不当解雇・退職扱い

公職への就任と解雇-公民権保障の内容-

 労働基準法は、労働者の公民権を保障しています。もっとも、使用者によっては、許可なく公職へ就任したことを解雇事由としている場合があります。このように、公職へ就任したことを理由に解雇することは許されるのでしょうか。
 今回は、公職への就任と解雇について解説します。

就業規則上の規定

 公職への就任を理由に懲戒解雇される場合があります。就業規則などでは、以下のような規定がおかれている会社があります。

規定例

第〇条(公職への就任に関する承認)
労働者は、公職選挙法による選挙に立候補しようとするとき、及び公職に就任しようとするときには、会社の承認を得なければならない。
第〇条(懲戒解雇)
労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第〇条に定める普通解雇、前条に定める減給、出勤停止とすることがある。
①当該規則、令達に違反した場合であって、その情状が重いとき
②許可なく他社において就労することによって、労務提供に支障が生じた場合若しくは企業秩序を侵害した場合

公民権の保障

総論

 公民権の保障とは、使用者は、労働者が労働時間中に、「公民としての権利」を行使し、または「公の職務」を執行することを妨げてはならないことをいいます(労働基準法7条)。

労働基準法7条(公民権行使の保障)
「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては。拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。」

「公民としての権利」

 公民としての権利」とは、公民に認められる国家又は公共団体の公務に参加する権利をいいます。例えば、以下の例が挙げられます(昭和63年3月14日基発150号)。

① 法令に根拠を有する公職の選挙権及び被選挙権
② 憲法の定める最高裁判所裁判官の国民審査(憲法79条)
③ 特別法の住民投票(同第95条)
④ 憲法改正の国民投票(同第96条)
⑤ 地方自治法による住民の直接請求
⑥ 選挙権及び住民としての直接請求権の行使等の要件となる選挙人名簿の登録の申出(公職選挙法第21条)

 なお、訴権の行使は、一般には、公民としての権利の行使ではありませんが、行政事件訴訟法第5条に規定する民衆訴訟並びに公職選挙法第25条に規定する選挙人名簿に関する訴訟及び同法第203条、第204条、第207条、第208条、第211条に規定する選挙又は当選に関する訴訟は、公民権の行使に該当します(昭和63年3月14日基発150号)。

「公の職務」

 公の職務」とは、法令に根拠を有するものに限られますが、法令に基づく公の職務のすべてをいうものではなく、以下の職務等をいいます(昭和63年3月14日基発第150号、平成17年9月30日基発0930006号)。

① 国または地方公共団体の公務に民意を反映してその適正を図る職務
例)衆議院議員その他の議員、労働委員会の委員、陪審員、検察審査員、労働審判員、裁判員、法令に基づいて設置される審議会委員等の職務
② 国又は地方公共団体の公務の公正妥当な執行を図る職務
例)民事訴訟法第271条による証人・労働委員会の証人等の職務
③ 地方法公共団体の公務の適正な執行を監視するための職務
例)公職選挙法第38条第1項の選挙立会人等の職務

 なお、単に労務の提供を主たる目的とする職務は本条の「公の職務」には含まれず、したがって予備自衛官が自衛隊法第70条の規定による防衛招集又は同法第71条の規定に夜訓練招集に応ずる等は「公の職務」には該当しません(昭和63年3月14日基発第150号、平成17年9月30日基発0930006号)。

公民権行使時間の賃金

 公民権行使時間の賃金をどうするかについては、労働基準法7条は触れておらず、有給たると無給たるとは当事者の自由に委ねられています(昭和22年11月27日基発399号)。
 実際には、選挙権行使のための遅刻、早退については賃金を差し引かない取り扱いの方が多いであろうとされています(労働法[第12版]菅野和夫著254頁)。

時間外に公民権を行使すべき命令

 使用者が、就業規則等に公民権の行使を労働時間外に実施すべき旨定めて、労働者が就業時間中に選挙権の行使を請求することを拒否することは、違法です(昭和23年10月30日基発第1575号)。

公職就任を理由とする懲戒解雇

 労働者が公職に就任したことを理由に懲戒解雇するとの規定や、公職への就任を使用者への届け出にとどまらず、承認にかからしめ、それに違反した場合に懲戒解雇するとの規定は、有効なのでしょうか。
 これについて、労働者が使用者の承認を得ずに公職に就いたことを理由に懲戒解雇するとの規定は、公民権保障の規定(労働基準法7条)の趣旨に反し無効となります
 そのため、公職への就任を理由に懲戒解雇することは許されません

業務支障を理由とする普通解雇

 もっとも、公職に就任することが会社の業務の遂行を著しく阻害するおそれのある場合には、業務への支障を理由とする普通解雇は有効となります
 ただし、公務遂行と両立しうる業務が別に存在し、それへの転換が容易である場合には、転換を試みないまました普通解雇は、解雇権の濫用となります

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公職へ就任した場合に行う休業

 使用者は、公職に就任した従業員を特別休職にすることができるのは、従業員が公職に就任したため長期にわたって継続的または断続的に職務を離れることになり、当該従業員を働かせても労働契約上の債務の本旨に従った履行が期待できず、その結果業務の正常な運営が妨げられることになる場合に限られます。

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日
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