あなたの会社の定年制度では、退職となる年齢が55歳とされていませんか?
ほとんどの会社が定年を60歳以上とする中で自分の会社だけが55歳を定年としていることに疑問を感じますよね。
結論から言うと、55歳を定年とすることは、原則として違法となります。
現在、55歳定年制がとられている会社に勤めている方も、このような定年制度が無効であることを主張して、55歳以降も従業員としての地位にあることの確認や賃金の請求をしていくことができます。
万が一、55歳以降に会社があなたに業務を行わせてくれず、出社することができなかったとしても、あなたに働く意思があったのであれば、その期間の賃金を支払うように後から請求することができるのです。
ただし、このような請求をするには、正しい手順を踏んで行わないと、会社から様々な反論をされることになります。
また、会社は、55歳定年制を争われることを防ぐために、労働者に対して、退職届や再雇用契約書への署名押印を求めてくることがあります。
このような場合には、絶対にその場では署名押印はせずに、一度持ち帰り弁護士に相談しましょう。
その他、定年制以外にも55歳になると直面する制度がいくつかありますので、これらについても簡単に補足していきます。
今回は、55歳を定年とすることが違法であることやその対処法、退職届や再雇用契約書への署名押印の危険性について解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば55歳定年制がとられている場合にあなたが何をすればいいのかがよくわかるはずです。
目次
55歳定年制は違法!定年は55歳から60歳へ
55歳を定年とすることは、原則として違法となります。
なぜなら、法律では、定年は60歳を下回ることができないとされているためです。
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第8条(定年を定める場合の年齢)
「事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。…」
企業においては、かつては55歳定年制が主流でした。しかし、1970年代半ばから政府の定年延長政策により60歳定年制が主流となってきました。
1994年には上記の60歳未満定年制を禁止する規定が制定され、1998年に施行されるに至りました。
つまり、1998年までは55歳定年制は適法でしたが、1998年以降は55歳定年制は違法となります。
このように定年は55歳から60歳へシフトしていったのです。
現在では、大部分の会社が定年を60歳としており、一部の会社では65歳が定年とされている状況となっています。
なお、例外的に、「鉱物の試掘、採掘及びこれに附属する選鉱、製錬その他の事業における坑内作業の業務」については、60歳未満の定年制も適法とされています。
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第8条(定年を定める場合の年齢)
「…ただし、当該事業主が雇用する労働者のうち、高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として厚生労働省令で定める業務に従事している労働者については、この限りでない。」
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則4条の2(法第八条の業務)
「法第八条の厚生労働省令で定める業務は、鉱業法(昭和二十五年法律第二百八十九号)第四条に規定する事業における坑内作業の業務とする。」
鉱業法4条(鉱業)
「この法律において『鉱業』とは、鉱物の試掘、採掘及びこれに附属する選鉱、製錬その他の事業をいう。」
55歳定年制がとられている場合の労働者の権利
労働者は、55歳定年制をとっている会社に対して、55歳以降も従業員としての地位があることを確認したうえで、55歳以降の賃金も支払うように請求することができます。
なぜなら、55歳定年制は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に反するため、効力が認められないためです。
例えば、会社は、労働者に対して、55歳で定年退職したものと扱い、労働者がそれ以降その会社で働くことができなくなったとします。
会社は、労働者が既に退職したと考えているため、定年後の賃金は支払ってくれなくなります。
しかし、裁判等で55歳定年制が無効であり、現在も従業員としての地位を有することが認められれば、退職したものと扱われて働くことができなかった期間の賃金についても後から支払ってもらうことができるのです。
ただし、実際には退職を前提に解決金の支払いをすることを条件とする和解が成立することが多くなっております。
解雇事案では、解決金の相場は再就職までに必要な期間の生活費として賃金の3~6か月分程度とされますが、定年に関する事案では再就職が難しいことが多く解決金も1年分程度など高額となる傾向にあります。
55歳定年制がとられている場合の具体的な対処手順
あなたの会社で55歳定年制がとられている場合の具体的な対処手順は以下のとおりです。
手順1:55歳以降も働く意思があることの通知
