労働一般

就業規則の周知-周知の方法や程度-

 就業規則が労働契約を規律するためには、これが周知されていることが必要です。では、どのような場合に、就業規則が周知されているといえるのでしょうか。
 今回は、就業規則の周知について解説します。

就業規則と労働契約規律効

 就業規則とは、事業場の労働者集団に対して適用される労働条件や職場規律に関する規則類をいいます。
 そして、就業規則には、労働契約規律効あるとされていますが、これは、就業規則が合理的な労働条件を定めたものであり、かつ、労働者に周知されている場合に発生することになります。

就業規則とは何か-よくわかる就業規則の効力-就業規則は、事業所ごとに労働に関するルールを規定したものであり、労働者の利益にもなるものです。この就業規則とは法的にはどのようなものなのでしょうか。今回は、就業規則について解説します。...

周知の判断方法

周知とは

 就業規則が労働契約規律効を有するためには、「その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する……。」と判示されています(最判平15.10.10労判861号5頁[フジ興産事件])。同判決は、これ以上周知手続の内容について、解釈方針を示していません。
 もっとも、ここでいう周知とは、一般に、実質的に見て事業場の労働者集団に対して当該就業規則の内容を知りうる状態に置いていたことと解されています。

周知の時期

 周知の時期について、「当該労働者も採用時または採用直後において当該就業規則の内容を知りうることが必要である」(労働法[第12版]菅野和夫著 206頁)と説明される場合があります。
 就業規則の性質については、大きく分けると2種類があります。

【法規範説】
 就業規則はそれ自体が法規範であり、それゆえに拘束力をもつという説
【契約説】
 就業規則それ自体は契約のひな型にすぎないが、それに労働者が同意を与えることによって契約としての拘束力が生ずるとする説

 確かに、契約説からは、労働者が雇用契約を締結する時点(若しくは就業規則を変更する時点)において、就業規則が周知されていれば、かかる就業規則に同意したものとして、労働契約の内容を規律する効力が発生するともいえそうです。
 しかし、就業規則に規定されている条項は数が多く一度見ただけでその内容を把握することは不可能です。そのため、入社時には就業規則の内容まで強く意識せず、実際に問題が顕在化した時点で就業規則を確認する必要が生じることが多い実情があります。
 そのため、就業規則が周知されているといえるためには、少なくとも、労働者が使用者に確認を求めた時点において、その内容を知りうる状態にあることが必要であるというべきでしょう

労働基準法の定める周知方法

 労働基準法106条1項は、「使用者は、…就業規則…を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない。」としています。
 そして、厚生労働省令で定める方法として、労働基準法施行規則52条の2は、以下の3つの方法を列挙しています。

①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること(1号)。
②書面を労働者に交付すること(2号)。
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること(3号)。

 もっとも、労働契約の規律効における周知との関係では、必ずしも上記方法による周知がされていなくても、実質的に見て労働者がその内容を知りうる状態にあれば足りるという考え方が多数です

周知を否定した裁判例

【東京地判平28.5.30労判1149号72頁[無州事件]】
 「使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくのみならず,当該就業規則の内容を,その適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られている必要がある(最高裁判所平成13年(受)第1709号平成15年10月10日第二小法廷判決・裁判集民事211号1頁参照)。」
 「本件において,被告の就業規則が周知されていなかったことは争いがないから,本件懲戒解雇は労働者に周知されていない就業規則の定めに基くものとして,効力を有しないというべきである。」

【大阪高判平16.5.19労判877号41頁[NTT西日本事件]】
 「まず、被控訴人…が本件就業規則自体を『常時各作業場の見易い場所に掲示し、又は備え付け』たこと、またこれを従業員に閲覧などさせたことを認めるに足りる証拠はない。」
 「被控訴人…が、特別職群制度の導入について、説明会や勉強会を開催したり、同制度の概要を記載した書面を配布するなど、副参事を含む管理職に対する周知を試みたことは認められるものの、特別職群に移行した場合の具体的な賃金額、その算定根拠等については説明がなかったものである。」
 「労働基準法は、使用者に対し、賃金の決定、計算及び支払の方法等について就業規則の作成を義務づけ(八九条一項)、その変更の場合も同様であり(八九条一項)、これを労働者に周知させる義務を負わせている(一〇六条一項)のであるから、この賃金額等の点を欠いた説明等は、就業規則の周知義務を尽くしたものとはいえない。」
 「特に、『特別職群の概要』…には、上記のとおり、「職責手当は一律二万円となります」との記載があり、本件就業規則の内容と明らかに金額が異なっており、これからするとその当時においては、本件就業規則がまだ作成されていなかったのではないかとの疑いが残るところである。」

