不当解雇・退職扱い

社宅の法的性質-不当解雇により社宅の明け渡しを求められた場合-

 企業の中には、社宅制度を導入している会社があります。労働者は、社宅制度により、通常よりも安価に住居を利用することができます。もっとも、使用者は、不当な解雇をする際に、労働者ではなくなったことを理由に社宅の明け渡しを求める場合があります。このような場合、労働者は、社宅を明け渡さなければならないのでしょうか。
 今回は、社宅の法的性質について解説します。

社宅制度とは

 社宅制度とは、使用者が労働者に対して所有もしくは賃借している建物を相場の賃料よりも低い対価により利用させる制度です。ただし、狭義には、社宅とは、使用者が所有している建物のことを指す場合もあります。
 労働者にとっては安価に住居を利用することができるためメリットがあります。

社宅の法的性質

総論

 社宅の法的性質については、個別の具体的事案ごとに異なることになります。主として、社宅の使用料の額を考慮することになりますが、その他にも契約の趣旨・目的・経緯等も重視されます。

最判昭29.11.16民集8巻11号2047頁[日本セメント社宅明渡請求事件]

 「会社とその従業員との間における有料社宅の使用関係が賃貸借であるか、その他の契約関係であるかは、画一的に決定し得るものではなく、各場合における契約の趣旨いかんによつて定まるものと言わねばならない。」

賃貸借に該当する場合

 世間並みの家賃相当額の使用料を支払っている場合には、賃貸借契約とされる傾向にあります。社宅の法的性質が賃貸借とされた場合には、借地借家法の保護があり、解約や更新拒絶は制限されることになります。

最判昭31.11.16民集10巻11号1453頁

 「本件家屋の係争各六畳室に対する被上告人等の使用関係については、原判決は、判示各証拠を綜合して、その使用料は右各室使用の対価として支払われたものであり、被上告人等と訴外会社との間の右室に関する使用契約は、本件家屋が訴外会社の従業員専用の寮であることにかかわりなく、これを賃貸借契約と解すべきであるとしていることは原判文上明らかである。およそ、会社その他の従業員のいわゆる社宅寮等の使用関係についても、その態様はいろいろであつて必ずしも一律にその法律上の性質を論ずることはできないのであつて本件被上告人等の右室使用の関係を、原判決が諸般の証拠を綜合して認定した事実にもとづき賃貸借関係であると判断したことをもつて所論のような理由によつて、直ちにあやまりであると即断することはできない。」

無名契約に該当する場合

 社宅の使用料が低額である場合や社宅の使用と従業員の労務提供が直接結びついている場合には、賃貸借ではなく特殊の契約関係であって無名契約であるとされる傾向にあります。使用期間は、従業員たる身分を保有する期間とされる場合や、社宅規程に従うとされる場合があります。

最判昭29.11.16民集8巻11号2047頁[日本セメント社宅明渡請求事件]

 「被上告人会社は、その従業員であつた上告人に本件家屋の一室を社宅として給与し、社宅料として一ケ月金三十六円を徴してきたが、これは従業員の能率の向上を図り厚生施設の一助に資したもので、社宅料は維持費の一部に過ぎず社宅使用の対価ではなく、社宅を使用することができるのは従業員たる身分を保有する期間に限られる趣旨の特殊の契約関係であつて賃貸借関係ではないというのである。」

東京地判平9.6.23労判719号25頁[東日本旅客鉄道[杉並寮]事件]

 「原告は、福利厚生施策の一つとして平成七年一〇月一日現在、一〇七棟(定員約八七〇〇名)の独身寮を所有ないし賃借し、従業員に使用させていること、原告は昭和六二年四月に社宅等利用規程を定め、これによって各寮を管理運営していること、原告は寮を使用している従業員から使用料等(使用料、光熱水料金、電話機等設備費)を徴収しているが、その額は各寮の運営経費に比しても格別に低額であり、被告の居住している杉並寮の平成六年度の運営経費についてみるに、寮生一人(定員一一六名であるが、入居率八五パーセントとして算出)につき経常的な経費(光熱水料金、業務委託費、維持・管理費、NTT基本料金、寮長人件費)として月額約三万五〇〇〇円がかかったが、そのうち寮生の負担は八四六〇円のみで、原告が残りの約二万六八〇〇円を負担していること、ちなみに、右経費に地代、建物及び設備の年間償却額を加えた経費は寮生一人あたり六万四〇六四円になること、杉並寮近辺の貸室の賃貸料は月額約五万円を超えることが認められ、右認定事実に照らすと、原告が管理運営する寮の利用関係は、従業員に対する福利厚生施策の一環として、社宅等利用規程によって規律される特殊な契約関係であって、借地借家法の適用はないというべきである。」
 「また、被告は、仮に賃貸借と認められないとしても、本件寮室の利用関係は使用貸借類似の利用契約、あるいは使用貸借であり、本件においては使用目的に従った使用を終了したとはいえない旨主張する。右のとおり、入寮者の支払っている使用料等が寮室使用の対価とは認められない点からすれば、右利用関係を使用貸借類似の契約、あるいは使用貸借と捉えることもできなくはないが、前記認定のとおり、本件寮室の利用関係は社宅等利用規程によって規律されるところ、右規程第一二条には社宅等の明渡事由が規定されている(〈証拠略〉)から、本件寮室の利用関係の終了事由はこれによって定まるものというべきであって、被告の右主張は採用できない。」
※原告が使用者、被告が労働者です。

千葉地判平3.12.19判タ785号188頁[東日本旅客鉄道事件]

