

⑴「次の如き場合は、これに該当する。」

イ「事業場が火災により焼失した場合。ただし。事業主の故意又は重大な過失に基づく場合を除く。」
ロ「震災に伴う工場、事業場の倒壊、類焼等により事業の継続が不可能となつた場合。」

⑵「次の如き場合は、これに該当しない。」

イ「事業主が経済法令違反のため強制収容され、又は購入した諸機械、資材等を没収された場合。」
ロ「税金の滞納処分を受け事業廃止に至つた場合。」
ハ「事業経営上の見通しの齟齬の如き事業主の危険負担に属すべき事由に起因して資材入手難、金融難に陥つた場合。個人企業で別途に個人財産を有するか否かは本条の認定には直接関係がない。」
ニ「従来の取引事業場が休業状態となり、発注品なく、ために事業が金融難に陥つた場合。」

(二)「『事業の継続が不可能になる』とは、事業の全部又は大部分の継続が不可能になつた場合をいうのであるが、例えば当該事業場の中心となる重要な建物、設備、機械等が焼失を免れ多少の労働者を解雇すれば従来通り操業しうる場合、従来の事業は廃止するのが多少の労働者を解雇すればそのまま別個の事業に転換しうる場合の如く事業がなおその主たる部分を保持して継続しうる場合、又は一時的に操業中止のやむなきに至つたが、事業の現況、資材、資金の見通し等から全労働者を解雇する必要に迫られず、近く再開復旧の見込が明かであるような場合は含まれないものであること。」

 男女雇用機会均等法9条3項は産前産後の休業をしたことを理由として時期を問わず解雇してはならないことを定めたものであり、労働基準法第19条とは、目的、時期、罰則の有無を異にしており、重なり合う部分については両規定が適用されます。

労働基準法19条(解雇制限)
1「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。」
2「前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。」

妊娠を理由とする降格

 では、妊娠を理由とする降格についてはどうでしょうか。
 男女雇用機会均等法9条3項は強行規定とされており、これに違反する行為は無効とされています。
 また、使用者は、労働者に財産的・精神的損害を与えた場合には、解雇の場合と同様、不法行為責任が問題になります。

妊娠を理由とする退職勧奨

 裁判例は、妊娠中の退職合意については、特に当該労働者につき自由な意思に基づいてこれを合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか慎重に判断するとしています(東京地立川支判平29.1.31労判1156号11頁[TRUST事件])。
 また、当該事案では、退職扱いに労働者が同意していたとしても、妊娠中の不利益取扱いを禁止する同法9条3項が広く解釈されていることに鑑みると、当該労働者につき自由な意思に基づいてこれを退職合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に認められない場合には、使用者には少なくとも過失があり,不法行為が成立するとされています。

退職勧奨が違法になる4つのケース!慰謝料の相場と増額する方法退職勧奨に応じるかどうかは、労働者の自由であるため、労働者の意思を妨げるような退職勧奨は違法になります。今回は、退職勧奨が違法になるケースと慰謝料の相場について解説していきます。...

参考リンク

厚生労働省:妊娠したら解雇は違法です

厚生労働省 都道府県労働局:職場でつらい思いをしていませんか?

厚生労働省:男女雇用機会均等法関係資料

労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に 関し、事業主が適切に対処するための指針(平成 18 年厚生労働省告示第 614 号)最終改正:平成 27 年厚生労働省告示 458 号

改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行 について雇児発第1011002号 平 成 1 8 年 1 0 月 1 1 日 最終改正 平成28年8月2日雇児発0802第1号

マタニティハラスメント-違法性の判断方法-女性がより働きやすい環境を作っていくためには、妊娠、出産等を理由に不利益な扱いや差別的な言動をされないような社会にしていく必要があります。今回は、マタニティハラスメントについて、裁判例を参考にしながら解説していきます。...
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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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