会社を退職した方の中には、再就職するまでの期間、失業保険を受給しようと考えている方も多いですよね。
しかし、会社から離職票が届かない場合には、失業保険を受給する際に困ることになります。
この記事を読んでいる方は、離職票が中々届かずに不安を感じている方が多いかと思います。
そのような不安を解消するには、通常、離職票が届くまでにどの程度の期間を要するのか及び離職票が届かない原因を知ることが大切です。
また、万が一、離職票が届かない場合でも対処法がありますので悲観する必要はありません。
今回は、離職票が届くまでの期間や届かない原因や対処法を分かりやすく解説します。
目次
離職票とは
離職票とは、雇用保険被保険者離職票のことをいい、離職年月日や離職理由が記載された書面です。
法律上は、雇用保険法施行規則において規定されています(雇用保険法施行規則7条2項、19条1項等)。
離職票がなぜ必要なのか
失業給付を受給するのに必要
離職票は、失業給付を受給する際に、必要な書類として提出しなければなりません(雇用保険法施行規則19条1項)。
そのため、退職時に未だ再就職先が決まっていないような場合には、特に重要となります。
受給資格の決定には、以下の書類が必要とされています。
⑴ 雇用保険被保険者離職票(-1、2)
⑵ 個人番号確認書類(いずれか1種類)
マイナンバーカード、通知カード、個人番号の記載のある住民票(住民票記載事項証明書)
⑶ 身元(実在)確認書類(①のうちいずれか1種類(①の書類をお持ちでない方は、②のうち異なる2種類(コピー不可))
①運転免許証、運転経歴証明書、マイナンバーカード、官公署が発行した身分証明書・資格証明書(写真付き)など
②公的医療保険の被保険者証、児童扶養手当証書など
⑷ 写真(最近の写真、正面上半身、縦3.0cm×横2.5cm)2枚
⑸ 印鑑
⑹ 本人名義の預金通帳又はキャッシュカード(一部指定できない金融機関があります。ゆうちょ銀行は可能です。)
再就職先から求められる場合がある
また、再就職先から離職票の提出を求められることがあります。
もっとも、離職票は、失業保険給付を受給する際に、既にハローワークに提出している場合もあります。そのため、離職票が手元にない場合や、再就職先に離職票を提出したくない事情がある場合には、なぜ提出を求めるのか確認してみるといいでしょう。
例えば、雇用保険被保険者番号を知りたいとのことであれば、「雇用保険被保険者証」の提示で足りるものと考えられます。
もしも、再就職先が、前職の「使用期間」や「退職事由」を知りたいとの趣旨で離職票を求めているのであれば、退職した会社に対して、離職票ではなく、再就職先が知りたい事項のみを記載した「退職証明書」の交付を請求することが考えられます(労働基準法22条1項)。
(出典:ハローワークインターネットサービス 雇用保険被保険者証)
<離職票と退職証明書>
離職票は失業給付を受給する際にハローワークに提出する書類であり、退職証明書は次の就職に役立たせる等用途はその労働者に委ねられている書類です。そのため、使用者は、離職票が既に交付していたとしても、これを退職証明書に代えることはできず(平成11年3月31日基発169号)、改めて退職証明書を交付する必要があります。
退職証明書には、労働者の請求しない事項を記載してはいけません(労働基準法22条3項)。例えば、解雇された労働者が、解雇の事実のみついて使用者に証明書を請求した場合、解雇の理由を証明書に記載してはいけません(平成11年1月29日基発45号、平成15年12月26日基発1226002号)。
まとめ
以上からすると、再就職先が既に決まっているような場合には、離職票を請求する必要はないとも考えられます。
しかし、その場合でも、再就職がうまくいかない可能性がないわけではありませんし、上記のように再就職先から提出を求められる場合もあります。
そのため、念のために離職票の交付を希望しておいた方がいいでしょう。
離職票が届くまでの期間は2週間
退職者が離職票の交付を希望している場合には、事業主は、10日以内に、離職証明書を添えて資格喪失届を公共職業安定所長に提出します。公共職業安定所長は、これを受けて、通常、事業主を通じて、退職者に対して離職票を交付します。
このような離職票交付までの過程から、通常、退職から離職票交付までの期間は、
が目安とされています。
離職票が届かない原因
原因1:離職票の交付を希望していない
会社は、退職者が「離職票の交付を希望しないとき」を除いて、離職証明書をハローワークに提出しなければなりません。
その結果、ハローワークは、会社を通じて、退職者に対して、離職票を交付します。
通常は、退職すると会社から離職票が必要かどうかの確認があります。
しかし、小規模な会社ですと、この確認がなされないことがあります。その結果、会社から離職票の交付が希望されなかったものとして取り扱われてしまう場合があるので注意が必要です。
退職者としては、会社から離職票を希望するかを確認されない場合においても、離職票の交付を希望する意思を明確に告げておくべきです。
原因2:会社が手続きをしていない
先ほど説明したように、法律上は10日以内に手続きをしなければならないとされています。