 「本件各宿舎は、被告らが入居した当時、国鉄が所有しかつ管理する宿舎又は寮であったことを推認することができ、…国鉄の宿舎は職員等(役員及び職員に限る。)及び主としてその収入により生計を維持する者の居住に当てられ、また、寮は単身の職員等の共同居住に当てられる厚生施設であって、右宿舎及び寮に居住させる者の指定は局所長(国鉄の職員局長、北海道・九州各総局長(本局所管区域に係るものに限る。)、四国総局及び鉄道管理局長(東京北・東京西各鉄道管理局長を除く。))が行い、宿舎及び寮への居住の指定を受けた者が支払う所定の使用料金を一般人が右宿舎及び寮と同一の立地条件にある同一の構造、規模、設備等で同一の程度の建物を賃借する場合における賃料と対比すると、右使用料金は右賃料の数分の一であることを認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」「右の事実によれば、被告らが支払う本件各宿舎の使用料金は、本件各宿舎の使用・収益の対価である賃料ではなく、公共企業体である国鉄の職員等及び主としてその収入により生計を維持する者として国鉄が所有しかつ管理する厚生施設を利用する料金に過ぎないというべきであるから、被告らが本件各宿舎を利用する法律関係をもって賃貸借とすることはできないといわなければならない。」
 「…被告らは、本件各宿舎について公舎基準規程の規律を受ける特殊な法律関係に基づく利用権を取得したというべきである。」

労使慣行が成立している場合

 労使慣行が成立する場合には、それが労働契約の内容をなすことになります。
 労使慣行が認められるには、①同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間継続して行われていたこと、②労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、③当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要します(最判平7.3.9労判679号30頁[南大八戸ノ里ドライビングスクール事件]、同控訴審:大阪高判平5.6.25労判679号32頁)。
 もっとも、社宅規程がある場合に、これと異なる労使慣行を主張立証することは容易ではありません

東京地判平9.6.23労判719号25頁[東日本旅客鉄道[杉並寮]事件]

⑴ 労働者の主張
 「使用者が、その雇用する労働者に対して一定の利便を供与し続けた場合に、それがいわゆる労使慣行として労働契約の内容をなすに至る場合のあることは、労働法学上確立された法理である。本件にあっては、一八年間にも及び期間、原・被告間において永続してきたところの寮使用関係によって、現労働条件を前提とするかぎり寮の使用が認められるべき労使慣行が成立するに至っているものと評価されるべきである。」
⑵ 裁判所の判断
 「被告は、原・被告間において、現労働条件を前提とするかぎり寮の使用が認められるとの労使慣行が成立するに至った旨主張するが、前記認定のとおり、原告は社宅等利用規程によって被告に本件寮室を使用させてきたものであり、右規定に反する労使慣行の成立を認めるに足りる証拠はない。」

権利濫用

 労働者に社宅を使用させ続けることによる使用者の不利益が小さい一方で、社宅を使用し続けられないことによる労働者の不利益が大きい場合には、使用者が労働者に対いて社宅の明け渡しを求めることにつき権利濫用(民法1条3項)に当たると主張することが考えられます。
 もっとも、裁判例は、これを容易に認めない傾向にあります

東京地判平9.6.23労判719号25頁[東日本旅客鉄道[杉並寮]事件]

1 労働者の主張
 「本件明渡請求は、原告の寮の需給関係が逼迫もしておらず、また杉並寮においては空き室があるにもかかわらず、低賃金の被告に対し、あえて明渡しを要求するもので権利の濫用である。」
2 裁判所の判断
 「以上によれば、本件改正により、被告は平成七年三月三一日をもって居住期間を経過し、本件寮室の占有権限を喪失したものであるから、原告が被告に対し本件寮室の明渡を求めることは、正当な権利の行使であり、前記認定の寮の入居率や被告の賃金額(支給額合計約二七万円、そのうち税金及び社会保険料は合計約六万二〇〇〇円…、)を考慮しても、本件明渡請求はなんら権利の濫用にあたるものではないというべきである。なお、被告が本件寮室を明渡して賃貸住居に入居した場合には、被告に対し、賃貸住宅援助金(家賃の二分の一程度、最高限度月五万円)が支給される…。」

借上社宅と住宅手当

 第三者が所有する建物に労働者が住む場合において、使用者が援助する方法には、これを社宅として提供する方法の他にも、住宅費について補助を出す方法があります。労働者と使用者の法律関係について、社宅の提供なのか、住宅手当の支給なのか争いになる場合があります。
 これについて、使用者が第三者との間で建物につき賃貸借契約を結びこれを労働者に転貸する場合には、上記のとおり社宅の提供としてその法的性質を分析することになるでしょう。
 これに対して、労働者が第三者との間で建物につき賃貸借契約を結び、使用者が賃料の一部を労働者に手当として支給する場合には、社宅の提供ではなく、住宅手当の問題となるでしょう。

不当解雇と社宅の明渡し

 社宅契約が賃貸借契約とされた場合には、仮に解雇が有効であったとしても、使用者が労働者に対して、直ちに社宅の明け渡しを求めることは難しいと考えられます。特に、解雇が不当である場合には、使用者の労働者に対する社宅の明渡請求は認められないでしょう。
 次に、社宅契約が特殊な契約関係とされる場合には、その使用期間は、従業員たる身分を保有する期間とされたり、社宅規程に従うとされたりすることになります。解雇が不当である場合には、別途社宅規程等に規定されている終了事由に該当しない限り、使用者の労働者に対する明渡請求は認められないでしょう。
 社宅契約が終了していないにもかかわらず、借上社宅につき、使用者が一方的に所有者との賃貸借契約を解除するなどして、労働者が所有者から明渡しを請求されるに至った場合には、使用者に対して債務不履行に基づく損害賠償請求をすることが考えられます。その際には、引越費用や新たな住居との賃料の差額等を損害として主張することになるでしょう。

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