健康保険に入っている場合どのような手当てを受けることができるのでしょうか。また、会社を退職することになってしまった場合、健康保険はどのようになるのでしょうか。今回は、健康保険の制度や、退職になった場合の取扱い等について解説していきます。
目次
健康保険とは
「健康保険」とは、労働者又はその被扶養者の業務災害以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする保険です(健康保険法1条)。
健康保険の運営主体(保険者)
健康保険の運営主体には、全国健康保険協会(健康保険法7条の2)と健康保険組合(健康保険法8条、11条)があります。
全国健康保険協会は、中小企業などに勤務する労働者とその家族が加入し、健康保険組合の組合員でない被保険者についての健康保険事業を行います。「協会けんぽ」と呼ばれています。
健康保険組合は、主として大企業に任務する労働者とその家族が加入し、組合員である被保険者の健康保険を管理します。一つの企業で設立する組合のほかに、いくつかの会社において合同で設立する組合もあります。
給付の種類
健康保険の保険給付には、傷病に関する保険給付として、①療養の給付、②入院時食事療養費、入院時生活療養費、③保険外併用療養費、④療養費、⑤訪問看護療養費、⑥移送費、⑦傷病手当金、⑧高額療養費などがあります。また、死亡・出産に関する保険給付として、①埋葬料、埋葬費、②出産育児一時金、③出産手当金があります。
被扶養者に関する保険給付には、傷病に関する保険給付として、①家族療養費、②家族訪問看護療養費、③家族移送費、④高額療養費があります。死亡・出産に関する保険給付として、①家族埋葬料、②家族出産育児一時金があります。
療養の給付
被保険者の疾病又は負傷に関しては、必要な医療を受けることができます(健康保険法63条1項)。ただし、高度の医療技術を用いる等一定の療養については、療養の給付に含まれないとされています(健康保険法63条2項)。
70歳に達する日の属する月以前の場合、医療費の7割が給付され、自己負担分は3割です(健康保険法74条1項)。
70歳に達する日の属する月の翌月以降は、2割(標準報酬月額が28万円以上である場合には3割)が自己負担となります(健康保険法74条1項、健康保険法施行令34条1項)。
傷病手当
傷病手当とは、被保険者が療養のため労務に服することができないときにその労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、支給するものです(健康保険法99条1項)。
支給額は、標準報酬日額の3分の2の額です(健康保険法99条2項)。
支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して1年6月を超えないものとされています。
保険料
健康保険の保険料は、報酬を基礎として額が算定されます(健康保険法40条)。
また、被保険者を使用する事業主は、保険料額の2分の1を負担するとされています(健康保険法161条1項)。
国民健康保険
国民健康保険とは
国民健康保険とは、被保険者の疾病、負傷、出産又は死亡に関して必要な給付を行う保険です(国民健康保険法2条)。健康保険に加入している人は、適用が除外されています(国民健康保険法6条1号)。
運営主体(保険者)
国民健康保険の運営主体には、市町村及び特別区と国民健康保険組合があります(国民健康保険法3条)。
国民健康保険組合は、医師・弁護士などの同業種の組合で、組合が定める地域内に居住する事業者とその従業員が加入するものです。
被扶養者という概念がないこと
国民健康保険には、健康保険のような被扶養者という概念はありません。
保険料
国民健康保険料は、政令で定める基準に従って、条例又は規約で定めるとされており、各市町村や組合に委ねられています(国民健康保険法76条、81条)。
退職と健康保険
資格喪失と退職後の健康保険
被保険者の資格は使用されなくなった日の翌日から消滅します(健康保険法36条2号)。保険料は、資格喪失日の前月分までを退職する会社に支払うことになります(健康保険法167条1項)。
退職後の健康保険として、➀任意継続被保険者になるか、➁国民健康保険に加入するか、③家族の健康保険に被扶養者として加入するかについて、保険料等を考慮し決めることになります。
任意継続とは、事業主が負担していた健康保険料も負担することにより(上限額があり平成26年度は28万円)、2年間在職中と同様の保険給付を受けることができるものです。
退職して収入がない場合には、国民健康保険の減免制度を利用できる場合があるため、国民健康保険の窓口に確認してみるべきでしょう。
退職の有効性を争っている場合
解雇の有効性や退職の有効性を争っている場合に、会社が一方的に退職手続きを行い健康保険証の返還を求めてくる場合があります。この場合、健康保険証の返還には応じた方がいいのでしょうか、また健康保険証を使い続けても問題はないのでしょうか。
これについて、行政通達は、「労使双方の意見が対立し被保険者資格の喪失について疑義が生じた場合においては、左記によつて取り扱うこととなったので通知する。解雇行為が労働法規又は労働協約に違反することが明らかな場合を除いて…被保険者資格喪失届の提出があつたときは、…裁判所に対する訴の提起若しくは仮処分の申請中であつても、一応資格喪失したものとしてこれを受理し、被保険者証の回収(回収不能の場合は被保険者証無効の公示を為すこと。)等所定の手続をなすこと。…なお、解雇された被保険者で、被保険者証を事業主に返還しないものに対しては、不当使用の際には詐欺罪として処罰される旨の警告をなさしめること。」としています(昭和25年10月9日保発68号)。
従って、労働者は健康保険証を返還に応じない場合には、健康保険証につき無効の公示がなされることになります。解雇や退職を争いながら健康保険証の返還に応じる場合には、誤解を生まないように、解雇や退職に合意したわけではないことを明示しておくべきでしょう。
また、仮に、健康保険証の返還に応じないとしても、これを使用することが詐欺罪に該当する可能性もありますので、使用は控えるべきでしょう。雇用契約上の権利を有する地位が確認されるまでは、退職した場合と同様、①任意継続被保険者になるか、②国民健康保険に加入するか、③家族の健康保険に被扶養者に加入する必要があります。