手順2:交渉
手順3:労働審判・訴訟
それでは順番に説明していきます。
手順1:55歳以降も働く意思があることの通知
55歳定年制がとられている場合の具体的な対処手順の1つ目は、55歳以降も働く意思があることの通知をすることです。
55歳定年制は、法的には無効とされていますが、労働者が55歳以降に働く意思を示さないでいると、暗黙の合意により退職したと反論される可能性があります。
また、労働者は、55歳以降に定年として扱われ、働くことができなかった期間の賃金を請求する前提として、会社から業務を命じられた場合にはこれに応じる意思があることが必要です。
そのため、55歳定年制がとられている会社においては、まずは55歳以降も働く意思を示すことが重要なのです。
そして、これは証拠となるように内容証明郵便に配達証明を付して送付するのがいいでしょう。
例えば、通知書の書き方の例は以下のとおりです。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
手順2:交渉
55歳定年制がとられている場合の具体的な対処手順の2つ目は、交渉です。
通知書を送付して通常2週間程度で会社から回答があります。
会社から回答書が戻ってくると争点が明確になりますので、それを踏まえて話し合いによる解決が可能かどうか検討することになります。
手順3:労働審判・訴訟
55歳定年制がとられている場合の具体的な対処手順の3つ目は、労働審判・訴訟です。
話し合いでの解決が難しい場合には、裁判所を用いた手続きを検討することになります。
労働審判というのは、全3回の期日で調停を目指すものであり、調停が成立しない場合には裁判所が一時的な判断を下すものです。労働審判を経ずに訴訟を申し立てることもできます。
労働審判については以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
55歳定年制がとられている会社における注意点2つ
55歳定年制をとっている会社では、違法である旨を指摘しても、反論をされたり、何らかの対策を講じられたりてしまうことがあります。
例えば、55歳定年制がとられている会社における注意点としては、以下の2つです。
注意点1:「入社時に合意していたはず」との会社の言い分に騙されない!
注意点2:一度退職したうえでの再雇用を打診されても安易に受け入れない!
注意点1:「入社時に合意していたはず」との会社の言い分に騙されない!
注意点の1つ目は、「入社時に合意していたはず」との会社の言い分に騙されないことです。
入社時に合意していたとしても、55歳を定年とする合意は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第8条に反するため無効となります。
例えば、このような会社の言い分に騙されて、退職届にサインしてしまったり、55歳以降働く意思を示さなかったりすると、争うことが難しくなってしまうことがあります。
そのため、もしも会社が「入社時に合意していたはずだ」などと言ってきた場合であっても、そのような合意は無効である旨を指摘したうえで、退職届にはサインせずに、55歳以降も働く意思があることを示しましょう。
注意点2:一度退職したうえでの再雇用を打診されても安易に受け入れない!
注意点の2つ目は、一度退職したうえでの再雇用を打診されても安易に受け入れないことです。
会社によっては、55歳以降も嘱託社員として再雇用する旨を打診してくることがあります。
しかし、嘱託社員としての再雇用の場合には、従前の労働条件に比べて賃金が少なくなる傾向にあります。
そのため、会社から55歳以降も嘱託社員として再雇用する旨を打診されても安易には応じず、55歳定年制は無効なので従前の労働条件どおり勤務したい旨を伝えましょう。
55歳でよく直面する定年制とは異なる3つの制度
定年制とは異なりますが、55歳でよく直面する制度として、以下の3つがあります。
制度1:65歳までの継続雇用を希望した場合における減給制度
制度2:役職定年制度
制度3:早期退職制度
これらの制度について順番に説明していきます。
制度1:65歳までの継続雇用を希望した場合における減給制度
55歳でよく直面する制度の1つ目は、65歳までの継続雇用を希望した場合における減給制度です。
会社によっては、65歳まで雇用を継続するための人件費を捻出するために、65歳までの再雇用を希望する者については、55歳以降の賃金を減額するという制度がとられていることがあります。
このように、65歳までの継続雇用を希望した場合における減給制度がとられている場合であっても、原則として、65歳までの継続雇用の義務は果たしているものと考えられています。
ただし、減給の金額が大きすぎるような場合には、違法となる余地があるでしょう。
制度2:役職定年制度
55歳でよく直面する制度の2つ目は、役職定年制度です。
役職定年制度とは、一定の年齢に到達した際に管理職などの役職をと解く制度です。
通常、これに伴い、賃金が減ることになります。
65歳までの再雇用を維持するための人件費削減や組織の若返りを目的として導入されることがあります。
しかし、賃金の減額を伴う場合には、その制度の導入には高度の必要性が必要とされます。
