労働災害

アスベスト被害の賠償金はいくら?適正な金額を得る3つのポイント

アスベスト被害の賠償金はいくら?

アスベスト被害を受けたことによる精神的な苦痛について、国家や企業に賠償を請求したいと悩んでいませんか?

アスベストによる被害はその人の生活や人生に大きな影響を与えますので、十分な対策を講じてこなかった国家や企業も、一定の責任を負担すべき問題です。

現在では、アスベスト賠償金については、これまでの判例を踏まえて、その条件や金額、手続が明確化してきています

ただし、適正なアスベスト賠償金を受給しようとする場合には、アスベスト被害の種類や賠償金を獲得できる条件を理解した上で、適切な証拠を集めていく必要があります。

実際、アスベスト被害についての救済には様々な種類があり、そのルールについても、一般の方には分かりにくい部分も多いですよね。

国や弁護士も被害者の方やそのご遺族の方に向けて権利を周知するよう日々努力していますが、救済の内容が未だ十分に知れ渡っているとはいえません

そこで、少しでも多くの被害者やそのご遺族の方にどのような権利があるのかを知ってもらうために、一般の方でもわかりやすいように説明をしてきたいと思います。

今回は、アスベスト被害の賠償金について、対象者や金額、請求手続きを説明したうえで、適正な金額を獲得するポイントを解説していきます。

この記事を読めば、アスベスト被害による精神的な苦痛について、どのような救済を得られるのかがよくわかるはずです。

 

 

アスベスト賠償金とは|工場型と建設型

アスベスト賠償金のイメージアスベスト賠償金とは、一定のアスベストにばく露する危険性のある作業に従事したことにより、アスベストに関連する疾病を発症した方やその遺族の方に対して、精神的苦痛等の損害について、国や企業が賠償として支払うものです。

国に対しては、国家賠償法1条に基づき損害賠償を請求していくことになります。

企業に対しては、民法709条や719条による不法行為として、損害賠償請求していくことになります。

アスベスト賠償金については、これまで長い年月の中で判例を踏まえて、解決の道筋が明確化してきています。

アスベスト賠償金について理解するには、「工場型アスベスト被害」と「建設型アスベスト被害」の2種類があることを理解する必要があります。

工場型のアスベスト被害というのは、石綿工場内において石綿粉塵にばく露する作業に従事したことによる被害です。

建設型のアスベスト被害というのは、屋内建設作業や吹付作業に従事したことによる被害です。

以下では、「工場型アスベスト被害」と「建設型アスベスト被害」のそれぞれについて賠償金の考え方を説明していきます。

工場型アスベスト賠償金

まず、工場型アスベスト賠償金について、平成26年10月9日、最高裁が国の責任を認める判決をしました。

その後、国は、工場型アスベスト賠償金に関する和解ついて明確なルールが取り決めています。

これについて、以下の順序で説明していきます。

・工場型アスベスト賠償金の対象者
・工場型アスベスト賠償金の金額
・工場型アスベスト賠償金の請求手続き

工場型アスベスト賠償金の対象者

工場型アスベスト賠償金における和解の対象者は以下の方です。

①昭和 33 年 5 月 26 日から昭和 46 年 4 月 28 日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと。
②その結果、石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚など石綿による一定の健康被害を被ったこと
③提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること

①局所排気装置を設置すべき石綿工場

局所排気装置を設置すべき石綿工場については、厚生労働省が公表している労災認定事業場が参考になります。

以下のリンクをご確認ください。
「令和元年度石綿ばく露作業による労災認定等事業場」を公表します (mhlw.go.jp)

②石綿による一定の健康被害

石綿による一定の健康被害については、都道府県労働局長発行の「じん肺管理区分決定通知書」、労働基準監督署長発行の「労災保険給付支給決定通知書」、医師の発行する「診断書」などの証拠が必要となります。

③損害賠償請求権の請求期間

アスベスト被害の国家賠償訴訟の時効については、以下のいずれか早い方となっています。
⑴ 労災請求時等のアスベスト被害を認識した時点から3年若しくは5年(※)

又は

⑵ 最も重い症状が新たに判明した時点から20年
※2020年4月1日の時点でアスベスト被害を認識した時点から3年が経過していない場合には、5年となります(民法附則(平成二九年六月二日法律第四四号)35条)。

