不当解雇・退職扱い

内定取り消しが違法な場合における損害賠償 -慰謝料と和解金の相場を解説-

社長
社長
申し訳ないのだけど、以前君に出した内定は取り消させてもらうよ。
  労働者
  労働者
え、どうしてですか。
社長
社長
会社の今年の売り上げが予想を下回っていて経済的に余裕がなくなってしまったから。それに、面接のときから、君はうちの会社にはむいていないのではないかと感じていたからね。
労働者
労働者
(他の内定先も断ってしまったのに、どうしよう…)

新たな会社へ入社して、新しい生活が始まることを楽しみにしていた矢先、突然会社から内定を取り消されてしまった場合、経済的に不安定な状況となるのみならず、大変なショックを受けるはずです。

では、この経済的な損害や精神的な苦痛について、内定を取り消した会社に請求することはできないのでしょうか。

内定を取り消されたことに動揺してしまうでしょうが、どのような請求をすることができるのかを知らなければ、自分の権利を守ることはできません。

内定取り消しが違法である場合には、会社に対して、慰謝料を含む損害賠償請求をすることが考えられます。

この記事では、内定を取り消されてしまった場合に、会社と話し合いをする際に損をしないために、慰謝料や和解金の相場について、分かりやすく説明していきます

内定取り消しとは


内定とは、採用が決まってから、実際に入社するまでの法律関係をいいます。
内定取り消しというのは、採用が決まった後に、会社から一方的に入社を拒まれることです。

入社が内定している場合には、労働者と使用者との間で既に雇用契約は成立しているものとして、内定の取り消しについては、解雇に準じて考えられる傾向にあります。

そのため、内定取り消しが許されるかについても厳格に判断されます。

以下の記事で内定取り消しが違法となる場合について詳しく説明していますので読んでみてください。

内定取り消しは違法?絶対に確認すべきポイントとあなたの3つの権利内定取り消しは、解雇に準じて容易には認められません。取り消しが違法となる場合には、労働者には3つの権利が認められる可能性があります。今回は、内定取り消しが違法となる場合について解説します。...

内定取り消しが違法な場合の慰謝料の相場


会社の内定取り消しが濫用により無効となる場合であっても、直ちに慰謝料の請求が認められるわけではありません。

慰謝料が認められるには、会社が故意又は過失により労働者の権利を侵害したといえ、かつ、内定取り消しの無効が確認されるのみでは労働者の精神的苦痛が填補されないことが必要となります。

相場は50万円~100万円

内定取り消しが違法であり、慰謝料請求が認められる場合の相場は、

50万円~100万円程度

となる傾向にあります。

内定取り消しの慰謝料金額については、以下の要素を考慮し判断されます。

⑴ 内定後に他の就職内定先を断っているか
⑵ 内定取り消し後に他の会社に就職できているか
⑶ 内定取り消し後に他の会社に就職するまでの期間
⑷ 内定取り消しの理由
⑸ 内定取り消しを巡る会社側の姿勢・発言

※内定に当たり以前の勤務先を退職している場合については、後述の「転職後に内定を取り消された場合の相場」を確認してください。

裁判例

⑴ 最二判昭54年7月20日判タ399号32頁[大日本印刷事件]

新卒予定の内定者がグルーミーな印象であるとの理由で採用内定を取り消した事案について、
内定者が大学を卒業しながら他に就職することもできていないこと等を考慮し、100万円の慰謝料を認めました。

⑵ 東京地判平17.1.28労判890号5頁[宣伝会議事件]

大学院博士課程に在籍していた内定者が本採用前に行われた事前研修を欠席し、試用期間を延長するか中途採用試験を受け直すかの選択を迫られ実質的に内定が取り消された事案について、
中途採用試験の再度受験という不利益を背景として事前研修への参加を強制するという態様等を考慮し、50万円の慰謝料を認めました。

転職後に内定を取り消された場合の相場

内定通知を受けた後に以前の勤務先を退職したような場合において、内定を取り消されると、内定者は、新しい会社に入社することができないのみならず、これまでの仕事を失うことになり、著しい不利益を被ることになります。

そのため、転職後に内定を取り消され場合においては、比較的高額の慰謝料が認められる傾向にあり、

165万円~300万円

程度の慰謝料を認めた裁判例もあります。

⑴ 東京地判平15.6.30労経速1842号13頁[プロトコーポレーション事件]

