会社から退職を突き付けられると同時に締め出されてしまい悩んでいませんか?
いきなり孤立されてしまい退職を迫られてしまうと、この後どうなってしまうのか不安になりますよね。
ロックアウト型解雇(退職勧奨)とは、退職を突き付けられると同時に有無を言わさず会社から締め出されてしまうことをいいます。
メールやチャット等の社内ネットワークへのアクセス権をはく奪され、貸与PCやスマホ、鍵、セキュリティカード等を置いていくように言われ、出勤を禁じられます。
労働者はロックアウトされることにより、給与が支払われなくなる可能性、職場から孤立してしまう可能性等のリスクに直面することになります。
ロックアウト自体は直ちに違法とは言えませんが、一定の場合には例外的に違法となる可能性があります。
また、そもそも、労働者は退職に応じる義務はありませんし、解雇が違法とは言えなくても濫用として無効となる可能性があります。
労働者としては、ロックアウト型解雇(退職勧奨)にあった場合には、ロックアウト期間中の給与が支払われるように対策を講じたうえで、退職勧奨や解雇に対処していくことになります。
実は、近年、外資系企業を中心に労働者を締め出したうえで退職を迫るロックアウト型の退職勧奨が著しく増加しています。
私が日々たくさんの解雇・退職勧奨事件の相談を受ける中でも、このような事案を目にする機会は増えてきました。
この記事を読んでいただき、会社からロックアウトされてしまった場合でも焦らずに行動していただければと思います。
今回は、ロックアウト型解雇(退職勧奨)とはどのようなものかを説明したうえで、違法となる場合や正しい対処法について解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めばロックアウト型解雇(退職勧奨)をされた場合にどのように対処すればいいのかがよくわかるはずです。
目次
ロックアウト型解雇(退職勧奨)とは|ロックアウト解雇の意味と目的
ロックアウト型解雇(退職勧奨)とは、退職を突き付けられると同時に有無を言わさず会社から締め出されてしまうことをいいます。
ロックアウト(lockout)というのは、「締め出す」、「閉鎖する」、「排除する」といった意味の言葉です。
本来的なロックアウトは、労働組合が争議行為などのストライキを行った際の会社側の対抗手段として用いられるものです。
つまり、会社側は、事務所や工場を一時的に閉鎖して働けなくして、賃金の支払いを拒むといった対応を行うことがあり、ロックアウトと呼ばれていました。
これに対して、上記のロックアウト型解雇(退職勧奨)というのは、労働者が争議行為を行った場合の対抗手段としてではなく、労働者を辞めさせるための手段として行われます。
具体的には、会社側は、労働者を会社から締め出し、孤立させ戻りにくくするとともに、再就職活動の時間を与えることで、退職に応じざるを得ない状況を作り出そうとすることを目的としていることが多いです。
その他、対立的な関係になってしまった労働者に情報の持ち出し等をされることを防ぐこと等の目的がある場合もあります。
ロックアウト型解雇(退職勧奨)における2つのケース
ロックアウト型解雇(退職勧奨)には、以下の2つのケースがあります。
ケース1:退職勧奨中の業務を禁じるケース
ケース2:解雇通知を出して即日締め出すケース
それでは、各ケースについて順番に解説していきます。
ケース1:退職勧奨中の業務を禁じるケース
まずケース1は、退職勧奨中の業務を禁じるケースです。
例えば、ある日、人事担当者から面談室に呼ばれることになります。
そこで、突然、退職してほしい旨を伝えられ、退職合意書にサインするように迫られます。
また、メールやチャット等の社内ネットワークへのアクセス権をはく奪され、貸与PCやスマホ、鍵、セキュリティカード等を置いていくように言われ、出勤を禁じられます。
その後、1週間くらいの頻度で、人事担当者から面談を繰り返されることになり、就職活動の状況や退職についての検討状況を確認されます。
近年、外資系企業などで増加している退職勧奨の手法になります。
退職勧奨の流れについては以下の記事で詳しく解説しています。
ケース2:解雇通知を出して即日締め出すケース
次にケース2は、解雇通知を出して即日締め出すケースです。
予告なく突然面談室に呼び出し、その場で解雇通知書を交付し、貸与PCやスマホ、鍵、セキュリティカード等を置いていくように言われます。
前提として解雇自体が一方的に労働者を退職させるものであり、解雇後は出社できず、貸与物等の返却を求められる点については、通常の解雇と同様です。
ロックアウト型解雇は、同僚にあいさつする時間を与えず、解雇理由についての十分な説明も行わず、話し合いにも一切応じないといった特徴があります。
このような強行的な締め出しの姿勢を捉えて、「ロックアウト」という表現が用いられる例があるのです。
ロックアウト型解雇(退職勧奨)は違法?
