労働一般

給与明細-電子化や再交付請求の可否-

 従業員が、使用者からの給料の金額や内訳を知る資料として、給与明細があります。この給与明細は、法律上どのような義務に基づき発行されているのでしょうか。また、電子化や再交付請求についてはどのように考えられているのでしょうか。
 今回は、給与明細について解説します。

給与明細とは

 給与明細とは、給料の金額や内訳の記載された書類のことです。
 給与明細については、所得税法231条により労働者に交付することが義務とされています。

所得税法231条(給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書)
1項「居住者に対し国内において給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その給与等、退職手当等又は公的年金等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者に交付しなければならない。」

電子交付

事前の承諾

 給与明細を電磁的方法により交付するには、電磁的方法の種類及び内容を示したうえで、書面又は電磁的方法によって労働者からの承諾を得なければならないとされています(所得税法231条2項、同法施行令356条1項)。
 そのため、電子化を拒んでいる労働者いる場合には、その労働者に対して、給与明細を電子化することは許されません。

所得税法231条(給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書)
2項「前項の給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、同項の規定による給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者の承諾を得て、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。…」
3項「前項本文の場合において、同項の給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、第一項の給与等、退職手当又は公的年金等の支払明細書を交付したものとみなす。」
所得税法施行令356条(給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承諾等)
1項「居住者に対し国内において給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は。法第231条第2項本文(給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書)の規定により同項に規定する給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書に記載すべき事項を提供しようとするときは、財務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者に対し、その用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。」

承諾後の書面交付請求

 労働者は、電子交付を承諾した後であっても、給与明細を書面により交付するように請求することができます。なお、書面の交付請求は、直ちに、その後の電子交付の拒否とされるわけではありません。書面による交付を請求した月の給与明細のみ書面により交付され、以後の給与明細は引き続き電子的方法により交付されます。

所得税法231条(給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書)
2項「…。ただし、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者の請求があるときは、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書を当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者に交付しなければならない。」

承諾後の電子交付の拒否

 労働者は、電子交付を承諾した後であっても、給与明細の電子交付を拒否することができます。労働者が給与明細の電子交付を拒否した場合には、使用者は、以後は書面により給与明細を交付する必要があります。
 前記のように書面による交付を請求しただけでは直ちに電子交付の拒否とされない場合もあるため、以後は電磁的方法ではなく書面により給与明細の交付を受けたいと考えている場合には、電子交付を拒否する旨を明確に述べるべきです

所得税法施行令356条(給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承諾等)
2項「前項の規定による承諾を得た給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払いを受ける者から書面又は電磁的方法により法第231条第2項本文の規定による電磁的方法による提供を受けない旨の申出があつたときは、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者に対し、同項に規定する給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書に記載すべき事項の提供を電磁的方法によつてしてはならない。ただし、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者が再び前項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。」

再交付

 給与明細の再交付については、法律上定められていません。そのため、一度給与明細の交付を受けている場合には、使用者に拒まれれば、再交付を請求することは困難です
 給与明細を紛失した場合において、再交付を拒まれるなどして、訴訟において立証上の支障が生じている場合には、文書提出命令等により給与の内訳を明らかにすることが考えられます。

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日
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