海外旅行情報誌部門を配属先として採用内定通知を受けて前勤務先を退職した者が、配属先変更を命じられたため、これを拒否したところ、内定を取り消された事案について、
本件採用内定及び同取消の態様・経過に加えて、内定者がその結果職を失い7か月半もの間失業状態におかれたところ、配属先変更の理由につき不正確な説明をした上、本件内定取消のわずか2か月後には募集を再開するなど、会社の対応が不誠実なものであったことを考慮して、前勤務先時代の賃金に相当する165万円の慰謝料が認められました。

⑵ 東京地判平20.6.27労判971号46頁[インターネット総合研究所事件]

他社の従業員に熱心に転職を勧誘し、採用内定を行った後、その者が勤務先に退職を申し出た後に、合理的な理由なく内定を取り消した事案について、
当該内定者は元の勤務先に退職の撤回を申し入れ復職したものの、これまでの社内における経歴に傷が付いたことは否定できず、これを回復するには相当の年月を要することが推認されるとして、300万円の慰謝料が認められました。

内定取り消しが違法な場合の和解金の相場


内定取り消しは、先ほど説明したように解雇に準じて考えられております。そのため、内定取り消しが違法な場合の和解金の相場についても、解雇が違法な場合の和解金の相場が参考になります

解雇が違法な場合の和解金の相場は、

賃金の3カ月分~6カ月分

程度とされています。もっとも、解雇に理由がないことが明らかである場合には、賃金の1年分以上の和解金が支払われることもあります

内定の場合には、未だ労働者が勤務を開始していないこと等から、会社から提示される和解金額は、解雇の場合よりも低いことが多いでしょう

確かに、解雇の際の慰謝料の金額においては、その者の勤続年数などが考慮されることもあります。内定では未だ勤務を開始していないことからすると、これが和解金額に影響を与えないとまではいえません。

しかし、内定取り消しが無効として雇用契約上の権利を有する地位を確認する場合には、金銭的な請求の内で中心的なものは、本来であれば入社できた日以降の賃金請求になることが多いです。そして、既に、本来入社できていたはずの日を経過している場合には、内定取り消しの無効が認められれば、解雇が無効の場合と同様、通常、その分の賃金請求が認められます。そのため、内定取り消しであることが、直ちに上記和解金の相場よりも譲歩する理由になるとはいえません

また、内定通知を受けて前勤務先を退職しているような場合には、積極的にこれを主張して、和解金額を決定する際に考慮するように会社を説得するべきでしょう。

慰謝料及び和解金を増額する方法

証拠を集める

慰謝料や和解金を増額するには、証拠を集めておくことが重要となります。

慰謝料の金額については、内定を取り消されたことにより、どの程度の精神的苦痛を被っているのかが重要となります。

例えば、内定を取り消されたことにより、うつ病や適応障害を発症している場合には、病院で診断書を出してもらうといいでしょう。どの時期から、どの程度の頻度で病院に通っていて、診察の際に医師にどのようなことを伝えているかということも重要となります。

また、他社への就職活動の状況として、内定通知を受けたことにより他社の内定を辞退したメールや、内定取り消し後の就職活動の状況の記録やメール等の資料を残しておくといいでしょう。

加えて、会社が内定を取り消す際にどのような態度だったのかについても証拠を残しておくようにしましょう。内定通知書の記載や理由の開示を求めた際に真摯な対応だったのか、内定取り消し後に新規の募集をしているかどうかの求人情報などを残しておくといいでしょう。

就労の意思を明確にしておく

内定取り消しが無効として雇用契約上の権利を有する地位を確認したうえで、本来であれば入社していた日以降の賃金を請求する場合には、この会社で働く意思、つまり就労の意思を明確に示したうえで、具体的な業務の指示を仰ぐようにしましょう

裁判例では、内定取消後、これを争いながら、他の会社に勤務していた事案について、同社での就労が既に2年2カ月以上に及んでいることなどを考慮し、再就職後試用期間満了時点では就労の意思は失われていたものとして、それ以降の賃金請求を否定したものがあります(東京地判平元.8.7労判ジャーナル95号2頁[ドリームエクスチェンジ事件])。

