未払残業代・給料請求

残業代請求の証拠がない人も必見!必要な証拠と簡単な証拠集めの方法

残業代請求にあたってどのように証拠を集めればいいか分からずに悩んでいませんか?

会社に対して、残業代を請求するには、

証拠が必要

です。

例えば、残業代請求をするに当たり集めるべき証拠は以下のとおりです。

残業代請求の証拠一覧

しかし、実際には、残業代請求をしたいと考えた段階で、手元に証拠が揃っている方は、ほとんどいません。私が日々受けている相談の多くも、「給与明細や労働条件通知書しか手元にない方」や、「それさえも手元にない方」からのものです。

このように手元に証拠がなくても、残業代請求の証拠は集めることができますのですぐに悲観する必要はありません。手元に証拠がないために残業代請求を諦めてしまうというのは非常にもったいないことです。

また、証拠が少ない場合でも、「その残業時間を合理的に推測できる場合」や「会社があるはずの証拠を出さない場合」には、残業代請求が可能なことがあります。

この記事では、残業代請求に必要な証拠とその集め方を説明した上で、よくある悩みや証拠収集に応じない会社のペナルティについても解説します。

具体的には、以下の流れで説明していきます。

この記事を読めば、残業代請求の証拠についてのあなたの疑問が解決するはずです!

 

 

 

目次

残業代を請求するには証拠が必要!

残業代を請求するには、

証拠が必要

です。

労働者は、残業代を請求するには、労働条件や残業をしたことを立証する責任を負っているためです。

例えば、残業代を計算する際にも、あなたの賃金がいくらなのか、一日の所定労働時間は何時間か、何時間残業したのかが分からなければ、残業代を計算することができません。

また、会社は、残業代を請求された場合には、色々な理由をつけて支払いを拒んでくるのが通常です。証拠がない部分については残業代の支払いに応じてもらうことはできないでしょう。

そのため、労働者は、会社に対して残業代を請求するには、証拠が必要なのです。

残業代請求に必要な証拠の種類

残業代請求に必要な証拠には、基本的なものとして例えば以下の3種類があります。

・労働条件の証拠
・業務指示の証拠
・残業時間の証拠

順番に見ていきましょう。

残業代請求の証拠一覧

労働条件の証拠

残業代請求に必要な証拠の1つ目は、

労働条件の証拠

です。

労働条件の証拠とは、あなたがどのような条件により会社で働いているかという証拠です。

残業代を計算するには、あなたの賃金額、各手当の性質、出勤日、給料日、1日の所定労働時間(始業時刻・終業時刻)、休日、所定労働時間を超えて働いた場合の残業代の計算方法等を説明することが必要となります

労働条件に関する証拠には、例えば以下のものがあります。

①求人票
②雇用契約書
③労働条件通知書
④就業規則
⑤給与規程
⑥給与明細

求人票とは、会社が労働者を募集するために労働条件等を記載したものです。

雇用契約書とは、会社と労働者が契約を締結する際に、その契約の内容を書面に記載したものです。

労働条件通知書とは、会社が労働者を採用した場合に労働基準法上交付が義務付けられている書面で、労働条件に関する所定の事項を記載しなければならないものです。

就業規則とは、労働者の労働条件の最低基準や職場規律を定めた規則です。

給与規程とは、就業規則の一種で、給与に関する労働条件の最低基準を定めた規則です。

給与明細とは、会社が支給する給与の金額及び内訳が記載された書面です。

これらすべての証拠が必須なわけではありませんが、一つあればいいというわけではなく、複数存在する場合には可能な限り集めるようにしましょう

それぞれの記載内容が異なる可能性があるためです。記載内容が異なる場合の処理については、「よくある悩み」の箇所で後ほど説明します。

なお、労働条件通知書と就業規則については、以下の記事でもう少し詳しく説明しています。

労働条件通知書-記載内容と労働条件が相違する場合-使用者は、労働者を採用する際に労働条件を明示しなければなりません。もっとも、実際に働いてみると明示された労働条件と異なる場合があります。今回は、労働条件通知書について解説します。...
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業務指示の証拠