ロックアウト型解雇(退職勧奨)について、原則として直ちに違法となるとは言えません。
しかし、その態様によっては違法とされる可能性もあります。仮に違法ということが認められれば、給与だけではなく慰謝料の請求をできる可能性もあります。
不当解雇の慰謝料については以下の記事で詳しく解説しています。
以下では、ロックアウト型解雇(退職勧奨)の違法性について、次の順序で説明していきます。
・原則:ロックアウト自体は違法とは言えない
・例外1:退職強要となる場合|ロックアウト型退職勧奨
・例外2:ハラスメントとなる場合|ロックアウト型退職勧奨
・例外3:解雇自体が違法とされる場合|ロックアウト型解雇
原則:ロックアウト自体は違法とは言えない
ロックアウト型解雇(退職勧奨)について、ロックアウト自体が直ちに違法になるとはいえません。
なぜなら、労働者には、就労請求権が認められておらず、業務を行うように求める権利まではないためです。
つまり、労働者が有しているのは給与を支払ってもらう権利であり、就労は義務にすぎないので、会社がその就労を免除するということであれば、権利が害されたとまではいいにくいのです。
ただし、ロックアウト型退職勧奨が違法とまでは言えない場合でも、労働者が退職に応じる義務はありません。
また、ロックアウト型解雇が違法とまでは言えない場合でも、解雇自体は濫用となれば無効となります。
例外1:退職強要となる場合|ロックアウト型退職勧奨
ロックアウト型の退職勧奨について、退職強要に当たるような場合には違法となる可能性があります。
なぜなら、退職勧奨は、「労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて、当該労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり、又は、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって、その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をすることは許され」ないとされているためです東京地判平成23年12月28日労経速2133号3頁[日本アイ・ビー・エム事件])。
例えば、労働者が退職勧奨に応じる意思がない旨を明確に示したうえで、退職勧奨をやめてほしいと伝えているにもかかわらず、出勤を認めず退職勧奨を執拗に継続するような場合には、退職強要として違法となる可能性があります。
これに対して、労働者が退職条件等の交渉に応じている場合や明確に退職勧奨を拒絶する意思を示していないような場合には、ロックアウトしたうえで退職勧奨を行うことが直ちに退職強要に該当するとはいえないでしょう。
退職強要については、以下の記事で詳しく解説しています
例外2:ハラスメントとなる場合|ロックアウト型退職勧奨
ロックアウト型の退職勧奨について、ハラスメントに当たるような場合には違法となる可能性があります。
職場におけるパワ―ハラスメントの類型の一つとして、「人間関係からの切り離し」があります(令和2年厚生労働省告示第5号)。
人間関係からの切り離しとは、隔離・仲間外し・無視のことであり、以下のような場合にはこれに該当するとされています。
・自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする場合
・一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる場合
例えば、ロックアウト型の退職勧奨が職場で孤立させる目的で行われる場合、退職に応じない労働者への嫌がらせとして行われるよう場合などには、ハラスメントとして違法となる可能性があります。
外資系企業のハラスメントについては以下の記事で詳しく解説しています。
例外3:解雇自体が違法とされる場合|ロックアウト型解雇
ロックアウト型の解雇について、その態様を考慮したうえで解雇自体が違法とされる場合があります。
