会社から内部告発を理由に解雇された場合、どうすればいいのでしょうか。内部告発が解雇事由になることはあるのでしょうか。今回は、内部告発を理由とする解雇について解説します。
就業規則上の規定
内部告発を理由に使用者から懲戒解雇される場合があります。就業規則などでは、以下のような規定がおかれている会社が多いです。
内部告発は、公益に適い、違法行為是正の機会になる反面、企業の名誉信用、秩序が害される可能性があるため、懲戒事由に該当するのかが議論されています。
第〇条(懲戒解雇)
労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第〇条に定める普通解雇、前条に定める減給、出勤停止とすることがある。
①故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
②正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。
③…
行政機関(監督官庁)等への告発
労働基準法等による保護
労働基準法等は、履行確保のため、監督官庁に労働基準法等違反の申告を行う権利を規定し、申告に対しては事業者による解雇その他不利益取扱いを行うことを禁止しています。そのため、労働者の内部告発は、このような違反申告行為の限りにおいては、労働基準法等により保護されることになります。
労働基準法104条(監督機関に対する申告)
1項「事業場に、この法律又はこの法律に基づいて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。」
2項「使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。」
労働安全衛生法97条(労働者の申告)
1項「労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。」
2項「事業者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」
労働者派遣法49条の3(厚生労働大臣に対する申告)
1項「労働者派遣をする事業主又は労働者派遣の役務の提供を受ける者がこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実がある場合においては、派遣労働者は、その事実を厚生労働大臣に申告することができる。」
2項「労働者は派遣をする事業主及び労働者派遣の役務の提供を受ける者は、前項の申告をしたことを理由として、派遣労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」
公益通報者保護法による保護
公益通報者保護法は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等を定めることにより、公益通報者の保護を図っています(公益通報者保護法1条)。
⑴ 公益通報とは
「公益通報」に該当するには、以下の要件を満たす必要があります(公益通報者保護法2条1項)。
①労働者が、不正の利益を図る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、
②その労務提供先又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、
③当該労務提供先若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者、当該通報対象事実について処分若しくは勧告等をする権限を有する行政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に通報すること
②の「通報対象事実」は、個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるものに規定する罪の犯罪行為の事実ないしはそれらの法律の規定に基づく処分の理由となる事実をいいます(公益通報者保護法2条3項)。なお、同別表8号に関して、政令は、400を超える法律を列挙しています。
⑵ 解雇等の不利益取扱いの禁止
公益通報者保護法は、通報対象事実について公益通報をしたことを理由とする解雇、労働者派遣契約の解除、降格、減給、派遣労働者の交代を求めることその他の不利益扱いを禁止しています(公益通報者保護法3条~5条)。
これらの保護がされるための要件は、以下のとおりです。
Ⅰ 当該労務提供先等への公益通報
通報対象事実が生じ、または、まさに生じようとしていると思料する場合
Ⅱ 監督官庁への公益通報
通報対象事実が生じ、または、まさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合
Ⅲ その他の通報必要者への公益通報
Ⅱに加えて、以下のいずれかが必要です。
ⓐ公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ⓑ公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ⓒ労務提供先からⅠⅡの通報をしないことを正当な理由なく要求された場合
ⓓ書面によりⅠに定める公益通報をした日から20日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
ⓔ個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
マスコミ等の第三者への告発
労働者が企業組織内で秘密とされる情報をマスコミ等の第三者に告発した場合等、労働基準法や公益通報者保護法による保護が及ばない場合があります。このような場合であっても、解雇権の濫用や懲戒権の濫用を介して、従来の判例法理による保護が及んでいきます(公益通報者保護法6条2項、3項)。
裁判例は、内部告発を理由とする懲戒処分の有効性について、以下の要素を総合考慮して判断しています。
①内部告発の内容が真実であるか、または真実と信ずるに足りる相当な理由があること
②内部告発の目的が公益性を有するか、少なくとも不正な目的または加害目的ではないこと
③内部告発の手段・態様が相当であること
①は、主要な点のおいて真実であるか、または真実と信ずるにつき相当な理由が必要であるとされる傾向にあります。
③は、内部告発に先立って企業内で是正努力を行うことを求める傾向にあります。
【富山地判平17.2.23労判891号12頁[トナミ運輸事件]】
労働者が新聞会社にカルテルに関する事実を告発し、その内容が新聞に掲載された事案に関し、裁判例は、以下のように判示しています。
⑴ 真実であると信ずるに足りる相当な理由
「被告が、現実に、〔1〕他の同業者と共同して本件ヤミカルテルを結んでいたこと及び〔2〕容積品の最低換算重量を正規の重量を超える重量に設定し、輸送距離の計算を最短距離で行わず遠回りの路線で行うなどして認可運賃を超える運賃を収受していたことが認められる。また、原告が、これらを違法又は不当と考えたことについても合理的な理由がある。したがって、内部告発に係る事実関係は真実であったか、少なくとも真実であると信ずるに足りる合理的な理由があったといえる。」
⑵ 目的の公益性
「本件ヤミカルテルは公正かつ自由な競争を阻害しひいては顧客らの利益を損なうものであり、上記〔2〕はより直接的に顧客らの利益を害するものである。したがって、告発内容に公益性があることは明らかである。また、原告はこれらの是正を目的として内部告発をしていると認められ、原告が個人で、かつ被告に対して内部告発後直ぐに自己の関与を明らかにしていることに照らしても、およそ被告を加害するとか、告発によって私的な利益を得る目的があったとは認められない。なお、日消連にした上記〔2〕の内部告発については、被告に対する感情的な反発もあったことがうかがわれるが…、仮にこのような感情が併存していたとしても、基本的に公益を実現する目的であったと認める妨げとなるものではない。」
⑶ 手段・態様の相当性
「内部告発方法の妥当性についてみると、原告が最初に告発した先は全国紙の新聞社である。報道機関は本件ヤミカルテルの是正を図るために必要な者といいうるものの、告発に係る違法な行為の内容が不特定多数に広がることが容易に予測され、少なくとも短期的には被告に打撃を与える可能性があることからすると、労働契約において要請される信頼関係維持の観点から、ある程度被告の被る不利益にも配慮することが必要である。」
「そこで、原告が行った被告内部での是正努力についてみると、まず原告はA副社長に対して…直訴しているが、経営のトップに準じる者に対し訓示の直後にいきなり訴えるという方法はいささか唐突にすぎるきらいがある。しかも、その内容は主として中継料の問題であり、原告は本件ヤミカルテルを是正すべきであるとは明確に言わなかった。…。これらの点をおくとしても、原告は本件ヤミカルテルが問題であると明確に指摘していない以上、その内心では中継料の収受は本件ヤミカルテルの問題でもあると考えていたとしても、この直訴を本件ヤミカルテルを是正するための努力として評価することは難しい。…」
「しかし、他方、本件ヤミカルテル及び違法運賃収受は、被告が会社ぐるみで、さらには被告を含む運送業界全体で行われていたものである。このことは、被告が荷主移動禁止条項を破った業者に対して抗議に行こうとしたり、…被告が従業員に対し荷主移動禁止条項の口外を禁じていることからも明らかである。このような状況からすると、管理職でもなく発言力も乏しかった原告が、仮に本件ヤミカルテルを是正するために被告内部で努力したとしても、被告がこれを聞き入れて本件ヤミカルテルの廃止等のために何らかの措置を講じた可能性は極めて低かったと認められる。このような被告内部の当時の状況を考慮すると、原告が十分な内部努力をしないまま外部の報道機関に内部告発したことは無理からぬことというべきである。したがって、内部告発の方法が不当であるとまではいえない。」