残業代請求に必要な証拠の2つ目は、

業務指示の証拠

です。

労働時間とは、客観的に会社の指揮命令下に置かれた時間をいいます。

つまり、会社からの指示がないのに、勝手に業務をしている場合には、残業にはならないのです

ただし、会社から明確に残業を命じられる必要は無く、会社が労働者の業務を知りつつ異議を述べない場合にも黙示の指示があるものとして、残業に当たる可能性があります

会社内に残って遅くまで業務をしている場合には、多くの場合には、黙示の指示あるものとして、業務指示の証拠の提出までは求められない傾向にあります。

しかし、以下の2つの場合には、業務指示の証拠まで求められることがあるので注意しましょう。

・始業時刻よりも前に出社して業務を行った場合(早出残業)
・テレワーク(在宅勤務)や持ち帰りにより残業をした場合

業務指示の証拠としては、例えば以下のものがあります。

①残業を指示するメールやチャット、録音
②業務内容や業務時間を報告するメール

上司や社長から残業を指示するメールやチャット、録音がある場合には、業務指示の明確な証拠となります。

業務内容や業務時間を報告するメールについては、会社が労働者の残業を認識していたことを裏付けることができますので、これに会社が異議を述べていないような場合には、黙示の業務指示が認められる可能性が高いことになります。

早出残業、テレワーク(在宅勤務)の残業、持ち帰り残業については、それぞれ以下の記事で詳しく解説しています。

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残業時間の証拠

残業代請求に必要な証拠の3つ目は、

残業時間の証拠

です。

何時間残業をしたかが分からないと残業代の金額を計算することができないためです。

残業時間の証拠には、例えば以下のものがあります。

①があると心強いですが、これがない場合には、②や③の証拠がないかを検討します。

①②③いずれもない場合には、やむを得ないため、④の証拠により、残業時間を立証していくことになります。

 

類型別!会社の反論次第で必要になる証拠

次に、会社からの反論によっては、必要となる証拠があります。

以下では、

・労働性が問題になる場合の証拠
・管理監督者性が問題になる場合の証拠
・固定残業代が問題になる場合の証拠

について、説明していきます。

労働性が問題になる場合の証拠

会社に対して残業代を請求すると、例えば、「業務委託契約」なので残業代を支払う必要はないと反論されることがあります。

あなたが労働者でない場合には、労働基準法は適用されず、残業代は支給されないためです。

このような場合には、自分と会社との契約が雇用契約であり、自分が労働者であることを示す証拠を集める必要があります

労働者性が問題になる場合の証拠としては以下のものがあります。

・求人票
・雇用契約書
・労働条件通知書
・業務指示のメール
・業務マニュアル
・シフト表
・給与明細
・源泉徴収票

求人票や雇用契約書、労働条件通知書は、あなたがその会社で働く条件が書かれた書面です。そのため、これらの書面は、あなたと会社との契約に関する重要な証拠となります。

業務指示のメールや業務マニュアル、シフト表は、あなたが会社の指揮監督の下に置かれて働いていたことを示すものですで、労働者に当たることを裏付ける重要な証拠となります。

給与明細や源泉徴収票は、所得税の源泉や社会保険料の控除などが記載されているもので、雇用契約なのか業務委託契約なのかを判断する際の材料となります。

労働者性については、以下の記事で詳しく解説しています。

労働者性-業務委託契約でも労働者に当たる場合-業務委託契約や請負契約、有償(準)委任契約との形式で契約が締結されている場合においても、労働者に該当する場合があります。今回はどのようにして「労働者」性を判断するかを解説します。...

管理監督者性が問題になる場合の証拠

会社に対して残業代を請求すると、例えば、「管理監督者」なので残業代を支払う必要はないと反論されることがあります。

あなたが管理監督者に当たる場合には、時間外や休日の残業代は支給されないことになるためです。

ただし、管理監督者に該当するのは、以下の条件を満たす限定的な場合であり、多くの管理職の方は「名ばかり管理職」にすぎないのが実情です。

・経営者との一体性
・労働時間の裁量
・対価の正当性

管理監督者に該当しないことを裏付けるための証拠としては、例えば以下のものがあります。

①始業時間や終業時間、休日を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→始業時間や終業時間、休日を指示されていれば、労働時間の裁量があったとはいえないため重要な証拠となります。
②営業ノルマなどを課せられている書面、メール、LINE、チャット
→営業ノルマなどを課されている場合には、実際の職務内容が経営者とは異なることになるため重要な証拠となります。
③経営会議に出席している場合にはその発言内容や会議内容の議事録又は議事録がない場合はメモ
→経営会議でどの程度発言力があるかは、経営に関与しているかどうかを示す重要な証拠となります。
④新人の採用や従業員の人事がどのように決まっているかが分かる書面、メール、LINE、チャット
→採用や人事に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性がないことを示す重要な証拠となります。
⑤店舗の経営方針、業務内容等を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→経営方針や業務内容の決定に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性を示す重要な証拠となります。