賃金減額の幅が大きい場合には、労働者の不利益性を緩和する早期退職制度を設けるなどの代償措置がとられているかも、有効性を判断するうえで重要な要素となります。
制度3:早期退職制度
55歳でよく直面する制度の3つ目は、早期退職制度です。
早期退職制度とは、定年前の早期退職に応じる代わりに、退職金の割り増しや再就職支援などの恩恵を受けることができる制度です。
会社によっては、このような制度を導入していることがあります。
ただし、早期退職後に他の会社への再就職の予定もないという場合には、老後の貯蓄が十分かどうか慎重に検討するようにしましょう。
「60歳で定年退職」と「55歳で早期退職」では、必要な老後の貯金額が大きく異なります。
(出典:家計調査年報(家計収支編)2019年(令和元年) 家計の概要)
まず、高齢夫婦無職世帯の家計収支は、1か月あたり3万3269円の赤字となっています。
例えば、60歳で退職をした場合に、年金の受給年齢に達するまでの1か月27万0929円の赤字となる期間が5年、年金の受給年齢に達した後の1か月3万3269円の赤字となる期間が20年と想定すると、
=2424万0300円
の貯金が必要となります。
なお、60歳から前倒して年金を受給した場合には、年金の受給金額は30%減少します(1か月あたり0.5%減少×60か月)ので、1か月あたりの赤字額は9万8343円となります。そのため、60歳から25年間生活することを想定すると、
の貯金が必要となります。
これに対して、55歳で早期退職した場合には、例えば、年金の受給年齢に達するまでの1か月27万0929円の赤字となる期間が10年、年金の受給年齢に達した後の1か月3万3269円の赤字となる期間が20年と想定すると、
=4049万6040円
の貯金が必要となります。
なお、60歳から前倒して年金を受給した場合には、年金の受給金額は30%減少します(1か月あたり0.5%減少×60か月)ので、1か月あたりの赤字額は9万8343円となります。そのため、年金の受給年齢に達するまでの1か月27万0929円の赤字となる期間が5年、年金の受給年齢に達した後の1か月9万8343円の赤字となる期間が25年と想定すると、
=4575万8640円
の貯金が必要となります。
(出典:家計調査年報(家計収支編)2019年(令和元年) 家計の概要)
次に、高齢単身無職世帯の家計収支は、1か月あたり2万7090円の赤字となっています。
例えば、60歳で退職をした場合に、年金の受給年齢に達するまでの1か月15万1800円の赤字となる期間が5年、年金の受給年齢に達した後の1か月2万7090円の赤字となる期間が20年と想定すると、
=1560万9600円
の貯金が必要となります。
なお、60歳から前倒して年金を受給した場合には、年金の受給金額は30%減少します(1か月あたり0.5%減少×60か月)ので、1か月あたりの赤字額は6万1757円となります。そのため、60歳から25年間生活することを想定すると、
の貯金が必要となります。
これに対して、55歳で早期退職をした場合に、年金の受給年齢に達するまでの1か月15万1800円の赤字となる期間が10年、年金の受給年齢に達した後の1か月2万7090円の赤字となる期間が20年と想定すると、
=2471万7600円
の貯金が必要となります。
なお、60歳から前倒して年金を受給した場合には、年金の受給金額は30%減少します(1か月あたり0.5%減少×60か月)ので、1か月あたりの赤字額は6万1757円となります。そのため、年金の受給年齢に達するまでの1か月15万1800円の赤字となる期間が5年、年金の受給年齢に達した後の1か月6万1757円の赤字となる期間が25年と想定すると、
=2763万5100円
の貯金が必要となります。
このように「60歳で定年退職」と「55歳で早期退職」とでは、必要な貯金額の間に、夫婦の場合には1625万5740円、単身者の場合には910万8000円の差異があることになります。
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まとめ
以上のとおり、今回は、55歳を定年とすることが違法であることやその対処法、退職届や再雇用契約書への署名押印の危険性について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・55歳を定年とすることは、原則として違法となります。
・労働者は、55歳定年制をとっている会社に対して、55歳以降も従業員としての地位があることを確認したうえで、55歳以降の賃金も支払うように請求することができます。
・あなたの会社で55歳定年制がとられている場合の具体的な対処手順は以下のとおりです。
手順1:55歳以降も働く意思があることの通知
手順2:交渉
手順3:労働審判・訴訟
・55歳定年制がとられている会社における注意点として、以下の2つがあります。
注意点1:「入社時に合意していたはず」との会社の言い分に騙されない!
注意点2:一度退職したうえでの再雇用を打診されても安易に受け入れない!
この記事が55歳以降も働きたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。