労働災害における傷病等の治療費や薬代については、保険の給付を受けることはできるのでしょうか。今回は、労働災害における療養(補償)給付について解説します。
療養(補償)給付とは
療養(補償)給付とは、被災労働者の傷病等に対する治療費及び関連費用が基本的に全額支給されるものです。具体的には、給付の範囲は以下のとおりです。
⑴ 診察
⑵ 薬剤又は治療材料の支給
⑶ 処置、手術その他の治療
⑷ 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
⑸ 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
⑹ 移送
労働者災害補償保険法13条(療養補償給付)
1項「療養補償給付は、療養の給付とする。」
2項「前項の療養の給付の範囲は、次の各号(政府が必要と認めるものに限る。)による。」
一「診察」
二「薬剤又は治療材料の支給」
三「処置、手術その他の治療」
四「居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護」
五「病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護」
六「移送」
3項「政府は、第一項の療養の給付をすることが困難な場合その他厚生労働省令で定める場合には、療養の給付に代えて療養の費用を支給することができる。」
労働者災害補償保険法22条(療養給付)
1項「療養給付は、労働者が通勤…により負傷し、又は疾病…にかかった場合に、当該労働者に対し、その請求に基づいて行う。」
2項「第13条の規定は、療養給付について準用する。」
療養給付の内容・受給方法
療養(補償)給付には、「療養の給付」と「療養の費用の支給」があります。
療養の給付は、労災病院や労災保険指定医療機関・薬局等(以下、「指定医療機関等」といいます)で、無料で治療や薬剤の支給などを受けられるものです(現物給付)。療養の給付を請求する場合には、療養を受けている指定医療機関等を経由して、所轄の労働基準監督署長に「療養補償給付たる療養の給付請求書」(様式第5号)または「療養給付たる療養の給付請求書」(様式第16号の3)を提出することになります。
療養の費用の支給は、近くに指定医療機関等がないなどの理由で、指定医療機関等以外の医療機関や薬局等で療養を受けた場合に、その療養にかかった費用を支給する現金給付です。療養の費用を請求する場合には、所轄の労働基準監督署長に「療養補償給付たる療養の費用請求書」(様式第7号)または「療養給付たる療養の費用請求書」(様式第16号の5)を提出することになります。なお、薬局から薬剤の支給を受けた場合には、様式第7号(第16号の5)⑵を、柔道整復師から手当を受けた場合には様式第7号(第16号の5)⑶を、はり師・きゅう師、あん摩マッサージ指圧師から手当を受けた場合には様式第7号(第16号の5)⑷を、訪問看護事業者から訪問看護を受けた場合には様式第7号(第16号の5)⑸を、提出することになります。
給付の対象となる療養の期間
給付の対象となる療養の期間は、傷病が治癒(症状固定)するまでです。
労災保険における「治癒」とは、身体の諸器官・組織が健康時の状態に完全に回復した状態のみをいうものではなく、傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行ってもその医療効果が期待できなくなった状態(「症状固定」の状態)をいいます。
請求に関する時効
療養の給付については、現物給付であるため、請求権の消滅時効は問題となりません。
療養の費用の支給については、費用の支出が確定した日の翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅します。
労働者災害補償保険42条(時効)
「療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付、療養給付、休業給付、葬祭給付、介護給付及び二次健康診断等給付を受ける権利は、2年を経過したとき、障害補償給付、遺族補償給付、障害給付及び遺族給付を受ける権利は、5年を経過したときは、時効によつて消滅する。」