管理職の残業代については、以下の記事で詳しく解説しています。

管理職も残業代を請求できる!?チェックリストで分かる確認事項3つ法律上、管理職の方でも、残業代を請求できるケースがほとんどです。実際には、名ばかり管理職にすぎない方が多いのです。今回は、あなたが名ばかり管理職か確認するポイントを解説します。...

固定残業代が問題になる場合の証拠

会社に対して残業代を請求すると、例えば、「固定残業代を支払っている」ので残業代を支払う必要はないと反論されることがあります。

既に固定残業代が支払われている場合には、その分の残業代は請求できないことになるためです。

固定残業代として認められるためには、以下の3つの条件が必要です。

①個別の合意又は周知があること
②残業の対価であること
③固定残業代の金額とそれ以外の金額を明確に区分できること

また、固定残業代として認められる場合でも、固定残業代が想定する残業時間を超えて働いた場合には、その差額の残業代を請求することができます。

そのため、会社から固定残業代を支払っていると反論された場合には、以下のような証拠を集めることになります。

・求人票
・雇用契約書
・労働条件通知書
・就業規則
・給与規程
・給与明細

これらの証拠により、固定残業代の金額が明確であるかどうか、どのような名称で支給されているのか、差額の残業代が支払われているかなどを裏付けることができます。

固定残業代については以下の記事で詳しく解説しています。

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あなたもできる!残業代請求の証拠の集め方

それでは、残業代請求の証拠の集め方を紹介していきます。

以下では、

・残業代請求の証拠の「正しい」集め方
・残業代請求の証拠の「間違った」集め方

について、それぞれ見ていきましょう。

残業代請求の証拠の「正しい」集め方

残業代請求の証拠を集める場合には、以下の順で試してみましょう。既に退職している方は、④から試してみることになります。

①タイムカードや日報を確認する
②就業規則や給与規程を確認する
③労働時間や業務内容をメモする
④会社に対して証拠の開示を求める
⑤裁判所を利用して証拠を集める

残業代請求の証拠の集め方

①タイムカードや日報を確認する

残業代請求の証拠の正しい集め方の1つ目は、

タイムカードや日報を確認する

ことです。

会社にあるタイムカードや日報には、残業時間が記録してあるはずです。

可能な場合には、これをコピーして証拠として残しておきましょう

もしも、それが難しい場合には、出社時刻と退勤時刻、休憩時間をメモなどに写しておきましょう。

②就業規則や給与規程を確認する

残業代請求の証拠の正しい集め方の2つ目は、

就業規則や給与規程を確認する

ことです。

就業規則や給与規程については、会社は労働者に周知する必要があります。

そのため、会社内の誰でも見ることができる場所においてあるはずです。

万が一、就業規則や給与規程が見当たらない場合には、会社に、どこにあるのか場所を聞いてみましょう

もしも、「就業規則や給与規程は見せないと返答した場合」や「就業規則や給与規程の場所を教えてもらえない場合」にはそれ自体が就業規則や給与規程の効力を争うための重要な事実となります。