裁判例は、解雇が濫用となるとしても、「そのことから直ちに民法709条上も違法な行為であると評価することはできず,当該解雇が民法709条にいう『他人の権利又は法律上保護される利益を侵害』する行為に該当するためには,労契法16条に違反するだけでなく,その趣旨・目的,手段・態様等に照らし,著しく社会的相当性に欠けるものであることが必要と解するのが相当である。」としています(東京地判平23.11.25労判1045号39頁[三枝商事事件](肯定))。
つまり、違法性を判断する際には、「解雇の手段態様」が考慮されることになります。
例えば「解雇が労働者の意見や弁解を全く無視する場合」、「解雇理由を説明しない場合」、「整理解雇の際に理解と納得を得ようとした形跡が認められない場合」などには、違法性を肯定する方向の事情として考慮される可能性があります。
そのため、ロックアウト型解雇であるというのは、解雇態様の悪質性を考慮するうえでの1つの事情であり、他の事情も併せ考慮することで解雇自体が違法となる可能性あるでしょう。
ロックアウト型解雇の裁判例|日本IBM事件
ロックアウト解雇という言葉が用いられた事例として、日本IBM事件があります。
IBMロックアウト解雇事件弁護団による2017年9月14日の声明によると、同ロックアウト解雇の特徴として以下の3つが挙げられています。
日本IBMのロックアウト解雇の特徴は、
第1に、長年にわたり日本IBMに勤続してきた労働者に対し、業績不良や改善見込みがないなどという会社が主張する事実はないにもかかわらず、人員削減と労働者の「新陳代謝」を図るために、業績不良という口実で解雇したことである。被解雇通告者に交付された解雇理由書の記載が一律に「業績が低い状態にあり、改善の見込みがない」なる抽象的な同一文言であったことはこのことを裏付けている。
第2に、長年勤務してきた労働者を突然呼び出して解雇を通告し、その直後に同僚に挨拶をする間も与えずに社外に追い出す(ロックアウト)という乱暴な態様である。
第3に、2012年7月以降の被解雇通告者は50名にのぼるが、そのうち解雇当時、組合員であった者が35名であり、まさに組合員を狙い撃ちしたものであり、これはリストラに反対してきた労働組合の弱体化を狙って実施された解雇であることである。とりわけ本件ロックアウト解雇は、原告の業務変更について労使間での交渉中に行われたものであり、労働者の団結権を侵害する、悪質なものといえる。
(出典:声明 日本IBMのロックアウト解雇、四度目の断罪! – JMITU日本アイビーエム支部 (jmitu-ibm.org))
東京地判平成28年3月28日労働判例1142号40頁
同事件は、解雇自体は濫用として無効になるとしたうえで解雇日以降の賃金の支払い請求を認めています。
しかし、ロックアウト解雇につき違法性があるとまでは認定せず、慰謝料については認めませんでした。
「解雇予告と共に職場から退去させられ出社を禁止されたことについては、被告が情報システムに関わる業務を行う企業であり、原告らの職場でも自社及び顧客の機密情報が扱われていると推認できるところ、一般的には、解雇予告をして対立状態となった当事者が機密情報を漏えいするおそれがあり、しかも、漏えいが一旦生ずると被害の回復が困難であることからすると、上記の措置に違法性があるとはいえない。」
「解雇予告時に、具体的な解雇事由を明記せず解雇を伝えるとともに、原告X2及び原告X3に対しては短い期間内に自主退職をすれば退職の条件を上乗せするという提示をしたことについては、実体要件を満たしている限り本来は解雇予告をするまでもなく即日解雇することも適法であること、使用者に解雇理由証明書を交付する義務があるとしても解雇の意思表示の時点で解雇理由の具体的な詳細を伝えることまでは要求されていないこと、期間内に自主退職をすれば退職の条件を上乗せするという提示はそれがない場合と比較して労働者にとって不利益な扱いともいえないことからすると、違法性があるとはいえない。」
「したがって、原告らに対する解雇の態様が違法であるとはいえず、これを理由とする不法行為の成立は認められない。そして、本件では、解雇自体は権利濫用に当たり無効であるが、原告らにつきそれぞれ解雇理由とされた業績不良はある程度認められること、解雇時に遡って相当額の給与等の支払がされることにより、解雇による精神的苦痛は相当程度慰謝されるものとみるべきことなども考慮すると、解雇による不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。」