アスベスト被害の時効期間についてhあ、以下の記事で詳しく解説しています。

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工場型アスベスト賠償金の金額

工場型アスベスト賠償金における和解金額は、以下のとおりです。

工場型アスベストの賠償金

工場型アスベスト賠償金の請求手続き

工場型アスベスト賠償金につき上記金額を獲得するには、国に対して、訴訟を提起して、その中で上記の条件を満たしていることを裏付けて、和解の手続きを行う必要があります。

 

 

建設型アスベスト賠償金

次に、建設型アスベスト賠償金について、令和3年5月17日、最高裁が国の責任を認める判決をしました。

建設型アスベスト賠償金に関する令和3年5月17日の最高裁判決については、下記の記事で詳しく解説しています。

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これにより、建設型のアスベスト健康被害を受けた方の賠償金について、弁護団と国との間で基本合意書が締結されて和解に関するルールが明確化されました。

これについて、以下の順序で説明していきます。

・建設型アスベスト賠償金の対象者
・建設型アスベスト賠償金の金額
・コラム~建設型アスベスト給付金(令和3年5月17日時点で未提訴の方)~

建設型アスベスト賠償金の対象者

建設型アスベスト賠償金の和解の対象者は、令和3年5月17日までに賠償金につき提訴していた方のうち、下記の⑴~⑷までのすべての事由に該当する方です。

① 責任期間における曝露
各原告(石綿関連疾患に罹患した当事者。石綿関連疾患に罹患後に死亡した者の相続人を当事者とする事案にあっては、その死亡者。以下同じ。)(労働者並びに一人親方及び労災特別加入制度の加入資格を有する中小事業主)が、以下に記載する作業(最高裁判決及び確定した高裁判決で認められた作業とする。)及び国の責任期間において、石綿粉じんに曝露したこと
ア 屋内建設作業(屋内吹付作業も含む)に従事した者にあっては、昭和 50 年10 月1日から平成 16 年9月 30 日までの間
イ 吹付作業に従事した者にあっては、昭和 47 年 10 月1日から昭和 50 年9月 30 日までの間
② 因果関係
各原告が、①によって、以下の和解金額の表に列挙された石綿関連疾患に罹患したこと
③ 期間制限
民法第 724 条所定の期間制限を経過していないこと
④ 遺族の場合
石綿関連疾患に罹患後に死亡した者の遺族を当事者とする事案にあっては、当該遺族が、当該死亡者の相続人であること

建設型アスベスト賠償金の金額

建設型アスベスト賠償金の和解金額は、以下のとおりとなります。

建設型アスベストの賠償金

ただし、以下の減額要素がある場合には、10%の減額がなされます。

⑴肺がん罹患又は肺がんによる死亡を損害とする各原告について、喫煙歴が認められた場合
⑵国の責任期間内において、各原告らが屋内建設作業ないしは吹付作業に従事し石綿粉じんに曝露した期間が以下の期間に満たない場合
・石綿肺及び肺がん:10 年
・中皮腫及び良性石綿胸水:1年
・びまん性胸膜肥厚:3年
※両方の減額要素が認められる場合には、まず 10%減額した後、その残金について10%減額されます。

~建設型アスベスト給付金(令和3年5月17日時点で未提訴の方)~

建設型アスベスト賠償金の訴訟を令和3年5月17日までに未提訴の方は、特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律が成立しましたので、これに基づき給付金を請求することができます。

建設型アスベスト給付金については、以下の記事で詳しく解説しています。

最大1300万円!アスベスト給付金の支給条件や金額を弁護士が解説
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企業の賠償責任

工場・建設業務に従事したことによりアスベスト被害を受けた方は、上記国に対する賠償請求の他にも、企業に対して賠償請求をすることができる可能性があります。

なぜなら、多くの企業はこれまで、石綿粉じん対策を怠っており、これによる被害について責任を負うためです。

例えば、令和3年5月17日の最高裁判決においても、建材メーカーの責任が肯定されています。

ただし、企業に対する賠償請求については、企業ごとに賠償基準などを設けていることはありますが、一律に和解に関する明確なルールが取り決められているわけではありません

国だけではなく、企業がどのようにして迅速な被害者の救済を実現していくかということは、今後の課題となっています。

 

 