就業規則や給与規程については、可能であればコピーを取り、これが難しい場合には関連する部分をメモなどに写しておきましょう

③労働時間や業務内容をメモする

残業代請求の証拠の正しい集め方の3つ目は、

労働時間や業務内容をメモする

ことです。

他に証拠がない場合には、あなた自身が作ったメモについても会社に重視してもらえる可能性があります。

そのため、始業時刻・終業時刻・休憩時間・業務内容を1日ごとに1分単位で正確にメモしておきましょう

例えば以下のように作成します。

④会社に対して証拠の開示を求める

残業代請求の証拠の正しい集め方の4つ目は、

会社に対して資料の開示を求める

ことです。

あなたの手元になくて、会社が持っている証拠については、会社に対して開示を求めましょう

タイムカードなどについては、会社は労働者の求めに応じて交付する義務があるとされているためです。

例えば、以下のような通知書を会社に対して送付して証拠の開示を求めます。

御通知(残業代請求:時効3年)※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。

⑤裁判所を利用して証拠を集める

残業代請求の証拠の正しい集め方の5つ目は、

裁判所を利用して証拠を集める

ことです。

裁判所を利用した手続きには、証拠保全文書提出命令調査嘱託などがあります。

証拠保全とは、訴訟を提起する準備として、訴え提起前にその証拠を保全するための処分を行うものです。

文書提出命令とは、例えば労働者が会社の持っているタイムカードや雇用契約書、就業規則などの開示を求めた場合に、裁判所が会社に対してこれを提出するように命じるものです。

調査嘱託とは、裁判所を通じて、第三者に情報を提供してもらうものです。例えば、労働基準監督署に「就業規則の提出の有無やその内容」に関する情報の提供を求める場合がこれに当たります。

このように、もしも会社が資料の開示に応じない場合でも、裁判所をとおして証拠の収集をすることができます。

残業代請求の証拠の「間違った」集め方

残業代請求の証拠の「間違った」集め方として、以下の3つがあります。

・注意されても録音をやめない
・持ち出しが禁止されている資料を持ち出す
・退職後に無断で会社内に入る

このような集め方をしてしまうと労働者にとってリスクとってしまう可能性がありますので注意しましょう。

注意されても録音をやめない

残業代請求の証拠の間違った集め方の1つ目は、

注意されても録音をやめない

ことです。

録音は有力な証拠となることもありますが、注意されても録音をやめないと、それを解雇理由として主張されてしまう場合があります

他の従業員が自由な発言ができなくなったり、営業上の秘密が漏えいする危険が大きくなったりするためです。

例えば、裁判例にも、会社からの録音禁止の指示に従わずに、録音を継続した事案につき、この点も考慮し解雇の有効性を肯定しています(東京地立川支判平30.3.28労経速2363号9頁[甲社事件])。

そのため、録音が禁止されていたり、注意されたりした場合には、やめておきましょう

代わりに、その日の会話をメモしておいたり、これを確認するメールを上司に送ることにより対処することになります

録音と解雇や証拠能力については、以下の記事で詳しく解説しています。

無断録音-解雇と証拠能力-労働者は、ハラスメントの被害を受けている場合など自分の身を守るために職場での会話を録音することがあります。このような録音行為を無断で行うことは、法的に問題はないのでしょうか。今回は、無断録音について解説します。...

持ち出しが禁止されている資料を持ち出す

残業代請求の証拠の間違った集め方の2つ目は、

持ち出しが禁止されている資料を持ち出す

ことです。

例えば、就業規則や日報を外に持ち出すことが禁止されている場合があります。

このような場合には、これらを外に持ち出すとトラブルになりますので止めておきましょう。

そのような場合にはまずはコピーさせてほしい旨を念のため会社に確認してみましょう

コピーも禁止された場合には、残業時間や残業代に関する部分をメモしておき、後日、書面で請求するなど然るべき手続きにより開示を求めていくことになります

退職後に無断で会社内に入る

残業代請求の証拠の間違った集め方の3つ目は、

退職後に無断で会社内に入る

ことです。

退職後に事前に会社に伝えることなく入って就業規則やタイムカードを探そうとする方もいますが、トラブルになるのでやめましょう。

会社によっては警察に通報されてしまうケースも考えられます。

退職後については、書面などで会社に対して、資料の開示を求めることになります

 

残業時間の証拠が少なくても残業代を請求できる2つの場合

残業時間の証拠が少なくても残業代を請求できる可能性がある場合として、以下の2つがあります。

・タイムカード等により出退勤が管理されていなかった場合
・会社が合理的な理由なく容易に提出できる資料を提出しない場合

これらの場合には、残業時間の証拠が少ない原因は会社にありますので、残業代請求が認められないとするのは不公平です。

そのため、これらの場合には、合理的な方法により労働時間を推認することが許される場合があります

例えば、以下の2つの裁判例がありますので紹介します。

・大阪高判平17年12月1日労判933号69頁[ゴムノイナキ事件]
・東京地判平23年10月25日労判1041号62頁[スタジオツインク事件]

大阪高判平17年12月1日労判933号69頁[ゴムノイナキ事件]