内定取消後の賃金請求が失われてしまうことになると、仮に和解する場合にも、その金額にも大きな影響が出ることになります。

労働審判や訴訟を用いる

慰謝料や和解金額を増額したいという場合には、交渉やあっせんを用いるよりも、労働審判や訴訟を用いた方が比較的高い金額により解決する傾向にあります。

交渉やあっせんについては、証拠等に基づき権利関係に関する心証形成の審理が行われるわけではありません。
そのため、迅速な解決には向いていますが、必ずしも法的に適正な金額による解決ができるわけではなく、会社が不合理な主張に固執するような場合には、和解金額も低くなります。

したがって、証拠等に基づき形成された裁判所の心証に基づき解決する労働審判や訴訟の方が適正な金額による解決を図ることができます

弁護士に相談する

慰謝料や和解金額を増額するためには、大前提として、自己の主張が法的に説得的であることを相手方や裁判所に説明していく必要があります。

今回の内定取り消しが許されないことや、今回の事案における慰謝料金額や和解金額の考え方などを、事実を適切に評価した上で、裁判例などに照らして、主張していきます。

また、労働審判や訴訟などの手続きについては、申立書や訴状、主張書面、証拠の選別・提出などが必要になり、高い専門性が要求されます。

そのため、内定を取り消された場合には、弁護士に依頼するかどうかにかかわらず、一度は、弁護士に相談をしておくべきです。

不当解雇の慰謝料相場はいくら?増額のために最低限しておくこと3つ不当解雇の慰謝料相場は、50万円~100万円程度といわれています。少しでも慰謝料を増額するためには、①弁護士に相談する、②証拠を収集する、③労働審判・訴訟を活用するといったことが重要となります。今回は、不当解雇の慰謝料の相場とこれを増額する方法を解説します。...

内々定取り消しと慰謝料


最後に、内定取り消しではなく、内々定の取り消しがあった場合の慰謝料についての考え方を説明します。

内々定とは

内々定とは、採用内定通知の前に採用担当者が口頭等で採用が決まったことを通知するもので、のちに正式な採用内定通知が送付されることが予定されている段階です。
この時点では、未だ予定されている採用内定通知が届いていませんので、労働契約の成立は認められないのが通常です。

内々定取り消しが違法な場合も慰謝料を請求できる

内々定の段階であっても、会社の故意過失による信義則に反した行為によって、応募者が損害を被った場合には、契約締結上の過失として、慰謝料等が認められる場合があります(福岡高判平23.2.16労判1023号82頁[コーセーアールイー(第1)事件]、福岡高判平23.3.10労判1020号82頁[コーセーアールイー(第2)事件])。

内々定取り消しが違法な場合の慰謝料の相場

内々定が違法である場合に慰謝料が認められる場合の相場は、

20万円~50万円

程度となります。

⑴ 福岡高判平23.3.10労判1020号82頁[コーセーアールイー(第2)事件]

大学4年であった学生が内々定通知を受け、入社承諾書を提出した後、採用内定通知書交付予定日の数日前になって内々定が取り消された事案について、
この者が他社からの複数の内々定を断り就職活動を終了させていたこと、この者の期待や準備、就職により得られる利益等に会社が配慮をしていないこと、この者の抗議に会社は何ら対応していないこと、この者がない内定取消しによる精神的苦痛の影響で1カ月間就職活動を行うことができず現在も就職できていないこと等を考慮し、50万円の慰謝料を認めました。

⑵ 福岡高判平23.2.16労判1023号82頁[コーセーアールイー(第1)事件]

翌年3月に大学卒業見込みであった学生が、内々定通知を受け、入社承諾書を提出したが、内定通知書交付予定日の2日前に内々定の取り消しをされた事案について、
内々定取消しに至る経緯、内々定取消しの時期及び方法、会社の説明および対応状況、この者の就職活動の状況、翌年1月に採用内定を受け現在は就労していることを考慮し、20万円の慰謝料を認めました。

ABOUT ME
弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。主な取扱分野は、人事労務、離婚・男女問題、相続、企業法務、紛争解決(訴訟等)、知的財産、刑事問題等。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。
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このような悩みを抱えていませんか。このような悩み抱えている方は、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。

解雇を争う際には、適切な見通しを立てて、自分の主張と矛盾しないように慎重に行動する必要があります。

初回の相談は無料ですので、まずはお気軽にご連絡ください。

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