しかし、会社の担当者が不慣れな場合や退職者に対する嫌がらせをしている場合などには、資格喪失届や離職証明書をハローワークに提出していないことがあります。
原因3:ハローワークが忙しい
また、会社が退職手続きをしている場合でも、ハローワークが忙しい場合などには、離職票が届くのが遅れる場合があります。
退職する人が多い時期には注意が必要です。
原因4:離職者の住所が不明
退職者の住所又は居所が不明である場合などやむを得ない理由がある場合には、ハローワークは、離職票の作成を行わず、離職証明書を保管し、後日その理由が止んだときに作成し、交付します(雇用保険法施行規則17条1項柱書但書、雇用保険に関する業務取扱要領(令和2年4月1日以降)148頁)。
そのため、引越しをしたことを誰にも伝えていないような場合には注意が必要です。
もっとも、この「やむを得ない理由」については、権利保護の観点から、厳格に解釈運用されています(雇用保険に関する業務取扱要領(令和2年4月1日以降)118頁)。
離職票が届かない場合の対処法
対処法1:離職票の交付を希望する
退職者は、会社に対して、離職票の交付を希望することが考えられます。会社は、離職票の交付を希望された場合には、ハローワークに対して、資格喪失届に離職証明書を添えて提出することになります。
退職者が離職票の交付を希望しているかどうかは、会社が「資格喪失届を提出する際」を基準に判断します。そのため、会社への離職票の交付の希望は、会社が資格喪失届を提出するまでにする必要があります。
その結果、ハローワークは、会社を通じて、離職票を退職者に交付することになります。
離職票の交付の希望は、後日、離職票交付の希望の有無が争点となることを避けるために、文書により行うべきでしょう。
対処法2:ハローワークに確認をする
ハローワークに対して、現在の状況を確認するために連絡をすることが考えられます。
もしも、退職から10日経っても、会社が資格喪失届を提出していない場合には、ハローワークに相談してみるのがいいでしょう。
会社に対して資格喪失届の提出を促してくれる場合があります。
対処法3:自分で離職票の交付を受ける手続きを行う
①会社がハローワークに離職証明書を提出していない場合は、退職者は、これを自ら提出することが考えられます。そのため、会社に対して、離職証明書の交付を請求します。離職証明書の交付請求は文書で行うべきでしょう。会社から離職証明書が交付されない場合に、ハローワークにこれを説明する資料となります。
②会社がハローワークからの提出を促されても、資格喪失届を提出しない場合には、退職者は、ハローワークにおいて、被保険者なくなったことの確認請求を行うことになります。ただし、事業主が資格喪失届を提出しているものの、離職証明書をハローワークに提出していない場合は、この手続きは不要です。
(出典:雇用保険に関する業務取扱要領(令和2年4月1日以降)272頁)
③退職者は、会社から交付を受けた離職証明書を添えて、ハローワークにおいて、離職票の交付を請求します。なお、会社が請求にもかかわらず、離職証明書を交付しない場合には、これをハローワークに対して「やむを得ない理由」として説明することになります
離職票が届かない場合に損害賠償請求はできる?
退職者は、会社が、①ハローワークに対して資格喪失届を提出しないことや、②離職証明書の交付請求に応じないことを債務の不履行又は不法行為として、失業保険相当額の損害賠償請求をすることはできるのでしょうか。
これについて、裁判例は、①会社が資格喪失届を提出しない場合でも、退職者が自ら被保険者資格喪失の確認請求を行うことができること、②会社が離職証明書の交付請求に応じない場合でも、退職者はやむを得ない理由があるときは離職証明書を添付しないで離職票の交付を受けることができることを理由に、失業保険相当額の損害賠償請求は認められないとしています(大阪地判平元.8.22労判546号27頁[山口(角兵衛寿し)事件])。
自分で手続きを行えるのはいつまで?
退職者が、会社により資格喪失届が提出された際には、離職票の交付を希望していなかったものの、後日、離職票が必要となることがあります。
これについては、一定期間経過後であっても、退職者は、ハローワークに対して、離職票の交付を請求することが可能です。
この場合には、退職者は、事業主に対して、離職証明書の交付を請求した上で、これを添えて、ハローワークに対して離職票の交付を請求することになります(北海道労働局 北海道ハローワーク 〇離職後一定期間が経過しても離職票の交付を受けることができますか参照)。
解雇を争う場合の離職票の取り扱い
解雇を争う場合において、離職票を受領する際には、注意した方がいいでしょう。
会社は、労働者が何らの留保をしないで離職票を受領した場合、解雇を承諾したものと誤解することがあります。この場合、後日、会社は、「解雇については納得していたではないか」と主張する場合があり、争点となる可能性があります。
離職票を受領する場合には、解雇を争う意思があることや、あくまでも解雇を争う期間の生活費として失業保険の仮給付を受けるために受領するに過ぎないことを明示しておくべきでしょう。