労働災害

労働災害における審査請求

 労災申請について、不支給決定がされた場合や支給決定がされても給付基礎日額に不満がある場合、どうすればいいのでしょうか。今回は、労災保険制度における審査請求について解説していきます。

審査請求

審査請求とは

 審査請求とは、労働者災害補償保険審査官に対して、保険給付に関する決定についての不服を申し立てる制度です。
 審査の結果、審査官が審査請求に理由があるとして原処分を取り消した場合、労基署長は審査官の判断に従って決定(処分)をやり直さなければなりません

労働者災害補償保険法38条(不服申立て)
1項「保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる。」
2項「前項の審査請求をしている者は、審査請求をした日から3箇月を経過しても審査請求についての決定がないときは、労働者災害補償保険審査官が審査請求を棄却したものとみなすことができる。」
3項「第1項の審査請求及び再審査請求は、時効の完成猶予及び変更に関しては、これを裁判上の請求とみなす。」

審査請求の期間

 審査請求は、審査請求人が原処分のあったことを知った日の翌日から起算して三月を経過したときは、することができないとされています。

労働保険審査官及び労働保険審査会法8条(審査請求期間)
1項「審査請求は、審査請求人が原処分のあつたことを知つた日の翌日から起算して三月を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由によりこの期間内に審査請求をすることができなかつたことを疎明したときは、この限りでない。」

審査請求の方法

 審査請求は、原処分をした行政庁の所在地を管轄する都道府県労働局に置かれた審査官に対して、文書または口頭で行います。

労働保険審査官及び労働保険審査会法7条(管轄審査官)
1項「労働者災害補償保険法第38条第1項の規定による審査請求及び雇用保険法第69条第1項の規定による審査請求は、原処分をした行政庁の所在地を管轄する都道府県労働局に置かれた審査官に対してするものとする。」
労働保険審査官及び労働保険審査会法9条(審査請求の方式)
「審査請求は、政令で定めるところにより、文書又は口頭ですることができる。」

資料の収集

 審査請求をするにあたっては、どのような理由により原処分決定がなされたかを知る必要があります。

⑴ 原処分庁の意見書

 審査請求を行うと、労働基準監督署より、決定を行った理由や根拠とした事実認定などに関する意見書が、審査官を通じて送られてきます。

⑵ 保有個人情報開示請求

 労働基準監督署に労災請求を受けて調査・収集した資料や判断内容を記載した書類などにつき、情報開示請求を行います。これらの資料については、使用者に対して、損害賠償請求をする際の証拠にもなります。

再審査請求

再審査請求とは

 再審査請求とは、労働保険審査会に対して、審査請求に関する決定についての不服を申し立てる制度です。

再審査請求期間

 再審査請求は、審査請求の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して二月を経過したときは、することができないとされています。

労働保険審査官及び労働保険審査会法38条(再審査請求期間等)
1項「労働者災害補償保険法第38条第1項又は雇用保険法第69条第1項の規定による再審査請求は、第20条の規定により決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して二月を経過したときは、することができない。」

再審査請求

 再審査請求は、労働保険審査会に対して、書面により行います。

労働保険審査官及び労働保険審査会法39条(再審査請求の方式)
「再審査請求は、政令で定めるところにより、文書でしなければならない。」

口頭公開審理期日

 労働保険審査会は、審理の期日及び場所を定め、通知しなければならないとされています。この審理は、原則として公開で行われ、当事者及びその代理人は、審理期日に出頭して意見を述べることができます

労働保険審査官及び労働保険審査会法42条(審理の期日及び場所)
「審査会は、審理の期日及び場所を定め、当事者及び第36条の規定により指名された者に通知しなければならない。」
労働保険審査官及び労働保険審査会法43条(審理の公開)
「審理は、公開しなければならない。ただし、当事者の申立てがあつたときは、公開しないことができる。」
労働保険審査会及び労働保険審査会法45条(意見の陳述等)
1項「当事者及びその代理人は、審理期日に出頭して意見を述べることができる。」
2項「第36条の規定により指名された者は、審理期日に出頭して意見を述べ、又は意見書を提出することができる。」
3項「第1項の規定よる意見の陳述…は、審査会が全ての当事者を招集してさせるものとする。」
4項「意見陳述において、審査長は、当事者若しくはその代理人又は第36条の規定により指名された者のする陳述が事件に関係のない事項にわたる場合その他相当でない場合には、これを制限することができる。」
5項「意見陳述に際し、当事者(原処分をした行政庁を除く。)及びその代理人は、審査長の許可を得て、再審査請求に係る事件に関し、原処分をした行政庁に対して、質問を発することができる。」

支給決定に対する審査請求

審査請求の趣旨

 労働基準監督署が労災保険の支給決定をした場合においても、後遺障害等級や給付基礎日額に不満がある場合には、審査請求をすることができます。
 その際の審査請求の趣旨は、原処分庁である労働基準監督署長による支給決定の取消しを求める内容となります。

不利益変更

 では、支給決定に対する審査請求を行った場合に、原処分が不利益に変更されることはあるのでしょうか。
 行政不服審査法は、審査請求人の不利益に処分を変更することができないとしています(行政不服審査法48条、66条1項)。もっとも、労働者災害補償保険法は、労災保険給付に関する審査請求及び再審査請求について、行政不服審査法第2章(第22条を除く。)及び第4章の規定は適用しないとしています。そのため、行政不服審査法の不利益変更の禁止は適用されないように読めます
 これにつき、労働保険審査官や労働保険審査会に対して、原処分が不利益に変更される可能性があるのかにつき問い合わせをすると、不告不理の原則から不服申し立てに関わらない部分については審理されないとの回答や、運用上不利益に変更するようなことはしていないとの回答がなされることが多いです。もっとも、担当によりその理由等が異なるため、不利益に変更されるかどうかにつき一律に取り扱われているわけではないのではないかと感じられます。
 そのため、不利益変更につき不安があるようであれば、事前に、労働保険審査官や労働保険審査会にどのような運用をしているのか確認しておくのが安全でしょう。

労働者災害補償保険法39条(行政不服審査法の一部適用排除)
「前条第1項の審査請求及び再審査請求については、行政不服審査法…第2章(第22条を除く。)及び第4章の規定は、適用しない。」
行政不服審査法第2章第5節第48条
「第46条第1項本文又は前条の場合において、審査庁は、審査請求人の不利益に当該処分を変更し、又は当該事実上の行為を変更すべき旨を命じ、若しくはこれを変更することはできない。」
行政不服審査法第4章第66条
「第2章…の規定は、再審査請求について準用する。…」

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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