この裁判例は、タイムカード等による出退勤管理がされていなかった事案です。

裁判所は、以下の2つの理由から、終業時刻や勤務内容が明らかではないことをもって、時間外労働の立証が全くされていないとして扱うのは相当ではないとしました。

①タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、専ら会社の責任によるものであって、これをもって労働者に不利益に扱うべきではないこと
②会社自身、休日出勤・残業許可願を提出せずに残業している従業員が存在することを把握しながら、これを放置していたこと

以上より、全証拠から総合判断して、ある程度概括的に時間外労働時間を推認するほかないとして、平均して9時までは就労していた認定されています。

東京地判平23年10月25日労判1041号62頁[スタジオツインク事件]

この裁判例は、会社が容易に提出できるはずの資料を提出しなかった事案です。

裁判所は、合理的な理由がなく、会社が容易に提出できるはずの労働時間管理に関する資料を提出しない場合には、公平の観点に照らし、合理的な推計方法による労働時間の算定が許される場合もあるとしました。

そして、その労働時間の推計方法は労働実態に即した適切かつ根拠のあるものである必要があるとしています。

残業代請求の証拠集めでよくある悩みを解消

残業代請求の証拠集めでよくある悩みとして、以下の3つがあります。

・「証拠は原本でなければいけないの?」との悩み
・「証拠は何年分集めなければいけないの?」との悩み
・「証拠により内容が異なる場合はどうすればいいの?」との悩み

これらの悩みについて順番に解消していきます。

証拠は原本でなくても大丈夫!

残業代請求の証拠は、

原本でなくても大丈夫

です。

例えば、タイムカードや日報、就業規則について、コピーであっても証拠とすることができます。

証拠は2~3年分を集める!

次に、残業代請求の証拠は、

2年~3年分を集める

べきです。

残業代の消滅時効は、2020年3月31日までが給料日のものは2年、同年4月1日以降が給料日のものは3年となります。

そのため、2022年3月までに請求する場合には2年分、2022年4月以降に請求する場合には3年分のタイムカードや給与明細を集めるのがいいでしょう

なお、就業規則や給与規程については、あなたが入社してから現在までのすべてのものを集めるようにしましょう。途中で就業規則や給与規程が不当に不利益に変更されている可能性があるためです。

証拠により内容が異なる場合は有利な方を主張する!

残業代請求の証拠により内容が異なる場合には、

有利な方を主張する

ようにしましょう。

まず、労働条件通知書と就業規則により記載されている労働条件が異なる場合があります。このような場合には、有利な方の記載が労働者の労働条件になります。就業規則よりも不利益な労働条件については無効となり、就業規則に従うことになるためです。

また、日報やタイムカードで記載されている時間が異なる場合があります。例えば、日報には特定の作業をした時間までしか記載されていなかったり、会社が実際よりも短く記載するように指示していたりする場合です。そのような場合には、本来の労働時間が反映されているタイムカードに従って、残業代を請求することになります。ただし、いずれかが不当に長時間の労働時間であるような場合には、正確な労働時間の記録に従いましょう。

 

残業代の証拠収集に応じない会社のペナルティ6つ

会社は、残業代の証拠収集に応じない場合には、以下の6つのペナルティを負う可能性があります。

・会社が証拠を保管していない場合の刑事罰
・会社がタイムカードを開示しない場合の損害賠償義務
・就業規則が周知されていない場合の効力の否定
・文書提出命令に応じない場合の真実擬制
・給与明細書の不交付の場合の刑事罰
・非協力的な場合の裁判官による心証

それぞれについて説明します。

会社が証拠を保管していない場合の刑事罰

会社のペナルティの1つ目は、

会社が証拠を保管していない場合の刑事罰

です。

会社は、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存する義務があります(労働基準法109条)。

これに違反すると、

30万円以下の罰金

に処するとされています(労働基準法120条)。

会社がタイムカードを開示しない場合の損害賠償義務

会社のペナルティの2つ目は、

会社がタイムカードを開示しない場合の損害賠償義務

です。

裁判例は、会社がこの義務に違反して、タイムカード等の機械的手段によって労働時間の管理をしているのに正当な理由なく労働者にタイムカード等の打刻をさせなかったり、特段の事情なくタイムカード等の開示を拒絶したりしたときは、その行為は、違法性を有し、不法行為を構成するものとして、10万円の慰謝料を認めています(大阪地判平22.7.15労判1014号35頁[医療法人大生会事件])。