適正なアスベスト賠償金を獲得するポイント

アスベスト賠償金を獲得するには、まずはあなた自身が行動をする必要があります。

なぜなら、アスベスト賠償金を獲得するには、国又は企業に対して、これを請求する必要があるためです。

更に、アスベスト賠償金を請求するには先ほど見ていたような条件がありますし、症状によって請求できる金額も異なります

そのため、適正な金額を獲得するには、いくつかのポイントがあります。

具体的には、適正なアスベスト賠償金を獲得するため知っておいていただきたいポイントは、以下の3つです。

ポイント1:証拠を集める
ポイント2:医師の診断を受ける
ポイント3:弁護士に相談する

それでは順番に説明していきます。

ポイント1:証拠を集める

適正なアスベスト賠償金を獲得するポイントの1つ目は、証拠を集めることです。

なぜなら、国との間でアスベスト賠償金に関して和解をするためには、あなたが一定の条件を満たしていることを裏付ける必要があるためです。

具体的には、以下のような証拠を集めるといいでしょう。

・日本年金機構発行の「被保険者記録照会回答票」
・都道府県労働局長発行の「じん肺管理区分決定通知書」
・労働基準監督署長発行の「労災保険給付支給決定通知書」
・医師の発行する「診断書」

ポイント2:「最新の」医師の診断を受ける

適正なアスベスト賠償金を獲得するポイントの2つ目は、「最新の」医師の診断を受けることです。

先ほど見たように、賠償金の金額については、その症状により異なります。

古い診断書の症状よりも症状が進行している場合には、新しい診断書では賠償金の金額も大きくなる可能性があります

そのため、最新の医師の診断書を取得するようにしましょう。

ポイント3:弁護士に相談する

適正なアスベスト賠償金を獲得するポイントの3つ目は、弁護士に相談することです。

賠償金を獲得するには、現状、国に対して、訴訟を提起する必要があります

適正な金額を獲得したいと考えた場合には、アスベスト被害についての訴訟手続きに精通している弁護士に依頼することがおすすめです。

アスベスト賠償金と労災の関係

アスベスト被害に関して、既に労災による補償を受けている場合であっても、賠償金を請求することができます

なぜなら、労災には精神的苦痛についての補償は含まれていないためです。

一方で、アスベスト賠償金を請求しようとする方が、労災をまだ申請していない場合には、早めに申請の手続きをしておくことをおすすめします

アスベスト賠償金と労災の条件については共通するところも多いため、賠償金を請求できる方は、労災による補償も受けることができる可能性もあるためです。

アスベスト被害と労災については、以下の記事で詳しく解説しています。

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まとめ

以上のとおり、今回は、アスベスト被害の賠償金について、対象者や金額、請求手続きを説明したうえで、適正な金額を獲得するポイントを解説しました。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

・アスベスト賠償金とは、一定のアスベストにばく露する危険性のある作業に従事したことにより、アスベストに関連する疾病を発症した方やその遺族の方に対して、精神的苦痛等の損害について、国や企業が賠償として支払うものです。

・工場型のアスベスト賠償金を受給する条件と金額は以下のとおりです。
【条件】
①昭和 33 年 5 月 26 日から昭和 46 年 4 月 28 日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと。
②その結果、石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚など石綿による一定の健康被害を被ったこと
③提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること
【金額】
工場型アスベストの賠償金
・建設型のアスベスト賠償金を受給する条件と金額は以下のとおりです。
【条件】
①責任期間における曝露
各原告(石綿関連疾患に罹患した当事者。石綿関連疾患に罹患後に死亡した者の相続人を当事者とする事案にあっては、その死亡者。以下同じ。)(労働者並びに一人親方及び労災特別加入制度の加入資格を有する中小事業主)が、以下に記載する作業(最高裁判決及び確定した高裁判決で認められた作業とする。)及び国の責任期間において、石綿粉じんに曝露したこと
ア 屋内建設作業(屋内吹付作業も含む)に従事した者にあっては、昭和 50 年10 月1日から平成 16 年9月 30 日までの間
イ 吹付作業に従事した者にあっては、昭和 47 年 10 月1日から昭和 50 年9月 30 日までの間
② 因果関係
各原告が、①によって、以下の和解金額の表に列挙された石綿関連疾患に罹患したこと
③ 期間制限
民法第 724 条所定の期間制限を経過していないこと
④ 遺族の場合
石綿関連疾患に罹患後に死亡した者の遺族を当事者とする事案にあっては、当該遺族が、当該死亡者の相続人であること
【金額】
建設型アスベストの賠償金

・工場・建設業務に従事したことによりアスベスト被害を受けた方は、上記国に対する賠償請求の他にも、企業に対して賠償請求をすることができる可能性があります。

この記事がアスベスト被害による精神的苦痛に悩んでいる方の助けになれば幸いです。

ABOUT ME
弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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