【東京高判平19.10.30労判964号72頁[中部カラー事件]】
 「就業規則の変更について、労働基準監督署への届出がなかった場合であっても、従業員に対し実質的に周知されていれば、変更は有効と解する余地があるので、以下、乙二就業規則への変更が従業員に対し、実質的に周知されたかについて判断する。」
 「まず、経営会議、全体朝礼における説明などについて検討する。」
 「経営会議においては、新制度において、中途退職した場合には、旧制度に比較して退職者が不利となることはなんら告げられなかった。」
 「全体朝礼を開催するにあたり、被控訴人は全従業員に対し、制度変更の必要性、新制度の概要、従業員にとってのメリット、デメリットなどを記載した説明文書等を一切配付・回覧しておらず、そのことは、その後就業規則の変更の手続を取るまでの間も、同じであった。旧制度から新制度への変更は、一般の従業員からすると、その内容を直ちに理解することは困難であり、被控訴人が全従業員に対し、制度変更を周知させる意思があるならば、まずは説明文書…を用意した上それを配布するか回覧に供するなどし、更に必要に応じて説明会を開催することが使用者として当然要求されるところであり、それが特に困難であったというような事情はない。ところが、本件において、被控訴人はそのような努力をなんら払っていない。」
 「以上から、経営会議、全体朝礼における説明などにより、控訴人を含む従業員に対し、実質的周知がされたものとはいえない。」

周知を肯定した裁判例

【東京高判平27.12.24労判1137号42頁[富士運輸事件]】
 「控訴人は,〔1〕aは賃金規程を含む就業規則や賃金体系説明書の内容,運行報告書における会社記入欄の数字の意味を含め,割増賃金の算定方法や基準について説明を受けたことはなく,就業規則及び賃金規程の存在も,それらの備付場所も知らされていなかった,〔2〕トラック運転手は,被控訴人が主張する就業規則等が備付けられているキャビネットがある事務室内への立入りが禁止されていた,〔3〕労働組合の掲示板には,被控訴人が主張する就業規則等に関する…労働組合と被控訴人との交渉内容が記載された書面等が掲示されたことはないとして,aと被控訴人との間に上記認定の割増賃金に関する合意はないと主張し…ている。」
 「しかしながら,〔1〕の点については,…aは被控訴人に雇用される直前にもトラック運転手として勤務していた経験があり…,トラック運転手の勤務形態や賃金体系について一定の知識と経験があったと認められる者であるところ,そのようなaが前記(1)アの経過をたどって本件労働契約書を作成して労働契約を締結したこと,その就労状況は前記(1)イのようなものであったこと,a自身,被控訴人に就業規則及び賃金規程があることを知っていたと供述していることに照らすと,〔1〕の主張に沿うaの陳述等はにわかに採用することができず,他に〔1〕の主張事実を認め得る証拠はない。
 「〔2〕の点については,前記認定事実(1)で認定した事実関係によれば,aは,被控訴人に雇用されるに当たって被控訴人から就業規則及び賃金規程の内容に関する説明を受けていること,また,…被控訴人の就業規則及び賃金規程は,一時期を除き,トラック運転手の出入りが制限されていないc支店の事務室にある無施錠のキャビネット内に備え付けられており,それらのコピーを取得することもできる状況であったことがそれぞれ認められ,就業規則等は周知できる状態で備え付けられていたといえることに照らすと,〔2〕の主張に沿うaの陳述等もにわかに採用することができず,他に〔2〕の主張事実を認め得る証拠はない。」
 「〔3〕の点については,…〔3〕の主張に沿うaの陳述等は採用することができず,他に〔3〕の主張事実を認め得る証拠はない。」