就業規則が周知されていない場合の効力

会社のペナルティの3つ目は、

就業規則が周知されていない場合の効力

です。

就業規則が労働者の労働条件となるには、会社はこれを周知させておく必要があるとされています(労働契約法7条)。

そのため、周知していない場合には、就業規則の効力は認められないことになります

例えば、ある手当が固定残業代に該当すると就業規則に記載されていても、その就業規則が周知されていなければ、効力は認められないのです。

就業規則の周知については、以下の記事で詳しく説明しています。

就業規則の周知-周知の方法や程度-就業規則が労働契約を規律するためには、これが周知されていることが必要です。では、どのような場合に、就業規則が周知されているといえるのでしょうか。今回は、就業規則の周知について解説します。...

文書提出命令に応じない場合の真実擬制

会社のペナルティの4つ目は、

文書提出命令に応じない場合の真実擬制

です。

労働者が裁判所に文書提出命令を申し立て、これが認められた場合に、会社が提出に応じないと、その文書の記載について労働者が主張している内容が真実と擬制されることになります(民事訴訟法224条)。

つまり、会社が文書提出命令に反してタイムカードなどの提出を拒んだ場合には、労働者がそのタイムカードに記載されていると主張している事実を真実としてもらうことができるのです

給与明細書の不交付の場合の刑事罰

会社のペナルティの5つ目は、

給与明細書不交付の場合の刑事罰

です。

会社は、所得税法231条により、給与等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、労働者に交付しなければならないとされています。

これに反した場合には、

1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する

とされています(所得税法242条第7号)

非協力的な場合の裁判官による心証

会社のペナルティの6つ目は、

非協力的な場合の裁判官による心証

です。

裁判官は、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断することができます(民事訴訟法247条)。

そして、その際には、「口頭弁論の全趣旨」をしん酌できるとされており、会社が残業代の証拠の提出に応じないという態度も、事実の認定に当たり評価することができます。

そのため、会社は、証拠収集に非協力的な場合には、裁判官の心証へ悪影響を与える可能性があります

残業代請求の証拠集めは弁護士に任せよう!

残業代の証拠集めについては、弁護士に任せてしまうことがおすすめです。

弁護士に依頼した場合には、弁護士があなたに代わり、「会社に対して証拠の開示を求める手続き」や「裁判所を利用して証拠を集める手続き」を行います。

つまり、あなたは、手元にない証拠を集める作業を弁護士に丸投げしてしまうことができるのです

残業代の証拠収集

実際、会社は、証拠の開示を求めても、「残業代の未払いはない」などの理由を述べて、開示を拒否してくることがよくあります。

このような場合には、裁判例を示して開示を求めたり、裁判所を利用した法的な手続きを行ったりする必要も出てきます

そのため、残業代の証拠集めについては、法律の専門家である弁護士に任せてしまうことがおすすめなのです。

 

まとめ

以上のとおり、今回は、残業代請求に必要な証拠とその集め方を説明した上で、よくある悩みや証拠収集に応じない会社のペナルティについても解説しました。

この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。

・残業代請求をするに当たり集めるべき証拠は以下のとおりです。

残業代請求の証拠一覧

・残業代請求の証拠を集めるには、①タイムカードや日報を確認する、②就業規則や給与規程を確認する、③労働時間や業務内容をメモする、④会社に対して証拠の開示を求める、⑤裁判所を利用して証拠を集めるという順で試してみましょう。

・残業代請求の証拠を集めるに当たっては、①証拠は原本でなくても大丈夫です、②タイムカードや給与明細は2~3年分を集めます、③証拠により内容が異なる場合は基本的に有利な方を主張します。

・会社は、残業代の証拠収集に応じない場合には、①会社が証拠を保管していない場合の刑事罰、②会社がタイムカードを開示しない場合の損害賠償義務、③就業規則が周知されていない場合の効力の否定、④文書提出命令に応じない場合の真実擬制、⑤給与明細書の不交付の場合の刑事罰、⑥非協力的な場合の裁判官による心証というペナルティを負う可能性があります。

この記事が残業代請求の証拠に悩んでいる方の助けになれば幸いです。

以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。

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