ロックアウト型解雇(退職勧奨)をされた場合のリスク
労働者がロックアウト型解雇を(退職勧奨)をされた場合には、以下の2つのリスクがあります。
リスク1:給与が支払われない可能性
リスク2:職場から孤立してしまう可能性
それではこれらのリスクについて順番に説明していきます。
リスク1:給与が支払われない可能性
ロックアウト型の解雇(退職勧奨)のリスクの1つ目は、給与が支払われない可能性があることです。
ロックアウト期間中については業務を行っていなかったのであるから、給与は支払わないとの主張をされることがあります。
いわゆるノーワーク・ノーペイの原則に関する主張です。
労働者としては、このような主張をされた場合には、働く意思と能力があったのに会社から不当にロックアウトをされたため業務をできなかったと反論することになります。
もっとも、労働者が業務指示を求めたのかどうか等が争点となり、対応を誤ると給与の請求が認められないリスクが生じます。
自宅待機期間中の給与については、以下の記事で詳しく解説しています
リスク2:職場から孤立してしまう可能性
ロックアウト型の解雇(退職勧奨)のリスクの2つ目は、職場から孤立してしまう可能性があることです。
長期間にわたり出勤できず、社内ネットワークにもアクセスできなくなってしまうと、会社内の状況や人間関係が分からなくなってしまいます。
例えば、いきなり出勤しても仕事がなくて晒者になってしまうのではないか、周りから変な目で見られてしまわないか等の大きな心理的な負担が生じることになります。
このようにロックアウトをされてしまうことにより、職場から孤立してしまい戻りにくくなってしまう可能性があるのです。
ロックアウト型解雇(退職勧奨)への対処法
ロックアウト型解雇(退職勧奨)への対処法は、働く意思があることを示して、業務指示を求め、給与を請求することです。
働く意思を示し業務指示を求めておくことにより、ロックアウト期間中についても就労の意思があったとの主張が認められやすくなります。
例えば、内容証明郵便やメール等の形に残る方法により、「働く意思があるので業務を指示してください」と記載して送付しておきましょう。
退職勧奨に応じるつもりがない場合には、退職勧奨を拒否する旨や長期間の自宅待機命令がハラスメントに該当する旨を明確に伝えることも有用です。
また、ロックアウト状態に至ってしまっているようなケースでは、紛争として成熟してしまっていることが多いので早めに弁護士に相談することをお勧めします。
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まとめ
以上のとおり、今回は、ロックアウト型解雇(退職勧奨)とはどのようなものかを説明したうえで、違法となる場合や正しい対処法について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・ロックアウト型解雇(退職勧奨)とは、退職を突き付けられると同時に有無を言わさず会社から締め出されてしまうことをいいます。
・ロックアウト型解雇(退職勧奨)には、以下の2つのケースがあります。
ケース1:退職勧奨中の業務を禁じるケース
ケース2:解雇通知を出して即日締め出すケース
・ロックアウト自体は、原則として、違法とは言えません。しかし、以下のような場合には違法となる可能性があります。
例外1:退職強要となる場合
例外2:ハラスメントとなる場合
例外3:解雇自体が違法とされる場合
・労働者がロックアウト型解雇を(退職勧奨)をされた場合には、以下の2つのリスクがあります。
リスク1:給与が支払われない可能性
リスク2:職場から孤立してしまう可能性
・ロックアウト型解雇(退職勧奨)への対処法は、働く意思があることを示して、業務指示を求め、給与を請求することです。
この記事がロックアウト型解雇(退職勧奨)に困っている方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。