【東京地判平29.5.15労判1184号50頁[東京エムケイ事件]】
 「使用者が労働者に就業規則を『周知させ』ている(労契法7条,10条)というためには,実質的にみて事業場の労働者集団に対して当該就業規則の内容を知りうる状態に置いていたことを要し,かつそれで足りると解するべきであり,労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号。以下『労基法施行規則』という。)52条の2に列挙した方法に限定されるものではなく,また,個々の労働者が実際に当該就業規則の内容を了知したか否かを問わないというべきである。」
 「α営業所及びβ営業所のいずれにおいても,就業規則等及び労働協約が,背表紙に『就業規則』と明示されたファイルに格納されていたこと,これらのファイルには,総務部の担当者により最新の就業規則等が編綴されていたこと,α営業所においては,就業規則等の入ったファイルは営業所の一角にある机の上に並べられていたこと,旧β営業所においては,就業規則等の入ったファイルは営業所内の棚に収納されており,新β営業所に移転した際にこれも棚ごと移転されたこと,各営業所は毎日乗務前後に乗務員が必ず立ち寄り所定の作業等を行う場所であるところ,就業規則が備え置かれた上記の机及び棚には,乗務員が日常的に業務上使用する書類やクリアファイル等も収納されていたことが認められる。したがって,乗務員はいずれも就業規則等の存在を当然に認識し得たということができるから,就業規則等は実質的に周知されていたと認められる。」

就業規則の一部(抜粋)の開示と周知

 では、労働者が使用者に対して、就業規則の開示・閲覧を求めた場合に、使用者が就業規則の一部のみを抜粋して開示した場合に、当該開示のあった部分についてのみ周知があったと取り扱うことは許されるのでしょうか。
 これについて、一見して明確に述べた裁判例等は見当たりません。
 しかし、就業規則に記載された労働条件については、各就業規則の規定ごとに相互に関連性を有することも多く、全体として労働者の労働条件を規律していると見るべきです。また、実質的にも、例えば、使用者は懲戒解雇に関連する規定は全て開示していると主張している場合でも、労働者は他の部分も確認しなければ本当に懲戒解雇に関するすべての規定が開示されているのか判断することはできません。更に、使用者が、自己に有利な規定のみを周知し、自己に都合が悪い規定は周知しないことにより、労働契約の規律効が及ぶ規定を選択できるとすることは明らかに不当です。
 従って、私見としては、使用者が、就業規則の一部しか周知していないような場合には、全体として周知がないものとして扱うべきであると考えます。
 もっとも、就業規則の量が多いため、使用者があえて就業規則の一部のみを抜粋して労働者に開示する場合もあります。このような場合まで、就業規則の周知を否定することは妥当性を欠くでしょう。そのため、労働者が、就業規則の抜粋ではなく全ての規定の閲覧・開示を積極的に求めているなどの事情がない場合には、就業規則の一部しか開示されていないことをもって、周知性を否定するべきではないでしょう。

就業規則のコピー禁止と周知

 就業規則につき外部への持ち出しやコピーを禁止することは許されるのでしょうか。
 これについて、就業規則につき外部への持ち出しやコピーを禁止したとしても、事業場内で就業規則を自由に閲覧できる場合には、就業規則の周知性を否定することはできないでしょう。
 就業規則の外部への持ち出しが禁止されている場合に、会社の就業規則の原本を外部に持ち出すことは、会社の所有している財物を事業場外に持ち出すことになりますので、懲戒事由ともなり得ます
 就業規則のコピーが禁止されている場合において、就業規則をコピーし外部へ持ち出すことについては、就業規則に個人情報や営業秘密等が記載されているものとは考え難いので、直ちに懲戒事由に該当するとまでは言い難いです。もっとも、就業規則のコピーが禁止されている場合には、事業場内で就業規則の内容を閲覧し、後日、訴訟等で然るべき手続きにより提出を求めるのが穏当でしょう。

使用者が無効を主張できるか

 では、使用者が就業規則の周知を否定することはあるのでしょうか。
 これについて、一見して明確に述べた裁判例等は見当たりません。なお、使用者が周知性を否定し争ったものの、裁判所が周知性を肯定した裁判例があります(千葉地判平27.2.27労判1118号43頁[農業組合法人乙山農場ほか事件])。
 しかし、就業規則については、使用者は、労働基準法上、周知する義務を負っています(労働基準法106条1項)。加えて、使用者は、就業規則を作成し、届け出る立場にある者であり(労働基準法89条)、労働者とは異なり、就業規則の内容を認識しており、周知を欠く場合において、使用者に拘束力を及ぼしたとしても不測の事態などは生じません。
 従って、私見としては、使用者が労働者に対する就業規則の周知をしていないことを理由に、就業規則の効力争うことは、信義則等に照らし許されないものと考えます。
 もっとも、未だ就業規則として完成しておらず草案の段階である場合などには、そもそも就業規則に当たらないとして、使用者がその効力を争うこともあり得るでしょう。

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弁護士 籾山善臣
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