地方公務員は、労働基本権が制限されています。では、地方公務員は、給与等の勤務条件に関し不満がある場合は、その改善を要求することはできないのでしょうか。
今回は、地方公務員の勤務条件に関する措置の要求について解説します。
目次
地方公務員とは
地方公務員とは、普通地方公共団体、特別地方公共団体又は特定地方独立行政法人に勤務し、その事務処理に従事することによって、給与、報酬あるいは手当といった対価を得ている者すべてをいうものと解されています。
勤務条件に関する措置の要求とは
勤務条件に関する措置の要求とは、職員が給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会又は公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置が取られるべきことを要求することができる制度です(地方公務員法46条)。
地方公務員がその労働基本権を制限されたことの代償措置として設けられたものです。
地方公務員法46条(勤務条件に関する措置の要求)
「職員は、給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会又は公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置が執られるべきことを要求することができる。」
措置要求をすることができる者
措置要求をすることができるのは、一般職の地方公務員です。一般職の地方公務員であれば、常勤職員であるか、非常勤職員であるかは問いません。措置要求は、代理人によっても行うことができます。
これに対して、以下の職員は、措置要求をすることができないとされていますので注意が必要です。
⑴ 特別職(地方公務員法4条)
⑵ 地方公営企業職員(地方公営企業法39条1項)
⑶ 単純労務職員(地方益事業等の労働関係に関する法律附則5項)
⑷ 特定地方独立行政法人の職員(地方独立行政法人法53条1項)
地方公務員法4条(この法律の適用を受ける地方公務員)
1項「この法律の規定は、一般職に属するすべての地方公務員(以下「職員」という。)に適用する。」
2項「この法律の規定は、法律に特別の定がある場合を除く外、特別職に属する地方公務員には適用しない。」
地方公営企業法39条(他の法律の適用除外等)
1項「企業職員については、地方公務員法…第46条から第49条まで…の規定は、適用しない。」
地方公営企業等の労働関係に関する法律附則
5「地方公務員法第57条に規定する単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員であつて、第3条第4号の職員以外のものに係る労働関係その他身分取扱いについては、その労働関係その他身分取扱いに関し特別の法律が制定施行されるまでの間は、…地方公営企業法…第39条の規定を準用する。」
地方独立行政法人法53条(職員に係る他の法律の適用除外等)
1項「次に掲げる法律の規定は、特定地方独立行政法人の職員…には適用しない。」
一「地方公務員法…第46条から第49条まで…の規定」
措置要求の対象となる事項
措置要求の対象となる事項は、以下のとおりです。
① 給与、勤務時間、休憩、休日及び休暇に関する事項
② 労働に関する安全及び衛生に関する事項
③ 執務環境、福利厚生等に関する事項
また、これは、現在の勤務条件に関わるものだけでなく、過去の勤務条件に関わる措置であっても、将来予想される勤務条件に関わるものであってもよいとされます。また、勤務条件についてその変更をしないように求める要求も可能です。
これに対して、措置要求の対象とならない事項は、以下のとおりです。
① 勤務条件に該当しないもの
② 地方公共団体の管理運営事項に該当するもの
③ 地方公共団体の権限に属さないもの
なお、②につき、裁判例は、管理運営事項であっても、それが勤務条件に密接に関係している場合は措置要求の対象になるとしています(名古屋高判平4.3.31労判612号71頁)。
措置要求の提出先
措置要求の提出先は、当該職員の所属する地方公共団体の人事委員会又は公平委員会です。
他の地方公共団体に派遣されている場合は、措置を求める勤務条件を管理している地方公共団体の人事委員会又は公平委員会と解されています。
措置要求については、人事委員会又は公平委員会の規則により、書面により行うことを求められるのが通例です。
東京都人事委員会の措置要求書の書式は、以下ページからダウンロードできます。
東京都人事委員会 勤務条件についての措置要求
審査及び審査の結果執るべき措置
審査の手続
措置要求が適法になされた場合、人事委員会又は公平委員会は、当該要求について審査をしなければなりません。
審査の方法は、「口頭審理その他の方法」とされています(地方公務員法47条)。
判定の裁量
人事委員会又は公平委員会は、事案について口頭審理その他方法による審査をした後、「事案を判定し、その結果に基いて、その権限に属する事項については、自らこれを実行し、その他の事項については、当該以降に関し権限を有する地方公共団体の機関に対し、必要な勧告をしなければならない」とされています(地方公務員法47条)。
措置要求に対し人事委員会又は公平委員会がいかなる判定を行うかは、原則として審査機関の裁量に委ねられています。
もっとも、社会通念上著しく妥当性欠く場合などには、裁量権の逸脱濫用となり、違法となります。
判定に不服がある場合
職員は、棄却判定や却下判定に不服がある場合には、かかる判定につき、取消訴訟を提起することができます(行政事件訴訟法3条2項)。
また、措置要求を却下または棄却する決定に対して、義務付け訴訟を提起することも考えられます(行政事件訴訟法3条6項、大阪地判平25.2.20労判ジャーナル15号26頁[吹田市・吹田市公平委員会事件]-「重大な損害を生ずるおそれ」がないことを理由に却下しています。-)。